シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
歓迎会が終わり、呪啓者になった俺はその後リーダーと一緒にニトロ製薬に戻って隠し職業になれたことを報告したり、就職の条件を纏めたり、クランメンバーの質問攻めでメンタルを削られたりと慌ただしい日々が暫く続いた。
「で、呪啓者になってみた感想は?」
「正直今のところは何か変わった気はしないですね……」
「ぶんぶん丸くん今レベル99なんだよね?レベルアップで職業固有のスキルが出てきそうだけど、それ以上レベルは上がらないから一旦レベルを下げる必要があるかも」
「レベルダウンか……」
レベルをちょっと下げてまた上げるのは時間はかかるがそこまで大変な作業では無いのだという。しかし、一つ気になっていることがあるのだ。
「これ、レベル99になってもまだ経験値が溜まっていますよね?この分はどうなってしまうんですか?」
「余分に溜まっていた分はリセットされちゃうね。そろそろレベルキャップ開放が近いと噂になっているし、水晶群蠍を倒した経験値を捨てちゃうのは確かに勿体ない気がするねぇ……」
金晶独蠍一匹と水晶群蠍数十匹分の経験値は俺を一気にレベル99まで上げてくれたうえでまだ莫大な量の経験値が余っているのだ。レベルキャップ開放がいつかはわからないが、これを捨てるのは勿体ないのではと思ってしまう。
「まあレベルダウンするかどうかは君の自由だからね。それよりちょっとお願いがあるんだけど、お金は払うから金晶独蠍の素材と水晶巣崖で採掘できる鉱石をちょっと分けてくれない?」
「少しならいいですけど、何に使うんですか?」
「フッフッフ……ぶんぶん丸くん、最強の武器に興味はある?」
「最強の武器?」
「そう!この前ぶんぶん丸くんから買い取ったラピステリア星晶体のおかげで一気に研究が進んでね。優れた素材をもっと優れたものにする技術が大きく進歩したんだよ!その技術と水晶を黄金のように輝かせるその原理を解明して応用できればきっと最強の素材を生み出すことができるはず!失敗したらその素材は使い物にならなくなる可能性はあるけれど、それでも最高の素材を使って最強の武器作りに挑戦してみたい……!」
詳しいことはよくわからないが、多分錬金術のあれこれで凄い素材を作ってそれで武器を作ろうという話をしているのだろう。
「難しいことはよくわかりませんけど、面白そうな話ですね。何がどう最強なのかもわかりませんけど」
「そうだねぇ……ぶんぶん丸くんはシャンフロの鍛冶のシステムがどんなものか知っているかな?」
「調べたことがあるのでなんとなくは」
「それなら話が早い。シャンフロの鍛冶は素材のリソース量とその配分、そして素材自体の持つ効果がとても重要なのはわかると思うけど、最強の素材の条件として、まずは兎に角このリソースが多いことが重要!」
「リソースが多い素材ほど色々な能力をより自由に実現できるそうですね」
「そうそう。で、次はリソース配分だけど……もしも絶対に壊れない素材があるのなら、耐久のリソースを全部他に回してもいいということになると思わない?」
なんか急にめちゃくちゃなこと言い出したぞこの人。いや確かに言いたいことは何となくわかる。わかるけれども可能なのかそんなことが……?
「壊れない素材なんてものはあり得ないと思うかもしれない。でも、もしも壊れるスピードを上回るスピードで修復される素材があるとしたらどうだろうか?ここは現実ではなくてゲームの世界なんだから、そういう素材があってもおかしくないとは思わないかい?」
俺の脳裏に浮かんだのは月光浴をする金晶独蠍の姿。どれだけダメージを与えてもその箇所に即座に水晶を生やして修復してしまうあれを阻止できなければ俺は一生あいつにトドメを刺せなかっただろう。
武器は素材の性質とその素材を落としたモンスターの特徴を受け継ぐ。ならばあいつの再生力を再現した武器を作ることも可能なのか?それに武器としての性能は置いといて、どんな武器でも使ったら修理しないといつかは壊れるこのゲームにおいて壊れないというのはそれだけで魅力的だ。俺の場合兎に角手数の多さで何とかすることが多いので、壊れない武器が持つメリットはかなり大きい。
金晶独蠍の素材と水晶巣崖で集めた鉱石をインベントリから取り出して机の上に乗せる。
「足りなくなったら言ってください。また取ってきますから」
「君と出会えてよかった。必ずや完成させて見せるよ……!」
最強の素材が完成したら俺もそれを使わせて貰う約束で素材を売った。完成を楽しみにしておこう。
……
…………
………………
最強の素材の完成には時間がかかるだろうし、その間にやりたいことをやっておく。
俺は初めて呪啓者ギルドに訪れる際にムンクさんの鍛冶屋に存在する魔法陣を利用したわけだが、実は呪啓者ギルドに繋がる魔法陣が配置されている施設がムンクさんの鍛冶屋以外にも各地に存在しているらしい。その内の一つがフィフティシアから全力で逆走すれば直ぐに着くイレベンタルに存在するそうだ。
というわけでやってきたのはイレベンタルの裏路地にひっそりと存在している目立たない普通の家。店を開いているわけではないようだが、ここに呪われた人が相手でもアクセサリーを作ってくれるというアクセサリー職人の工房が──
「おお新入りくん!早速私の所に来てくれたんだねぇ!さあさあ入って入って、君とはじっくりとお話をしてみたかったんだ!」
その家の玄関に近付いて手を伸ばした瞬間にドアが開き、ヌッと家の中から出てきたのは俺を上回る長身の女NPC。そして俺が反応するよりも早く俺の手首を掴み、そのまま家の中に引き摺り込まれた。かなりのホラー体験だがこの人も呪啓者ギルドに所属しているメンバーの一人であり、歓迎会で顔を合わせているので知らない人に誘拐されたわけではない。名前をラローリーというそうだ。
家の中はなんというか、職人の工房らしい道具が揃った整理整頓された部屋なのだが、所々に釘で磔にされたモンスターを模した人形があるのはなんなのか。
「あ、これ気になっちゃう?私ねぇ、こういう釘と人形を使った呪いが得意なんだぁ。わかる?この人形が呪いたい相手でぇ、その相手の素材が使われててねぇ!これを本物のモンスターに見立てて釘を打ち込むことでその本物のモンスターを呪うことができるんだよ!これどっちも私の手作りなんだぁ。アクセサリーとして装備することもできてねぇ、これを霊穴に埋めればそのモンスターの力を自分のものにしてしまうこともできるんだ!でももっと凄いのはこっちの釘の方でね、これは一度装備すると霊穴を破壊しちゃってそこにはもう釘しか装備できなくなっちゃうんだけど、その代わりにもっとダイレクトに素材の力を感じることもできるし、魔力の流れに直接干渉して能力を大きく引き上げることもできてぇ……」
話が長いし早口すぎてちょっと理解が追いつかない。がんばって話をまとめると、デメリットは無いが効果は普通の人形と、効果は強いが一度装備したアクセサリースロットには釘しか装備できなくなる?デメリットがある釘のアクセサリーを作れるということだろうか?
「えー、もうちょっと詳しく釘の方の話を聞かせて貰っても?」
「いいよぉ!まずね、真似したい力を持つモンスターを倒して、そのモンスター素材を使って
もうちょっとゆっくり喋ってもらえないだろうか。あと
「……ということで、早速だけどぶんぶん丸くんは水晶群蠍や金晶独蠍を倒したことがあるんだよね?それで
この人俺とは別の方向性のコミュ障なのでは?とちょっと思ったりもしつつ、水晶巣崖産の素材とその他の強そうな素材を預けてそれで釘を作ってもらえることになった。そしてこの後俺は三時間くらい拘束されてラローリーさんと話し続けることになった。誰か助けて……
地味に重要な情報を結構抱えている人。表に出てこないので遭遇は困難だが、遭遇できると口が軽いので色々と重要な情報を聞ける
呪啓者ギルドに所属している生産職のNPCはサブジョブに呪啓者をセットしている。ラローリーの場合はメインジョブを人形師系にしていて、そこにサブジョブの影響が加わることで藁人形と釘のような呪いのアイテムやアクセサリーの製作を可能としている
つまり
ラローリーのジョブの組み合わせは呪いのアイテムやアクセサリー限定で宝石匠に勝る拡張性を持つが、加工可能な幅が絶妙に狭いので他のジョブの協力が無ければシンプルな形状の釘やお札などでしかその真価を発揮できない。逆に言えば協力できれば宝石商が用意した糸でデメリット効果付きのぶっ壊れ人形アクセサリーも作れる
ラローリーは話がめちゃくちゃ長いが、好感度を稼ぐためには話を全部聞く必要があるのでリアル時間がかなり削られる。好感度を上げると販売してくれるアイテムに本来のルートだと入手が面倒な藁人形とかお札が追加されるしより重要な情報を教えて貰えるようになる。つまりここまでしっかり文を読んでくれるような人でなければラローリーは攻略できない