シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
あの後魚人族なので泳げるアラバが海の中まで追って来たりとかその後を追ってきたプレイヤーが次々と溺死したりとか色々とあったが、何とか追っ手を撒いて旧大陸へと帰還できた。
ラローリーさんの工房へと向かう途中、ファントムをインベントリから取り出して話しかけてみる。
「なあファントム、お前実体化可能だったのか?」
俺の呼びかけに反応して再び精霊っぽい姿のファントムが姿を現す。
しかし直ぐにファントム(剣)の裏側に隠れてしまう。
「まあ姿を見せたくないのならそれでもいいけど……それ真なる竜種はみんな出来るものなの?」
「ワからない。ワレはうまれたばかりのミ。シらないコトだらけ」
「へー」
もしかしたら今後加入するヘヴィウェザーもこうして喋る可能性があるのか。
ずっと使ってきた武器と会話可能になるのは嬉しい人は嬉しいんだろうな。ファントムは壊れても何度も生えてくるからいいけど、壊れたら終わりの武器だったら怖くて戦闘で使えなくなっちゃうよ俺。
そんなことを話しながら空を走って移動していたら直ぐにラローリーさんの工房に到着した。
空から町に入らないと門番に凄い目で見られるからな。これ街への不正な侵入かなんかでカルマ値上がってそうだな……
ラローリーさんの工房の前まで来ると、ファントムはまた剣の中に引っ込んでしまった。
人と会うのが苦手なのかもしれない。俺もだよ。
「ふんふん……また面白い素材を持ってきたねぇ。特にこの百足の素材とかこの水晶とか、ぶんぶん丸くんにピッタリな効果のアクセサリーにできそうだよ。あ、そうそう。頼まれていた釘も完成しているよ。今回のもとんでもないパワーがあって物凄く危険だから装備する時は気を付けてね」
ラローリーさんにも集めてきた素材を預けて、水晶巣崖で集めたローエンアンヴァ琥珀晶を用いた完成品のアクセサリーを受け取る。これで十回目の琥珀ガチャだ。
水晶巣崖に何十回も突撃して集めてきた無数の琥珀の中からラローリーさんに選出してもらった高エネルギーの何かが秘められた十個の当たりの琥珀をこれまでに九個加工して貰って性能を確認したのだが、俺のビルドに合わない物ばかりだったので採用は見送りとなった。
七回目で出て来た衝撃や摩擦などをトリガーにして爆発が起こるやつは比較的良さそうだったのだが、どうしても筋力が足りなくて爆風でぶっ飛んだ後の姿勢を制御することができずにこれも不採用となった。
今度こそ俺にピッタリな大当たりが来ることを祈りながら効果を確認する。
・封晶の
呪啓者及びその派生職でのみ装備可能。
ローエンアンヴァ琥珀晶を用いて作られた
装備者のインベントリ内のアイテムの重量を軽減する。
使用者の任意で発動可能で、装備者に一定時間「特殊状態:
「密封の琥珀」シリーズは琥珀の中に封じ込められた属性の他に封じ込められた物の危険度でクラス分けがされる。クラスは「
霊穴に直接突き刺して装備する
※特殊状態「古晶」……対象のSTMの数値に応じて対象の体重と所持重量に対して対象が体感する負荷が軽減され、さらに全モーション速度に補正がかかる。
※追加効果「
蝕晶ゲージの蓄積割合に応じてアバターが結晶化してゆき、最大まで蓄積した場合完全に結晶化して即死する。
……ん? これヤバくね?
テストしてみた。
「これやべぇわ」
新しく手に入れた封晶の
まず特殊状態「古晶」だが、まず重さに関する効果から説明すると……ぶっ壊れである。
今の俺はあの要塞蜘蛛のバカみたいに重い装甲皮膚を背中に数十枚重ねて背負って右手の小指一本で腕立て伏せをしている訳だが、何の問題も無く腕立て伏せが出来ている。
勿論俺やこの素材が軽くなっている訳ではなく、俺にかかる負荷だけ軽減されているのだ。だからこれを人に叩きつければ質量の暴力でその人はミンチになるだろう。
そして全モーション速度の補正。これもぶっ壊れである。
恐らくこれを考えた運営は俺みたいな全てをスタミナにつぎ込んだ上に更にスタミナにバフをかけ続けるようなアホを想定していなかったのだろう。
どれだけ重い物であっても両手武器であっても関係なく片手でぶんぶん振り回しつつ超スピードで走り回れるとか完全にゲームバランスがおかしなことになっている。それとも運営の想定ではこれだけやってもまだハイリスクハイリターンの範疇に収まっているのか?
シャンフロの物理演算は優秀なので、ステータス関係なく質量があるものを高速でぶつけるとちゃんと相応のダメージが発生する。
この辺りの設定が手抜きなゲームは音速で石ころを投げつけても石ころに設定された1ダメージで固定だったり、逆にバグを利用して超スピードで発射した石ころが謎の計算式でカンストダメージになってラスボスが消し飛んだりする。
しかし重い物を持てるようになったがステータス的には何も変化していないので両手武器の装備条件は基本的に満たせないだろう。装備条件を満たしていないと持つことは出来ても基本的に武器スキルは使えないし武器に設定されているダメージ倍率も適用されないらしい。
スピードは出せるがパワーは無いままなので、ダメージを出すには圧倒的な質量のある装備が必要。しかし重いものはステータスの関係で装備できない。この問題をどう解決しようか……
因みに
俺の最大HPは10なので基本的に5秒毎に最大5ダメージを受けることになるが、体が結晶化して運動に支障が出るようになるまで起動しっぱなしで大体500秒くらいかかるし、ほぼ動けなくなるまで900秒、即死には1000秒だ。これを即死と言っていいのだろうか?
しかも釘アクセサリーの回復効果は高位の回復手段扱いのようで、休めるタイミングでちょっとオフにすれば直ぐに結晶化した体は元に戻る。
因みに結晶化した部分はめちゃくちゃ硬くて大体の攻撃を弾くので敢えて直さないことによるメリットも存在する。
恐らくこのデメリット効果は本来はHPが数百あるようなプレイヤーが使うことを想定しているのだろう。
リスクを受け入れて可能な限り回復せずに起動し続けて長時間使えるようにするか、安定をとってHPがある程度減ったら直ぐに回復して短時間だけ使うようにするか……そんな葛藤を全部投げ捨ててほぼメリットだけを享受してしまっている。
「バランス調整って大変な仕事だよなぁ……」
まあ運営の想定外ではあっても仕様の範囲内ではあるんだから別にいいか。早速だがこのアクセサリーを前提とした装備を作ってもらうとしよう。
……
…………
………………
「この素材を使えば理論上は作れるだろうが……幾つか問題がある」
ムンクさんの工房に大量の素材を持ちこみ、盾の製作を依頼する。
その際に素材のフレーバーテキストを読んで思いついたことを実現できないか相談してみたのだが、何か問題があるらしい。
「重ねれば重ねる程に重くなるがそれ以上に強くなる素材……それを限界まで重ねたら無敵の盾を作れる。それは間違いじゃねぇんだが……」
「だが?」
「俺がそれを持ち上げられんから加工できねぇ。無理をすれば間違いなく俺の腰が壊れる」
「ああ……」
俺は持ち上げられてもムンクさんはそうはいかない。まさかそんな問題が発生するとは……
鍛冶師はSTRも結構必要という話は聞いたことがあったが、まさか金槌を振るうこと以外にもSTRを要求される場面があるとはなぁ……
しかし生半可な性能の盾だとヘヴィウェザーの攻撃を凌ぎきれない。一瞬でスクラップにされてしまうだろう。
ここで妥協はできないのだ。俺のHPは10しかないわけだし、一発で1ダメージでも負うようであれば、あの超多段ヒットの雨で削り殺されるだろう。
「重い物を持ち上げる専用の設備を用意すれば行けると思うが、当然それを用意するのにも時間がかかるし、炉も専用の物を用意しなきゃならん。準備に一週間はかかるな」
「一週間……」
それは……ギリギリだな。
だって一週間後には……
「確か、龍王との決戦が一週間後と言っていたな?」
「はい」
そう、なぜか急に一週間後に生き残っている色竜全てとジークヴルムが一斉に前線拠点に突っ込んで来ると、なんか凄いNPCからの予言があったのだ。
なのでできればそれまでにヘヴィウェザーの調伏を終わらせたかったのだが……間に合うか?
「……
「奴……搗星の声が?」
「龍王の角を折れなかったのが悔しかった……とな」
あー、あの時の気にしていたんだ……搗星が角に傷をつけてくれたから最後に角を折れたのだと思うのだが、どうやら直接折ってやりたかったらしい。というかムンクさん武器と喋れるの?
搗星……今はヘヴィウェザーか。それを聞いたらあいつに角折りのリベンジをさせてやりたくなってきたな。
「何とかして可能な限り早く盾を完成させてやる」
「俺も手伝います!」
「いや、いい。お前さんは今の内に盾の訓練でもしていな。完成してから練習する時間は殆ど無いだろうからよ。助っ人なら他に当てがある」
確かにそれもそうか……盾のスキルなんて一つも持っていないからな。
適当にどこかの店で盾を買い集めてそれを使って練習しよう。
ついでにレベル上げもしたいから百足と蜘蛛の戦争に飛び込んでこよう。四方八方から爆風が来て、上からはレーザーが降り注ぐ戦場は盾の訓練にも丁度良い筈だ。
目標レベルは150だ。連結スキルを全て解除してスキルも育てないとな。
封晶の
太古の時代、そのモンスターの祖先は旧大陸での生存競争で優位に立つために魔力食を選んで体を大きくしていったが、大気中の魔力不足で進化の限界に直面してしまう
しかしある時、そのモンスターは少ない魔力を効率良く全身に伝達する手段として全身を水晶化させるという力業を成し遂げる
これにより最低限の魔力で巨体の維持が可能になったもののそれでも魔力がギリギリなので基本的に大気中の魔力が濃い狭い空間でじっと動かずに日光浴をしながら魔力を吸収し続ける地味な生活を続けていた
全身が水晶なので捕食しようとする敵はおらず、餌にも困らない。更にその全身の水晶は細かく砕けやすく、そして小さな欠片からでも高速で成長する性質上、その微細な粒子を迂闊に吸い込めば内側から水晶に蝕まれて死ぬことになるので近付くことすら危険。その上でその気になれば意外と素早く動けるという最凶生物だった。奴らが現れるまでは……
蠍の祖先「この水晶うめぇ」
魔力食かつ天敵が居なさすぎたせいで攻撃性が全くなく、体がデカすぎてちょっとくらい齧られても気付かない鈍感さも相まって移住してきた蠍の祖先に襲われても特に気にせずに日向ぼっこし続けた結果、蠍が完全に水晶に適応してしまい、やがて増えすぎた蠍に食い尽くされて滅んだ
大きくしすぎた体は後に水晶巣崖と呼ばれることになる崖の上の僅かな空間内でしか維持することができなかったので逃げることも不可能だった模様。つまり大体ドードー