シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
自壊するまで残り十分だとして、十分逃げ回れば勝ちとなれば全力で逃走するというのもありではある。
だが、攻撃してダメージを与えられるのだとしたら、それは恐らく自壊までの残り時間の短縮に繋がるだろう。
ウェザエモン相手に時間をかければ事故に繋がるし、時間を短縮しようとすればその行為が事故に繋がる、ここで逃げるか殴るかは人によるだろう。
「じゃあ殴るよね!!サンラクさん、デバフ入れます!」
「了解!」
ここまであんまりいいところが無かった
「一方的に斬られる気分はどうだ?」
刀と接触してもこの剣はすり抜け、ウェザエモンに命中する。逆にすり抜けてくる刀は「
何十回と攻撃を命中させ、これ効いてるのかと少し不安になってきたその時、ガクンとウェザエモンの身体が揺れ、動きが鈍り始めた。
「よっしゃデバフ入った!これもくらっとけ!」
封卵の
口の中に含んだ液体を吹きかけるというちょっと汚いスキルだが、口に入れるモーションを短縮するアクセサリーとの組み合わせでこのように凶悪なスキルとなる。それだけではない。
「なんでそれが最高級なのかと言えば……可燃性なんだよねそれ」
ウェザエモンが爆炎で包まれる。実質毒と炎の混合ブレスのようなものだ。耐性の無い低耐久のプレイヤーなら問答無用で消し飛ぶ威力に加えて高耐久でもダブルのスリップダメージで一気に削れる。
「一気に削らせてもらうぞ……!!」
黒死の抱擁には切り札がある。それは二つで一つの剣を分離させるというただそれだけのもの……だが、分離することでこの武器はそれまでと全く異なる性質を持つ武器となる。
二つの剣を引き剥がすことで剣がブチギレて呪いの悪影響が更に大きくなるが、まあそこはいつものようにリジェネでなんとかなる。
黒死の抱擁の黒い剣身が揺らぎ始める。漆黒の内側からは黄金の光が漏れ出し、徐々にその光は輝きを増してゆく。
爆炎の中から放たれた断風を避けつつ、黒死の抱擁を高く振り上げる。
「お前も一緒に呪われようぜ!」
黄金の光によってどんどん膨らんでゆく漆黒の剣身。今にも爆発してしまいそうなそれを全力で振り下ろす──!!
「とっとと死にやがれ!!「
漆黒の剣身が極大の斬撃となって放たれ、黄金の光の奔流がその背を押す。
燃え盛る炎も大地もウェザエモンも、全て纏めて光が押し流してゆく。
フォルティアンで一度だけぶっ放した時は闘技場の一部が吹き飛ぶ騒ぎになり、それ以来封印していた技だ。ウェザエモンだって無事では済まないだろう。
「すっげぇ……!ウェザエモンがぶっ飛んだ!!」
「今のは剣を分離する時のおまけなんですけどね……この剣のもう一つの姿、ウェザエモンに見せつけてやりましょうか」
そう、今のは分離した勢いで片方の剣が勢い良く飛んでいっただけであり、正確には攻撃ではない。しかし刃しかない剣と柄しかない剣の片方を飛ばしてしまってここからどうするのか?答えはこれだ。
俺の手元に残った剣の柄から黄金の光が漏れる。すると柄と剣身の接続部から黄金の水晶が成長してゆき、途中で二股に分かれてそこから水晶同士が平行に伸びてゆく。そして少しの時間をかけて水晶は片手剣サイズの黄金の剣身へと成長した。これこそがこの剣……「ヴィンセント」が持つ機能の一つだ。
柄の中に仕込まれたラピステリア星晶体と月光を無限に生産するという賢者の石があれやこれやで、この柄自体が月光発生装置となっているのだ。月光パワーにより水晶を急速成長させることで何度刃が欠けようが即座に再生するようになっている。
この柄自体も高い再生力を持っているため、万が一柄が破壊されそうになっても金晶ゲージが残っている限り破損速度を上回る再生力を実現するし、自力で発生させる月光と呪いで削り取られる俺の命で急速に金晶ゲージを回復できるので実質破壊不可能というインチキ仕様だ。
ならどれだけ刃を薄くしてもいいよね?柄本体の耐久も削ってもいいよね?ということで、この剣は見た目よりも遥かに軽く、そして呪いの分のリソースのボーナスも合わさり、莫大な量のリソースを耐久以外の武器性能につぎ込んである。
因みに飛んでいった方の剣、「ヨハンナ」は暫くするとインベントリ内で復活し、自動で修復されてゆき、修復が完了したら勝手に「ヴィンセント」と合体する。そして再合体後は長期間分離不可能になり、スキルのリキャストタイムとは違って戦闘終了後もそれが続く。なので気軽に分離させることはできない。
また、ヨハンナは柄が無いし実体も無い武器なので、分類上は剣なのに装備不可という非常に特殊な武器となっている。あとフレーバーテキストが超怖い。
ヴィンセントを軽く振るうとその軌跡に暫くの間薄くキラキラと黄金の光が残る。
今までの何もかもがドス黒かった剣が随分と綺麗になったものだと最初は感動したのだが、フレーバーテキストを読んでみたらエフェクトかと思っていたこれは殺意しか感じられない非常に危険なものだった。
「さあ、ここからが面白いんだ。途中で死んでもいいけど、折角なら最後まで見ていってくれ」
抉れた地面を真っ直ぐ駆ければ、起き上がったウェザエモンがそれを正面から迎え撃つ。
刀と剣がぶつかり合い、その度に激しいヒットエフェクトと煌めく黄金の粒子が舞う。ぶつかり合う度にヴィンセントの剣身から響く透き通るような音が大きくなってゆき、それに共鳴するかのように黄金の粒子は明るさを増してゆく。
「綺麗でしょ?これね、全部剣から薄く剥がれ落ちた水晶の欠片なんだよね」
そう、これはエフェクトではない。薄くて壊れやすいが、欠けても急速に修復が行われるこの剣身を構成する黄金の水晶、その表面が薄く剥がれ落ちて細かく砕けた物が小さな光を放つのでこう見えるのだ。更に剣身に衝撃が加わることで剣身が音叉のように長く振動し続け、振動によって表面が更に剥がれ落ちやすくなり粒子の数が増えるので、剣身が激しく振動する程にこれは輝きを増す。
そしてこの粒子は小さいながらも月の魔力を宿す黄金の水晶であるのと同時に、剥がれ落ちたものであるとは言え、元は間違いなく一つの剣の一部なのだ。
そして元が一つの剣の一部であるのならば……これらにだってスキルが乗るということでもある。
呪啓者専用スキル「
このスキルはゲージが白に偏っているほど性能が強化される攻撃補助スキルであり、威力と攻撃速度が向上するのと同時に、攻撃がヒットする度に現在受けている呪いに応じた追加効果が発生するようになる。俺の場合はシンプルな追加ダメージだ。
更にその他の攻撃補助スキルも一斉に起動。刀をパリィし、ウェザエモンの首に切っ先を突き付ける。
「「穿孔発条」解放。何ヒットするかな?」
渦巻く漆黒と黄金が視界を埋め尽くす。
溜める程にヒット数が増える「穿孔発条」により、ヒットする度にヴィンセントから撒き散らされる粒子がスキルの螺旋のエフェクトに巻き込まれて剣身を軸として渦を巻く。更に粒子一つ一つにも漆黒のスキルエフェクトが乗っており、一発一発の威力こそかなり低いが、恐るべき多段ヒットを実現する。
ヴィンセント自体にもヒット数に関係する効果があり、ヒットする度に蓄積される「響鳴カウンター」の数だけ威力に補正がかかり、更にカウンターの数に比例して威力が上昇する物理、魔力属性の二種類の振動ダメージが追加で発生する。
勿論この効果は撒き散らされる粒子にも乗るため、更にヒット数が増える。因みに破壊属性付きなので低VITの相手に使うと体が粉々に分解されることになる。カルマ値がゴリゴリに積まれてゆくのを実感できるぞ!
多段ヒットの音が耳を劈く中、剣身の振動がどんどん強くなってゆく。
ヒットするほどに溜まっていく振動は剣自体にダメージを蓄積させる。多少のダメージなら修復速度が上回るが、ここまで振動が強くなると蓄積するダメージ量が修復速度を超えて剣身の耐久が削れてゆく。
「弾け飛べ!!」
ゲーム的に言えばそれは耐久度が0になった時に蓄積していた響鳴カウンターの数に応じた威力の破裂を起こすというもの。
視界を塗り潰す黄金の閃光と全身を叩く凄まじい衝撃によって俺もウェザエモンも吹き飛ばされる。ゲームの仕様上俺は最大で10ダメージしか受けないし、HPが削れる速度を上回る速度のリジェネによって耐えられるが、これを直接首で受けた相手はこの剣の首特効と合わせてどう足掻いても間違いなく即死することになる。これが首に直撃して耐えられるような奴が居るとすれば、それは間違いなく──
「──ははっ、これでも死なないか、バケモノめ……!!」
ウェザエモンはここまでしてもまだ立ち上がる。あれの中身は本当に人間なのか?人の形をした別の何かが詰まっているとしか思えないしぶとさに一周回って笑えてくる。
「サンラクさん、頼む!」
「応!」
死にはしないとは言え反動で大きく吹き飛び、砕けた剣身の再生にも少し時間がかかるし、スキルのリキャストタイムも待たなければいけない。それまでの間サンラクと交代し、準備が整える。
流石にあれで結構削れたと思うのだが、鎧がボロボロになっていること以外に変化が無いので後どのくらいで終わるのかよくわからない。
オイカッツォとペンシルゴンの方は少し苦戦しているようだが、騏驎も怯んではいる。ダメージは通るようだ。
しかし誰も乗っていない状態でもあそこまで強いとなると、ウェザエモンが乗り込んだらもっとヤバいことになるのは間違いない。最悪の場合はあのロボットサイズの入道雲とかぶっ放してくるかもしれない。なので合流はなんとしても防がなければならない。
視線をサンラクの方に戻せば、相変わらず頭でパリィして即座に剣で追撃とか曲芸みたいなことをしている。普段からそういうことやっているのか?
ウェザエモンが刀を腰に構える。再び断風が来ると判断したサンラクは神速の居合に対抗するために先に角を置き、パリィをしようと頭を振るうが……ウェザエモンが動かなかったことで角が空を切る。
「ここに来てフェイント……!?いや、追撃が無い……?」
「なんだ!?何で斬ってこない……!?」
ウェザエモンが構えを解く。これは……HPが尽きた?それとも──
「……ァ……アリ、ス……」
「アリス……?」
誰?セツナならまだギリギリ分かるが、ここに来てなんか知らん人の名前が出てきたぞ?
「認証キー、断片……アリス、は……紡が……れた……か」
ウェザエモンが技名や詠唱以外を喋っている?これはイベントシーンか?
「悠久は果てしな……く……我が身朽ち果……て、彼ら……の……行く末、見ざれど……確かに「フロンティア」は為され、成さ……れた……」
待ってくれ、急にタイトルの一部が回収されたんだが?俺考察は大の苦手だぞ?
というかウェザエモンに意識あったのか。そりゃそうか、鎧パワーで勝手に動く遺体ならデバフ効かないだろうし。
「行くぞ……「
行くぞって……やっぱりこれHP0で発生するイベントじゃないな?まだ続くのかよ!?
「我が誓いを……踏み躙る……であれ、ば……我が「晴天大征」にて……潰えよ」
ウェザエモンから放たれる気迫がこれまでの比ではないほどに膨れ上がる。
晴天……あ、今気が付いたんだけど、こいつの技名天候から来てるの?
要するに「ヴィンセント」は金色で二股の形状の剣身を持つ音叉みたいにブルブル震える片手剣です。分離してからが本番&分離する瞬間にも大ダメージ。私こういう武器好き
因みに「ヨハンナ」のフレーバーテキストはギッチリと文字数限界まで「許さない」とか「殺す」とかの文字で埋め尽くされているタイプ。主人公は悲鳴を上げた