「なんだそれは?」
浦原が取り出したものを見て、夜一まったくイメージがわかなかった。こんなもので呪霊を倒せるのだろうか。
「これは、鬼道を呪力に変換する手袋っす。相手が領域展開をした瞬間の生得領域の具現化から必中であなたに攻撃が当たるまで。その間に、その手袋をはめて領域展開を反鬼相殺してください。できますよね。あなたなら」
「今の話だと瞬閧(しゅんこう)ができれば行ける。てことは、やっぱり一護のフォローは儂がするということだな」
「ええ。五条悟が言う限り、最近になって呪霊同士が組んで何か始めるつもりらしいのです。しかし、タイミングが分からない。だから、五条や他の呪術師が留守なら黒崎サンに電話がかかってくるって言ってました。あなたもついていってあげてください」
「分かった。しかし、面倒な事にならなければ良いが」
からになった酒瓶を見つめながら、夜一は腕を組んだ。
現在。
真人の領域展開によって中に閉じ込められようとしている。
やっぱりめんどうな事になってしまったのう。浦原から頼まれた時点で、お察しといえばそうであった。それでも、ただの死神ではなく恩のある相手。
『瞬閧(しゅんこう)』
高濃度に圧縮した鬼道を両肩と背に纏う。
そのあまりの力に地面がめくりあがった。
「なんだ! 今更かよ!」
「遅くなさ。むしろ早いぐらいだ」
夜一は手袋をはめ終わった。
「終わりだ!」
真人が口を開けた。
口の中に四つの腕が生えていて、それぞれ動き出し、印を結ぼうとしている。
その瞬間。
夜一が動いた。
目にも止まらぬ雷のような速さで、真人の首元に手を置く。
反鬼相殺!
バラバラバラ…
領域が崩壊し始めた。
「…なん…だと…!」
真人は信じられない状況に言葉を失った。
真人と同質、同量の呪力を逆回転でぶつけられて、領域自体を消滅させたというのか。
信じられない。
神業だ。
そして、領域展開後、肉体に刻まれた術式は一時的に焼き切れ、使用困難となる。
真人はそのことを里桜高校での遁走から理解していた。
それを覆すには、例えば黒閃を決める。そうすれば、ボルテージが上がり、呪力回復が早くなる。
だが今の真人は、シンプルに夜一のことを尊敬してしまっていた。
ガアァン!
巨大な雷が落ちた。
それをモロに喰らってしまう。
普通の攻撃なら効かないはずの真人だが、すでに立ったまま意識は飛んでいた。
「この手袋。案外役にたったようじゃな。もう使えないが」
手袋を外した。
拳を突き出したため、手の甲の部分が破けてしまっている。どうやら、瞬閧の鬼道に耐えられなかったようだ。
「哀れだな呪霊。瞬神と呼ばれたこの儂に追いつこうとは、一〇〇年早いぞ」
【一護対漏瑚】
「火っていうのはこうも切りにくいものなのか」
一護は次々と襲ってくる漏瑚の火を斬月で切り伏せていた。すでに渋谷のあちこちでビルが倒れている。これは一護の月牙天衝によるものだった。
「これじゃあ、どっちが天災かも分からんな」
切り口が斜めのビルの、尖っている先端に降り立った漏瑚が感想を口にした。
「どうやら、伏黒たちは虎杖を無事に家入さんとやらのところまで避難させたようだな」
「……だからどうした。あんな距離すぐに移動できるぞ」
「ふん。分かってねーな。これでやっと誰も巻き添えを喰らうことがなくなったって言ってんだよ」
「小童め。その余裕がいつ、絶望に変わるか楽しみなだな」
「おい、お前の本気を出せよ」
「何?」
「お前が俺の力を測るために手を抜きながら戦っているのは分かってる。だから、本気の力を使ってこいよ。そうしたら俺も本気を出す。わざわざ卍解してやってんだから、全力でぶつかってそれで勝ち負け決めようぜ」
とある確信が一護にはあった。それは漏瑚がまだ奥の手を隠しているということだ。死神であれば卍解みたいな、相手を圧倒することができる武器があるはずだ。火山を噴火させる単調な攻撃では、一護は倒せないと分かっているはずだ。
「本気だと…小童が。笑止万全。ならば、その減らず口のまま沈め。領域展開!」
両手を重ねる。
「なんだ?」
一護には一つだけ誤算があった。それは本人も気づいていない。呪術の極地である領域展開について、誰からも教わっておらず、その仕組みすら知らないことだ。これは浦原や夜一、そして高専組の虎杖、伏黒、釘崎、そして一護の誰が悪いということではない。むしろ、一護の力を知っているものなら、ほとんどの呪霊は卍解をした時点で負けるだろうと思われていたのだ。
つまり、この場合に凄いのは一護の卍解状態と長期時間戦っていることができた漏瑚の方である。流石は実力は甘く見積もって宿儺の指八、九本分程度と言われたことはある。
「蓋棺鉄囲山(がいかんてっちせん)!」
その掛け声と共に、領域が完全に閉じる。
「熱っ! なんだ、ここは?」
一護は気づくと周囲三六〇度どこを見渡しても、炎と溶岩に覆われた世界にいってしまった。