シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
唐突に主人公にクソ重呪いをつけたせいです。本当はワイバーンゾンビのアクセサリーで呪われるけど毒のブレスが使える!くらいにする予定だったんですけどね……うーんこのライブ感
「いらっしゃいま……せ?」
視線に耐えながら表通りを歩いていると、見覚えのある火のついたダイナマイトのエンブレムが描かれた看板が目に入り、店名を確認してみればその店はサードレマでお世話になった「ニトロ薬局」のフォスフォシエ支店だった。となればここもプレイヤーのお店である可能性が高いだろうと考えて入店してみた。
店内はサードレマ支店よりも若干狭く、頭の上に『セッシー』とプレイヤーネームが表示されている女性プレイヤーが一人店番をしていた。
首から赤いポリゴンを噴き出す俺を見て一瞬動揺していたが、NPCとは違って直ぐに落ち着きを取り戻した。とりあえずいきなり店を追い出されることはなさそうだ。
「あの、すみません……ここって、アイテムの買い取りはしてもらえますか……?」
「おや珍しい、一応錬金術に使うものならうちで買い取るけど、まとめて売るなら黄金の天秤商会にでも持って行った方が楽なんじゃないかな?」
「ちょっと呪いの武器のせいでNPCがビビっちゃって、全く会話にならなくて……」
「そんなことあるんだ……もしかして首のそれがそうなの?」
「これもそうですけど、こっちの呪いの方もNPCとの会話にマイナス補正があるみたいでして……」
袖を捲ると腕からどす黒いオーラが漏れ出す。ホラーが苦手なのに自分がホラーな存在になってしまったなぁ……。
「うわ、NPCと会話できなくなる程の呪いなんてあるんだ。だからここに素材を売りに来たのね。首のそれは?」
「毎秒最大HPの四割のダメージを受けますね。あとアンデッドとの遭遇率に補正がかかる……多分アンデッドに狙われやすくなりますね……」
「毎秒四割……!?というかそれは死ぬのでは……?」
「俺のHP初期値の10なので、リジェネアクセサリー一つでギリ耐えられます」
「それはそれでとんでもない縛りプレイだね……で、何を売ってくれるの?」
「これなんですけど……」
カウンターの上にレアドロップっぽいやつを除いた水晶群蠍の素材一匹分を全て載せる。結構な質量でカウンターから軋む音がする。
「これ錬金術で使えるやつですか?」
返事がない。顔を上げてみると、セッシーさんが信じられないものでも見たかのような表情で硬直していた。
「あの……?」
「……えーっと、ちょっと確認させてもらうね……」
セッシーさんが蠍の素材を一つ一つ手で持って確認する。手に持てばそれだけでシステムによってそのアイテムの名前や効果がわかるのって偽物に騙されるのを防げるし便利だよな。まあこの世には「エクスカリバー」の偽物の「工クス力リバー」みたいなぱっと見でわからない物もあるそうだが。
「マジで?全部本物?お店のお金全部でも足りないかも……リーダーに相談案件……?」
良く聞こえないが店員が何やらブツブツと呟いている。
「えーと、売りたいのはこれで全部?」
「いえその、あと十匹分くらいあるんですけど……」
「じゅっ」
あ、フリーズした。
しばらく沈黙が続いたので、他の客が居ないことをいいことにインベントリの中の蠍の素材をとりあえず全部出してみる。レアドロップっぽい数が少ない素材を優先的にインベントリに入れてゆき、動きが重くならないラインを探してみる。ギリギリだとそれ以上何もアイテムを拾えなくなるし、どのくらい売らずに残すかよく考えておかないと……。
「……はっ!?うわあお店が水晶巣崖になってる!?」
「ああああすみません急いで片付けます!」
急いでインベントリに全ての素材を突っこんだことで再び動きが鈍くなる。というかこれで鈍くなるだけで済んでいるのが不思議だな……。
「えっと、ちょっと待ってて貰っていいかな?水晶群蠍の素材は我々のクランが凄く欲しがっているものだから是非とも買い取りたいんだけど、その前にリーダーに連絡しておきたいんだ」
「わかりました」
「ありがとね、そこの椅子に座ってもいいよ」
そう言い残してセッシーさんは店の外へ出ていった。このゲームの連絡手段、世界観重視で伝書鳩みたいに鳥を使うんだよな。しかも金がかかるし届かないこともあるとかないとか。なんでもリアルにすればいいってもんじゃないぞ。
ニトロ薬局ってクランの施設だったのかとか考えながら椅子に座って待つこと十分。途中店に入ってきた客と思われるプレイヤーが俺を見てビビッて店を出て行く事故があったが、それ以外は特に何もなくセッシーさんが帰ってきた。
「えー、その、まだ待ってて貰いたいんだけど、時間は大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ」
「良かった、リーダーに連絡したら今からダッシュでそっちに向かうから時間を稼いでくれって返信が届いてね……フィフティシアから走ってくるらしいから結構待たせちゃうかも。ごめんなさいね」
「ええ……」
クランのリーダーが直接ここまで来るらしい。それまで結構時間がかかるからということで、店の奥の従業員用のスペースへと案内された。
薬局と言うだけあって薬を作るのに使いそうな器具に囲まれた部屋で待機する。セッシーさんは店番をしていて俺一人だけで待機しているだけなのも退屈なので、インベントリから黒蝕の喪白剣を取り出して鞘から引き抜いてみる。
「見た目怖……完全に悪役が持ってるタイプの武器だ……」
進化前と比較して形状が根元から先端に向かうにつれて細くなっており、白い剣身に黒い刃という配色は変わっていないのだが、まるで黒が白を蝕むかのように中心へ向けて黒が広がっている。そしてよく見れば黒い刃の中に血管のように細く赤黒い線が走っているのが見える。
「えーっと、「ハキダセ」?うわっ!?」
説明に書かれていたワードを読み上げると剣から赤黒いドロッとしたものが噴き出し、剣に纏わりつく。俺の血を吸って溜まっていた血液ゲージが三割減って、そこから少しずつ減っていく。一秒毎に俺から血を吸っているのでその度に少し回復するのも込みで大体十秒で二割五分くらいのペースで血液ゲージが減っていくから……そのままだと三十秒も持たないけど、相手に攻撃して血を吸えば長時間維持はできそうだ。
「じゃあこっちは……「リボルバーフィスト」六発、からの「ヨコセ」!」
「バレットフィスト」から進化して最大六連発が可能になった「リボルバーフィスト」でスタミナを空にしてから「ヨコセ」を発動してみる。すると血液ゲージを十秒で三割くらいのペースで消費して……ちょっとスタミナの自然回復と混ざって分かりづらいな。大体「ヨコセ」の回復だけで十秒でスタミナ半分くらいのペースで回復しているんじゃないか?
シンプルにSTMを強化する「ハイエスト・エンデュランス」も同時に発動して試してみたが、恐らく回復量はスタミナの割合ではなく血液ゲージの消費量に比例するのかな?
「これは強いな、「ハキダセ」の方はまだよくわからんが、「ヨコセ」の方はスタミナ管理が楽になりそうだ」
スキルが成長する度にスタミナ消費がどんどん大きくなっているし、リキャストタイムも長くなっているからスタミナ切れがどんどん危険なものになっていくのが困る。敵とのステータスの差が大きすぎてスキル無しだと回避すら難しくなってきているし、スタミナ管理を楽にするようなスキルや装備がもっと欲しい。
この剣を強化したら効果が強くなったり血液ゲージの総量が増えたりするのかな?でも呪いも強くなりそうな気がするし、そもそも強化してくれる人が居るのかもわからないが。
レベルアップで進化したり新規習得したりしたスキルの効果を確認していると、ドアがノックされる。
「入りますよー」
セッシーさんとは違う中性的な声がドアの向こうから聞こえて、その声の主がドアを開けて部屋に入ってきた。
セミロングの金髪を一つ結びの三つ編みにした髪型に、糸のように細い目と小さな丸メガネが特徴的な、中性的な顔付きに中性的な体付きの男にも女にも見えるアバターのプレイヤーだ。凄く失礼な感想だが、ニッコリと張り付いたような笑みを浮かべているのも合わせて胡散臭いという言葉を擬人化したのかってくらい胡散臭い見た目をしている。わざとそういう見た目にしているのだろうか?
「初めまして、うちの名前は『
「あ、初めまして……えー、名前何だっけ……あ、ぶんぶん丸です」
自分でつけた自分の名前なのに忘れてたわ。ここまで一度も名乗ってなかったからなこの名前……
「セッシーちゃんから聞いたよー、水晶群蠍の素材をたんまり持ち込んできたんだって?」
「はい、これなんですけど……」
インベントリから水晶群蠍の素材を机の上に取り出そうとしたら緊張で操作を誤ってインベントリの中の殻を全部取り出してしまった。机からメキッと嫌な音がして机の上に殻が山盛りに積み重なり、机に乗り切らなかった分の殻が地面にぶちまけられる。
「あやっべ。すみません急いで片付けます!」
「うっひゃー……こんなに沢山どうやって手に入れたの?」
「えっと、奥古来魂の渓谷から崖を登って、蠍を引き付けて、轢かれる直前で崖を降りたら勝手に蠍が次々と転落していきましたね」
「それが簡単にできたら苦労しないんだよねぇ……」
えっ、できないの?って聞いたら煽りになりそうだからやめておこう。というかできないからこそレアアイテムと言われているんだろうけれど、俺のビルドが偶然相性が良かったのか?
「正直だいぶズルいやり方なのであんまりやりたくないと言いますか、最悪BAN食らいそうで怖いんですよね……」
「あー、ワンチャンあり得るかも……しかしあの崖をスムーズに昇り降りできるなら協力者が居れば……」
なにやらブツブツ呟き始めた二十六さんが何か思いついたのか、再び張り付いたような笑みを浮かべて顔を上げた。
「それじゃあ売りたい分の水晶群蠍の素材を出してもらえるかな?」
「はい」
今度は操作ミスしないように蠍の殻、鋏、爪、脚を取り出して机に並べていく。途中重さで机が歪みだしたのでそこからは床に並べていく。
「水晶群蠍の素材はモンスター素材でありながら鉱物素材でもあり宝石でもあるんだ。錬金術師だけじゃなくて鍛冶師や細工師も欲しがる最強素材なんだけど、そのせいで市場に流れるといつもオークションになっちゃうから値段云々の前に供給不足で滅多に手に入らないんだよねぇ……」
「そんなにレアなんですね」
「そうそう、下手にこれを持っていることがバレたらPKが寄ってたかって殺しに来てただろうね」
二十六さんは床にまで並べられた山積みの蠍の素材を一つずつ確認しながらもそう教えてくれた。
このゲームでPKされたプレイヤーは持っている物全てを失うことになり、更に別のプレイヤーによってPKがPKKされても奪われたものが被害者の元に帰ってくることは無い。PKKしたプレイヤーの物になるのだ。このゲーム、PKされた側が失うものがあまりに多すぎる。
「本当はこれを武器とかアクセサリーとかにしたかったんですけど、加工できる人がこの街で見つからなくて、でも売るのも勿体ないなと思って抱えていたらこの呪いでNPCに逃げられるようになっちゃって……先の方の街に行こうにも重くて動けないので仕方なく売りに来ました……」
「なるほどなるほど。これを加工できる生産職は貴重でね、そういうプレイヤーは大体フィフティシアの方で拠点を構えているかな。NPCでこれを加工できるのは大体どこかの組織のお抱えだから、普通に探しても見つからないし、依頼しても断られるだろうねぇ」
加工の難易度が高すぎる。今の俺が持っていても何の役にも立たないということが分かった。
「えー、大体十匹分の素材とあまり少しで……うへぇ、3億7000万マーニかな?」
あの蠍、仲間同士で激突した時に体の一部が破損してアイテムをドロップするらしく、稀にプレイヤーがそれを一欠けら拾うことに成功してそれがたまに市場に流れるそうだ。そもそも倒すことすらできていないらしい。じゃあ明らかに倒さないとドロップしなさそうなこの輝宝晶って持ってる人他に居なかったりするんだろうか?
二十六さんに見せてみたら少なくともこれ一つで1000万マーニだって。これインベントリに入れたまま冒険するの怖すぎない?ポケットに金の延べ棒入れてるようなもんじゃん。
「……ねえブンブン丸くん。話は変わるけど、その呪いで色々と困っているんですって?」
「あ、はい……NPCと会話しようとすると逃げられたり追い出されたり……買い物もできませんし宿屋も利用できないのでリスポーンポイントの変更もできそうになくて……この呪い、呪いの剣の所有権を持っているだけで装備していなくても永続で呪われるんですけど、でもあまり手放したくはないんです……」
「なるほどねぇ、他のプレイヤーに頼らないといけない実質縛りプレイ中と。それで、頼れそうな人はいるのかな?」
「いえ、フレンドもいませんし、クランにも入っていませんし、ここまでずっとソロでしたから……」
VRマシンにフレンドとして登録されている幼馴染でもある数少ないリアルフレンドも高校卒業後は一緒に遊ぶ回数がどんどん少なくなっていって今ではもう数年間会話すらしていないからな……もうそれ友達じゃなくないか?ほぼ毎日来るシステムの通知によるとあいつもシャンフロやっているらしいけど、発売日からやっているっぽいから相当先の方に居るんだろうなあいつ。ロリコンだし幼女のNPCに付き纏ったりしているのかもしれない。
「ここまでずっとソロかー、結構難しいゲームなのに珍しいなぁ……シャンフロ歴はどのくらいで?」
「えっと、金曜日に初めて……約二週間ですね」
「二週間……え、もしかしてまだフィフティシアにまで到着していない感じ?」
「はい、まだここの、奥古来魂の渓谷のボスも倒してません」
「なるほどなるほど……始めたばかりでクラン未所属、水晶群蠍の素材を集められる技量に恐らくかなり高ランクの呪いの装備持ち……後は錬金術師ならクラン的に完璧だけど、まあそこは特例ということで……」
「?」
商談しに来たのかと思ったらなんか色々と関係なさそうなこと聞かれてるんだけどなぜだろうか?初心者ならレアアイテムを安く買い叩けるとか思われてなきゃいいのだが……
そんなことを考えていた俺に対して二十六さんが出してきた提案は──
「──ねぇぶんぶん丸くん、うちのクランに入らない?」
「えっ」
えっ
「今加入すれば特別にこのニトロ製薬特製最高級ポーションセットに加えてニトロ薬局の商品をお安く買えるようになる特別な金の会員証も付いてきます!」
通販番組かな?
主人公にクソ重呪いつけてみたはいいものの、リスポーンどうすんだよ問題とアイテム重量どうすんだよ問題に阻まれそうになった結果、唐突に決定したクラン入り。旅狼とどうやって関わらせるのかは今は考えないものとすることで解決とします