シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~   作:葛饅頭

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暴徒と独奏

 気が付けば俺は瓦礫の中で横たわっていた。

 

 一体何が起こったのか?

 

 MPが全て吹き飛び、辺りに散らばる水晶の欠片。水晶蠍(クリスタル・スコーピオン)(のろ)い釘がダメージを防いでくれたのは間違いない。

 だがそれだけじゃない、スタミナも全部持っていかれた。これは団長の猫騙しをくらった時と同じ現象だと推測できる。

 

 ステータスを確認する……やはり「硬直」の状態異常だ。この状態異常によってスタミナが強制的に0になったのだ。

 更にこの状態異常になるとスタミナが全回復するまで行動不可能になる。俺の場合スタミナが多すぎてこの硬直になるとかなり長い間動きを封じられてしまう。スタミナ全振りの天敵とも言える状態異常だ。

 

 なんとか首を動かし、追撃を加えようと迫って来る"独勝(アリア)"を視界に捉える。

 

「ああもう、やるしかないか……!」

 

 この状態でも出来ることがある。体は動かないがスタミナは回復しているのだ。

 灼毒馬釘(ソーマ=スタング)(スペリオル)を起動。全身の関節を強制的に魔力で稼働させる!

 

「うぎぎぎぎ……!久々だなぁこの感覚は……!!」

 

 まだフルダイブVRゲームが発売されてそんなに長い年月が経っていなかった頃、操作性の最適化不足で人型以外のキャラは操作が困難であった。

 人間には存在していない関節一つ一つを意識して脳に慣れさせないと動くこともできないゲームなんて珍しくも無かった時代。そんな時代のゲームと比べたら、どれだけ操作できる関節の数が多くても、人間の体なだけまだマシと言える。

 

「えー、人間ってどうやって走るんだっけ?」

 

 考えている時間はなさそうだ。無理やり膝の関節を反対方向に捻じ曲げ、四つん這いのまま犬のように走って"独勝(アリア)"の追撃を避ける。

 犬になって冒険するゲームとかフルダイブ黎明期に色々と発売されたからなぁ……その殆どがまず犬の体に慣れるまで地面を這いずる所からスタートすることになる。

 

「ああ気持ち悪い……めっちゃ熱あるのにマラソンさせられているみたいな……」

 

 というかこのままだとスタミナが回復した側から消費されるから硬直状態がずっと続くのでは?

 どこかで一度スタミナを全回復させて硬直状態を解除しないと……

 

 水晶を齧って水晶ゲージを回復させつつ、二足歩行のやり方を思い出して黒死の抱擁(ノリ・エイ・タンゲレ)を構える。

 更に封花の(まじな)い釘・(ハザード)を外し、黒死の(まじな)い釘に付け替える。

 狂咲(ヒステリー)状態が解除されたことでデメリット効果が発動。狂咲(ヒステリー)状態だった時間に応じて凄まじい虚脱感に襲われ、DEXとTECが強制的に1となる……この状況ならほぼ誤差だ。

 

「スタミナが尽きる前になんとかしないとな……!」

 

 まだ灼毒馬釘の扱いに慣れていなくて動きがだいぶ大雑把だが、スピードは十分出ている。

 しかし関節をむりやりアクセサリーで動かしているだけなので、筋肉を動かす必要がある攻撃スキルや回避スキルが殆ど封じられている状態だ。

 

 地上を走る俺を見て上空へ逃げる"独勝(アリア)"を「ヘルメスブート」で追いかける。

 やはり何か"独勝(アリア)"の動きは不自然な所が多い。脚も動かさずにあんな速度で動けるわけが無い。

 

「貝殻の中にガスでも詰まっているのか?いや、それなら気泡が出るはず……」

 

 このゲームは戦闘に於いても考察が重要になる場面が多い。あの高速移動のカラクリを解き明かせば機動力を大きく削げるかもしれない。

 

「見せてやるよ、俺の自慢の三途の川反復横跳びをなぁ!!」

 

 適当にインベントリから取り出した投げナイフを脇腹に突き刺す。

 俺のHPとVITならこれだけでも余裕で死ぬことができるダメージが発生し、システムによって死亡判定が行われるが、実際に死ぬ前にHPが猛烈な勢いで回復することで死を回避する。

 しかし死亡判定が行われた事実はそこにあるのだ。黒死の(まじな)い釘の効果が死亡判定が行われる度に発動し、どんどん補正が重ね掛けされてゆく。

 

 再び鋏を開く"独勝(アリア)"だが、あの通常の個体よりも大きい右の鋏の動きはゆったりとしている。

 

 さっきのあの閃光。恐らく現実にも存在する衝撃波で攻撃する不思議な生き物、テッポウエビが鋏でプラズマを発生させるのと同じような原理だと考えられる。あの右の鋏を勢い良く閉じることでプラズマと衝撃波を発射して、それで俺を吹き飛ばしたのだろう。

 

 となればあの鋏の正面に立つのは危険だ。奴が狙いを定めて鋏を閉じるよりも早く、奴の体の下に潜り込む!

 

グルンッ!

 

「んなッ!?」

 

 "独勝(アリア)"の体が空中で急速に回転し、正確に鋏をこちらに向けてくる。なんだこいつ、速いだけじゃなくて小回りまで利くのか!?

 

 閃光に目が眩み、再び視界が暗転する。視界がゆっくりと元に戻る中、粉々になった民家で俺は横たわっていた。

 一瞬死んでリスポーンしたのかと焦ったが、"独勝(アリア)"が真っ直ぐ突っ込んで来ているのが見えてまだ死んでいないと判断する。運よく頭部や首などの重要な部位へのダメージは免れたようだ。

 

 奴の真下なら鋏も貝殻の音も届かない可能性を考えて潜り込んでみたのだが、あれじゃあ無理だ。速度が足りていない。

 リスポーン前提でスキル全発動で特攻を繰り返す手もあるが、なるべくこいつをここから動かしたくないので、タイムラグがある方法はあまりとりたくない。

 

 "独勝(アリア)"から逃げ回りながらも奴の姿をよく観察する。

 一番気になるのはあの背負っている巻貝……なんというか、巻貝にしてはなんか変なデザインというか、ゴツゴツしているような……というかあんなデカい貝存在するのか?まあファンタジーだからそういう貝も存在すると言われればそれまでだが、もしかしてあれは……

 

「あっぶねぇ!!?」

 

 "独勝(アリア)"が鋏を閉じる瞬間、耳を塞いで全力でジャンプして範囲外へと逃げ出す。

 背後を何か熱いものが一瞬通り過ぎ、衝撃波によって吹き飛ばされる。

 

「うわぁ……」

 

 "独勝(アリア)"が鋏を向けていた方向に存在していたルルイアスの建築物が粉々になって吹き飛んで行く。鋏を閉じる衝撃波だけであの破壊力かよ。あれで俺死ななかったのか……水晶蠍(クリスタル・スコーピオン)(のろ)い釘ってやっぱりデメリット込みでもぶっ壊れだなほんと。

 

 空中で姿勢を直し、上から"独勝(アリア)"を眺めてどうしたものかと思案しているとあることに気が付く。

 

「ん?……動いている……?」

 

 あの貝から鳴っている音は二つ。一つは重く低い管楽器のような音で……もう一つはガラガラと何かがぶつかり合うような音。

 ヤドカリの方がアグレッシブに動きまくっているのでちょっとハッキリと確信できているわけではないが、音で振動しているのとは別にあの貝が時々モゾモゾと動いているような……そんな気がする。一つの仮説が俺の中で浮かび上がってきた。

 

「貝の中に別の生き物がいて。それが内側から貝を押したり音を鳴らしたりしているのかと考えていたが……答えはもっとシンプルなのかもしれないな」

 

 それを確かめるには取り敢えずあの殻を攻撃してみる必要がある。

 

「そもそもなんでその音には呪いがついているのか……ユニークモンスターのような例外を除けば、呪いっていうものはアンデッドモンスターが使うものだろう?」

 

 スキルのリキャストタイムを調整しながら暫く逃げ回り、"独勝(アリア)"が高く飛び上がったタイミングでスキルを起動。空に向かって全速力で落ちる!

 

 急激な加速に対応が遅れたのか、鋏がこちらに向けられるよりも速く、黒死の抱擁をその巨体に突き立てながら"独勝(アリア)"の横を通り過ぎる。

 黒死の抱擁の刃が殻に触れたその瞬間から確かに何かを斬っている重さを感じ取り、灼毒馬釘の出力を上げてそのまま振り抜く!

 

「ギュアアアアアアアアア!!!!!?」

 

 叫び声を上げたのは"独勝(アリア)"ではない……背負っている殻の方だ。

 先程までどう見ても異常にデカいことを除けば普通の巻貝のように見えていたそれがぐにゃりと歪み。真の姿を現した。ガラガラとその体を激しく揺らし、"独勝(アリア)"と共にルルイアスに墜落してゆく。

 

「やっぱりな……お前、貝殻じゃなくて骨……しかもアンデッドモンスターを背負っていたんだな。"独勝(アリア)"なんて名前をしているが、実は二人組だったというわけだ」

 

 アンデッドモンスターはもう飛膜が無くて骨だけなのに、生前にあった翼がまだあると信じているから飛べるような奴らだ。あの背中のアンデッドモンスターも多分そのタイプで、まだ鰭があると思い込んでいるから泳げるのだ。

 

 よく見れば殻の表面のパーツの中にかつて鰭だったのであろうボロボロの薄い膜がついている突起が存在しているのがわかる。最初は海藻か何かが引っ付いているのかと思っていたが、ちゃんとヒントは存在していた。

 あの機動力の正体は背負っているアンデッドモンスターが頑張って泳いでいて、"独勝(アリア)"はそれに運ばれているだけだったのだ。

 

「つまり背中のソイツを先に何とかすればこの音は止まるわけだ」

 

 墜落した"独勝(アリア)"の背中に乗っていたソイツはどうやら細長い体を巻貝のように巻いて貝の代わりにとなっていたようだ。墜落の衝撃で少し解け、その正体が顕わになる。

 

「あれは……タツノオトシゴ……?」

 

 ウツボとかウミヘビみたいな生き物だと予想していたのだが、その正体は尻尾がめっちゃ長い巨大なタツノオトシゴらしきモンスターの骨だった。

 よく見れば奴の腹の中には無数の骨が詰め込まれており、それが腹の中でぶつかり合うことでこの呪いの音色を発生させているようだ。

 

「ブオオオオオオオオ!!!!!」

 

「うおっ!?」

 

 タツノオトシゴはもう貝殻に擬態するのを止めたのか、顔をこちらに向けて吻から騒音を鳴り響かせる。

 その音の振動によって再び体が硬直してしまい、そこに"独勝(アリア)"の鋏が向けられる。

 

「なんじゃその凶悪なハメコンボは!?」

 

 鋏が閉じるよりも早く、黒死の(まじな)い釘によって上昇した状態異常耐性のお陰で硬直が解除され、ギリギリで衝撃波の直撃を回避する。

 

「あっぶねぇ……ここからが本番か……!」

 

 奴らを怒らせてしまったようで、ガラガラと鳴り響く骨の音がどんどん大きくなってゆく。音を聴くだけで呪われるという性質上、音量の大きさがそのまま危険範囲の拡大に繋がる。

 早くなんとかしないと……!




スーマラン・シュヴァラゴン・スケルトン
海に生息するアンデッドモンスターであり、スーマラン・シュヴァラゴンがアンデッド化した姿。ほぼ骨だけになっている
生前の水流ブレスの能力が失われているが、その代わりに吻から呪いの音色を奏でる能力が追加されている。本人としては水を吸って吐いているつもりらしいが、吸った水は全部骨の隙間から漏れている
また、生前の高い擬態能力は引き継いでおり、海藻に似た鰭を失ったことで海藻に擬態するのは難しくなったが、代わりに海のゴミや貝殻などに擬態するようになった
生前がオスの個体は自分の腹の中に別の生き物の骨を詰め込もうとする習性があり、これは生前の子育ての記憶が残っていることが影響していると考えられている。この腹の中に詰め込まれた骨がぶつかり合う音もまた呪いの発生源となるため、スーマラン・シュヴァラゴン・スケルトンが多数生息する「海の墓場」は接近するだけでも呪い対策が必須となる

スーマラン・シュヴァラゴン
海に生息する体長三メートルから五メートルほどの大きさのタツノオトシゴに似た姿のモンスターであり、単体では海の食物連鎖の下の上くらいだが、大きな群れで行動することで中の下くらいの強さとなる
特徴的な長い吻から水を吸って魔力を込めて圧縮し、勢い良く吐き出す水流ブレスは人間が相手なら余裕で穴が空く。なおシャンフロの海の中ではそこまで大した威力ではないので、基本は狩れそうな獲物が向こうから寄って来るのを擬態しながら待っている
鰭が海藻に似ており、漂ったり長い尻尾を撒きつけて海底に体を固定することで海藻に擬態する。若干の認識阻害能力を有しているため、見分けるのはなかなか難しい
時々天敵に立ち向かったり縄張りから移動したりするために仲間と尻尾を絡ませ合って一体の巨大なモンスターに擬態する姿が確認されている
オスが出産する珍しいモンスターとして知られており、お腹に袋があって膨らんでいる方がオスである

なお、主人公が今回遭遇した個体は通常個体の数十倍の規格外サイズ。どうしてそんなに大きくなっちゃったのかは謎。これまでに誰も観測できていなかったのでこいつは二つ名個体ではない
或いはこいつも含めて"独勝(アリア)"とも言える
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