シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~   作:葛饅頭

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ようやく主人公がNPCと関わり始めます


暴徒と試練

 フィフティシアはシャンフロに現在実装されている中で一番最後に存在する街であり、シャンフロを始めた人が目指すことになるゴール地点の一つだ。

 当然この街に集まっているプレイヤーはここまでのエリアをクリアしてきた高レベルの熟練者であり、大規模なクランの多くがここを拠点にしているらしい。ニトロ製薬もその中の一つで、今俺が居るニトロ薬局フィフティシア本店をメインの拠点として活動している。

 

 今までの支店よりもかなり大きな建物で、品揃えはフィフティシアまで来たプレイヤー向けの高品質で高価なものばかりで、その地下にはクランに所属する錬金術師のための大規模な工房が存在する。

 

 スタッフルームのベッドから起き上がった俺はフレンドリストを確認する。よし、リーダーはログインしているようだ。

 

「隠し職業に鍛冶師……ワクワクしてきたな」

 

 まあ俺がその隠し職業に就けるのかはまだ確定しているわけではないのだが。しかし少なくとも鍛冶師の方はリーダーに紹介して貰えば装備の加工はしてもらえるはずだ。

 

 メールバードを送って暫く待機しているとリーダーがやってきた。

 

「ぶんぶん丸くんもうフィフティシアに着いたんだねぇ。ユザーパー・ドラゴンはどうだった?」

 

「ソロで挑んだらめちゃくちゃ大変でした……飛んでる相手への対抗手段が無くて、十回は再挑戦しましたね……」

 

「一発即死のソロであれに勝てるものなんだ……」

 

 火球をぶっ放してくるわ背中に乗ったら勢いよく地面に墜落して落下ダメージで殺そうとしてくるわで本当に大変だった。あいつ結構知能高いんじゃないか?

 

「リーダーが買ってきてくれた秘伝書のおかげですよ。ユザーパー・ドラゴンだけじゃなくて黒死の天霊(トゥルー・クワイエット )にも勝てました」

 

「トゥルー……?」

 

「あ、あの沢山モンスターを狩ると出てくるやつです。死神みたいな鎌を持っているあれです」

 

「え、あれ倒せるの?」

 

「リーダーから貰った回復ポーションを投げたら死にました」

 

「あー、なるほど回復がダメージになるタイプねぇ……ドロップアイテムはどうだった?」

 

「素材っぽいアイテムと、物理ダメージ無しの代わりにスリップダメージとデバフを与える鎌と、女性専用の防具……防具?特殊な防具がドロップしました」

 

「なるほどなるほど……あれが倒せる、しかもかっこいい鎌を落とすとなれば、逆に狙って出現させるプレイヤーが増えそうだねぇ……おっと忘れるところだった。約束通り、君を呪啓者ギルドに案内するよ」

 

「よろしくお願いします!」

 

 リーダーに案内されてフィフティシアの裏路地を歩く。呪啓者ギルドはその存在すらニトロ製薬所属のプレイヤー以外のプレイヤーは知らないというだけあって、辿り着くにはユニークシナリオのクリアが必要なのだという。

 

「もしかしたらそれ以外のルートもあるのかもしれないけどね。うちはこの前君にも話したNPCの鍛冶師、ムンクさんが病気なのを見抜いて指摘したら、それを治療する薬を用意するユニークシナリオが発生してね。クリアしたら鍛冶をしてくれるようになって、しかも店の奥に隠されている呪啓者ギルドのことを教えてもらえたんだ」

 

 ムンクさんというNPCは気難しい人で、鍛冶屋を開いているのにプレイヤーからの仕事は受けないのだとか。直ぐに怒って店から追い出してしまうような人の病気を見抜いて指摘するとか難易度高くない?

 

「事前に君のことは伝えてあるから、後はそのまま案内してもらえるかだけど……ここ。このお店だよ」

 

 複雑に入り組んだ裏路地を進んだ先、ひっそりと建てられた目立たない建物が一軒。申し訳程度の看板がギリギリここが鍛冶屋であることを主張している。しかしその看板には「開拓者お断り」と書かれていて、プレイヤー相手には商売していないというのは本当のようだ。

 

「失礼しまーす!ムンクさーん、この前言ったぶんぶん丸くんを連れてきたよー」

 

 リーダーの後に続いて俺も店の中に入る。こういう店って入るのにも勇気がいるんだよな……。

 店の中はなんというか、店に入っていきなり鍛冶場が広がっていている。接客とかあまり考えてなさそうな店だ。

 

 店の奥の扉から足音が聞こえてきて、扉が開く。

 

「おう、お前さんか。それと……何やらとんでもねぇもんを連れてきたようだな……」

 

 扉を開いて出てきたのは無精髭の一人の男。年齢は六十歳くらい?背は高くないが、体付きはがっしりとしている。

 俺のことを事前に知らされているとは言え、俺を見て怯まないとは、普通のNPCとは何かが明らかに違う。

 

「お前さん、ぶんぶん丸と言ったか……ふむ、悪くはねぇ。だが、少し足りず、といったところか」

 

「少し……?」

 

「十分過ぎる程に呪われ、それだけの罪禍を背負う程に勝ちに拘り、そして何処とも(しがらみ)が無く孤立している……しかし、あと少し足りんものがある」

 

 なんか若干悪口言われてない?しかし、その足りないものとは何なのか。というかなんなんだ出会っていきなり足りないとかなんとか。

 

「……お前さんに試練を与えよう」

 

「試練?」

 

「それを乗り越えられたら、幾らでもお前さんのために金槌を振るってやろう。そして、俺たちの団長にも会わせてやる」

 

 

 

『隠し職業クエスト「ムンクの試練」を開始しますか?はい・いいえ』

 

 

 

「クエスト……?」

 

「んん?うちが他のクランメンバーを紹介した時はクエストとか無かったんだけどねぇ……」

 

「クエストって何……?」

 

「え、そこから?」

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

 ムンクさんからの試練。それは水晶の地に生きる『黄金』を討伐することらしい。

 

金晶独蠍(ゴールディ・スコーピオン)ね……」

 

 リーダー曰く、水晶巣崖に黄金の蠍が居るという噂があり、ライブラリが調査した結果その存在が確認されたという 水晶群蠍(クリスタル・スコーピオン)の亜種的な存在。

 水晶群蠍は水晶を食べるが、そいつは水晶は水晶でも水晶群蠍を食べるのだという。

 

「少なくとも水晶群蠍よりは強いと……しかも水晶群蠍に囲まれながら戦えと……?」

 

 正直言ってあまりにも無理ゲーすぎる。なんでこんな厳しい試練を受けなきゃならんのだ。先に武器の強化だけでもやってほしかったのだが……

 

「まあやるしかないか、水晶群蠍と敵対しているなら水晶群蠍を利用すればワンチャン……強さによっては逆に金晶独蠍を利用して水晶群蠍を掃除してもらうことになるかも」

 

 今現在俺はフィフティシアから全速力で逆走中である。

 新しく覚えたスキル、「瞬刻視界(モーメントサイト)」のおかげで「ブリンク」と「ホバリング」の同時発動でも加速した思考でなんとか制御できるようになった。スタミナが尽きれば今度は「フルスロットル・レーシング」を発動。効果時間中、脚が強制的に動く代わりにどんどん加速していくスキルで、最終的にとんでもないスピードが出る代わりに発動を中断せずに効果時間終了まで走り続けた場合、スタミナが全回復する。逆に途中で止めたり長時間滞空したりして走っていない状況が続くと強制的にスタミナがゼロになる上に硬直時間がめちゃくちゃ長くなる。これ多分AGIに振ってたらもっと殺人的な加速になっていたんだろうな……

 

 相変わらずすれ違う他プレイヤーからモンスターと間違われて襲われたりもしたが、なんとかエイドルトに到着した。もう一度ボスと戦わないといけないのは面倒だが、リスポーンポイントを更新しておく。

 更に強敵との戦いに備えるべく一旦ログアウトもして、ライオットブラッド・バックドラフトにアルコールを加えて脳を覚醒させる予約をしておく。

 

「これでこの崖を登るのも三回目か」

 

 スタミナ関係のスキルの成長によって今ではホバリング単体起動かつ低空飛行ならスタミナ回復量の方が多い。水晶に触れないようにスイスイと水晶の上を進む。

 水晶巣崖を暫く探索していると、遠くから大きな何かがぶつかり合うような音が聞こえてきた。

 

「水晶群蠍は夜は寝ている。そこを狙うから夜行性になったのが金晶独蠍なんだっけ?」

 

 つまりこの音の正体は……!

 

「……いた!」

 

 そこに居たのは水晶の大地を掘り起こし、あの水晶群蠍をまるで紙のように鋏で切り裂く黄金の蠍。月光を浴びて美しく輝く水晶は明らかに超レアな素材になるだろう。試練とか関係なくあれは是非とも欲しい。

 よく見ればその鋏は通常の個体と比べると薄く鋭い。恐らくは食料の違いによる違い……動かない水晶を切り取って食べるための鋏と、動きまくる水晶を殺して食べるための鋏という違いだ。通常の個体よりも戦闘に特化しているのだろうその体はなんか全体的に殺意高めな形状に見える。通常の個体よりも滑らかな表面は恐らく動きの邪魔になることを防ぐために削ったか動いているうちに自然と削れたのかのどちらかだろう。

 

 しかしあれだけ派手に暴れているのに周囲の蠍が起き上がっていないな。もう周囲の蠍を全て食べ尽くしたからなのか、あの集団行動は外敵に対してのみ行う行動なのか。

 

「相手は遥か格上のはず、実力差を埋めるのには不意打ちが一番……!」

 

 ムンクさんが言っていた「それだけの罪禍を背負う程に勝ちに拘り」ってセリフ、恐らくカルマ値のことを言ってると思うのだが、カルマ値は卑怯な戦い方なんかでも溜まるのだという。つまりあのセリフは勝つためならどんな手でも使うような人にこそ呪啓者は相応しいという意味なんじゃないだろうか?

 

 ユザーパー・ドラゴン戦で大活躍した貪食蛇の毒呑牙剣に最高級の錬成毒をたらーり……あれに毒効くのか知らないけど、流石に体が全部水晶ってわけでは無いだろうし、多分効く筈。

 

 スキルを一気に起動して水晶の柱の陰から最高速度で飛び出し、レイピアを逆手に握って振り被る。

 

「こんばんわー!!!」

 

 お食事中に死角から音を立てずに最高速度で突っ込んできた俺に金晶独蠍が反応するよりも早く、その左目に「穿孔発条」が突き刺さった。

 激しいクリティカルヒットエフェクトが撒き散らされ、金属を削るような音が鳴り響く。

 

「うおっ!?」

 

 しかしその状態から即座に動き出した金晶独蠍が鋏を振るう。レイピアを引き抜いている時間は無い、刺さったままのレイピアを手放して距離を取る。

 

「流石に今のは怯めよ生き物として……!」

 

 レイピアが深く突き刺さったままの左目を見て悪態をつく。最悪ここで負けたらあのレイピアロストするのでは?

 しかし視界を片方潰せたのは大きい。俺のスキルは相手の視界を制限する程に強くなる!あとついでにそのまま毒が蓄積してくれたら嬉しいな!

 

「いくぞ、「回避術【隠狐】」!」

 

 長い長い戦いが始まった。




呪啓者に転職する条件として、無職であることやNPCの組織に所属していないことなどに加えて、マスクデータの呪い値、カルマ値、歴戦値が一定値以上、信頼値は逆に一定値以下である必要があります。でも犯罪者はダメです。主人公は歴戦値だけ足りていなかったので試練が発生しました
なお、この試練は今までに一定以上野生値を高めたモンスターに関係する討伐すれば歴戦値を上げられるモンスターが討伐対象としてランダムに選出される仕様です

シャンフロサーバー「こいつ歴戦値足りてないな。歴戦値上げられるクエスト出してやるか」
シャンフロサーバー「何々?水晶群蠍(クリスタル・スコーピオン)との関わりが多いな。じゃあそれより強い金晶独蠍(ゴールディ・スコーピオン)がピッタリだな!」

ムンク「金晶独蠍(ゴールディ・スコーピオン)倒してきて」
ぶんぶん丸「は?」(急にアホみたいな難易度のクエストを出されて困惑している)
ムンク「は?」(急に天啓を得てそれをそのまま口に出したけどあまりにもヤバい内容で自分で言って自分で困惑している)
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