シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
ライブスタイド・サーモン
生命の潮流に住まう鮭。その身は食した者の体力を回復させ、その卵は優れた魔法触媒となる。
大いなる大地にも命があり、血と命が巡る。
「サーモン居るんだなこの世界」
「関係ないやつだね」
「うーん……」
現在涙光の地底湖にてオイカッツォとサンラクが釣りをしているのをエムルちゃんと一緒に眺めている。俺も釣り竿を用意しておけばよかったな。まあ買えないんだが。
ここで釣れる「ライブスタイド・レイクサーペント」の経験値が美味いらしい。
「お!こっちも来た」
「どうせサーモンだろ」
俺としてはサーペントの経験値よりもこのサーモンの味が気になるところなのだが……ん?
水面がゴボゴボと泡立ち、大きな水柱と共に何かが湖から姿を現す。
「あれがサーペントね」
「でっかい蛇ですわー!?」
俺はエムルちゃんと一緒に離れた位置で二人が戦うのを観戦するとしよう。レベル99が手伝っていたのでは経験値的にあまり美味しくないだろうし、二人がどれだけ戦えるのか見ておきたい。
サンラクは二刀流の傭兵らしく、インベントリから左右で大きさが違う二つの剣を取り出して構えた。色からしてエンパイビーの素材を使っていそうな武器だ。
「何だよ新武器なんてあったの?」
「ビィねーちゃん作ですわ!」
ビィ……?サンラクが発生させたユニークにもNPCの鍛冶師が居るのだろうか?エムルちゃんの姉となると兎の鍛冶師?
「二人ともレベルが低いのにすげー動きするなぁ……敏捷全く振ってないのとそれなりに振ってるのであそこまで差が出るのか……」
サーペントに攻撃が大して通ってなさそうなのは置いといて、初見の相手だろうに動きに迷いも恐れも無い。きっといろんなゲームをプレイして磨いてきたのであろうセンスが感じられる。
大きな暴れまくる相手に対して怯むことなく同じ場所を狙って張り付いて攻撃するというのは実際にやってみようとするとかなり難しい。ちょっとでも立ち回りをミスれば撥ね飛ばされるのもそうだが、それ以上に何かの拍子に跳ね飛ばされるかもしれないという恐怖を乗り越えることの方が難しいのではないかと思う。
ゲームだから大丈夫と自分に言い聞かせても、実際に目の前に巨体が迫ればつい目を閉じてしまうし、体は硬直してしまうのが人間だ。それを乗り越え、自分なら対処できると信じて立ち向かう根性があるかないかが前衛にとってステータスよりも重要な素質だと俺は思う。
どうやらサンラクの武器には壊毒がついているようで、サーペントの鱗が砕け散る。そして即座にオイカッツォがそこを狙って攻撃を叩き込めば、サーペントが怯んで悲鳴を上げる。良い連携だ。
「あ、アタシも加勢しますわ!」
「ちょ、エムルちゃん!?」
エムルちゃんが飛び出し、本を構えるが、振り回されたサーペントの尾鰭がエムルちゃん迫る。
物理ダメージが無くて即効性が無い
「
スキルを一斉に起動。必要ステータスが不足している武器をスキルによってむりやり振り回す!
ヒット数十倍、威力二倍&耐久消費二倍、耐久消費分威力アップ……あらゆる強化を乗せ、更に全てのスタミナを注ぎ込んで漆黒の闇に包まれた鉄鞭がサーペントの尾鰭とぶつかり合う。
凄まじい轟音が鳴り響き、殴った反動とは違う凄まじい衝撃に全身を押されて少し後退する。そしてサーペントは……
「……あー、やりすぎた。すみません、あれじゃあ素材回収できませんね……」
「ひょえぇぇぇ……」
ぶっ飛ばされたサーペントが地底湖を挟んで向こう側の壁に激突し、爆散してしまった。
護ろうとしたエムルちゃんも風圧で結構後ろの方へと転がって行ってしまったし、こういうのに慣れていないのがバレバレだな。
「だ、大丈夫っすよまた釣ればいいんで、はははは……」
「レベル99ってやべー……」
……うん、思いっきり引かれてるねこれ!
……
…………
………………
そろそろ約束の時間が近いな。
あれからサーペントを狩り続けて二人ともレベル40以上になっている。かなり経験値効率いいなあの蛇。エンパイビーに囲まれるよりは楽そうだし、俺も何かあってレベルが下がるようなことがあったらここに来ることにしようかな。
現在俺たち四人はペンシルゴンが用意していた回数制限付きのセーブポイント作成アイテム、セーブテントで休憩中である。
結構時間があったし、俺がレベル上げを手伝う必要も無さそうだったので、ちょっとこのエリアのボスを倒して戻ってきたら丁度良い時間になった。
「そういやさ、格ゲー大会のアマチュア部門で優勝してエキシビションマッチでプロにも勝ったって本当なの?」
「え、そうなん?」
「……まあ、事実ではあります。大会になんて出たくなかったのにあいつが勝手に俺をエントリーさせて、仕方なく出場したんです……」
「勝手に出場させられた大会で優勝ってドラマみたいな展開っすね」
勝てたからいいものの、こちとら人に見られることにも慣れていないのに観客の前でインタビューとかされたんだぞ。最初から最後まで人間の言葉喋れなかったわ。
「なんの格ゲー?」
「「ギャラクシア・ヒーローズ:アタック」ですね。もう十年前のゲームですよ」
「へー、何のキャラ使った?」
「「
「……エキシビションマッチで戦ったプロって誰?」
「うーん、誰だったか……って、これ以上は流石に身バレしちゃうのでちょっと……」
ネットで調べると当時の俺のインタビューとか出てきてしまうからな……マスクしてたしプレイヤーネームで呼ばれていたので本名バレまではしないだろうが、恥ずかしい過去を掘り返されたくない。そのままネットの海の底で永眠していてくれ。たまにオススメの動画に上がってくるのやめてくれ。
「ふーん……それで、プロからのスカウトはどうしたの?」
「断りましたよ。人前に出るのがどうしても苦手で、インタビューとかもう全然何も喋れなかったし……それに趣味を仕事にしたくなかったりとか……ゲームは遊んで楽しみつつ、ついでに勝ちを狙うのが好きだから、ガチで勝つことを目指すとかそういうの好きじゃなくて……」
勝つことを放棄している訳では無いが、本気で勝つ気あるのかって戦い方ばかりしているし、そういう戦い方が楽しくて好きだからゲームをやっているのだ。プロになったらそういった本気で勝つ気なら論外な戦法で遊んでいられない。
銃で撃ちあうゲームで弓で本気で勝とうと頑張ったりとか、耐久ステはゴミ、鎧なんて脱ぎ捨てろと言われるゲームで耐久極振りで鎧をガチガチに着込んだりとか、レーザーが飛び交う戦場に盾一つで突撃したりとか、そういうプレイが好きなのだ……勿論その上で本気で勝とうとはしている。
「シャンフロも本気でガチ勢としてやっていくつもりなら剣聖目指して魔法剣士でやっていたでしょうけど、全振りが弱いと聞いて我慢できなくなってスタミナ全振りでキャラを作りました」
「ええ……」
「こ、これもある意味ヴォーパル魂……ですわ?」
「なんというか、色々と苦労してそうっすね……」
まあその辺りシャンフロは莫大な量のスキルによって変なプレイスタイルでも頑張れば戦えるようになるから凄い。努力がちゃんと報われる感じがする。
そんなことを話していたら時間になり、コナツとペンシルゴンが迎えに来た。
行き先は千紫万紅の樹海窟の隠しエリア、そこに満月の夜にだけ現れるユニークNPC、「遠き日のセツナ」に会いに行く。
果たしてどんなNPCなのか……
……
…………
………………
「満月の夜、千紫万紅の樹海窟の壁に生えた蛍光苔の中で、極一部だけ光らなくなる苔がある。そこを調べれば……」
ペンシルゴンが光っていない苔に触れると、苔がボロボロと崩れ落ちて隠し通路が出現する。
時間指定かつこの見通しの悪い樹海でこれを偶然発見するのは困難だろうし、わざわざ何度も訪れる場所でもないだろうに良く見つけたなこんなの……
「ペンシルゴンが偶然見つけたんだって」
「へー……ホントにその服でいいのかお前……?」
「……これしかなかったのよ。着せ替え隊から借りたから……」
久しぶりにセッちゃんに会うからと服を着てきたコナツだが、その服は何故かメイド服だった。そのティーアスとやらに何を着せようとしてんだそいつらは。
隠し通路を抜けた先には月光に照らされた赤い花畑が広がっていた。これは彼岸花だろうか?地球の植物があったりなかったりするなこの世界。
花畑の中心にある木は枯れてしまっているのか花も葉っぱもついていない。
「あら……アーサー、それにコナツ。久しぶりね」
そして……その木の根元には半透明の女性が一人。
「幽霊……?」
「透けてますわ!?」
「バグか?」
「第一候補が仕様じゃなくてバグなのね」
サンラクはちょっと話してみた感じクソゲー好きらしいのだが、透けているのを見て真っ先に出てくる感想がバグなのはどうかと思う。感動するシーンで泣けなくなるやつだぞそれは。
それは置いといて、この服装がだいぶ現代的な幽霊が遠き日のセツナなのだという。白装束じゃなくて科学者っぽい白衣を着た幽霊とか初めて見たかもしれん。
「今日は……いつもとは違う人達なのね」
「あぁ、紹介するよ。この人がぶんぶん丸で……」
「どうもペンシルゴンの愉快な仲間達、技の1号サンラ……」
「馬鹿の1号2号とマスコットだよ」
「待てェ!雑に紹介すんな!決めポーズまで考えてきたのに!」
仲いいなぁこいつら。
「この三人があいつ……ウェザエモンに引導を渡すための切り札」
セツナの表情からは驚き、期待、拒絶、哀れみ……様々なものが感じられる。このゲームのことだからこの場面ではこの表情!みたいに決めているんじゃなくて、その状況や感情に合わせてAIが表情を選んでいるのだろう。そうじゃないとここまで複雑な感情の表現は難しいはずだ。
「……凄いのを集めたわね。クロちゃんの強い気配を胴と足に二つも付けてる人なんて初めて見たわ。それに灰被りちゃんの子供と一緒」
クロちゃんの気配……サンラクの体のあの黒いやつ、リュカオーンに挑み、そして付けられたのだという
そして灰被りの子供は……エムルちゃん関連だろうか?
懐かしい人とか彼女とか、なにか重要な情報なんだろうが、よくわからない。リュカオーンをクロちゃん呼びするとかこの辺りの情報を繋げていけばなんかわかりそうな気がするが……めんどくさくなったので考察の続きは誰かに託そう。
「セッちゃん、三人にあいつの事を話してあげて欲しいかな」
「私からもお願いセッちゃん!」
「……わかった」
『ユニークシナリオEX「此岸より彼岸へ愛を込めて」を開始しますか?はい・いいえ』
来た。ユニークシナリオ……EX!
ギャラクシア・ヒーローズ:アタックのとある大会のアマチュア部門に現れた
しかしその後のインタビューにてその少年はマスクをしていたのもあってか最初から最後までまるで聞き取れない蚊の鳴くような声しか出せずに進行がグダグダになった上に、プロチームからの勧誘を断って会場から逃げ出したりと、そのあまりにも試合中の堂々とした姿とかけ離れた姿はネット上で話題となりSNSや動画サイトで拡散されることとなった
インタビューからの逃走の流れが特にネタとして有名だが、このゲームをプレイしたことがある人だと試合中の映像を見て、明らかに人間が同時に扱いこなせるナイフの数を超えている上にそれでいて本体の操作に一切淀みがないことに気が付いてしまいSANチェックが入る