シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
戦闘開始から……三時間か。
あの赤い竜はまだまだ元気そうだ。やっぱりアレ一人で挑む相手じゃないよね? 少なくとも三十人くらいは用意する前提だろこのタフさは……
『テメェ……いつまで逃げ回る気だ……!!』
「そっちこそいつまで追いかけて来る気だよさっさとくたばれよ……」
ここまで戦闘が長引いたら相手が逃げ出しそうなものだが、ここが奴の縄張りで縄張り意識が強いのか、それともプライドの問題か。
普通のゲームならボスがボスエリアから離れて逃げ出すなんておかしな話だが、シャンフロだし普通にありそうではある。
まあ逃げないのであれば好都合。このままブレスと投擲で削り続けよう。
しかし効果が長時間続くライオットブラッド・トゥナイトを摂取しているとは言えここまで長時間の戦闘となると集中力が途切れて来るな……ファントムでの内側からの爆破も回転噴射で対策されてしまい、勝負が更に長引きそうになっている。
ずっと引き撃ちしているだけだと欠伸が出そうになる……出来る事ならログアウトして追加でライオットブラッドを補給したい。ライオットブラッドを点滴するという手も……そう言えば日本でも最近発売されたんだよねトゥナイト。ちょっとカフェイン薄いけど。
「ふあぁ……おっと本当に欠伸が……」
『殺す!!! テメーはここでゼッテーに殺す!!!!!』
「そんなこと言うくらいならジークヴルムくらい派手な攻撃してきてくれよ……こんな風に!!」
『ガァアア!!?!?』
【
これを後何十発撃ち込めばいいんだろうな……
「ジークヴルムの角を圧し折った時もこのくらい勝負は長引いたけど、ワンミスが死に繋がる白熱した勝負だったぞ?」
『!! やっぱりそうか……その槍から漂うムカつく気配!! テメェがブンブンマルだな!!!?』
「えっ、なんで名前知っているの……!?」
眠気が吹っ飛んだぞ……どこから名前が広まったんだ?
別のプレイヤーがコイツに教えたのか? いやでも態々俺の名前を教えて何になるんだ……?
ジークヴルムが新大陸でも目撃されているそうだし、ジークヴルム経由で? いやでも俺ジークヴルムに名乗っていないしな……他のプレイヤーがジークヴルムに教えた? サッパリわからん……
理由はよくわからないが、どうやら奴はジークヴルムと何かしらの関係があって、ジークヴルムのことをあまり良く思っていないようだ。
ジークヴルムと何かしらの関係がある赤いドラゴン……んー? 何か引っかかる……どこかでそんな話を聞いたような聞いていないような……
「まあいいや、お前のどこかしらのパーツも捥いでやるよ!」
『ウジ虫が調子に乗ってほざきやがって!! 俺様の方があの金ピカよりも強えってことをたっぷりとわからせてやるよ!!!』
うーんこの溢れ出る三下感。
いやまあ強さで言えば今まで戦ってきた相手と比較しても間違いなく上位ではあるんだけどさ。
奴は全身の突起を後ろへ向け、全ての炎を推進力へと変換する。
それによってスピードアップはしたものの、速ければいいというものではない。
上空で突進を誘い、【鶻落】で高速落下して回避しつつ、思考加速スキルを使って冷静に腹部の突起の一つをロックオン。
「
「……ここ!!」
全力で投擲したルインヴァルが突起の根元に深々と突き刺さり、傷口から激しく炎が噴き出す。
『ギャアアァアアァアアッ?!!?!?』
噴射の方向がおかしくなったことで奴は制御を失い、頭から火山の斜面に激しく激突する。
こうして頭に血が上って忘れた頃に上手く誘導することで効果的に自滅させることができる。
ネフホロだとスピード重視の機体は最高速度で壁に激突すれば一発で死ぬこともあるからな。下手に殴るよりも効率的にダメージを与えられることも多い。
「追撃を……おや?」
何やら様子がおかしい。
奴の体が震え、膨らみ……亀裂が走る。
『クソがっ!! 俺様がこんな所で……!! たった一匹の虫に殺されてたまるか!!! 死ぬのはテメェだァァァァアアアアア!!!!!』
その瞬間、俺の目の前にシステムメッセージが表示される。
『赤竜ドゥーレッドハウルの肉体が、生命の危機に煮えたつ』
『
奴のひび割れた箇所から炎が激しく噴き出し、更に奴の体が膨らんでゆく。
「自爆……いや、形態変化か!?」
奴が顔をこちらに向け……その口からはドス黒い赤色の炎が漏れ出していた。
マズい、あれはブレ──
『
膨れ上がった奴の体が急速に縮み、その勢いで一気に口から炎が押し出される。
これまでの突起から噴射されていた炎とは比べ物にならない規模の爆炎が一瞬にして俺の眼前に迫る。
回避は間に合わない。
まず間違いなく多段ヒット技。食いしばりや蘇生だけでやり過ごすのは困難。
スタミナはほぼ最大。【
ならば全力で足掻こうじゃないか。
「間に合え………!」
ルインヴァルを盾代わりにし、今使えるスキルを一斉に起動。ギリギリで発動が間に合う。
更にアムルシディアン・クォーツを飲み込み、「鉄身石腸」の効果で強固な耐性を得る。
MPと金晶ゲージを消費してバリアが張られるが、一瞬で砕け散り炎に呑まれる。
「怪気炎」の効果でHPの代わりにスタミナが削れて行く。
「リカバーブラッド」によるカウンターで噴き出す血がほんの僅かに炎を押し返すが焼け石に水。
「
「
【
スタミナが切れる直前、「血肉の供物」を発動。MPと失ったスタミナが絶大なVIT補正となり、僅かなHPで粘り続ける。
「其はあり得ざる槍、断章積み編みて紡がれし非実在の輝き……!」
しかしそれでもHPの減少速度は回復量を上回り、遂にHPが尽きる。
「
ここまでで何秒稼げた? この炎は後どれだけ続く?
「血肉の供物」の他、様々なスキルの効果は蘇生しても消えない。今の俺は実質数十万を超えるHPとVITを持っているようなものだ。まだ耐えられる。
「────「
黄金の装甲を纏い、それでもなお恐ろしいペースで削れて行くスタミナ。こういう時に使える防御スキルを習得しておくべきだったな。「剣舞【風流水】」は防御スキルだけどこの状況じゃ役に立たない。
流石はシャチ素材のムンクさん製の防具だ。熱には相当強いらしくまだ耐えてくれている。もう少し持ち堪えてくれよ。
炎を呑み、呑まれ、耐えて、耐えて、耐えて──
◇
『ギャハハハハ!! ボケっとしてっからそうなんだよウジ虫が!! やはりこの俺様こそが最き……………ハ?』
勝利を確信していた赤竜の目に信じ難い光景が映る。
あの虫を呑み込み、塵一つ残さず消し去った筈のドス黒い赤の炎が、渦を巻いて一点へと集中してゆく。
そんなはずはない。
今のは赤竜の切り札たる必滅の火。龍王ならまだしも、ただの虫がこれに耐えることなど不可能。ではアレは──
『規定耐傷観測、条件達成』
『称号【
「──ごちそうさま。お返しするよ」
『なっ……!!?』
炎が消え、姿を現したのは蒼い炎を頭に宿し、全身を黄金の結晶の鱗で包んだあの虫。
渦巻く炎を吸い込み、呑み下した虫の口からよりドス黒い漆黒の炎が零れる。
その全身を影が包み込み、漆黒の巨狼へと姿を変え──
「「
『ッ……!?』
炎を一時的に出しきってしまっていた赤竜は咄嗟に避けようと脚を伸ばす。
辛うじて胴体への直撃こそは避けられたものの、蒼雷を宿す黒炎は赤竜の腹を掠め、後ろ脚を呑み──
『あ、脚が!! 脚がァァアアア!!?!?』
バランスを崩して転倒し地に倒れ伏す赤竜に対して、千切れ飛んだ後ろ脚が宙を舞い、消滅する。
最終形態となり大きく向上したステータスでも補いきれない損失。赤竜の思考に敗北と死が過る。
龍王に挑み、敗走し、傷を癒していた所に現れた眠りを妨げる一匹の虫。
ムカついたから殺してやろうと軽い気持ちで手を出したそれに切り札まで出して、逆に殺されそうになって逃げ出すなど、普段なら強者としてのプライドが許さなかっただろう。
しかし今の赤竜にはその小さな虫一匹が、龍王よりも強大で、残忍で、恐ろしい怪物に見えていた。
『ヒッ……!?』
これまでに何度も赤竜の鱗を貫いてきた巨槍が黄金の結晶に包まれ、更に巨大な刃を形成している。
アレに貫かれれば間違いなく致命傷になると本能が警告している。
赤竜は暫し迷い……そして逃走を選んだ。
全身の亀裂から炎と煙を噴き出し、残った脚で地面を蹴り、駆ける。
赤竜ドゥーレッドハウルの失敗は幾つもあったが、ここで犯した致命的なミスは二つ。
一つは迷ってしまったこと。
たった数秒。それでもその虫にとってはスタミナを回復させるのに十分すぎた。
もう一つは背を向けてしまったこと。
スキルの効果時間切れになるまで突撃を繰り返せばまだ赤竜に勝機は十分にあったのだ。
しかし背を向けてしまったことで赤竜はただの的と化した。
狼の姿から竜人のような姿へと再び変化した虫は足の爪で槍を掴み、逃げる赤竜へとそれを蹴り放つ。
「逃げられると思うなよっ!! 「
まるで夜空を裂く彗星のように、満天の星空のような輝きを秘める漆黒の尾を引きながら放物線を描く槍は吸い込まれるように赤竜に追い付き、その無防備な背中を深々と穿つ。
偶然か狙ったのか、そこは少し前に龍王につけられた治り切っていない傷跡がある場所であり、傷口が再び開いて大きな裂け目となる。
赤竜の背中に隕石が落ちたかのような大きなクレーターと裂け目が出来上がり、そこから赤竜の「核」が僅かに露出する。
『い、嫌だっ! こんな……こんなところでこの俺様が……っ!』
衝撃に耐えきれず倒れ伏す赤竜。
そこに槍の軌跡を辿るように、もう一つの漆黒の流星が夜の帳を焼き切りながら迫る。
「「
赤竜は全身から炎を噴き出し抵抗を試みる。
しかしその熱が流星を焼き焦がすよりもずっと速く、流星は赤竜の裂け目へと飛び込んで──
『あガ……ッ!!? あ、ぁぐ、ぉ………………─────』
激しい爆発と共に赤竜の体がびくりと痙攣し、手足から力が失われる。
全身から噴き出していた炎も消え──遂にその命の灯火も消えた。
『現時刻を持ちまして、「赤竜ドゥーレッドハウル」の討伐を確認いたしました。ラストアタッカーは「ぶんぶん丸」様です』
龍王「ブンブンマルという人間に角を折られてなぁ」
黒竜「は?」
赤竜「は?」
主人公の知らない所で主人公の名前が勝手に新大陸に広まっている模様
主人公を何かしらのホルダーにしたいとは思っていて、書いているうちに案が二転三転して最終的に【
因みにこの小説の書き始めの段階で考えていたボツになったホルダー案としては最もヘイトを集めることを条件とするヘイトホルダーというものがあったり。でもカルマホルダーがただの称号にされているのを考えるとちょっとゲーム的に難しいかなと思ってボツにしました
「怪気炎」……ダメージをスタミナで受けるスキル。この時消費したスタミナに応じて肺活量にバフがかかる
主人公の桁外れのスタミナが一時的に実質HPと化す。スタミナ消費軽減なども適用されるのでとんでもないタフさになり、柔らかいのにどれだけボコボコにしても死なないタンクが完成する
「リカバーブラッド」……ダメージを受けた場所から赤いポリゴンが噴き出し、攻撃を押し返しながら即座に固まって傷口を塞ぐスキル
この時噴き出すポリゴンのノックバック力や治癒力がスタミナ依存なせいで主人公に殴りかかると数倍のパワーで弾き返されることになる上になんか謎の状態異常に感染する。真竜の呪い……?
「
敢えて状態異常になりまくれば虹色のブレスだって吐ける。綺麗だね。相手は死ぬ
強力だけど当てづらい味方の魔法を吸い込んでおいて不意打ちで高速で吐き出すコンボが出来たりもする
「血肉の供物」……進化前の「血肉の対価」と大体同じ効果だがリキャストタイムと引き換えにより扱いやすく強力になった。短い時間だが主人公のステータスが器用万能の化け物と化す
【
ダメージを軽減せずにゲージで受け止めてこそ得られるもの。逆に軽減しまくったらジョゼットの最大防御になる
運営としてはHP極振りプレイヤーがスキルやアクセサリーを揃えて獲得することを想定していたが、あの手この手でスタミナを伸ばしまくったスタミナ全振りの変態がスタミナゲージを犠牲にかっさらっていった。スタミナやMPで受けるのもダメージという判定にしていたせいでこんなことに……同じくらいHPに特化したプレイヤーが出てきたらきっとそっちに移ると思われるが、この変態と同等以上の特化ビルドを組める奴が果たして現れるのかどうか。というか現れた所で更新するのに「
この称号を獲得したプレイヤーはよりタフになるスキルを習得しやすくなる。HP10しかないのにね