シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
暫くスチューデを振り回しながら触手を避け続けて、その間みんなの戦闘を観察していて分かったことがある。
それはあの太い触手には物理も魔法も効かないことと、細い触手は攻撃すると引っ込んで消えること。
そして太い触手と細い触手はエリア端にはあまり届かないこと。
「ここならあの触手はあんまり飛んでこない。エムルちゃんと一緒にここで待機していてくれ」
「オエェ……」
「ごめん振り回し過ぎた」
「戦ってないのにグロッキーですわ!?」
先にサンラクによってエリア端に避難させられていたエムルちゃんにぐったりしているスチューデを預ける。
ユニークモンスター戦は参加している人数によって難易度に補正が入ると思われる。俺が参加したことで上昇した難易度分の仕事はしなければ。
「派手にやらせてもらおうか」
恐らく細い触手一本一本の耐久力はそこまで高くない。まとめて根こそぎ剃り落としてやろう。
「スゥー……「
太い触手の表面を空気の刃が滑り、一度に十本細い触手を斬り裂く。
細い触手を減らせば減らすほど回避も楽になる。ここまで温存したり浪費したりしたリソースをこの一戦で使い切るつもりでいかせてもらおう。
「「ソニックカノン」!「サウンド・グレネード」!!「
別にスキル名は声に出さなくても発動可能だが、こっちの方が確実かつ、味方がいる時は味方への合図となるので声を出すのは重要だ。味方を巻き込みやすい範囲攻撃なら尚更である。
「根元の方の触手は任せて下さい!」
「オッケー頼んだ!!」
スキルを起動し、空中を蹴って上へと駆け上がる。
ここでなら
「何あれ!?飛んでるんだけど!?」
「ぶんぶん丸氏、会う度に挙動が人間離れしていってるな……」
サンラクよ、多分お前もそのうちスキルが進化してこんな挙動をするようになると思うぞ。
このゲームの運営はプレイヤーをどんな化け物に進化させようとしているんだか……
「手荒に使うけど耐えてくれよ。
しかしそこは蠍素材とムンクさんの鍛冶の腕。どれだけ触手をぶった切っても剣身には一切の歪みすらない。このまま細い触手を全部引っ込めさせてツルツルにしてやろう。
「纏めて来いよ、そっちの方が楽だ」
お望み通り一斉に襲い掛かって来る無数の触手。
優先順位をつけて「
「お、今ので最後?」
ツルツルになった太い触手が大きく動いたと思ったら、そのまま魔法陣の中へと引っ込んでいった。どうやら攻略法はこれで正解のようだ。
一旦下に降りてクターニッドの次のアクションを待つ。
「……くっ……くそぉ!や……やっぱり僕様も戦うぞ……!!」
「そうですわ!アタシ達だって戦えますわぁ!!」
スチューデとエムルちゃんが飛び出そうとしたその時、再びクターニッドの声が響く。
『揺るがぬ心で進め』
何らかのメッセージだろうか?それと音量下げてくれない?
何かしてきそうな感じがするのでスチューデとエムルちゃんを避難させた方が……おや?
「あ……ああぁ……駄目だ……震えが……立てな……ぃ」
「ふえぇぇ……!!眼が怖いですわぁあぁー!!」
今の声に威圧効果でもあったのか、スチューデがその場でへたり込み、エムルちゃんが逃げ出す。
それだけではない。先ほどまで勇敢に戦っていたシークルゥやアラバまで頭を抱えて震えている……
「NPC専用状態異常かよ……!」
今度は一気に三本の太い触手が伸びてきて、俺達を囲むように地面に突き刺さる。
全方位から一気に触手が来る……!!
サンラクがアラバを、秋津茜がシークルゥを退避させるべく動き出す。
ならば俺はあの触手を可能な限り素早く処理して安全圏を作り出す!
機動力を強化するスキルを一斉に起動し、縦横無尽に空中を落ち続ける!!
「はぁああああああッ!!!」
同時に伸びる触手の中でもサンラクと秋津茜に向かって伸びているものを選び、レイピアで叩き切る。
「
「こういうゲームは得意なんでね……!」
仕事でいつも最終的にアホみたいな難易度になるスコアアタックゲームのテストプレイをしているからな。これくらいの情報量は一瞬で処理できないとカンストスコアは出せない。
俺を叩き落とそうとする無数の触手に囲まれる。ヘイトを集めすぎたようだが、むしろ好都合だ。
「面積も量も足りていないね!」
「
俺を押し潰そうと一気に押し寄せた触手が何もない虚空を潰し……いや──
「そんなにソレが欲しかったのか?悪いが非売品だ」
触手に潰されたリーダー特製の爆弾が起爆し、轟音と同時に触手がバラバラになってまとめて吹き飛んだ。
やはり爆薬は良いものだ。魔法はいつでもどこでも使えて便利だが、爆薬は予め蓄えておけばいざという時にサッと大爆発を起こせる。インベントリなんて便利な物があるのだからこれを戦闘に活用しない手はない。
サンラクと秋津茜がNPCを安全圏に退避させ、サンラクがエリア端から戻ってきた。秋津茜は動けないNPCを守るためにあの場に残るようだ。
「ぶんぶん丸氏、囲まれると危険だ!俺と二人で一本ずつタコ足を受け持とう!その間にレイ氏とルストモルドは一本のタコ足を集中的に狙って本数を減らしてくれ!!」
「了解!」
俺は作戦を考えたり指示を出したりするのは苦手だ。サンラクはそういうの得意そうだし従っておこう。
この触手、一本だけなら正直大したことはない。細い触手も理不尽な攻撃はしてこないし攻撃後は暫く止まる。
「ウェザエモンのような理不尽さが今のところないな……」
あの初見殺しかつ即死だらけの技の数々と比較すると今のところかなり優しく感じるのだが、相手はウェザエモンと同じユニークモンスター。恐らくまだまだ隠しているヤバい要素がどこかにあるはずだ。
いつ必要になるかわからないのでリキャストタイムが長いスキルを温存しながらも確実に触手を一本一本潰してゆく。
灼毒馬釘のおかげで攻撃スキルや回避スキル無しでも戦えるようになった影響はかなり大きい。スタミナの消費は激しいが、回復したくなったら隙を見つけてオフにするだけでいいのも素晴らしい。
「これで最後!」
俺が担当していた太い触手から伸びる細い触手の最後の一本を切り落とすと、また太い触手が魔法陣の中へ引っ込んでいった。
サンラクの担当の触手と、サイガ-0、ルスト、モルドの担当の触手も細い触手の処理が終わったようで、魔法陣の中へと引っ込んでゆく。
「やりましたね!!コレで全部のタコ足を引っ込めさせましたよ!!」
これで残っているのは魔法陣と本体だけだ。さて、ここからどうなる?
様子を窺っていると、魔法陣の中央を通って本体の黒い塊が落下してきた。
「本体が落ちてきた!?」
ドチャっと音を立てて落下してきた黒い塊。第二形態か?いや、最初に地下で遭遇したのを含めると第三形態?
「気を付けて!」
「あぁ、また変形して次のフェーズってところだろう!いいぜ来いよ……!!」
ここからどう変化するのか……と思っていたら黒い塊から泡が出てきて……いや、泡に変化していって……弾けて……?
「……え?は?消滅……した……?」
消えてなくなってしまった。いや流石にこれで終わりでは無いと思うが……
「ん?」
「ぴぇ?」
「おおっ!?動けるでござる……!!」
あ、NPC達が動き出した。ここから先ずっとNPCを守りながら戦うことになったらどうしようかと……
「あれ?マジで勝ちなの?」
「なっ……何を呆けているんだお前達!!深淵の盟主があの程度で終わるわけないだろう……!!奴は上だ……!!」
「上?」
アラバに言われて空を見上げると、空に浮かんでいた魔法陣が複雑に変形していることに気が付いた。
どうやらクターニッドの本体はあの黒い塊ではないようだ。
「更に形態変化……!!」
「次は一体どんな見た目に……!?」
『届かぬ高みはなく、されば至りて後に人は何処へ征く』
何を伝えたいのだろうか?ゲームの話ならエンディングを見たらクリア後要素をやって、隠し要素を探して、収集要素を全部埋めて、やり込み要素をやり込んで、後は対人戦やタイムアタックかな?RTAはよくやるぞ、俺の特技は乱数調整だ。
魔法陣が立体的に変形してゆき、暫く眺めていると線で構成された八本足のタコのように見える姿に変化した。
魔法陣がクターニッドの姿になったのか、あるいはクターニッドとは魔法陣なのか……よくわからないが、変形は終わったみたいだし、ここから何かしてきそうだ。
「それが第三形態か……!!さぁどう来る!?深淵のクターニッド!!」
「あれ物理攻撃効くのかな……ん?」
『信ずる己を見出せ』
クターニッドの四本の触手の先端からそれぞれ光が放たれ、それが消えるとそこには四つの……杯?が出現していた。
その直後、杯を握る四本の触手以外の残り四本の触手が突然切れて地面に落下する。
また四本……やはり封将が関係しているのか?封将を倒していないと八本の触手全てに杯が……ん?
「うおっ、眩し……!?」
『世界が変わり果てようと根幹は揺るがず』
杯から青い光が放たれ、視界が真っ暗になる……あれ?でも光が差し込んで……なんだこれ?急に犬面がズレたのか?
一旦装備し直そうかとメニューを開いて……なんだ?服が……手袋もブカブカだ。まさか装備のサイズがズレている……!?
「なんじゃこりゃ?仕方がない、防具を全部外すか……」
防具のスタミナ補正が無くなってしまうが、その防具がこんなブカブカではそれどころではない。
なんとかメニューを操作して防具を全部外す──
「ん?」
なんか、視線がかなり低い。今「
「身長の反転?みんなは……え?」
後ろを見てみると……そこにはなぜか半裸の知らない女性がいた。
「「誰!?!?」」
反射的に金晶弩針剣を構えて……ふと気が付く。
あの装備、あの傷跡のような黒い痣……もしかして……
「……サンラクさん?女性アバターだったのか?」
「え、いや、俺は男アバター……え?は!?んなっ……!?なんじゃあこりゃぁああ!!」
……なるほど、わかったぞ。これは身長の反転じゃない……性別の反転だ。
「ということは……!」
自分の手のひらを見つめるが、明らかに小さい。「
インナーが女アバター用の水着みたいなやつになっているし、腕が短いし脚も短い。髪は伸びてなんか白髪になってる。あ、良く見たら肌も元より白い。でも痣はそのままだ。
今まで頭から指先まで全身を覆い隠す装備をしていたからあまり気にしていなかったけど、脱ぐと全身にドス黒い痣が広がっているのはなんかちょっとアレだな……
「サンラクさん、俺は今どうなっていますか……?」
「えっと、ぶんぶん丸氏……だよな?あー……全身痣だらけのアルビノ幼女?」
「やっぱりぃ……」
うわぁ、声も高い……コナツのせいで幼女アバターに慣れてはいるが、体重が軽くなったのがどこまで響くかだな……
真っ黒な装備を長期間身に着けていて肌も呪いで黒く、そして最初のキャラメイクの限界の身長という要素が反転してアルビノ幼女になってしまった主人公。なお反転した瞬間から呪いで全身黒い痣だらけになる模様
髪がちょっと伸びていて、手足は結構長めにキャラメイクしていたのが反転して胴長短足になっているため、かなり幼女感が強い。瞳の色はそのまま黄色。実は鯖癌のアバターにちょっと似ている
全く関係ない話ですが、この作品を書く前にボツになった幸運全振り主人公は幸運数千で反転したせいで胸のサイズがとんでもないことになるというネタにしようとして、一発ネタにしかならんし最悪R-18送りになっちゃうということでボツになりました
お色気ネタは俺には扱いきれぬ……