シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
「これで試練達成……で、いいんですよね?」
金晶独蠍のドロップアイテムの中でも一番レアそうなバスケットボールサイズの球体、命晶核をムンクさんに見せる。
あの後崖から飛び降りて逃げたのはいいけれど、そこからまたボスと戦いながら戻って来るのにも一日かかったんだぞ。これで次の試練が~とか言い出したらこれで頭カチ割ってやろうか。
それとここに来るまでの路地裏で覚醒の導師?とやらと遭遇したのだが、どうやらレベル99になると発生するイベントらしい。
そしてその人から
俺の筋力と敏捷を二倍にしても下手な戦士ビルドの初期ステータス以下だし、それ以上にスタミナ消費倍増がエグすぎる。逆の効果だったら神だったのだが。でもカードに俺の絵が描かれているのはちょっと面白いと思う。黒蝕の喪白剣の主張が激しいけど。
「……ああ、正直言ってこいつを一人で倒してくるとは思わなかったが……合格だ」
いや一人じゃなくても良かったのかよ!!??てっきり試練とか言うから一人でやらなきゃいけないものだと思って一人で水晶巣崖に突撃したんだが!?
「ぶんぶん丸くん、多分他の人を連れて行ったところでぶんぶん丸くん以外全員蠍に跳ね飛ばされて終わりだと思うよ」
それでも軽戦士を集めて周辺の蠍を誘導してもらえればだいぶ楽になったのではないかと思う。でも一人で挑んだから素材を独占できたわけで、まあ勝てたんだからよしとしておこう。
『隠し職業クエスト「ムンクの試練」をクリアしました』
『隠し職業クエスト「呪啓者たちの歓迎会」を開始しますか?はい・いいえ』
まだ何かクエストに続きがあるようだ。とりあえず「はい」を押しておく。
「約束は果たさねぇとな……ついてきな。案内してやる」
そう言ってムンクさんは店の奥へと向かうので後をついて行く。
扉を開けて廊下を進み、階段を降りた先……更に扉を開けるとそこには魔法陣が──
「うおっ!?」
目の前に居たはずのムンクさんの姿が消滅する。これは……?
「転移の魔法陣だね。踏めば向こうへ飛ぶことができるよ」
「向こう?」
「行ってみればわかるよ」
ドンっとリーダーに背中を押されて、魔法陣を踏んでしまったその瞬間、衝撃と浮遊感を感じて視界が暗転する。
「うぇえ気持ち悪い……」
転びそうになって咄嗟に「ジャイロバランサー」を発動。倒れそうな程に斜めの姿勢からむりやり起き上がる。
「ここは……?」
どこかの建物の中?しかしなんていうか、バーというか、ファンタジー作品でよくある酒場が併設されたギルドっぽいというか……実際テーブルに座って酒らしきものを飲んでいる人も居る。
見たところ全員NPC?武器を持っているし、みんな戦闘力が高そうに見える。魔法陣から出現した血液スプリンクラーに驚いたのかこの場に居る全員の視線が俺に突き刺さっている。もう帰りたい気分だ。
そんな中、ムンクさんと話していた一人の男がこちらに向かって歩いてくる。
「君がぶんぶん丸くんだね?」
「は、はい!」
うわ、若干幸薄い顔を左目ごと布で三分の一程隠しているが、それを補って余りあるくらいにハンサムだしイケボだ。四十歳くらいだろうか?これは一部の女性プレイヤーから凄く人気が出そうだな……
「私の名はジョバンニ。この呪啓者ギルドの団長を務めている。話は二十六くんとムンクさんから聞いているよ。金晶独蠍を倒してきたそうだね?」
「はい、これが証拠です」
再びインベントリから命晶核を取り出す。俺の筋力だと持ち上げるのもギリギリな重さで落としそうで怖い。
「ははは、ムンクさんも随分と無茶な試練を出したものだと思っていたけど、まさかそれを一人で倒してくるとは恐れ入ったよ……それと、君が持っている呪われた武器を見せてもらえるかい?」
呪われた武器か。黒蝕の喪白剣をインベントリから取り出してジョバンニさんに見せる。
「これは素晴らしい……呪いの強さだけではない。この剣はあらゆる強者に挑み、勝利したことを記憶している。ムンクさんならこの剣を更に強く真化させられるはずだ」
え、これ更に強くなるの?現時点でレベル99でも余裕で首ちょんぱできるんだが?
「我々は強さを求めて呪いを受け入れた者の集まり……呪いを受け入れたが故に表の世界での居場所を失い、かといって裏の世界で生きることもできなかった。そんな者たちが集まり、訳あって誰も受けない、達成できないような依頼を受け入れるギルドを作り出した。ここは受け入れられなかったものを受け入れる場所なんだ」
受け入れられなかったものねぇ……ん?もしかしてこのギルドに居る人たち全員何かしらの呪い持ち?
「君には既に我々の同胞となる資格がある……だから今からすることは試験ではなく、君の実力をこの目で確かめておきたいだけだ。勝ち負けは重要じゃないから安心してほしい……レイン、先輩としての初仕事を頼むよ」
レイン?ジョバンニさんが口にしたそれは人の名前だったのか、席に座っていた女が立ち上がり、刀を抜く。
「このギルドは多少暴れたくらいじゃ壊れない。全力でぶつかり合って貰って構わないよ」
「……え、ここで戦うんですか?」
なんかこう、専用の戦闘スペースで戦うのかと思ってたのだが……というかこの剣で戦って大丈夫なのか?首飛んでかない?
「心配しなくてもいい」
レインと呼ばれた女性が赤黒い刀の切っ先をこちらに向けて構える。刀から漏れる暗いオーラは黒蝕の喪白剣のものと比べると薄いが、あれも恐らく呪いの武器なのだろう。
「私の方が強い。毒でも爆弾でも何を使っても構わない」
「……なるほど?」
歓迎会ってそういうこと?じゃあ……本気で行くか。
「剣舞【紡刃】」、「壊刀乱魔」、「戦極武頼」、「
「えっ」
レインさんがなんか言った気がするが、加速した思考ではスローすぎてなんて言っているのかよく聞き取れない。
「ブリンク」から進化して更に速く、そして相手の視覚に干渉して認識力を若干鈍らせる微弱な光を放つようになった「フリッカー」でレインさんに接近。腰のポーチから何かを取り出そうとしているのが見えたので「遠当て」を発動。左手のジャブから放たれた血の弾丸がその手を弾く。
更に「ダートソニック」を顔に向けて放つ。首を傾けて回避されるが、これは音の攻撃。直撃を避けても聴覚を麻痺させる音の弾丸が耳の直ぐ近くを通り過ぎたことでレインさんが硬直する。
空中を滑る速度を乗せて「ブルズアイ・スロー」を発動し、レインさんの顔面に錬成毒が入った瓶を投げつける。それに意識が向いた瞬間、回避連打でレインさんの背後に回り込む。この速度でも反応しているし、目から光が出ているのを見るに恐らく動体視力や思考速度を強化するスキルを持っているのだろう。油断はしない。それにみんなが見ている前で油断して負けるとか恥ずかしいしな。
あまり近づくと何されるかわからないので少し離れた位置から「如意自在」を発動。剣から伸び闇の刃によってリーチが延長される連続攻撃に、更に纏わりついた血が刃となって飛び散ることで片手剣でありながら槍に匹敵するリーチを可能にする。
「ッ!?」
レインさんは少しだけ振り向いてこちらを確認し、何らかの回避スキルを発動したのか足首が光を纏う。一振り目を姿勢を低くして避け、スキルで加速した思考でも残像が見える程の速度で俺から距離をとった。今のも避けられるのか、装備からして軽戦士だろうか?いや、ここ建物の中だし鎧を脱いでいる重戦士の可能性もあるか。
「
距離を離そうとするするレインさんに接近して繰り出した「
しかし元から速い人が敏捷補正スキルを使った上で更に回避スキルを使うとここまで速いんだな。爆弾を使っても構わないと言ってたし、多分「
「はいそこまで」
「ぶえっ!!?」
「ぐっ!?」
パンッと手を叩く音が聞こえた瞬間、急にスタミナ切れを起こした時のような脱力感に襲われ、「フリッカー」と「ホバリング」が強制終了されたことにより俺は床に躓き、勢い良く縦回転しながら壁に向かってすっ飛んだ。
まだ「
「ぐぇえぇ……な、何ですか今のは……」
「猫騙しさ。ギルドは頑丈に作ってあるとはいえ、それはここにある備品や食料が全部粉々になりかねない。歓迎会の料理を全てペーストにするわけにはいかないからね」
猫騙しの音だけで相手のスタミナを強制的に0にするってなんだそのぶっ壊れ技。もしかして俺が知らないだけで音系攻撃への耐性を上げる装備とかあるのか?
「うぐぐ……」
「それとレイン。ぶんぶん丸くんを楽に勝てそうな相手だと侮ったね?」
「う……」
「目で見えるものが全てじゃない。肝に銘じておくように」
「はい……」
さっきまでの強キャラオーラはどこに行ったのか、レインさんがしょんぼりしている。まあ普段の俺は装備と呪いを除けばスタミナ以外一般人同然だからな。スキルの力って凄い。
「さて、金晶独蠍を倒した君の実力、確かにこの目で見させてもらった。その力を是非このギルドの為に役立ててほしい。我々も君を全力でサポートしよう」
気が付けば床に転がっている俺を囲むようにこのギルドの人たちが立っていた。あ、リーダーも来てたんだ。
「それじゃあ早速、新しいギルドメンバーのための歓迎会を開くとしようか」
「「「「「イエーーーイ!!!」」」」」
あ、結構ノリいいなこの人たち。
『隠し職業クエスト「呪啓者たちの歓迎会」をクリアしました』
『ジョブチェンジ! メイン職業が「呪啓者」に変更されました』
『職業「傭兵」をサブ職業に変更しますか? はい・いいえ』
『称号【美食舌】を獲得しました』
味覚制限を解除できるんだなこのゲーム。エンパイビーの蜂蜜がめちゃくちゃ甘い。
条件はなんだろうか?美味しい料理?食べた食材の種類?
ここまでずっと無職だった主人公。原作主人公が無職だったせいでその辺りの描写が不足している影響も大きかったり……
そしてしれっと
「呪啓者たちの歓迎会」は発生すればここから余程のことをしなければ簡単にクリアできますが、このクエストの勝負の結果次第でギルドでの扱いがちょっと変わります
主人公の場合は団長が止めなくちゃヤバいレベルの範囲攻撃を躊躇なくぶっ放そうとするやべー奴認定されていますが、このギルドに所属している人は大体やべー奴なので実はグッド判定だったりします
呪啓者は呪われた装備に適性がある上級職で、理論上ステータスさえ足りていれば呪いの素材で強化してやればなんでも装備可能です。ただし何らかの武器に特化した職と比較すると習熟値の伸びが遅く、スキルを習得し辛いです。あと神聖属性との相性が悪いです
魔法適性が少し特殊で、専用の特殊な魔法のみ習得可能です
要するにこれ単体では独自性はあれど中途半端。サブに戦闘職を入れて補うか、或いはメインを生産職、サブを呪啓者にするのが基本となります
レインは主人公が入って来るまで後輩がいなかったので、新入りに先輩風吹かそうと調子に乗っていたところ、一見クソ弱そうな主人公がスキルを異常な量同時発動してビビったところを一気に押し込まれた感じ。呪啓者専用のぶっ壊れスキルがあるので何があっても余裕だと思っていたら全画面攻撃ブッパで負けかけた
実は持っている刀はヴォーパル武器がベースの呪いの武器で、並のプレイヤーならクリティカル連打で瞬殺されるくらいには強いです
ギルドではクールぶっているポンコツいじられキャラだけど普通に強くて仕事はできる。稀にギルドの外で仕事しているところをプレイヤーに目撃されることもあります
謎の美少女NPCとしてそのスクショは高値で取引されている上に何かしらのユニークに関係していそうなので捜索隊が存在するし、実際呪啓者に就職する条件を満たした上で遭遇できれば声をかけてもらえます
因みに歓迎会で酔い潰れているところを主人公にスクショされている