シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
あ、予約投稿時間ミスってる……まあいいか
俺は今、見渡す限りの水晶の上を飛んでいる。
折角なので先に進む前に少し戻って崖を登り、水晶巣崖に来ているのだ。
「綺麗なんだけど、この辺り一帯地雷原なんだよなぁ……」
ゆっくりと音を立てずに歩こうとしても水晶を踏んだ重さで反応することもあるらしいからなあいつら。俺は「ホバリング」があるのでこうして水晶に触れることなく移動できるが、普通の人は頑張って空を飛ぶ手段を見つけるか、限界まで体を軽くして祈りながら隠密行動することになるのだろう。
なんでこんな地雷原を飛んでいるのかと言えば、こんな水晶だらけのエリア、絶対に蠍以外にもレアなアイテムの入手手段があるんじゃないかと思ってのことだ。少なくとも採掘ポイントはあるんじゃないかと思っているのだが……おっ。
少し遠くに見える水晶の柱の中に色鮮やかなポイントを見つける。いかにも採掘ポイントっぽいぞあれ。
しかしあれをツルハシで叩けばその瞬間、周囲の地面の中で寝ているであろうの蠍が一斉に目覚めて俺に襲い掛かってくるだろう。俺が死ぬまでに採掘が間に合うか……?
「それなら一発でぶっ壊せばいい」
ツルハシではなく
「「全力全壊」だっ!」
勢い良く振り下ろした火山鉄鞭が水晶の柱にぶつかり、凄まじい轟音が辺り一帯に響き渡って水晶の柱が一発で粉々に砕け散る。
「全力全壊」は全スタミナだけでなく、武器の耐久まで激しく消耗するハイリスクな攻撃スキルだ。その代わり威力は凄まじく、破壊属性まで付与される。
やっぱり今の音で直ぐ近くで眠っていた蠍が目を覚ましたようで、周囲の地面にヒビが入り、そこから次々と蠍が湧いてくる。
持っているスタミナ回復スキルとスタミナ切れによる硬直時間を短縮するスキルを全て発動する。
「間に合え……!」
間一髪「リスタート」の発動が間に合い、周囲から押し寄せる水晶の津波を飛び越えて地面から斜めに伸びた巨大な水晶の上に立つ。
蠍同士で激しく激突したことにより、ボロボロと殻や鋏の欠片が落ちているのが見える。あれも何とかして拾いたいな……
今度は水晶の上に立つ俺を引きずり降ろしてやると言わんばかりに蠍が俺の足元に群がり、水晶に鋏をガンガンと叩きつける。
凄まじい振動と共に水晶にヒビが入り、このままではあの中に落ちると判断した俺は「ブリンク」を起動し、逆に水晶を駆け降りる。
「ちょっとごめんよ」
蠍の背中を踏みつけて蠍の集団を超えて、俺が崩した水晶の柱まで向かう。
後ろから蠍の集団が追いかけてくる中、散らばった水晶や蠍の素材の中から見たことが無いレアっぽいのを探して詳細を確認せずに次々とインベントリに突っ込んで、轢き殺される前に逃げる。
「そうだ、こいつら利用できるじゃん」
不安定な足場の中、転んだり頭をぶつけたりしないように注意しながら水晶巣崖を駆ける。足場が悪いのもそうだが、足元の揺れやヒビをしっかり確認しないと目の前の地面から急に蠍が生えてきて死ぬ可能性もある。あと俺のスタミナが切れても死ぬ。注意しないといけないことが多い……!
「見つけた、二本目!」
色が違うポイントがある水晶の柱を発見し、そのまま真っ直ぐ突っ込む。ぶつかる直前で方向転換すれば、後ろから追いかけてきていた蠍の群れが勢い余って水晶の柱に激突し、そのまま柱を圧し折って吹き飛ばした。
「ありがとね、採掘の手間が省けたよ」
荒々しいやり方で普通に採掘するよりも手に入る物の質や量が下がりそうな気がするが、何も手に入らないよりはマシだろう。
その後も走り回って素材を集めたが、最後は蠍に囲まれて轢き潰されて死んだ。
「ソニックブレス」は蠍の体がほぼ鉱物だからかよく効いたのだが、声に反応した蠍が一気に百匹くらい地面から湧いてきてミンチにされた。音が弱点っぽいのに大きな音を出すと殺されるって酷くない?
……
…………
………………
「まあ集めたところで使い道は今のところ無いのだが」
どれもこれもなんか凄いことがフレーバーテキストに書かれているが、加工できる人を知らないので売るか倉庫に置いておくか誰かにプレゼントするか……なんかこのアムルシディアンとかいうやつめちゃくちゃ硬いらしいから投げれば結構ダメージ入ったりしない?なんかいい使い道無いかリーダーに聞いてみるか。それとついでにこの先のエリア、去栄の残骸遺道の攻略を手伝って貰いたいのでパーティメンバーをクランから紹介してもらおう。
ちょっと去栄の残骸遺道を探索してみたのだが、敵が兎に角硬いかめんどくさい。毒が入らずとも硬い敵はスキルを使えばダメージを入れられるのだが、外したり耐えられたりして火力スキルがリキャストタイムに入ってしまうと途端に勝負がグダグダになる。あとあの逃げ回りながら爆発するゴーレムを撒き散らすゴーレム、俺のHPだと完全回避が難しい爆風だけで死にそうになるので対処がかなりめんどくさい。それにあいつら大体首が無いから首特効も即死も発動しない。相性が悪すぎる。
スキルの不足を感じるのだが、蠍落としで一気にレベルが上がり過ぎたせいで新しいスキルの習得と育成が困難になっている。かといってサードレマに戻って別のルートで攻略し直しは時間がかかり過ぎる。なのでこのエリアはクランメンバーに協力してもらって駆け抜けてしまうことにした。
ニトロ薬局を介してリーダーとメールバードでのやり取りを繰り返すこと数回、なんと直ぐ近くの街に居るからとリーダーが協力してくれることになった。今ダッシュで向かっているらしい。何度も往復させちゃってすみませんほんとに。
……
…………
………………
そして完成した即席パーティがこちら。
「おっほぉ、これがラピステリア星晶体……しかも二等星……!これがあればあの薬も作れるし、最強の合金だって……フフフフフ……」
完全に不審者と化した我らのリーダー、二十六さん。錬金術師レベル99。
「リーダーが壊れた……」
ニトロ薬局エイドルト支店担当のメンバーの一人、フランさん。錬金術師レベル93。
「もしかして錬金術を極めるなら水晶巣崖を攻略するの必須なの……?無理じゃない……?」
ニトロ薬局イレベンタル支店担当のメンバーの一人、アルカリウムさん。錬金術師レベル99。
「えっと、頑張ってください……」
「お金貯めて私も買わせて貰おうかしら……」
血液スプリンクラー、俺。傭兵レベル83。
編成のバランスが偏りまくっている。タンクが居ないのに後衛が三人いるのだが、これ俺が回避タンクしなきゃダメなやつでは?と、最初は思っていたのだが、俺がタンクする必要が無いくらいこの人たちめちゃくちゃ強い。何かが入っているガラスの玉を投げれば爆発、樽を投げれば爆発、それで壊れて落ちたゴーレムのパーツを使ってその場で錬成してそれを投げつければ爆発、爆発、爆発、爆発……ああ、またゴーレムが跡形もなく粉々に……
「前に出たら巻き込まれるから何もできない……」
「ごめんねぇ、うちのクランは基本的に爆破すれば大体の相手は死ぬって考えだから、みんなこんな感じの戦い方なんだよね」
「有効な属性とか考えるよりも最大火力で吹き飛ばした方が早いよ」
「爆発には熱だけじゃなくて衝撃と破片のダメージもあるから、ゴリ押しにはこれが一番なのよ!」
名前からそんな気はしていたが、この人たち爆破することが大好きなようだ。クランの目標の一つに『都市を一発で更地にできるような最強の爆弾を作ろう!』とか物騒なものがあるんだとか。半分ネタとのことだが、半分本気で爆弾の研究開発を進めているらしい。
しかし俺もただ見ているだけではない。三人が対処できない数のゴーレムが現れた時は俺が何体かのゴーレムの注意を引く。
「ほらこっちに来い!」
片腕がバーナーになっている二足歩行のゴーレムをすれ違いざまに三体切り裂いてヘイトを奪い、後は避け続けて時間を稼ぐ。こういうの殆どやったことが無いから勝手がわからない。避けるだけじゃなくて後ろの仲間にも気を配らなくてはならないし、タンクの仕事も大変だな……
「ぶんぶん丸さん、あれ本当にスタミナにしかステータスを振ってないの?下手な軽戦士よりよっぽど速いんですけど……」
「スタミナを消費しまくる代わりに回避しまくれるスキルとか初めて見た。ライブラリも知らないスキルかも」
「極振りを超えた全振りは今までに多くのプレイヤーが試してきてその殆どが途中で挫折している茨の道だからねぇ。プレイスタイルによって覚えるスキルが変わるシャンフロなら全振りビルドでのみ覚えられるスキルとかあっても不思議じゃないよ」
「ここまでソロでワンミス即死のプレイを続けていないと習得できないスキルと考えると納得の性能だけど、あれが知れ渡ったら軽戦士スレが阿鼻叫喚になるんじゃない?」
「どうだろう。一般的な軽戦士なら大体の攻撃をスキルで底上げした敏捷で回避できるし、ピンチの時は幾つかある回避スキルを順番に使っていけば耐えられるだろうから、あって損はないけど、必須でもないくらいかな?正確な習得条件が判明したら一部のプレイヤーがレベルダウンして習得を狙うかもね」
「あくまでスタミナ全振りという特殊なビルドだからこそ輝くスキルって感じなのかしら?」
「軽戦士よりも敏捷を捨ててるタンクが欲しがるスキルだねぇ。まあ敏捷を捨てたタンクが覚えられるようなスキルじゃないと思うけど」
後衛三人が爆弾をポイポイ投げてゴーレムを爆破しながらなんか喋っているが、爆発音で何も聞こえない。フルダイブのVRゲームだから大丈夫だけど、現実だったら間違いなく耳がおかしくなっているレベルの大音量だ。
「あっちは片付いたか」
バーナーから噴き出す炎を潜り抜けてゴーレムの腰と脚の間の細い関節部分を狙って黒蝕の喪白剣を突き刺すと、破壊属性が仕事したのかゴーレムの脚が捥げて転倒する。これで三体とも近づかなければ無害な状態にできた。ほんと便利だな破壊属性。脚を奪って無力化すればHPを削り切る手間を省いて素早く数的不利を解消できる。
「破壊属性もついているとは強いねその剣。でも破壊属性はカルマ値がかなり溜まりやすいから気をつけてね」
「カルマ値?」
「悪いこととかすると溜まると言われているマスクデータだね。カルマ値は溜めすぎるとNPCからの第一印象が悪くなったり、そこから更に溜めるとNPCの施設が利用し辛くなったりするよ」
「……つまり俺の場合は気にする必要が無いのでは?」
「ほんと大変だねぇその呪い……」
そのうち街から追い出されたりするんじゃないかこれ。でもまあここまで来たら突き進むしかないか。
武器の修理もメールバードの送信もクランに頼る主人公
なお、作者がこれを書いているタイミングで