シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~   作:葛饅頭

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暴徒と灼毒

 このルルイアスにはあのでかい魚以外にも、魚人ゾンビや人魚が敵として出現する。

 魚人ゾンビは「人じゃない生きている魚」を反転して「魚じゃない死んでいる人」に、人魚は「人じゃない死んでいる魚」を反転して「魚じゃない生きている人」にしたものらしい。

 

「もう何でもありだろそれ……」

 

 なぜそんな力を持っているのか、それだけの力を持って何をしようとしているのか……考えてもわからないので考えるのを止める。それよりも今はこちらのユニークシナリオの解決が先だ。とは言ってもひたすら戦ってゲージを白に染めるだけなのだが。

 

「サンラクの言っていた通り、人魚はカモだな」

 

 さっきから上空で優雅に泳ぎながら歌っている上半身が人間の女性で下半身が魚のモンスター、人魚を見上げる。自分でああやって高い所で歌っているから直ぐに見つけられる。

 あの人魚、歌でデバフをかけてくるらしいが、リュカオーンの刻傷が持つ魔力干渉への強力な耐性がそれを弾いてしまう。この呪いも悪いことばかりではないようだな。

 

 歌が効かないと悟った人魚は真っ直ぐ近づいてきて引っ掻いたり噛みついたりと、非常にシンプルな攻撃しかしてこない。安全に確実に白ゲージを伸ばすことができるのだが……

 

「うーん……弱い相手だとゲージの伸びが悪くなるのか?」

 

 いやマジでゲージが全然動かない。ちょとミスると黒に一気に傾くクセに白は全然伸びない。もっと強い敵を探さないとダメか?

 

 またあの超巨大リュウグウノツカイでも来てくれればいいのだが……そうだ、このゲーム昼と夜で出現するモンスターが変わるんだったな。夜なら強いモンスターが出てくるかもしれない。

 というわけで予定変更。夜まで灼毒馬釘(ソーマ=スタング)(スペリオル)を使いこなせるように練習しよう。

 

 灼毒馬釘(ソーマ=スタング)(スペリオル)はローエンアンヴァ琥珀晶を用いたアクセサリーの中でも一番上のクラスとなる「(スペリオル)」のアクセサリーだ。

 しかしインベントリから取り出して眺めてみても、中に何か入っているようには見えない。

 

 ローエンアンヴァ琥珀晶のアクセサリーに毎回インベントリ関係の効果がつくから、もしかしたら中身が入っていない空っぽのやつを使えば完全にインベントリに特化した効果になるのでは?と考え、中に何も入っていないやつをいくつかラローリーさんに渡したのだが、その中の一つを見てラローリーさんが凄く真剣な表情で警告してきたことで、透明なだけで中に何か入っていることが判明した。

 警告を聞く限り明らかにヤバそうなものだったが、何とか頼み込んでアクセサリーにしてもらったものがこれだ。

 

 完成して受け取った後のラローリーさんのかなり長い話……しかも待ち合わせの時間が近かったので一部省略してもらってそれでもなお長い話と、この釘の効果とフレーバーテキストから察するに、このアクセサリーを起動すると間違いなくヤバいことになる。

 効果として書いてあることは非常にシンプルで、『起動中は特殊状態「核熱発動」となり、スタミナを消費し続けて全身の関節を魔力で直接動かせるようになる』というものなのだが……とりあえず装備して起動してみる──

 

ボキッ!!ブチッ!!

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

 視界が横に何回転かして即死した。多分首がねじ切れた。

 

 拠点で待機しているNPC達に見送られながら再び外へ。もう一度起動し、今度は全く動かないことを意識する。

 

「あっつ!?」

 

ゴキゴキゴキゴキグシャッ!!!

 

 今度は一瞬で身体が捻れて丸まって潰れて肉団子になった。

 

「今度こそ……」

 

パァンッ!!!

 

 今度は海老反りになって腹が裂けた。

 

「ゆっくり……」

 

ズドォォォン!!!

 

 今度は物凄い勢いで回転しながら飛んでいき、壁に衝突して首がへし折れて死んだ。

 

「あっ」

 

ベキベキベキ……ブシャッ!!!

 

 その場で全身がグニャグニャになった後、バラバラに弾け飛んだ。

 

 死んで、死んで、死んで、死んで、死んで……

 

「なんじゃあこりゃあ……」

 

 NPC達がリスポーンを繰り返す俺を物凄い目で見ているが、スルーしてまた外に出る。

 

 とりあえず分かったことだが……ラローリーさんの話の通りなら、このアクセサリーの起動中、俺の中で魔力の暴走が起こっているらしく、起動した瞬間にスタミナがガンガン消費されて、体内で超高温になった毒性を持つ魔力が全身を駆け巡ることでえげつないスリップダメージを受けた上で深刻な火傷と毒状態になる。

 そして大量の汗をかき、汗と一緒に超高温で毒性のある魔力も体外へ漏れ出し、熱によって即蒸発。毒性のある高温の蒸気が近づく者にスリップダメージを与える。

 

 まあそれはいい。問題はもう一つの魔力で関節を直接操作できるようになる効果だが……まずこれ、リミッターが存在しない。それ以上曲げてはいけない方向に当然のように関節が曲がるようになる。

 そして出力がヤバすぎる。ちょっと動かそうとすれば必要以上の凄まじいパワーで関節が曲がり、限界を超えてもなお関節を動かそうとする力によって肉体が破壊される。自分で自分の拳を握り潰したり、逆に全ての指が手の甲にめり込むまで曲がったり、首が千度くらい回転したりと、お手軽に愉快な死を体験できる。

 

 最後にある意味これが一番の問題なのだが……ネフホロもビックリのクソ操作性だ。

 例えるのなら全身の関節……何個あるんだ?まあ二百個以上はあるであろう関節全てに思考に敏感に反応するクソ強モーターが取り付けられているような感じと言えばいいだろうか?ちょっと余計なことを考えれば即座にそれに対応する関節が過剰に動いて粉砕されるし、意識を集中させようにも、仮にこれを起動したまま走るとして、走るのに最低限必要な関節の動きを全部マニュアル操作することを要求される。

 

 人間は普通走る時にわざわざ右足を上げて左足を上げて交互に前へ……なんて考えないし、何なら右膝の関節を何度曲げて右足首の関節を何度曲げながら同時に左膝の関節を……なんて関節単位で考えながら動作をすることはしない。

 というかそもそも人間は正確には関節を直接動かしているわけではなく、筋肉で引っ張ることで関節部分が可動しているわけだが、これは直接関節を動かすという人間の脳がデフォルトで対応していない動作を求められるのだ。なのでただ指一本曲げたり伸ばしたりするだけでも現状かなりの集中力が要求される。なのに余計な思考には敏感に反応して関節がぶっ壊れる。

 

 ネフホロのクソ操作性に対してよく使われる例えとして、「腕を何本も追加で移植させられるような感じ」というものがあるが、それを数十倍酷くしたような感じだ。最低限スムーズに動けるようになるまで相当なトレーニングが必要になるのは想像に難くない。

 

 というか操作性で言うならネフホロよりももっと昔、フルダイブVRゲームが登場したばかりの頃、フルダイブ黎明期に発売された操作性の最適化不足で伝説となったとある虫の格ゲーに近いなこれは。

 虫の体格と人間の体格が違いすぎて操作が難しいどころの騒ぎではなく、手足の本数も違うし、虫によっては羽も生えているしで、初期のオンライン対戦は死にかけのセミみたいな挙動のプレイヤーで溢れかえっていた。

 因みに俺はムカデが持ちキャラだった。ストーリーモードのラスボスで性能ほぼそのままで操作できるのに誰もまともに操作できなくてTier5の最下位のキャラだった。因みにTier1はカマキリでみんな足を二本捨てて二足歩行していた。

 

 クソゲーの話は置いといて、これを使いこなすにはまず脳をこれに適応させるところから始めなければいけないだろう……これに適応したら逆に普段の動作に悪影響が出そうな気がする……

 だが、このパワーは間違いなく俺を強くしてくれるはずだ。足りないパワーもスピードもこれがあれば……

 

 ブチッ!!(腕が千切れ飛ぶ音)

 

 パキパキパキ……(千切れ飛んだ腕が生える音)

 

「肉体の強度不足だなぁ……」

 

 まあこれはこれで悪用できそうだしいいか。夜までひたすら練習しよう。

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

「よっ、ほっ、はっ!」

 

 周囲がまあまあ暗くなってきた。ルルイアスの夜はそこまで暗くならないらしい。

 

 腕や脚が捥げたり壁にめり込んだりを繰り返しながら練習を続けた結果。真っ直ぐ走るだけならできるようになった。ただ全速力で走ろうとすると凄まじいスピードで壁に衝突して死ぬことになるし、これを起動したまま戦闘することはまだ難しい。

 

 ちょっと曲がろうとして腰が二百度くらい回転して死んだところで今日の練習はここまでにしておく。

 

「夜のルルイアスは魚だらけになるのね」

 

 夜になると魚人ゾンビが元の魚に戻るとかそういうことなんだろうか?あれ食えるのかな?アクセサリーで常に空腹値は回復し続けているから食べる必要はないんだけどね。

 

 夜のルルイアスは魚人ゾンビも人魚もおらず、魚だらけになるようだが油断はできない。それこそあの超巨大リュウグウノツカイのような危険な魚だっているのだ。

 これだけ魚が沢山いる空間なら、それを捕食する大型の捕食者がやって来てもおかしくはない。

 

 軽く高い所から見渡してみた限りではそういう危険そうな生物は見当たらなかったが、あの超巨大リュウグウノツカイはこの反転した空間の外からやって来ていた。それを考えるとああいうデカい魚は初めからこのルルイアスにはいないのかもしれない……仮にいるのなら昼の間は反転してデカい魚人ゾンビとして遭遇できるはずだ。明日探してみようかな。

 

 試しに反転の範囲外に出てみて水圧で腕が潰れたり、魚を咆哮で気絶させて捕まえたりもしながら、良い感じの敵がいないか探しつつ歩き回っていると、ソイツは上から降って来た。

 

「え、何あれ?巻貝?」

 

 天井……いや、海底だったか。そこをノシノシと移動する超巨大な巻貝の姿を見つけて眺めていると、巻貝は急に大ジャンプして反転の範囲内に突入。反転した重力に即座に適応し、空中でぐるりと半回転して、家屋を踏み潰しながら着地する。そこで気が付いたのだがこいつ、貝類じゃない。巻貝を背負っている超巨大ヤドカリだ。

 

「いいね。中々強そうだ。どうやって倒してやろう……か……」

 

 ヤドカリが両腕の鋏を高く掲げると、巻貝の穴から次々と飛び出してくる色とりどりの海洋生物達。それは普通の魚だったりカジキだったり海老だったり亀だったりイカだったりタコだったりと……兎に角あらゆる海洋生物が貝の中から現れたのだ。しかも明らかに俺にヘイトを向けている。

 

「そういう生き物か……いいね、根絶やしにしてやるよ!!」

 

 スキルを一斉に起動し、あらゆるバフを乗せた「獣王咆哮(ビースト・ロア)」を放つ。

 ここは空中であり同時に水中でもある。音がどう伝わるのかはよくわからんが、水中扱いならよく響くだろう。

 

 目論見通り広範囲に広がる衝撃波によってヤドカリが従えていた海洋生物達の殆どが気絶か死亡からのアイテム化によって無力化された。数で攻める相手ならこれでどうとでもなる。

 

 しかしあの貝の中にまだまだ海洋生物達が住んでいるのか、どんどん魚が湧き出てくる。

 それだけではない、あのヤドカリもただ眺めているだけではないようで、鋏を構えて突撃してきた。

 

「何匹来ようが同じ!「サウンド・グレネード」!!」

 

 圧縮された声の砲弾が山なりに飛翔し、ヤドカリに着弾する直前に大きなフグのような魚が間に割り込んで──

 

 バクンッ!

 

「食べた!?」

 

 ドゴンとくぐもった音がしてフグが膨らむ……あ、ハリセンボンだあれ。

 内部で音の爆弾が炸裂したはずなのに大したダメージを受けていないように見える。

 

「音があまり効かない魚とは厄介な……?」

 

 あれ、ヤドカリの動きがピタリと止まり、鋏を振ると貝から飛び出した海洋生物達が貝の中へ帰ってゆく。

 

「……まさか……」

 

 そのまさか。再びヤドカリが動き出したかと思えば、貝の中から現れたのは大量のハリセンボンだった。

 

「メタを張って来るのかよこいつ……!?」

 

 これがあのヤドカリの能力……これは面倒なことになりそうだ。




穴だらけの拠点のすぐ近くで練習していたのでNPCに愉快な自殺現場を目撃されていてドン引きされている主人公。

灼毒馬釘(ソーマ=スタング)(スペリオル)の中に入っているのはとあるモンスターの透明な臓器。この中の特殊な魔力は外からの魔力に反応して莫大なエネルギーを発生させて全身を駆け巡る
太古の時代、この臓器の持ち主は自分の生命活動を維持するために必要な大量の魔力を求めて全身から超高温かつ猛毒の蒸気を撒き散らしながら群れで大陸を駆け回っていた
その果てに辿り着いた地で先住していた別のモンスターと激突。燃費が悪すぎて元々絶滅寸前だったこともあり侵略に失敗し、そのまま絶滅してしまった
関節の構造が特殊で、流れる魔力を利用して関節を直接可動させて超質量の巨体を強引に動かしていた。体のデカさと発汗能力の高さで強引に熱と毒に耐えるストロングスタイル

Q.これハザードじゃないんですか?
A.ハザードだと起動した瞬間から体が溶け始めてHPが0になると大爆発する自爆装置になります

深海三強のヤドカリさん。原作だと出番なしなので登場させてみたかった
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