シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~   作:葛饅頭

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泥堀りくんの名前凄く間違えやすい


暴徒と泥遊び

「クソデカい沼だなぁ……」

 

 足を踏み入れると走れなくなる沼が次の街への道を遮るかのように広がっている。ボスの……なんだっけあいつの名前。泥遊びだか沼堀り堀りだったか忘れたが、恐らくここに居るのだろう。

 よく見てみれば泥沼の中には点々と岩の足場が存在しており、あれを利用すればスキルのリキャストタイムの間逃げ続けることもできるかもしれない。今のうちに位置を把握しておこう。

 

 沼の中をゆっくりと歩いていると、沼から振動が伝わってくる。今から大型の何かが出てきますって感じの揺れだ。どうやら戦闘開始地点にまで踏み込んでいたようだ。

 

「シャアアアアアアアア!!」

 

「鮫……え、何この生き物……?」

 

 沼が膨れ上がったかと思えば、そこから現れたのは鮫?の化け物だった。

 普通の鮫かと思ったら四肢があるし、髭も生えている。なんなんだこの生き物は。名前は「泥堀り(マッドディグ)」と言うらしい。

 

 再び沼に潜ったマッドディグは鮫らしく背びれだけを水面から出して突撃して来る。

 「トレイルランニング」を発動すると、脚に重く纏わりついていた泥がただの水よりも軽くさらさらとしたもののようになり、軽快に走れるようになる。

 

 マッドディグが俺の目の前まで来たところで少しだけ溜めるような動作をしてから泥の中から大きく口を開けて飛び出してきた。

 左へ泥に飛び込むようにして回避したが、振り返った時には既にマッドディグは泥の中に潜っており、ぐるりと回って再びこちらに突撃して来る。

 

「こんな避け方じゃ攻撃後の隙を狙えないな」

 

 それに泥まみれになるしな。こんな所までリアルに作りやがって。

 まずはあいつの動きを止めよう。

 

「これが効けば楽なんだが……なああああああああああああああああ!!!!!」

 

「シャアアッ!!?」

 

 効かなかった時のために避ける準備をしつつ「威嚇の咆哮」を試してみると、沼の中から勢い良くマッドディグが飛びあがって俺の目の前の泥へと体を叩きつけた。

 

「ラッキー、大きな音が弱点だったか」

 

 ビタンビタンと跳ねているマッドディグの頭が丁度俺の目の前にある。こんなのどうぞ頭をぶん殴ってくださいと言っているようなものだ。

 残りスタミナは四分の三くらいか、できればスタミナマックスで使いたいので「トレイルランニング」を中断して「アージェントチャージ」、「ハイエンデュランス」、「剣を拳に拳を剣に」を同時発動する。

 

「くらえ最大火力!「フルパワースイング」!!」

 

 マッドディグの鼻先に叩き込まれた沼鉄の鈍直剣から激しくエフェクトが飛び散り、まるでバットでボールを打ったかのような小気味良い音と肉と骨を思いっきり叩き潰したかのようなエグい音が混ざったかのような混沌としたSEと共にマッドディグの巨体が空高く打ち上げられて宙を舞う。

 ボスでもあれだけ吹っ飛ぶんだなぁ。マッドフロッグで試した時は吹っ飛びすぎて素材回収が面倒だったな。

 

 空中で何回も回転してから沼に叩きつけられたマッドディグはスタンしているようでほとんど動かない。攻撃チャンスなのだがスタミナ切れで動けないし距離が遠いしトレイルランニングもリキャストタイム中で追撃しに行けないので、スタミナ切れによる硬直から回復してから近くにあった岩場の上に乗って次の攻撃に備える。

 武器を貪食蛇の刺剣に切り替え、次は毒によるスリップダメージを狙う。

 

 スタンから回復したマッドディグが再び沼に潜り、背びれを出したまま突撃して来る。

 

「遠距離攻撃はなさそうだな……いや、こいつも急にうんこ飛ばしてくるかもしれないし、ゲロくらいなら普通にあり得そうだな……」

 

 一番最初のボスが大蛇でうんこ発射してくるのは人によってはめちゃくちゃキツイんじゃないかなあれ。いろんな意味で。

 

 岩場の上に居る俺目掛けて跳びかかってきたマッドディグの歯にレイピアの刃先を当てて、「レペルカウンター」を発動してはじき返す。

 岩場に乗り上げてしまったマッドディグが急いで沼に戻ろうとするところを「スパイラルエッジ」で突き刺すと渦巻く紫色のエフェクトがマッドディグに複数回ヒットする。

 うん、ちゃんと効いているな。やっぱりあの狼がおかしいんだ、初心者用エリアに出てきていい性能じゃない。

 

 マッドディグのおおよその動きは把握した、ここからはこっちから攻めさせて貰おう。

 「一艘跳び」でジャンプ距離を稼ぎ、再び沼に潜ろうとするマッドディグの背中にレイピアを突き刺して動きを中断させる。

 

「「フリースケーティング」と「トレイルランニング」を同時起動だ!」

 

 回避を意識した動きをする度に加速するのを利用して高速ですれ違いながらマッドディグの皮膚を切り裂いていく。

 マッドディグの攻撃は射程が長くない。このままヒットアンドアウェイを意識して戦い、潜らせなければ勝てる……と言いたいところだが、スタミナ消費がヤバい。もう息切れしそうなので岩場の上に撤退してスキルを中断する。これあれだな、回避のスタミナ消費を軽減するスキルは必須だな。

 

「毒になってるかな?」

 

 リアルなのはいいことだが、ぱっと見で相手が状態異常になっているのか分かりづらいのが不便だな。

 ダメージを与えた部分の色が紫色に変色しているのを確認してグレーブレードに持ち替える。

 

  またまたマッドディグが突進してきた。動きが非常に分かりやすくて助かるな。

  スタミナが回復するまで岩の上での回避に徹しながら頭の中でシミュレーションを重ねる。

 

「はいここ!」

 

 マッドディグの噛みつきをしゃがんで回避し、前脚を掴んで「カウンタースロー」を発動する。

 突進の勢いを利用して回転し、その勢いのまま回転の軸を傾けてマッドディグを振り上げて頭から岩場に叩きつける。

 

 悲鳴を上げてのたうち回るマッドディグの頭部に無尽連斬を叩き込めばクリティカルの嵐だ。こういう多段ヒットスキルにもヒットするほど威力が上がるスキルとかそういうのないかな?

 

 殴られのたうち回り、少しずつ位置がずれていったマッドディグが岩場から沼へと転げ落ち、沼へと潜っていく。

 

「……上がってこないな?」

 

 あの沼の底はかなり浅い筈なのにさっきからどうやってあの巨体で沼に潜っているのか謎だったが、遂に背びれすら出さずに完全に潜ってしまって出てこなくなった。

 

「……あ、上がってきた」

 

 何だったんだ今の間。

 まあいいや、流石にもういい感じに削れているだろう。武器をまた沼鉄の鈍直剣に切り替えて……

 

「ああああああああ!!!!!」

 

 咆哮して動きを止めて……

 

「ホームラーン!!」

 

 思いっきりぶん殴る!!

 

 空高く打ち上げられたマッドディグはそこでHPが尽きたようで、空中でポリゴンとなって爆散した。たまやー。

 

「ふぅ、これでようやく先に進めるな……」

 

 沼の中へボトボトと落ちていったマッドディグの素材を拾い集めて沼から抜け出す。

 

 噂によるとこの先の街、サードレマはファンタジーな大都市なんだとか。それにそこからは攻略ルートが複数に分かれているらしい。ここからが本番ということだろう。

 

「新しいエリア、新しい素材、新しいスキル……いいねぇ、久しぶりだなこのワクワク感は」

 

 途中、明らかにここで泥を落としてくださいと言わんばかりの綺麗な泉にダイブして、びしょ濡れのままサードレマへと歩みを進めた。

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

 サードレマ。城郭、上層、下層と三つのエリアがホールケーキのように重なっている大都市だ。これまでの街とは規模が違う。

 NPCもプレイヤーも圧倒的に多い。正直言って人見知りコミュ障の俺にはちょっと居心地が悪い。

 

「次のエリアは千紫万紅の樹海窟、栄古斉衰の死火口湖、神代の鐵遺跡か……」

 

 宿屋のベッドで寝転がりながら次に攻略するエリアを考える。

 

 どうやら進んだルートによって辿り着く街も変わるらしい。ただどのルートでも最終的にはフィフティシアという場所で合流することになるそうだ。

 行ったり来たりしながら全ルート攻略はめちゃくちゃ面倒な作業になりそうなので、どれか一本のルートに絞って攻略した方がいいだろう。

 

 神代の鐵遺跡は出てくるモンスターが基本的に毒が効かないロボ的なやつらしいのでパス……そういやこのゲームSF要素もあるんだった。今後SF要素が増えてきたらDOTで戦うのは辛くなりそうだな……

 

 となると樹海か死火山に行くことになるわけだが、まずは試しに両方とも行ってみるとしよう。

 樹海にも火山にも毒を使うモンスターが居るらしいし、火山では新しい鉱石が採掘できるんだとか。つまり武器の強化ができるということだ。

 

「その前に街の観光でもしておこうか」

 

 これだけ大きい街だと観光だけで寝る時間になってしまいそうだな。まずはどこから見ていこうかな。

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

 このゲームの自由度は凄まじく、大体のことはやってみたら本当にできちゃったりする。

 そんな世界だからか戦闘にはあまり向かない生産職の人気も高いようで、中には全く外に出ずにずっと工房にこもって物作りに熱中しているプレイヤーというのも珍しくないそうだ。

 

 しかし生産職が武器やアイテムを作るのには当然素材が必要な訳で、金で買えないものは自分で取ってくるか誰かに取ってきてもらう必要がある。

 

「毒蜥蜴の肝、買取強化中?」

 

 恐らくポーションなどの薬を取り扱っているのだろう「ニトロ薬局サードレマ支店」という名の店の前にてそんな張り紙が目に入って足を止める。

 確か栄古斉衰の死火口湖にはポイズンリザードというモンスターが居るのだとか。恐らくそいつのドロップアイテムのことなのだろう。

 

 ちょっと気になったので中に入ってみる。

 中は所々に火がついたダイナマイトのエンブレムがあることを除けば普通のお店の内装であり、棚には商品らしきポーションが並べられている。

 

「お、いらっしゃいませー。どうぞごゆっくり見ていってくださーい」

 

 メニュー画面を開いていた女性の店員がこちらに気が付いて声をかけてきた。頭の上には『無塩加薬』とプレイヤーネームが表示されている。

 ここはNPCではなくプレイヤーが開いた店なのだろうか?

 

 とりあえず商品を一つずつ手に取って確認していく。これはHP回復ポーション、これはMP回復ポーション、これは……へぇ、スタミナ回復ポーションもあるのか。いいね、試しに一つ買ってみようか。

 他にも商品を眺めていると、錬成毒というアイテムが目に入る。何種類か並んでいるが、なんか一つだけやたらと値段が高い。

 この値段の差がなんなのかわからないし、そもそも錬成毒というアイテムを知らない。こういう時は店員に聞けばいいんだろうが、人見知りの俺にはそれがとてつもなく高いハードルに感じる。

 

 最近ようやくNPCと話すのに少しだけ慣れてきたのだが、やっぱり人間と話すとなるとどうしても色々と緊張してしまう。

 というかよくよく考えたらシャンフロでここまでプレイヤーと一度も話したことが無いな俺。他のオンラインゲームでも基本的に挨拶以外無言だが、このゲームでは挨拶すらしていない。

 ここから先全部NPCとだけ関わってプレイしていくというのはどこかで問題が出てくるだろう。人と話すことに慣れなければ……!

 

「あ、あの、スミマセン……」

 

「なんでしょうか?」

 

 頭の中であらかじめ喋る内容を考えておいてあるのにそれがそのまま口から出てこない。

 もうここまで来たら止まれない、覚悟して話を続ける。

 

「えっと……このぉ、錬成毒ってどんなアイテムなんです、なんでしょうか……?」

 

「それは薬剤師やその上位職が作ることができる特殊な毒ですよー。通常の毒とは別枠判定なので、通常の毒と合わせて二重のスリップダメージを与えれれるんですよー」

 

 何それ強い。DOTで削っていくなら必須アイテムじゃないか。

 しかし薬剤師は魔法職だ。これを作るのにはMPが必要になるのだろう。となると俺がこれを使うには買うしかないわけだ。

 

「因みにその錬成毒は千紫万紅の樹海窟に出てくるエンパイアビーの毒を使っているので、大体その辺りの強さの相手にまで効きますねー」

 

 素材によって毒の強さも変わるということか。ここでこの錬成毒を大量に買ったとしても、後半のエリアになると通用しなくなるというわけだ。

 

「じゃあ、この高いのは……?」

 

「ポイズンリザードの毒ですねー。それ凄いんですよー」

 

 エンパイアビーとポイズンリザードは出てくるエリアは違うがエリアの難易度は同じくらいのはず。なのにここまで値段に差が出る程毒の強さに違いがあるのだろうか?

 

「火をつけると爆発します」

 

「爆発」

 

「ええ、そりゃもう派手にドカンと」

 

 爆薬だった。相手を毒にした上で爆発でダメージを与えて、上手く行けば更に火傷にもなるという凶悪なアイテムだった。

 ポイズンリザードの肝を乾燥させて粉末にしたものに着火すると派手に爆発するそうで、一部の悪いこと考えている人たちが沢山欲しがっているんだとか。それで毒蜥蜴の肝はいつも品薄状態らしい。

 

 ポイズンリザードを狩ればいいお金稼ぎになりそうだなとか考えつつ、スタミナポーションとエンパイアビー由来の錬成毒をお試しで一つずつ購入して店を出た。




主人公はタイミングよく岩の上にいたので偶然打ち上げ攻撃を回避しています。何回も序盤のボスでやり直すのをわざわざ書く必要があるのかと考えた結果こうなりました

主人公がこれまで遊んできたゲームで他プレイヤーに対して交わす言葉は基本的に「よろしくお願いします」と「ありがとうございました」の二つだけでした。キチンと会話することは稀です
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