シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
結果的には貪食蛇の毒呑牙剣をやつの目に突き刺したままにしておいたのは正解だったと言えるだろう。
「おまっ、お前!?回復は!回復はダメだろお前ぇえええええええ!!??」
急に金晶独蠍が後ろに下がったと思ったら、突然の日光浴ならぬ月光浴を始めた。
何かしらの必殺技の準備かと身構えていると、やつの外殻の隙間を狙ってチマチマと与えてきた傷口から水晶が生えてきて、傷口が塞がってしまったのだ。唯一レイピアが突き刺さったままの左目だけがそのままになっている。
ブチギレそうになりながらもなんとか冷静さを取り戻し、再びチマチマと装甲の隙間を狙う作業に戻る。
金晶独蠍は装甲よりも機動力を優先しているようで、外殻と外殻の間には動きやすさを重視してか僅かな隙間があるのだ。俺がやつにダメージを与えられるのはその隙間と目玉だけであり、やつを倒すにはここを狙うしかない。
金晶独蠍の鋏が振るわれる度にその軌道上の水晶が全て綺麗に真っ二つにされているし、その尻尾の先端はなんの抵抗も無く水晶の大地に突き刺さる。掠るだけでも即死するであろう攻撃を潜り抜けて激しく動く僅かな隙間を狙い続けることを要求される。もしかしてムンクさん遠回しに俺に諦めろって言ってる?
少し距離を置けば尻尾の先から毒液らしき液体が発射されるし、しかも散弾のように撒き散らすことも可能で危うく直撃しかけた。カフェインで加速する思考が咄嗟の「フォーミュラ・ドリフト」の発動を間に合わせてくれた。
もう自分でも何をしているのか半分くらい理解できていない。目の前で起こっている出来事に殆ど反射で対応している状態だ。スタミナ回復スキルをリキャストタイムが開けた瞬間に再発動し、もう効果時間の把握とか全然できていないので適当なタイミングでエナジーバーをスタミナポーションでむりやり喉奥へと押し流す。あ、これ最高級のクソ高いやつ……もうこの勝負負けられねぇ!
「回復するんじゃねぇ!!」
再び回復しようと後ろへ下がった金晶独蠍に向けて口から「ダートソニック」を放つ。持続時間はスタミナに関わらず一瞬で威力も「ソニックブレス」と比べると低いが、スキルとアクセサリーで強化された音の弾丸が金晶独蠍の頭部に命中し、回復モーションが中断される。やっぱりこいつの弱点は音、振動だ。しかしやはり俺の音に反応したのか水晶群蠍が遠くから数十匹突っ込んでくる。
「ええいめんどくせぇ!邪魔するなら死んでもらうぞ!やっちまえ金晶独蠍!」
俺が一人であの群れに突っ込んだら死ぬので邪魔者の排除は金晶独蠍にやってもらう。俺を轢き殺そうとする蠍の群れへ向かってジャンプ力強化スキルや空中ジャンプスキルをフル活用してジャンプしてその背中に飛び乗れば、そのままの勢いで蠍の群れが金晶独蠍に激突する。
蠍の荒波を乗りこなし、金晶独蠍を巻き込んで暴れまわる。まさかユザーパー・ドラゴン戦で鍛え上げられた振り落とされないように体の上を走り回って誘導する技術がこんな所で活かされることになろうとは思わなかった。
しかし金晶独蠍は恐ろしい程に強い。若干水晶群蠍よりも柔らかい外殻は水晶群蠍との激突で傷を負ってはいるものの、鋏を振るえば蠍が纏めて数匹引き裂かれて吹き飛んでいく。
水晶群蠍も上に乗っかっている俺を叩き落とさんと尻尾を振り回し、仲間の背中を穴だらけにする勢いで針を突き刺してくる。
「うおぉおお!!?もう何もわかんねぇ!!!」
金晶独蠍はこの状況でも俺を見失っていないのか、時々こちらへ向けて巨大な水晶の塊を投げ飛ばして……いや違うこれ水晶群蠍の残骸だわ。
「これは、もう少しあいつを弱らせないとダメか……!」
この状況で回復阻止用に取っておく必要もないだろう。「ダートソニック」で再び金晶独蠍を怯ませると、蠍の群れに飲み込まれてその黄金の体がボロボロに砕けてゆく。しかしその直後、ひび割れた外殻から蒸気のようなものが噴き出し、金晶独蠍は弱るどころか更に荒々しく暴れまわり、蠍の群れを文字通りちぎっては投げちぎっては投げ……遂に残り三匹にまで減った水晶群蠍がなんと俺のことを無視して逃げ出してしまった。
「なんという……バケモンかこいつは……!」
だがこれはある意味では好都合とも言える。もうこの辺りに蠍は居ない。つまりどれだけ大きな音を出しても大丈夫だということ。それにお前を倒した後、素材を回収するのに蠍が残っていたら邪魔だしな。
「ゴリ押しには爆発が一番……!」
ニトロ薬局で買い集めた大量の爆弾。ここで使わせて貰おうじゃないか!
「爆破!爆破!!爆破ァ!!!」
次々と爆弾を投げつける。目に突き刺さったままのレイピアのことを心配している余裕は無い。壊れたらこいつの尻尾を新しいレイピアにしてやる。
吹き出す蒸気が爆弾の軌道を逸らしてしまうが、そこはニトロ薬局特製の爆弾。こっちに跳ね返ってきたら死ねるレベルの爆風が離れた位置からでも金晶独蠍の外殻にヒビを入れていく。
怒りのままに振り下ろされた金晶独蠍の右の鋏を回避し、地面に突き刺さったその瞬間、鋏の付け根に黒蝕の喪白剣の刃を当てる。
「「紫電五閃」!」
そのまま剣を振るえば刃がするりと鋏をすり抜けるかのように動き、そこから僅かに遅れて鋏の付け根から五つの黒い斬撃エフェクトが発生する。
破壊属性が蓄積した右の鋏の付け根が砕け、だらりと垂れ下がる。しかしそれでもハンマーとしては使えるとでも言いたいのか、金晶独蠍は鋏を振り回し続ける。
「正直何くらっても即死だからそういう使い方される方が怖いんだよな……というわけでこれどうぞ」
鋏を振り下ろす先に樽に入った爆弾を転がす。そこに鋏が振り下ろされて、激しい爆発が発生する。
捥げた鋏が爆炎の中を突っ切ってこちらに飛んできたのは心臓が止まるかと思ったが、これでやつは大きく弱体化したはずだ。そしてこういう時こそ油断をしてはいけないのだ。
煙の向こうから俺に向かって正確に放たれた毒液を回避する。やっぱりこいつ、何らかの手段でこちらの位置を把握している。相手がこちらの姿を見失えば一時的に気配が消える「回避術【隠狐】」の効果が薄かった時点でその可能性を疑っていたのだが正解だったようだ。
やつの体から噴き出す蒸気によって煙が吹き飛ばされる。右の鋏は失われ、左目は失明。全身の外殻にはヒビが入っているその姿は最初に見た時とは別の美しさ……どれだけ傷つこうと相手を見据える戦士としての美しさを感じさせる。吹き出る蒸気はまるでやつの怒りがオーラとなって可視化したかのようで、何一つ弱っているようには見えない程の凄みを感じさせる。
「ああ……ようやくレジストが本格的に効いてきた……」
思考が加速する。スキルは使っていない、俺の脳がカフェインとアルコールを燃料に自力でフル回転しているのだ。カフェインとアルコールの真逆の作用が脳に働きかけ、その二つが噛み合ったその瞬間、僅かな時間だが俺の脳の処理速度はプロゲーマーを超える!
全てがゆっくりになった世界を最高速度で駆ける。振り回される鋏も叩きつけられる尻尾も何もかもがゆっくりだ。やつの体から噴き出す蒸気も、スリップダメージが無いなら乗りこなせる。
「クーガーステップ」で跳躍しながらすれ違いざまにやつの右目を切り裂き、背中に飛び乗る。僅かに発生した硬直の隙に「如意自在」による連撃を尻尾に叩き込む。
いつもはスキルの補正によって暴れまわる腕をコントロールできずに雑に振り回しているだけだった連続攻撃スキルだが、今の俺の処理速度なら技量初期値だろうが関係ない。同じ場所を連続で狙い続ける。
尻尾の付け根が砕け、それが地面に落ちるよりも早く「リセット」を発動。背中から飛び降りる勢いのまま「
反射的に振り回された鋏の下を潜り、鋏の根元を掴む。「活殺自在」のスキルによって補正が入った投げ技に鋏を振り回す力が加わる。水晶群蠍さえも投げ飛ばす力を利用し、金晶独蠍を逆に振り回して水晶の大地に叩きつける。そのまま「蜂巣装甲」で鋏の付け根を突き、鋏を捥ぎ取る。
ああもう集中力が、カフェインとアルコールが喧嘩し始めた。脳に負荷がかかり過ぎている……これ以上勝負が長引いたらここからでも負ける!
金晶独蠍が状況を理解するよりも早く動かなければならない。「
黒蝕の喪白剣を左手に持ち替え、インベントリから
スタミナと火力関係のスキルを全て起動。金晶独蠍の傷口にクリティカルを一発叩き込み火山鉄鞭を着火させ、同時にクリティカルか撃破を発動条件とする「
「いい加減ッ、砕け散れ!!!」
最後に「全力全壊」を発動。金晶独蠍の左目、レイピアが突き刺さっている場所に狙いを定め、全力の一撃を叩き込んだ。
耳を劈く轟音が響き渡る。俺のスタミナ全てを消費した一撃は、叩きつけた火山鉄鞭も、叩きつけられた貪食蛇の毒呑牙剣も、それが突き刺さっていた金晶独蠍の頭部も、纏めて粉々にする程のダメージを与えた。
吹き飛んだ金晶独蠍の全身にヒビが広がり、その全身から膨大な量の蒸気が噴き出し、砕けた外殻の破片が散弾のように飛び散る。
「なんなんだよお前は最後の最後まで……!」
スタミナ切れの状態から短い時間だがスタミナ0のまま動くことを可能にするスキル、「ロスタイム」によって破片を回避する。やつはまだ死んでいない!
「もういいだろう……ッ!くたばりやがれぇええええええええええええええ!!!!!」
「ソニックブレス」だ!全てを出し切る勢いで叫ぶ。これで金晶独蠍が死ななかったらやつの硬直が解けるのが先か俺の硬直が解けるのが先かの勝負になる。もうこれで死んでくれ……!
「ロスタイム」の効果が切れ、体が動かなくなる。金晶独蠍の体から噴き出す蒸気が弱まっていく。
一瞬の静寂の後、金晶独蠍のひび割れた黄金の体がポリゴンに変化し──水晶の欠片と共にポリゴンを撒き散らした。
「──ああ、いかんいかん。ドロップアイテムを集めないと……」
喜び、感動、解放、達成感……この感情をどう言葉にすればいいのかわからない。ただ、いつもは煩わしく感じるこのスタミナ切れの硬直だが、今だけはずっとこうしていたいと思ってしまう。動けないんだから仕方がない、今はこの幸せを噛み締めよう。
今までいろんなゲームをプレイしてきた。その中で強さや理不尽さでこいつを超えるモンスターやプレイヤーとは何度か戦ったことがあるが……なんというか、それらに勝利した時以上のものを感じている。シャンフロの普段は正直そんなにいらないだろと思っているリアリティによる没入感がそうさせるのだろうか。みんながシャンフロを神ゲーと呼ぶ理由を心で感じ取れた気がする。
「……あー、ちょっとド派手にやり過ぎたかな?」
地鳴りと共に遠くから水晶の山がこちらに向かって突っ込んでくるのが見えてきた。どうやらのんびりしている場合では無いらしい。
あれは恐らく水晶群蠍にとってのボス的存在なのだろう。ただでさえでかい水晶群蠍の十倍以上の大きさの怪獣が背中に沢山の水晶群蠍を乗せて全力疾走しているというあまりにも絶望的な光景になんか一周回って笑えてくる。スクショ撮っとこ。
ドロップアイテムを拾って……疲れたけど、このまま死ぬのもなんかあれだな。よし、生きて帰ってやるとしようか。クランへのお土産にラピステリアも集めて帰ろうかな?
アルコールとカフェインの同時接種は結局危険なのか危険じゃないのかわからないけど、飲みすぎはNGなのは間違いない
レジストが完全にキマった主人公は極短時間ですがテンションMAXの原作主人公並の処理速度になります。極短時間だとそれじゃ弱くない?と思うかもしれませんが、この主人公にはそれ以外にもデフォルトでヤバいところがあるので、条件が揃えばカフェインやアルコール無しでも原作主人公と渡り合うことができます。その上で処理速度を引き上げられるのです
実は割とスクショとか録画とかしている主人公。ただひたすらプレイしたゲームのスクショや短い録画を無言で投稿し続けるSNSのアカウントを持っていて、そこに投稿しています
フォロワーはそこまで多くないけど、そのゲームをやっている人からすると頭おかしいレベルのスーパープレイだったりするし、最近シャンフロのスクショを上げ始めたのでフォロワーが増えてきている模様