シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~   作:葛饅頭

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暴徒と刹那

「彼……ウェザエモンは私の恋人。ちょっとしたすれ違いで私が死んで……彼はそれからずっと……ずっと私のお墓を守り続けているの」

 

 なるほど、それで墓守というわけか。アンデッド?が墓守しているというのも不思議な話だと思っていたが、そういうわけなのか。

 

「私が死んでからどれだけの時間が経ったのかはわからないけれど、気づいた時には「こう」なっていた……死んだことを未練に思っているわけじゃないのにね」

 

 死んだことを未練に思っているわけじゃないけど幽霊になっている……この世界の幽霊のことはよく知らないが、となれば別の理由で幽霊になっているのだろう。

 

「死とは終わり。終わってしまった過去であって、誰かの今……未来を縛るものではないわ。あの人が今も私の(過去)に縛られ続けていることが耐えられない……」

 

 それがウェザエモンの討伐理由ということか。なんで墓守を倒すのかと思ったら、まさかの幽霊の方からのお願いとはな。

 

「彼は私が構築したプログラ……ん……「魔法」を使ってここに結界を構築した。月光が宿す魔力を利用し、座標を次元の裏側に「反転」させることで誰も干渉出来ないようにしたの」

 

 プログラ……?なんか服装からして神代の人っぽいし、神代では魔法がもっと科学的にあれやこれやされていたのだろうか?

 

「でも新月の夜……月が光を失ったその時、彼のいる……裏座標へと通じる結界の綻びが生まれるわ」

 

 ……ちょっと脳裏を月光で回復する金の蠍がよぎった。今度挑むときは新月の夜に挑もう。そうしよう。

 

「どうかウェザエモンを……あの人を眠らせてあげて下さい」

 

 そう言ってセツナは頭を下げた。

 

「……なるほどねぇ。確かにこれを見て、阿修羅会に利用されているのをただ見ているだけってのは、ゲームのキャラだとしても……気分が良いものでは無いな」

 

「わかってくれた?私達がウェザエモンを倒したい理由」

 

「ああ……」

 

 俺自身今までいろんなゲームで外道なプレイをしたことはあるが、それは相手がゲームのキャラだと割り切れていたからだ。だが、シャンフロのAIはあまりにもリアルで……ただのデータだと割り切るのは難しい。

 表情も仕草も声音も、あまりにも現実の人間そっくりで……これに感情移入するなと言う方が無理があるんじゃないかと思う。

 

 かっこよくウェザエモンを張り倒す宣言をしたペンシルゴンを二人が煽り、吹っ飛ばされるのを横目に、ウェザエモン討伐の決意を固める。

 

「ごめんね、私の我儘でいきなり後二週間でウェザエモンを倒すための準備をしてだなんて……」

 

「大丈夫、もう慣れた。少なくともいきなり大会に出ろと言われるよりはマシだ」

 

「それはマジでごめん……」

 

 そんなに賞品が欲しけりゃトロフィーも着払いで送り付けてやろうか。

 

「「ゲームに本気になる」、大いに結構だろ。何事も本気で取り組んだ方が楽しいに決まってる」

 

「そうそう、本気で遊ぶから楽しいのさ。というかプロゲーマーの俺はそれがお仕事なんですけど?」

 

 NPCに感情移入するペンシルゴンに二人が良いことを言……今オイカッツォプロゲーマーって言わなかった?

 

「相手は古今東西どんな大ボスもびっくりなレベル差150を強制するユニークモンスター……墓守のウェザエモン。それでも私達ならできる!本気でやって勝ちに行こう!!」

 

 やってやろうじゃないか。待っていろよウェザエモン、お前を墓の下に叩き込んでやるからな。

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

 で、具体的にあと二週間で何をすればいいのかだが……

 

『ちょっと水晶巣崖でレア素材集めてきて!』

 

「オラ来いや蠍共ォオオオオオ!!」

 

 ペンシルゴンが兎に角大量の金が必要と言い出し、俺はまた水晶巣崖に来ていた。

 

 蠍から逃げ回り、蠍同士でぶつかり合った時に落ちる体の一部を回収してまた逃げる。更に見た目より遥かに軽くて邪魔になりにくい黒死の抱擁(ノリ・エイ・タンゲレ)ですれ違いざまに斬りつければ、状態異常とステータスダウンによって動きが鈍った蠍が蠍の津波に押し潰されて砕け散る。利用できるものはバグ以外利用させてもらうぞ!

 

 あ、黒死の天霊さんこんにちは、今忙しいから後にしてくれない?

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

 フォルティアンはサードレマから神代の鐵遺跡を超えてシクセンベルトへ、そこから更に分岐する道を雲上流編の雲海地方面へと進んで行った先にある街だ。

 この街では常に何かしらの闘技大会が開催されており、PvPガチ勢だけでなく、特定の大会で優勝することを条件とする最上位職業に就職したいプレイヤーや優勝賞品目当てのプレイヤーなど、多くのプレイヤーが鎬を削る場所となっている。

 

「この街にあるはず……」

 

 ここに来た目的はPvPともう一つ、特技剪定所(スキルガーデナー)だ。この街のある特技剪定所の店主が呪啓者ギルドに所属しており、しかも俺のような限界にぶつかった開拓者向けのいいものがあるのだという。

 

「ここか」

 

 呪啓者ギルドに所属している店はやっぱりこういう裏路地に店を構えているんだな。客とか全然来なさそうな場所だけど、生活できるだけの収入はあるんだろうか?

 

「……ん、いらっしゃい……」

 

 店の中に入ると出迎えてくれたのは何ともやる気の無さそうな一人の女性だった。歓迎会の時に少しだけ会話をしたが、名前をアナベルというそうだ。

 なんというか、メイクが若干ギャルっぽい……ファンタジーな世界観と若干ミスマッチな気がするが、まあ俺みたいな変な格好の開拓者に言われたくはないだろう。

 

「ああ、新入りか……説明すんの面倒だから一回しか言わないよ」

 

「お願いします」

 

「私の店はそこらの特技剪定所とは違う秘伝書を取り扱っている……具体的には習得と進化に経験を食らう……覚えれば覚える程に経験が食われて弱くなるし、成長が妨げられる呪われた業の秘伝書だよ」

 

 なるほど、ここでしか買えない秘伝書だが、レベルダウンと経験値獲得量低下を受け入れる必要があると……それは丁度良い。レベルダウンするか悩んでいたところだったのだ。

 

「覚え過ぎなきゃ大丈夫だから買えるだけ買ってけ。普通の秘伝書もあるよ」

 

「それでは品揃えを……」

 

「ん」

 

 この六つある呪業なんとかというのがそうなのか?値段は……うわっ、一冊1億マーニするぞこれ!?買うのは一冊だけにしておこう……なになに?過去の時間の一部をこのスキルを習得するために費やした時間に置き換えることで習得していたことにする……?こういう設定で経験値が消費されちゃうのね。

 獲得経験値量が低下するのはその逆で、未来の時間の一部を置き換えているからと……そして覚え過ぎると全ての時間が置き換えられ、その人は呪いに全てを捧げることになる。故に禁じられた業……なにこれ怖い。そんなもん売ってていいのかこれ?

 

 まあでも経験値が減ったところで時間をかければ最終的にはレベルキャップで他プレイヤーと並ぶことはできるんだ。経験値なんてガンガン捧げてやる。

 

 あ、この巨影とかいうのちょっとおもしろそう。ウェザエモン戦で役立つかはちょっとわからないし、こっちの切影というスキルの方がウェザエモン戦で役立ちそうな効果だけど、これのフレーバーテキストには神代の英雄とか墓守とか書いてあってウェザエモンと少し関係がありそうなのでこっちにしてみる。

 

「この秘伝書と、あとこれとこれと……」

 

「はいよー」

 

 会話が短くて助かる。ラローリーさんとは真逆な人だな。

 

 さて、スキルを覚えたらその分鍛えないとな!

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

 ウェザエモンは人型の敵であり、故に阿修羅会はウェザエモンも対人戦の練習台として利用していた。

 ならばその逆、対人戦の練習をすることがウェザエモン討伐に繋がるのではないだろうか。

 

「ぐうぅ……!そんな、この俺が……」

 

「対戦ありがとうございました」

 

 つまり全盛期阿修羅会でも勝てないウェザエモンに勝ちたいのなら、フォルティアンの対人勢をボコれるくらい強くなければならないとも言えるのではないだろうか?

 

 ここのNPCはなんかやたらと血の気が多いというか、刺激的な戦いを見せてくれるのなら何でもいいとでも思っているのか、俺でも闘技大会に参加させてくれる。常に闘技大会を開いているような街は住民もヤバいようだ。

 目立つのは苦手だがそんなこと言っている場合ではない。特大剣並のリーチで短剣並に軽い黒死の抱擁(ノリ・エイ・タンゲレ)を振り回し、対戦相手の首を撥ね飛ばしてゆく。

 モンスター相手に使うこと前提のバランスなのに対人で性能が落ちたりしないせいでちょっと斬っただけで首がポンポン飛んでいく。勿論逆もあり得るので一発も食らえない。

 

「ふふふ、毒耐性はバッチリだウボァッ!?」

 

「対戦ありがとうございました」

 

 この武器状態異常以外も全部ヤバいんだよなぁ。耐性下げられるし大体のプレイヤーはちょっと斬れば直ぐに呪えるから解呪されてもその直後に呪い直すこともできる。

 

「うわああ炎の中を突っこんでぐえっ!?」

 

「対戦ありがとうございました」

 

 そのくらいのスリップダメージなら俺のリジェネの方が早い。

 

「馬鹿な、俺のスピードを見切るだと……!?」

 

「対戦ありがとうございました」

 

 軽戦士の「フォーミュラ・ドリフト」マジでめちゃくちゃ速いな。「瞬刻視界(モーメントサイト)」が無ければヤバかった……でも向こうも制御できてなくない?剣を置いといたらそこに突っ込んできたぞ。

 

「ここで勝てれば俺も剣聖にぐはっ……!?」

 

「対戦ありがとうございました」

 

 ごめんなさいね。結構強かったけど、魔法と剣の切り替えがもっとスムーズだったらもっと苦戦してたと思う。

 

「それユニーク?どうやって手に入れたのか教えぐへぇ……」

 

「対戦ありがとうございました」

 

 何本も剣を浮かせてブンブンするような相手とは別ゲーで何度も戦っているし自分でも使っているんだよね。両手に持っているのも合わせて最大十三本の剣を芸術点まで気にしながら操作するのは頭がおかしくなりそうだった。まあそれでランキング一位になるまでやり込んでいたらキャラ性能が修正されてその内八本が飛ばした剣の後をついていくオート操作になっちゃったのだが。

 シャンフロの剣聖はやったことはないが、とにかく本数を増やせばいいというものではないだろう。一本から鍛え直すべきなんじゃないかな。

 

 大会に優勝したらまた次の大会へ……拳限定アイテム無しの乱闘大会ではアクセサリーの効果で水晶の鋏を出したら集中狙いされたり、別の大会の決勝で戦った人にその場で誘われて断れず、そのままタッグを組んでタッグ大会に出場したり……決勝戦で追い詰められて仕方なく「毒霧」でその味方ごと纏めて爆殺したけど。

 

 優勝賞品のアクセサリーとか結構貰ったけど、装備できないし釘の方が強いから正直いらないな……インベントリで眠っていて貰おう。

 

 まだ新しく習得したスキルが育ち切っていない。このまま新月の日まで暴れさせてもらうとしようか。




アナベルは裏路地の目立たない場所で特技剪定所(スキルガーデナー)を経営しています。接客態度が悪いし店へのアクセスも悪いですが、一般プレイヤーも普通に利用可能であり、コアなファンが存在しています。なお、好感度を上げるためには相当な金額を積む必要がある模様
呪啓者ギルドのメンバーにのみ販売している呪業と名がつくスキルは強力ですが、習得と同時に経験値一部喪失&獲得経験値量ダウンの重いデメリットが存在します
全部で六つある呪業スキルですが、専用のリソースが足りないので六つ全部を覚えることはできない上に、進化すると更にリソースを食うようになってデメリットが大きくなる罠があります。しかも一度習得すると忘れても失った経験値は戻りません。アナベルはそのことを知っているますが説明してくれません。面倒なので。好感度を上げましょう
システム的には専用のリソースが不足していると習得できない、進化できないと警告が表示されますが、世界観的には許容量をオーバーして習得、進化すると最終的に人を辞めて影の狼に変身して暴走することになります

呪業スキルの秘伝書のフレーバーテキストにはこのスキルが誕生した経緯やスキルの参考元になった夜の帝王の能力に関する記述があり、更にそれぞれのスキルの進化に関係する七つの最強種についても少しだけ触れられています。なので黒狼とライブラリ発狂案件だったりする

この二次創作を書き始めた理由の一つがオリジナルのエクゾーディナリーや真なる竜種を出したかったからなんですけど、このペースだといつになるんでしょうかね。黒死の天霊(トゥルー・クワイエット )のエクゾーディナリー出したい
二つ名なら割と早い段階で出せそうなので、多分深海で出てくると思います
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