シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
シャンフロは待ち時間が割と多いゲームである。今の俺は武器も防具もアクセサリーも新しいものを用意してもらっている最中であり、非常に長い待ち時間が発生していた。
黒蝕の喪白剣も真化?とやらの為にムンクさんに預けていて、しかもリーダーがクランメンバーを引き連れて「錬金術の叡智の極点を見せてあげよう」とか言い出して完成したらしい最強の素材とやらをムンクさんの所に持ち込んだ結果、何やら俺の剣が原型が残っていないくらいめちゃくちゃな魔改造が施されはじめ、完成までかなり時間がかかると言われてしまった。賢者の石ってなんなんだ、月の魔力ってなんなんだ、原型無いどころかそれは剣なのか、それは剣と呼べるものなのか、なぜ急に見学していたクランメンバーが次々とポリゴンになって爆散していったのか。あまりにも謎に満ちた空間だった。
そんな訳で現在武器は相変わらずインベントリに入れっぱなしのアイアンレイピアしか持っておらず、レベルもこれ以上上げられないので、できることが結構限られていた。
「どうしようかな……」
久々に別ゲーをプレイするのも悪くは無いが、操作性が良すぎるシャンフロをプレイした後だとその他のゲームは動きに違和感があってなかなか慣れないからあんまりプレイする気になれない。シャンフロの圧倒的クオリティに慣れすぎて別ゲーに戻れなくなりつつある。
「……そういえばフィフティシアが現時点での一番最後の街なら、一応ゲームの進行度的にはあいつに追い付けているのか?」
幼馴染であり高校卒業まで学校で顔を合わせていて、卒業後はSNSで連絡を取り合ってたまに同じゲームを一緒にプレイして遊んでいたリアルフレンドのあいつ。VRマシンのフレンド通知によればあいつは今日もシャンフロにログインしている筈だ。今ならシャンフロ内で会うことも可能なんじゃないか?
シャンフロの発売日からほぼ毎日シャンフロにログインしているあいつは間違いなくフィフティシアにまで辿り着けている筈だ。あいつそれなりにゲーム上手いし、普通にプレイしていればフィフティシア到達は然程難しいことではないだろう。現在位置はわからないので俺がまだ行けてない街に居る可能性もあるが、会うことは不可能ではないだろう。
「しかしなぁ……」
具体的な年数は覚えていないが、数年間会話していない相手に急に「シャンフロで会わない?」と言う勇気がない。友達と言っても基本的にあいつが俺に一方的にヤバい性癖の話をしてきて俺はそれを黙って聞いているという変な関係だった。
小学生の頃は別に女児アニメの話をしていてもおかしくはなかったのだが、中学、高校といつになっても女児アニメの話をしていたあいつはクラスメイトから距離を置かれていたのだが、それでも女児アニメの話を誰かに聞かせたかったあいつは俺をターゲットにしてずっと女児アニメの話を聞かせてきたのだ。
そんなに女児が好きならVRゲームでもやってみればと教えたら幼女が出てくるVRゲームにハマり、それからは時々VRゲームで一緒に遊ぶようになった。
高校卒業後も暫くは毎週女児アニメの感想を送ってきたり、幼女が出てくるアニメやVRゲームをオススメしてきたり、幼女が出てくるVRゲームはないかと聞いてきたり、そして時には一緒にゲームをプレイしたりしていた。最後に一緒に遊んだのは……サバイバル・ガンマンだったか。確かアバターで幼女が作れるから幼女アバターで一緒にプレイしないかと誘われたんだった。まあ結局遭遇する前に俺がギリシャ文字サーバーに隔離されてしまってゲーム内で出会えなかったのだが。
「でも今しか表を歩けない可能性高いしな……」
黒蝕の喪白剣を真化させている途中だからか、今の俺は首から血を撒き散らしていないし、呪いも消えている。次表を歩けるのはいつになるのかわからない。このタイミングを逃すとまた歩くホラースポットになってしまって表を歩くと目立ちまくることになるだろう。
まあ元気にしているか聞くくらいはしておこうかな。返事が来なかったらその時はその時だ。
◇
忍:久しぶり
忍:元気?
日向:元気だよ
日向:どうしたの?
忍:最近シャンフロ始めた
忍:橘もシャンフロやってるだろうから、どのくらい進めてるのか気になった
日向:シャンフロやってるよ発売日から
忍:フィフティシアまで進めた
日向:早いね
日向:一ヶ月くらい前に始めたばかりでしょ
日向:私もフィフティシアまで進めたよ
日向:今はファステイアにいるけど
日向:クランに入ってる?
忍:入ってる
忍:ニトロ製薬ってところ
日向:錬金術師なの?
忍:スタミナ全振りの軽戦士
日向:ええ……?
日向:あそこ錬金術師以外も入れるんだ
日向:私はティーアスちゃんを着せ替え隊に入ってる
忍:何て?
日向:ティーアスちゃんを知らないの?
忍:知らない。NPC?
日向:賞金狩人のティーアスちゃんだよ。街中でPKすると稀に出現する
日向:めちゃくちゃ強い。めちゃくちゃ可愛い。最高
忍:街中でPKしたらそんなペナルティーあるんだ
日向:しかもPKが着ていた服を着てくれる
日向:コスプレしてくれる幼女最高
忍:それ本来は装備を奪われるペナルティーなのでは
日向:実際ハズレの男の賞金狩人にメイド服を奪われた人も居る
忍:地獄か
忍:PKやってるのか?
日向:昔は阿修羅会っていうガチのPKクランに入ってた
日向:でも賞金狩人の実装でクランの雰囲気が変わっちゃった
日向:今は阿修羅会を抜けてティーアスちゃんを着せ替え隊の隊員同士で殺し合いしてる
日向:だから今は無関係のプレイヤーは殺してないよ
日向:忍は今シャンフロで何をしてるの
忍:特にできることがない状況
忍:いつも使っている装備を真化させるのに鍛冶師に預けている
忍:装備が帰ってきたらマップ埋めかな
忍:千紫万紅の樹海窟ルート以外の街にまだ行ったことがない
日向:今フィフティシアに居るの?
忍:そう
日向:じゃあ会うのは難しいかな
忍:全速力で逆走してもフィフティシアからファステイアは遠すぎる
日向:私はずっとファステイアに居るから
日向:マップ埋めのためにサードレマまで戻ってきたら
日向:その時はまた連絡して
日向:シャンフロで会おう
忍:わかった
日向:そうだ
日向:プレイヤーネームは?
日向:私はいつものコナツって名前
忍:シャンフロではぶんぶん丸にしている
日向:ぶんぶん丸
日向:もしかして今掲示板で噂の?
忍:え
忍:何それ知らない
日向:少し前に首から血を噴き出しながら疾走する黒いモンスターが居るって話題になって
日向:最近それの正体がぶんぶん丸というプレイヤーだと判明したって話題になってる
忍:プレイヤーに襲われること割とあったけど、そんなにモンスターに見えるのか俺?
忍:首から血が出てるのは呪いの武器の影響だけど、それ以外はエンパイビーの普通の装備だと思う
日向:[画像][画像][画像]
日向:掲示板のスクショ
日向:プレイヤーネームどうやって隠してるの?
忍:うわ、傍から見たら俺こうなってたんだ……
忍:呪いの武器の影響でスキルエフェクトが闇っぽい感じになっているのはわかっていたけど、重ね掛けすると全身から闇が噴き出しているみたいになるのか
忍:一瞬消えながら高速で回避するスキルを連打して移動しているんだけど、姿と一緒にプレイヤーネームも消えてるんじゃないかな
忍:自分の頭の上は確認できないから初めて知った
日向:呪いの武器ってアンデッドの素材で作るデメリットがあるやつだよね?
日向:デメリットが厳しすぎて使ってる人少ないけど、エフェクトに影響が出ると知ったら使用者増えそう
忍:これデメリットがかなりキツイ
忍:1秒毎に最大HPの40%のダメージを受けるしNPCと基本会話できないしNPCの施設が利用できなくなったりする
日向:は?即死じゃん
日向:なんでそんなの装備できてるの?
忍:俺のHP10しかないから秒間4ダメージしか受けない
忍:リジェネアクセ一つで相殺できる
日向:それはそれで一発くらったら即死じゃない??
忍:一発もくらわなければいい
日向:スタミナ全振りの時点で何かおかしいと思ってたけど、想像以上だった
日向:スタミナ全振りのメリットって何?
忍:声がでかくなる
忍:声が小さい俺でも普通に会話できる
日向:ええ……
忍:あと叫ぶスキルの威力や範囲が広がる
日向:それは普通に強いかも
日向:敏捷に振ってないのに避けれるの?
忍:スタミナが続く限り回避を連打できるスキルがある
忍:最近はスキルが揃ってきてアイテムも使えばほぼ無限に回避できる
忍:筋力も初期値だけどスキルと武器性能とスリップダメージで補っている
日向:そう聞くと強そう
日向:[このメッセージは削除されました]
日向:今のは教えちゃダメなやつだった
日向:見なかったことにして
日向:じゃないと阿修羅会に狙われる
忍:PKクランが隠している情報ってこと?
日向:そういうこと
忍:PKクランもそういうの独占したがるんだな
忍:というか隠しているということはまだ倒せていないのか?
日向:そうだね
日向:全盛期阿修羅会のフルパでも無理だった
日向:今では倒すことを諦めてレベリングと対人戦の練習台にされているみたい
忍:ユニークモンスターは出会うだけで強くなれるんだったっけ?
忍:自由に会えるユニークモンスターとかそりゃ独占したくなるな
日向:挑めるのは一ヶ月に一度だけなんだけどね
忍:情報漏洩しまくりじゃん
日向:ここまできたらもうあんまり隠す必要ないかなって
日向:ニトロ製薬の人に教えちゃダメだからね
忍:わかった
日向:そうだ
日向:可能なら二日後に会いたい
忍:二日後?
日向:一ヶ月に一度しか会えないNPCが居るから会わせたい
忍:なるほど
忍:わかった。二日後に会おう
◆
どうやらあいつはシャンフロでも幼女を追いかけているらしい。元気そうで何よりだ。
しかし幼馴染がPKだったり俺の不審者度が想像以上だったり「墓守のウェザエモン」とかいうユニークモンスターの情報が出てきたりと想定外の情報が大量に入ってきたな。
「ユニークモンスターねぇ……」
確かリュカオーンを倒すことを目標にしているクランもあるんだっけ?でかい目標があるのは良いことだと思う。
目標か。現在の俺の目標はマップ埋めと……呪啓者ギルドの依頼の全攻略?このゲームだと依頼内容は無限に生成されそうだが。
なんというか、レベル99になってフィフティシアにまで到着してしまった現在の俺は若干シャンフロ熱が冷めてきているところがある。モチベーションを保てる何かしらが欲しいな……。
「金晶独蠍を超えるような強敵でも居れば……ギリギリソロでもいける範囲内で」
一瞬頭の中にあのクソデカい水晶群蠍のボスだ出てきたが、流石にあれはソロじゃ無理だ。背中に乗っている蠍一体一体がラスボス級ってなんだよ。レイドボスだろあれ。
もう今日はゲームをせずに情報収集をして早めに寝よう。時間があるからといって遊ばなきゃいけないわけではないのだ。
かつて両刃の斧を手にひたすら木を伐り、木が無くなれば別の島にも遠征し、集めた木材で巨大な筏を作って資材を持ち帰ることを繰り返していた幼女アバターのプレイヤーが存在した
幼女とその取り巻きが訪れた島からは資材が消え去り、跡には死体と切り株だけが残される
その拠点となる島には無数の建築物が乱立しており、更に建築物と建築物の間を繋げることで超巨大な建築物として扱い、侵入者を阻むのと同時に建築物判定を広げることでエネミーが湧くポイントを潰して島の平和を実現しようとしていたが、資材が湧くポイントも潰してしまうこととなり、その分だけ他の島への遠征も多くなって被害を拡大させていた
それが故に他の島からの侵攻も激しく、度々放火されたりしながらも破壊を上回る速度で拡大し続ける迷宮の支配者をプレイヤー達は『■の■■■■■■』と呼んだ
なお別にサーバーを支配していたわけではなく、同じサーバーの他プレイヤーに建築の邪魔をされまくってキレて、死なないように生き埋めにしていたら気が付けば取り巻きになっていただけだったりするし、統率もあんまりしていないので何もかもバラバラで、協力して完成させた建築物はA型が見ると発狂するくらい何もかもズレたり傾いたりしている