シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
「やぁぶんぶん丸くん、最近フォルティアンで暴れているみたいだねぇ」
「あ、リーダー」
「なんでもフォルティアンの闘技場を派手に粉砕したとか……」
「ありましたねそんなことも……」
蘇生を弾かない装備に変えるべくフィフティシアに来ていた俺はニトロ薬局フィフティシア本店にてリーダーと遭遇した。
「遂に大型アプデ当日!まあ即座に新大陸へ、とはいかないけれども、テンション上がっちゃうよねぇ!」
「そうですね。新職業とか細かい調整もあるみたいですから、新大陸に行けない俺でも色々と恩恵がありそうで楽しみです」
新大陸に行くには色々なルートで船に乗る権利を得る必要があるらしい。しかし大型船とはいえ一隻しかない船に乗れる人数は限られている……総プレイヤー数三千万人のゲームでそんな所までリアルにすんな。
「ああそれと、これは後でクランメンバー全員に伝えようと思っていたことなんだけどね……実は阿修羅会の拠点の情報が流れてきたんだよねぇ」
「阿修羅会の?」
「そう。今まで何度かうちのメンバーが被害に遭ってるし、この情報が本当ならうちらとしては是非とも阿修羅会を潰しておきたいんだよねぇ……こっちは恨みを溜め込んでいる。向こうはレアアイテムを溜め込んでいる。これってトレードすべきだと思わない?」
「ははは……」
……コナツかペンシルゴンが流したなこれ。このままだと今夜のウェザエモン討伐時に阿修羅会とかち合うことになるから、有力なクランに情報を流して潰させるつもりなのだろう。エグいことするなぁ……
「それで、ぶんぶん丸くんは参加する?結構リスクが大きいし対人戦が苦手な人も居るから自由参加って感じだけど、この情報が本当なら他のクランも動くだろうからほぼ確実に勝てると思うよ?」
「……いえ、今日はリアルフレンドとの予定があるので……」
「そっかぁ、それなら仕方ないか」
さて、必要なアイテムを買い揃えて……夜まで寝るか!
◇
フィフティシアの隠しエリア「栄光の廃船グローリー・エリス号」。ここを阿修羅会は拠点としており、阿修羅会のメンバーしか知らないはずの場所である。
しかし「黒狼」「in虎会」「午後十時軍」「天ぷら騎士団」「ニトロ製薬」という五クランのプレイヤー連盟による拠点への突然の奇襲によって阿修羅会は大混乱に陥った。
多くのメンバーがPKKされ、やけにやる気に満ちた「
「テメェらが情報を流したのか……!?」
阿修羅会クランリーダーのオルスロットが襲撃者の中の二人……それもとても見覚えのある二人に向かって吠え、武器を向ける。
「ちょっと
一人は半裸の少女。かつての阿修羅会のメンバーの一人であり、その小さなボディからは想像できない阿修羅会ランキング旧六位の実力者であり、素手での戦闘において非常に高い実力を持つ……正確には「何も装備しなければ失うもの無くない?」と、一度誰かに倒されればそこから半裸で再突撃して勝つまで挑戦を繰り返した結果である。一番ロストしているのは人として大切な何かであることに彼女は気がついていない。
「そういうこったぁ、年貢の納め時だぜ?元リーダーさんよぉ」
もう一人は野太い声の凛々しくも荒々しい筋肉質な
「クソが……!!」
目の前に居る二人を今すぐにでもPKしたかったオルスロットだが、襲撃者達がここに押し寄せてくるのも時間の問題であり、出来ることは逃げることだけであった。
◆
「見ろっ、この輝かしい新・腰装備!
現在、秘匿の花園にてペンシルゴンが来るまでオイカッツォとサンラクと俺の三人で待機している。
「ぶんぶん丸氏も装備変えた?」
「若干マイルドになったね」
「マジョリティヘルハウンド装備一式です。VITは合計で1200くらいです」
「せんにひゃく」
「このゲーム、装備のVITは物凄いインフレするっぽいですよ。それより中身のVITの方が重要っぽいですね」
「中身も丈夫じゃないと衝撃に耐えきれないってわけね」
デメリット効果無しの普通のマジョリティヘルハウンド装備一式に身を包み、黒死の
まあちょっとVITは落ちたが……それより、今日のサンラクさんからは二週間前とは明らかに違うオーラを纏っている。このオーラは……
「ふむ……」
「?どうしたんすか?」
「サンラクさん、キメてますね……ライオットブラッド」
「えっ」
「わかるんですよ……なんというか、ライオットブラッドをキメた人特有のオーラ……カフェインパワー的なものが……俺もウェザエモン戦に備えて「ジョイント」しておきましたから……長期戦に備えて集中力を長時間持続できるように調整してきました」
「カッツォ、あれ本当に飲んでも大丈夫なやつ?」
「常飲は止めておいた方がいいと思うよ」
エナジードリンクは一日一本までにしておかないと将来的に色々とヤバいぞ。特にライオットブラッドは飲みすぎると……うん。
そんな話をしていると、洞窟の方からペンシルゴンがやってきた。どうやら先ほどまで阿修羅会の拠点に居たらしい。
「コナツちゃんも張り切ってたよ。「ウェザエモン戦には参加できないけど、出来る限りのことをする」って。まさか阿修羅会の旧三位まで引っ張って来るとはね」
コナツは阿修羅会を襲撃して足止めをしているらしい。少し心配だが、普段から殺し合いしているクランに所属しているのなら失って困るような物も持っていないだろうし、あいつもまあまあゲーム上手いから多分大丈夫だろう。
「そういえば「セツナ」って言ったか、今日はあの人いないんだな」
「満月の光がないとね……見えないんだって」
見えない……見えないだけでそこに居るのだろうか?
「セッちゃん……いや、セツナ。貴方の願い、私が……いいえ、私達が叶えてあげる」
花畑に亀裂が入る。
新月の夜には結界に綻びができる……なんかちょっとバグってるようなエフェクトだな。やっぱりこの結界はプログラム的なあれこれだったりするのだろうか?
「それじゃあ会いに行こうか」
空間の亀裂が広がり、周囲の景色が塗り替えられていく……花畑は消え、白い夜空には黒い星々が瞬き、先ほどまで枯れ木だったはずの木には桜色の花が……いや、これはそのまま桜の木か?
桜の木の根元には簡素な墓標があり……そして、墓標のそばで正座している若干メカメカしさのある鎧武者が一人。
「あれか」
「だろうね」
確かにアンデッドと言うよりもロボットかサイボーグと言われた方がそれっぽい武者の鎧からは、錆びもひび割れも無いが確かに長い年月を感じさせる。
『ユニークモンスター「墓守のウェザエモン」に遭遇しました』
鎧武者……ウェザエモンが刀を握り、立ち上がる。
俺を超える身長、二メートル半はあるだろう。刀もそれに見合ったかなり巨大な刀だ。
「サンラク君」
「あぁ」
ウェザエモンのヘイトを取るためにサンラクが前に出る。ウェザエモンは鞘に入った刀を居合の姿勢で構える。
BGMの無い世界にサンラクの足音だけが響く。一歩前に出る度に緊張感がどこまでも高まってゆく。
「墓守のウェザエモン……いざ尋常に……」
「断……風」
ウェザエモンの姿が一瞬ブレたかと思えば、既に抜刀は終わっていた。
発生1フレームとか聞いた時はそんなの許されるものなのかと少し疑っていたが、どうやらマジ情報らしい。
「勝負……!!」
サンラクは今のを初見で見切ったようで、姿勢を低くして刀を避けてそのままウェザエモンへと肉薄して攻撃を仕掛ける。
ペンシルゴン曰く、ウェザエモン戦の勝利条件は恐らく時間経過。サンラクが攻撃を仕掛けているのは足払いや怯みが通用するのかを確認するためだ。
「「断風」から派生するモーションは右手からの振り下ろし、両手水平の切り払い……そこからディレイの入った突き……か、斬り上げ……」
オイカッツォもサンラクの戦いを見てウェザエモンの攻撃パターンを分析しているようだ。あらゆる攻撃が即死級かつ超速発生であるため、パターンの把握は非情に重要になる。
「んー、やっぱり動きにロボかアンデッドっぽさがあるな……このゲームのAIはガチだし、常に決まったパターンで攻撃とかユニークモンスターレベルのAIがしてくるとは思えんしな……」
サンラクが鎧の隙間にレイピアを突き刺そうとするが、全て刺さることなく弾かれている。しかも怯みすらしない。
ステータスが足りていないとかそういうレベルの話じゃなさそうだ。完全無敵?
「断風」
「あっ」
サンラクがウェザエモンの攻撃をいなし切れずに姿勢を崩したその瞬間、神速の居合によってサンラクの胴体がぶった切られた。胴体が上下に分断されかけたままサンラクは動かなくなる。
うーん破壊属性までついているのか。ありゃ俺のリジェネでも直撃したら即死するぞ。
「カッツォ君!」
「わかってるよ!!」
オイカッツォが投げた丸い物体、「再誕の涙珠」がHPが0になったサンラクのアバターに命中し──
「こっちに来る!」
「狙いは……俺か!」
巻き込まれるのを避けるために後ろへ下がると、ウェザエモンは凄まじい脚力でオイカッツォとの距離を一瞬で詰めて刀を振るう。
あの巨体があのサイズの刀をあれだけの速度でぶん回せるとなると、下手に複数人で同時に対処しようとすれば巻き込まれ事故が多発すること間違いなしだ。
「整うまで
「無理ゲーだから全力で避けろ!」
「わかりやすいねぇ」
オイカッツォがウェザエモンの相手をしている間、サンラクは準備を整えつつウェザエモンの攻撃を遠くから観察する。ペンシルゴンは例の天秤の準備をしているので、次は俺がウェザエモンの相手をする番だ。
「生存時間二分とちょっと。五回死ぬ頃には第二段階ですね」
「蘇生アイテムは全部で三十二個。それだけスムーズに行ければ理想的なんだけどね」
ここまではウェザエモンは「断風」とやらしか使っていないが、まだ他にも凶悪な攻撃を持っているそうだ。
ウェザエモン戦は時間経過で段階が進み、第一段階が十分、追加の馬が入ってくる第二段階が十分、そして未知の第三段階と分かれている戦闘になる。第三段階の情報が第三段階に移行した直後に超範囲即死攻撃をしてくるというものしか無いので、そこまでにどれだけ蘇生アイテムを温存できるか……
「ぐ……ッ!」
ウェザエモンの攻撃をギリギリで回避したオイカッツォの姿勢が崩れる。あの状態からの回避と防御は困難。できたとしても集中力は長続きするものではない。つまり──
「交代します!」
ヘイトを取るために
それでもヘイトを取ることには成功したようで、ウェザエモンの狙いが俺に切り替わった。
「俺も少し検証をしよう」
レイピアをインベントリに収納して、
「状態異常とデバフが通れば楽なんだけどね」
「断風」
「それはもう見た」
「フリッカー」による特殊な回避モーションによる加速はどれだけレベルが下がろうが速度は変わらない。ウェザエモンの攻撃を姿勢を低くして回避し、その姿勢のまま加速。黒死の抱擁をすれ違いざまに叩き込む……とはいっても物理ダメージが無いから剣身がぬるりと通り抜けた不思議な感触が少しだけ腕に伝わってくるのであまり斬った感じはしない。何故かこれ剣身に触れないし刺しても傷は一切つかないけど、刺そうと思って刺せば地面や壁に刺して置いたりとかできるんだよな。認識の問題?
「強力な新スキルも揃えてきたからな……見せてやるよ」
とりあえず十回くらい切ってみれば、状態異常とデバフが効くかどうかは判断できるかな。
オルスロットくん、突然のハードモード
主人公はマジョリティヘルハウンドの上顎から上を模した被り物をしています。戦角兜【四甲】を装備した時のサンラクのように口だけ露出しているような感じです
首から下の装備は色が若干明るい黒色です。というか普段着が黒過ぎる
「フリッカー」による特殊な回避モーションによる加速はどれだけレベルが下がろうが速度は変わらないと主人公は言っていますが、これは「フリッカー」のデフォルトの速度のことであって、敏捷に振ればその分速くなりますし、レベルダウンで敏捷が下がればその分遅くなります
敏捷初期値でもかなり速いのですが、普通の軽戦士ビルドのプレイヤーが加速スキルを複数重ねて使った方が瞬間的には速いです