第七話 瞬神・夜一登場
「………⁉︎」
「おお、これは!」
「この猫なんか変だと思っていたらそういうことか」
「まさか人間だったとはな」
これには七海や直毘人はおろか、漏瑚や真人すらも気づかなかった。
無理もない。これは呪力ではなく死神の霊力を駆使した技だったからだ。
「なんだ、皆んな、驚かしてすまなかったな。これでも、死神だったころは隠密機動総司令官だったのじゃ。一護、ツギハギのほうは儂がやるから、火山のほうを頼んだぞ。あ、それから、呪術師たちは、巻き込まれないよう、先に皆んな家入さんとやらの場所まで戻ることを勧めるのう」
夜一は現世でいうところの忍者が使っていそうな布切れで出来たマスクを外した。中から素顔が明らかになる。
「…確かに、我々はみな強敵と戦って傷ついているものの、この目の前にいる呪霊も特級と言って、最も強いクラスに分類されます。本当に二人だけで大丈夫ですか?」
七海が元ビジネスマンぽく交渉する。
「うむ。死神の世界ではこのレベルなんて普通じゃからな。別に儂らのことは気にするな」
「すまん」
「ちょっと待てよぉ⁉︎ 俺は虎杖を殺しにきたんだぜ。俺がわざわざここに来た意味がなくなるだろ! 多重魂 撥体!」
多重魂とは、二つ以上の魂を融合させる技だ。そして撥体とは多重魂人間よって発生した拒絶反応を利用し、魂の質量を爆発的似高め相手に放つものだ。
それらが、奇妙な形になり、虎杖を連れて退散しようとする直毘人たちの前に向かって、突っ込んで行った。
その時、夜一が目にも止まらぬ速さで移動して、魂の形を手刀で切った。
「バァ」
「!」
中から出てきたのは、自分の魂の形を変えた真人だった。真人に触れられると、無為転変の力によって自身の魂の形を変えられてしまう。夜一はそれを避けて、距離を取った。
「やるね」
「攻撃パターンが多彩じゃな。そこは虚(ホロウ)に似ておる。案外やり易いかもしれんのう」
「自信たっぷりだね。これは早めに分身の方を戻しておいて正解だったな」
真人はこの戦いが始まる前、虎杖を見つける労力を省くため、無為転変で自分を二つに分けて行動していたのだ。そして、漏瑚がやられそうになるや、分身を本体と合流できるように移動させていた。
夜一の背後に現れるもう1人の真人。腕を棘に変えて襲いかかる。
「ふん」
夜一はそれを分身ごと手刀で切り落とす。
しかし、分身である上に性質上、肉体を破壊されようと、自身に呪力があれば、魂に直接干渉されない限り即座に再生できる。分身は本体の真人の元に戻っていった。
「ここまでは、五条の報告通りと言ったところか。呪力切れとやらを狙わないと倒せないようじゃな」
「あは。そうだよ! やっぱり情報漏れてるね。でも今日は人がたっくさんいたからストックもたくさんある。それは比べて、君は呪術師じゃないから俺に触れられたら一発アウト。ちょっときついんじゃない⁉︎」
「なんじゃ、呪霊とはこんなにベラベラと喋るのか。虚(ホロウ)より賑やかで良いのう。一発触れたらアウト? なら、一発も触れられなければ良いだけじゃろ」
「お前こそ! その減らず口どこまで持つかな!」
まずは肉体を変形した攻撃と、改造人間のコンボで相手の力を測る。
真人は右手をドリル、左手を刃物に変えた。それらが夜一に襲いかかる。
しかしそれらを全て交わし、邪魔をしてくる改造人間を手刀で切り払う。それが、三回ほど続いた後、動きのパターンに気づいた真人は、四回目に変化を加えた。夜一が後ろにいったタイミングで手をもう一本増やす。夜一の身体に触れる。その瞬間スピードが上がった。夜一は手刀で真人を切る。真っ二つになる真人。しかし、切ったところから魂を変形させて元に戻る。
「不死身といったところか」
夜一は真人の力を分析していた。
「ハハ! 驚いた。まだ速くなれるのか!」
「………」
あえて答えなかった。死神が住む世界である尸魂界で護廷十三隊二番隊隊長をしていた時期、夜一にはあだ名があった。
「瞬神・夜一」
それはかつて、死神の技の一つである高速移動術、「瞬歩」の達人であった夜一に尊敬を込めて言われた言葉。
真人は勘違いをしている。
まだ速くなれるのでない。まだ本気で速くしていないだけだ。そして、それを言うつもりもなかった。真人の能力が呪力がある限り不死身というのが覆されない限り、こちらも霊力を押さえて、長期戦に持ち込むしかない。そうやって呪力とやらを削って行くのだ。
「呪術師じゃない君には、もっと楽しませて欲しいんだよ! これでどうかな?」
真人はそう言って形から、腕をさらに生やした。
「すごいでしょ! これは宿儺を真似たものなんだけど、手数が増えた分、君に触れる可能性も増えたと思わないかい? そしてさらに…ぅぐ」
真人は何かを吐き出した。それは渋谷で取り込んだたくさんの魂だ。
拒絶反応の微弱な魂たちは混ざり合い体をなす。
「多重魂 幾魂異性体」