シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~   作:葛饅頭

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暴徒と渓谷

「あの水晶自動迎撃システムでも搭載しているのか……?」

 

 テントでリスポーンして再チャレンジ。

 今度は思考加速スキルとオート回避スキルもセットで発動しておく。

 

「この辺りまで来たら……来る!」

 

 加速した視界の中でキラキラと碧色の光が水晶の間を跳ね回っている。

 次の瞬間、スキルによって再び光線によってぶち抜かれる俺の姿が映し出される。

 

「ちょっ」

 

 速過ぎる。オート回避スキルの回避力だと光線が飛んで来るのを見てからでは回避が間に合わないというAIの判断なのか、スキルで俺の死が見えた瞬間から既に体が自動的に回避行動を取り始めている。

 そしてその判断は正しかったようで、俺の直ぐ側を赤を纏う碧色の光線が通過し、大気と共に押し出されて吹き飛ばされる。

 

「うおぉおお!? 「アラクネの糸」!」

 

 咄嗟に姿勢制御スキルを発動。物理法則を無視した挙動で俺の姿勢が地面と垂直に戻る。

 

「あっぶねぇ……だが見えたぞ。お前、こっちにもいるんだな……」

 

 跳ね回る光がこちらに飛んでくる直前に見えた、大量の赤色の水晶の中に紛れていた碧色の水晶の塊……俺のことを撃ち落とそうとするその水晶の正体は……!

 

「水晶群蠍の亜種だなお前。新大陸にも稼げそうなエリアがあって安心したよ」

 

 ここからだと遠くてハッキリとわからないが、あの特徴的なフォルムは間違いなく蠍だろう。

 周囲の水晶と色が異なる理由は不明だが、ドロップアイテムを確認すれば大体の謎は解け……

 

「二発目!?」

 

 再び飛んできた光線を回避。風圧で吹き飛ばされる。

 それ必殺技じゃなくてジャブ感覚で出せる技なのか?

 

 ダメだ、これでは迂闊に近づけない……いや、ここまでの威力があるのなら逆に近づいてしまえば向こうが迂闊に撃てなくなるんじゃないか?

 

「次を撃たれる前に……!」

 

 腰の辺りからドゥーレッドハウルの真っ赤な三本目の脚を生やし、空気を蹴って一気に加速。

 更に脚に空いている噴気孔から炎を噴射。制御は難しいが今はスピードが欲しい。

 

 百メートルはありそうな谷を一瞬で超え、急速に中央の水晶の大地に迫る俺を見た蠍は少し後退し、その尻尾と両腕の鋏を振り上げる……ちょっと変わった形状をしているな。ビームを撃つためかは知らないが、旧大陸の蠍とは違う進化をしたようだ。

 

「粉砕してやる!」

 

 パワーアップしたルインヴァルを装備し、新たなる蠍と激突する──!

 

 

 

 

 

「四方八方からビームを撃たれたらどうしようもねぇよ……」

 

 やっぱりあの蠍は群れで侵入者をボコボコにするらしい。

 慌てて上に逃げたら地上から同時に何発もビームを撃たれて死んだ。

 

 でもやはりあの距離では迂闊にビームは撃てないらしい。味方を巻き込むしな。

 空を飛ばずに上手い具合に一匹に張り付き続ければ……

 

 

 

 

 

「ちょっと分かってきたぞ……」

 

 今度は途中まで周囲の蠍が襲ってくることなくタイマンが出来たのだが、ある程度距離を取った瞬間背後から別の蠍に殴り飛ばされた。

 でも前後から二匹の蠍にボコボコにされている間、他の蠍は大人しくしていた。もしかしてあいつら一定範囲内に近付かなければ割と大人しいのか?

 

 攻略法が見えてきたぞ……見えないけど実質狭いフィールドが存在しているからそれを見極めてタイマンすればいいのだ。そんなに難しい話ではない。次!

 

 

 

 

 

「言うは易く行うは難し……」

 

 殴り飛ばされたら別の蠍のテリトリーに入り込んでしまうし、三方向拡散ビームは最小限の動きで回避することが難しい。というか加減することもできるのねそれ。

 ビームがそこら辺に生えている赤い水晶に当たると乱反射して後ろから飛んで来ることもあって非常に厄介だ。

 

 奴は尻尾から発射したビームを水晶の間で何度か反射させて、最終的に自分の尻尾でキャッチして鋏から発射する。

 この反射の回数で次に放つビームの種類が判別できる。分かったところでどうしようもないことも多いが。

 

 それと蠍と一定距離近付いたらアウトなんじゃなくて、恐らく蠍一匹一匹にテリトリーがあるっぽい。そこに踏み込んだら敵対するようだ。

 

 これらの情報を纏めて攻略法を考える。

 尻尾が重要なパーツっぽいし部位破壊ができれば……

 

 

 

 

 

「やはりゾンビアタックで解決するのが一番だ」

 

 ルインヴァルを構えてファントムと一緒に「天国への階段(ステアウェイ・ヘヴン)」と「冥界下り(キ・ガル・シェ)」を用いた特攻を繰り返し、蠍を一匹粉砕することに成功した。

 素材を拾い集めていると周囲の蠍がじりじりと迫って来たので急いで周囲の赤い水晶も採掘し、最後は全方位からのビームで消し飛ばされた。

 どうやら死んだ蠍のテリトリーは周囲の蠍が直ぐに奪いに来るようだ。じっくりとドロップアイテムを眺める時間なんて無かった。

 

「フレーバーテキストはっと……」

 

 あの蠍の名前は……帝晶双蠍(アレクサンド・スコーピオン )か。赤い水晶の名前はツァーベリル帝宝晶というらしい。

 

 どうやらツァーベリル帝宝晶は昼と夜で色を変える宝石のようで、今は夜だから赤いが、太陽が出てくると碧色になるらしい。

 帝晶双蠍(アレクサンド・スコーピオン )のドロップアイテムはゲーム的には別の名称のアイテムだが、その体はやはりツァーベリル帝宝晶で出来ているようだ。

 

 これらを使って装備を作ったら昼と夜で性質が変わる装備になるのだろうか?ちょっと扱い辛そうではある。

 折角ならレアドロップも欲しいな。水晶群蠍の親戚なら多分核をドロップすると思うし、尻尾も集めたい。

 

「そうだ、下はどうなっているのかな?」

 

 谷底では相変わらず爆発音が響き渡っている。今は百足が大蜘蛛に巻き付いて締め上げているところのようだ。そろそろ決着か?

 

「そろそろ混ざるとするか」

 

 漁夫の利となるか、それともヒュドラと戦うヘラクレスに踏み潰された蟹の如くお前何しに来たんだ枠になるか。

 やってやろうぜファントム。そしてルインヴァル。この地獄絵図の中で輝きを残せるか、試してみようじゃないか!

 

 深化したルインヴァルを三本目の腕に合わせた大型のサイズで出現させ、ルインヴァルの状態と俺の状態をリンクさせて俺の火傷と毒状態をルインヴァルに移して疑似エンチャントを施す。

 更にスキルもどんどん重ねて、俺の体がどんどん巨大化してゆく。ここまで巨大化すればあの百足や大蜘蛛とも殴り合える筈だ。

 

 更に俺の巨大化がルインヴァルと連動し、黒い影を纏ったルインヴァルが巨木の如き太さになる。もうここまで来たら上空から適当に投げ落とすだけで並大抵のモンスターは潰れて死にそうだな……

 

 空いている右手にファントムを装備し、残り九本も全部取り出して浮遊させておく。

 ファントムの役目は小蜘蛛処理だ。どうやら自爆される前に倒せば爆発しないようだからな。

 

「素材と経験値になりやがれ!」

 

 百足に巻き付かれた大蜘蛛の背中目掛けて飛び降りる。

 出会い頭にデカい一撃ぶち込んでやる!

 

「突撃ィーーッ!!!!!」

 

 突然降って来た俺に背中を貫かれ悶え苦しむ大蜘蛛。

 突然の侵入者に意識が逸れた百足の拘束が緩む。

 大蜘蛛、その隙に全方位に小蜘蛛を発射。発射されていない小蜘蛛に誘爆し周囲一帯が爆風で粉々に消し飛ぶ。

 下がうるさかったのか上からビームの雨を降らせて黙らせようとする蠍共。

 クレーターだらけの戦場がひび割れ、地面の下から百足の五倍くらいのサイズの大百足が出てきて全てを轢き潰す。

 ずっと見えてはいたけど動かなかった超巨大な岩塊が動き出す。その正体は大蜘蛛が子供に見えるサイズの要塞蜘蛛。

 

「……これプレイヤーが何とかできる想定のモンスターなのか?」

 

 赤竜だってこの中に投げ込まれたら一瞬でミンチになるんじゃないかなぁ……

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

 テントが壊れるまで地獄と現世を反復横跳びした俺は持てる限りの素材を持って前線拠点へと帰還する。

 装備を作るのにはどう考えても過剰な量だが、フレーバーテキストに書いてあることが気になってどうしてもあの要塞蜘蛛の素材が沢山欲しくなってな……小蜘蛛の素材も消耗品として使い道多そうだし。

 

 最近森人族の里への道が明らかになったようで、そちらへプレイヤーが流れているそうだが、こっちにもまだプレイヤーは沢山いる。

 NPCは大体こっちで店を開いているし、サンディさんの書店もオープンしたらしいからな。新大陸に来れるプレイヤー向けの魔導書や魔法関連の消耗品などを購入できるお店なので利用者は多いそうだ。

 

 そう言えば魚人族もここに来て魚とか貝とかを売っているとか聞いたな。その魚人族の中にはアラバもいるようで、最近プレイヤーによるファンクラブができたんだとか。

 ちょっと覗いてみようかな……性別反転の聖杯を使ってこっそりとな。他のプレイヤーに見つかると面倒だし。

 

「おお……大人気だなアラバ」

 

 人だかりの中心にいるアラバ。デカいから目立つな。あとネレイスちゃんも側でふよふよと浮いている。

 

 普段から鉱石とかバリバリ食っている俺からしたら魚の販売はそこまで魅力的ではないのだが、一般のプレイヤーからしたら一匹で空腹値と一緒にHPやMPを回復できる便利な回復アイテムとして人気があるらしい。あと深い海の素材は普通のプレイヤーにとってはまだ入手が難しいものだから海に挑むプレイヤーが水中用の装備にするために買い集めているのだとか。

 

「このアバターだと背が低くてよく見えねぇな……」

 

 元気そうな姿は見れたしもういいか。帰ろう……あれ? どうしたファントム急にインベントリから飛び出して……

 

「ちょっ」

 

 急にファントムから黒い靄が飛び出して……

 

ポンッ!

 

「えっ」

 

 黒い靄が空中で一塊になったと思ったら、ネレイスちゃんを黒くして一回り小さくしたような白い嘴マスクをつけた何かになった。

 

 何この……何!? 精霊!? ファントムお前そんなこと出来たの!?

 というかなんで急にこのタイミングで……あ、そっちは……

 

 ふよふよと人だかりの上を飛んで行くファントムの精霊……で合っているのか?

 そのままアラバとネレイスちゃんの側まで行って……あ、普通に会話しているっぽい。

 

 会話できるのなら何で今まで静かにしていたんだ……? いやまあ俺だってしなくていいのなら人と会話したくないけどさ。

 ……あの、アラバとネレイスがこっちに向かって来ていないか?

 

「おお! そこにいるのは我が友ぶんぶん丸ではないか! その姿だと小さくてこちらからじゃ見えなかったが、君の精霊が導いてくれたぞ!」

 

「おヒサしぶり」

 

「ツれてきた」

 

 連れてきてとは頼んでないんだよなぁ……

 そう言えばアラバもネレイスちゃんも反転した俺の姿を見たことがあるんだった。あの時から肌の色とか変わっているんだけど分かるもんなんだな……

 

 というかこの状況はマズい。俺の変装がプレイヤーにバレてしまう。

 ライブラリによって既に性別を反転させる聖杯の存在は公表されている。こうなったら……!

 

「逃げる!!」

 

「ど、何処へ行くのだ我が友よ!?」

 

「ウミのウエをハシってる……」

 

 ほとぼりが冷めるまでこのまま暫く海の底で待機するか……




ウィンプ「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」
サイナ「zzz……」

見えていない所で何回か主人公の咆哮に巻き込まれてスタンしているウィンプちゃん
サイナはスリープモード継続中

インフレが止まらない主人公でもゾンビアタックが必須の魔境
超質量で影の装甲の上からすり潰されたり、攻撃の密度が濃すぎてスキルの効果が切れた瞬間に爆殺されたりしている


「アラクネの糸」……姿勢制御系の三桁スキル。見えない糸で吊り上げられているかのように物理法則をガン無視して起き上がったり壁に張り付いたりすることができる。傍から見ると凄く不気味な動きをしている
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