シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~   作:葛饅頭

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シャンフロ20巻の表紙が公開されましたね
エムルちゃんの股間が隠されていて笑ってしまいました。発売が楽しみです


暴徒と幽霊船

 俺は今、樽に詰められてどこかに運ばれている。

 脱出はできないこともないだろうけど、折角なのでこのまま運ばれてみることにしたのだ。というか変な姿勢で詰められているせいで上手く力が入らない。

 

「なんのイベントなんだろうなこれ……」

 

 このまま海に沈められたりするんじゃないかとか考えていると、目的地に到着したのか地面に置かれたような感触がした。もう出てもいいか?

 

「……蓋が硬い!」

 

 くっ、筋力初期値がこんな所でも悪さするとは……というか外から聞こえてくるこの声、もしかしてサンラクか?あと秋津茜とサイガ-0の声もするな。

 

 何々?パーティを組んだままだったからサンラクが受けたユニークシナリオがこっちにも来たと?

 ああ、そういうことね。言われてみれば確かにパーティ抜けてないわ。パーティ組んだ経験が無さすぎてパーティを抜けるという行為を忘れていた。

 

「誰かー!外から開けてくれませんかー!?」

 

 全力で叫べば樽くらい粉砕できそうだが、足音からして周囲に沢山人がいるっぽいので助けを求める。

 

「もしかしてぶんぶん丸氏?今開けるぞー」

 

 ようやく樽の蓋が開き、中からのそのそと這い出る。

 

 外に出ると、そこはフィフティシアの港だった。大きな船にNPCが次々と荷物を積み込んでいるのが見える。

 

 港には蓋を開けてくれたサンラクにサイガ-0と秋津茜、それにエムルちゃんとシークルゥまでおり、影リュカオーン討伐時のメンバーがNPC含めて全員揃っていた。あと知らないプレイヤーが二人いる。

 

「ふぅ、助かりました……中で変な姿勢になっていたのと筋力不足で蓋が開かなくて……」

 

「ぶんぶん丸氏もユニークシナリオを受けてここに?」

 

「はい。樽の中で話は聞いていました。これ参加しても大丈夫なやつですか?」

 

「だ、大丈夫大丈夫!みんなでやった方がきっと楽しいですよ!」

 

 というわけで事故による偶然でユニークシナリオに参加する権利を得た。しかもこれ「深淵のクターニッド」とかいうユニークモンスターと関わりのあるユニークシナリオらしい。サンラクはなんかそういうの引き付ける何かを持っているのか?

 

 なんか突然の出来事でやるべきことが頭からすっぽ抜けてしまったが、まあ後でいいか。

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

「準備完了だ船長!!」

 

「よぉし!!帆を張れ!!赤鯨海賊団「スカーレットホエール号」出向だ!!」

 

 どうやらこのシナリオ、この船に乗って「クライング・インスマス号」なる幽霊船を沈めて敵討ちをするというシナリオらしい。

 あの船長と呼ばれている少年は「スチューデ」。彼の父親は幽霊船に一人で乗り込んで化け物と戦い、子分達と船を逃がしたのだという。

 

「わぁ凄いですね!進んでますよ!!」

 

 そりゃあ船は進むものだが、このゲームはそんな当たり前の所まで作り込んでいる。

 別にゲームの船なんて目的地まで謎のパワーで動いていても問題ないのだが、このゲームは物理がキチンと仕事をしているので、帆を張って風を受けて船を進ませることを可能としているし、NPCがキチンと風を読んで船を目的地へと進ませているのだ。

 下手なゲームがこれを真似しようとすれば、延々と目的地に到着することなく海の上を彷徨って幽霊船になるか、もっと酷いゲームならバグって船が飛んでいく。

 

 そんな船だが、海賊船と言えば大砲のイメージが強いが、この世界には火薬が無いのか代わりにバリスタが置かれている。まあ魔法があるし、弓スキルはあるらしいからバリスタスキルなんてのもあるのかもしれない。

 そのバリスタの使い方を確認しているあの背の低い褐色肌の女性プレイヤーは「ルスト」、それを見守る背の高い男性プレイヤーは「モルド」と言うらしい。サンラクが今日までにフィフティシアに到着したかった理由がこの二人との待ち合わせがあったからなんだとか。なんかどこかで聞いたことがある名前だなぁ……

 

 この海賊船を動かしているのはNPCの船員であり、あちこちでせわしなく働いているのを眺めているだけでも割と楽しい。しかし、俺が見つめると即座に視線を感じ取ったNPCがブルりと震えてどこかへ行ってしまう。

 

「……めっちゃ距離を置かれているなぁ」

 

「俺でも刻傷で目を合わせて貰えないから、ぶんぶん丸氏だとそりゃあ……」

 

「まるでリュカオーンそのもののような威圧感ですわ……」

 

 NPCがビックリするくらい近くに来ないし、近づけば可能な限り自然にその場を離れようとする。俺のことを刺激したら爆発する危険物か何かだとでも思っているのだろうか?これでは情報収集不可能だ。

 サンラク相手にビビりながらも会話できているスチューデも俺が相手だと無言で目を逸らす。

 

「そりゃ呪啓者ギルドの人達も身内に優しくなるわな……」

 

 恐らくギルドのメンバーにもこういう過去があったのだろう。まあ呪いの武器を使っていることに関しては自己責任の要素も大きいが、中にはどれだけ手放そうとしてもついてくる呪いの武器とか他人に押し付けることでしか呪いから逃れられない武器とか、そういうのもあるらしいからな。なあ黒死の抱擁(ノリ・エイ・タンゲレ)、お前はどう思う?

 

 そういえば敵は魚人のゾンビみたいな奴らなんだとか。アンデッド系だとしたらこの死別の呪いのせいでヘイト集めそうだな。刻傷のレベルが下のモンスターを追い払う効果とアンデッドを引き寄せる効果、どっちが優先されるんだろうか?

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

「船長!!前方!西の空だ……!!」

 

「なに!?」

 

 特にすることがなかったので海を眺めていると、上の方からそんな報告が聞こえてきた。

 えー、西ってどっち?……あ、向こうか。

 

「おー、真っ黒な雲が……どんどんでかくなってきてないかあれ?」

 

 黒い雲が明らかにおかしい速度で拡大し、即座に空を覆い尽くしてしまった。

 

「船長!間違いねぇ!!あの時と一緒だぁ!!」

 

「ここ……怖くなんてない……!!僕様はパパの息子なんだ……!!」

 

 明らかに何らかのイベントだ。そろそろ戦闘が始まりそうなので戦闘準備を行う。

 

 どこから幽霊船が現れるのか分からない中、周囲を警戒していると、視界が一瞬真っ白になった直後、激しい雷鳴が鳴り響く。

 

「随分と近い所に落ちたな……直撃はやめてくれよ?」

 

 雷が落ちた場所に目を向けると……水面が盛り上がり、何かが浮上して来た。それは非常に大きなもののようで、その余波で波が荒れ、船が揺れる。

 

「海の中から浮上して来るか……!」

 

 水飛沫を上げ、海中から姿を現したのはボロボロの大型船。どういう原理かは知らないが、穴だらけで帆も無いのに海に浮かび、前に進んでいる。その姿はどう考えても目的の幽霊船のそれだ。

 船の上に見える人影はよく見れば人の形をした魚……もっとよく見れば腐っているっぽい。魚人ゾンビである。

 

「船長ぉー!!幽霊船が速度を上げて向かって来やがった!!」

 

「正面突破で沈める気!?」

 

「流石幽霊船。捨て身タックルか」

 

 こちらへ向かい、真っ直ぐ突撃して来る幽霊船。しかしスチューデはどうやら迎え撃つつもりのようだ。

 

「総員衝撃に備えろー!!」

 

 えーっと、ロープか何かに捕まればいいのかな?どこかいい感じのポイント……あ、ちょっと待って揺れないで俺の筋力だと耐えられないから!あ、そうだこういう時はスキル使えばいいんだ。「蝋の翼(イカロス・ウィングス)」を発──

 

ズドォォォン!!!!!

 

「オアーッ!?」

 

「ぶんぶん丸氏ー!?」

 

 ギリギリ間に合わず、船同士がぶつかり合う衝撃で俺の体が宙を舞う。

 空中で同じく吹っ飛ばされたのであろう魚人ゾンビとすれ違ったが、そんなことを気にしている場合じゃない。

 

 「蝋の翼(イカロス・ウィングス)」によって空中で姿勢を制御し、ゆっくりと着地するが……着地した先は幽霊船の上、魚人ゾンビの群れのど真ん中だ。

 四方八方から押し寄せる魚人ゾンビの群れ。しかしこの状況は好都合だ。だって──

 

「ここでなら思いっきりぶっ放せる……からなあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!

 

 「獣王咆哮(ビースト・ロア)」に【怨嗟の言霊】と複数のバフを乗せ、幽霊船のど真ん中で全力で叫ぶ。

 距離が近かった魚人ゾンビはそれだけではじけ飛び、何匹かは吹き飛ばされて海へ落ちていった。

 

 今のでゲージが一気に黒に染まったが、今はこのシナリオのクリアが最優先だ。ゲージが完全に黒に染まらない程度にやっていこう。

 

「まだまだぁ!「ソニックカノン」!「サウンド・グレネード」!「鎌息断(カマイタチ)」!「元素嚢(エレメンタル・ブラダー)」!!」

 

 次々とスキルを発動し、魚人ゾンビを薙ぎ倒してゆく。こいつら弱いけど数が多いな……船の中にもまだまだいるようで、いくら倒しても次から次へと湧いてくる。

 ユニークシナリオ「呪いに囚われし者、理を呪う者」のことも考えなければならない。暴走したらその時は最悪俺が船を二隻沈めることになる。

 

「ぶんぶん丸氏!大丈夫か!?」

 

「サンラクさんとエムルちゃん!俺は大丈夫ですけどこいつら数が多い!」

 

「了解!手伝う!」

 

 サンラクが構えたレイピアが魚人ゾンビに突き刺さり、恐らく壊毒の影響か魚人ゾンビの体がボロボロと崩れてゆく。見た目がグロいが、状態異常が普通に効くというのは有用な情報だ。

 

「派手に行こうか。黒死の抱擁(ノリ・エイ・タンゲレ)!」

 

 見た目は特大剣、重さは短剣、そして相手に引っかかって止まることが無い黒死の抱擁は集団相手に圧倒的に強い。こいつらレベルは高くなさそうだし即死にも期待できる。

 「如意自在」を発動してスタミナが続く限り黒死の抱擁を振り回し続ければそれだけで俺の半径数メートルが即死エリアと化す。知能もそこまで高くないようで、突っ込んで来ては即座に状態異常とデバフで動きが止まり、そのまま首がポロリと落ちる。

 

「ええい、本当に邪魔だなこれは……!」

 

 ユニークシナリオ「呪いに囚われし者、理を呪う者」の影響で無数に表示される未来の影。この数だと同時に表示される影の数もとんでもないことになっており、それらを全て把握して最適解から外れた行動を選択し続ける。

 どう考えても最優先で排除すべき背後に迫る魚人ゾンビをスルーして前方の魚人ゾンビを倒し、うなじに突き立てられそうになったナイフをわざわざ「パンクラチオン」を発動して首の動きでパリィする。明らかに非効率な行動を半ば強制されるストレスは凄まじいものがある。さっさと条件を満たしてこのユニークシナリオを終わらせたいのだが、この場で死ぬわけにもいかないからな……

 

 気づけばルストとモルドの二人もこちらの船に乗り込んで来たようで、俺に向かってくる魚人ゾンビの数が減り、少し楽になる。

 それにしてもやっぱりあの二人どこかで会ったことがあるような……まあいいか。今は目の前のことに集中しよう。




ポ○モンの通信交換の時のアレみたいな感じで空中で魚人ゾンビとすれ違う主人公

主人公にもっと派手に色々とやらせてみたい気持ちはあるものの、原作でもまだ明らかになっていない謎が多くて躊躇ってしまうところもある。花鳥風月のグループ分けとかまだ出てきてない兎とか、その辺りがある程度ハッキリしてくるまで多分この主人公はラビッツに行けないかもしれない
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