シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~   作:葛饅頭

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コミック版シャンフロの単行本二十一巻発売記念に更新です


暴徒と赤

「うげぇっ!?」

 

 亀裂を通り抜けた先、それなりの広さがある空間へと放り出された俺は薄く水が張られた冷え固まった溶岩の床に不時着した。

 

 この空間は周囲が冷えて固まった溶岩に囲まれたドームとなっており、天井の亀裂から水がどんどん入り込んできている……しかしその水によってこの空間が満たされることは無いようだ。

 決してそれはゲームならではのご都合主義ではなく──

 

「Folololololololololo……」

 

 ドームの中央に存在する謎の存在……モンスターと呼ぶにはあまりにも異質な何か。

 丸っこい胴体?から四つの何かよくわからないくしゃくしゃとしたものがちょこんと生えている。

 

 全身から溶岩のように光と熱を放っているようで、奴の周囲の水がどんどん蒸発しており、ずぶ濡れだった俺の体ももう乾いてしまっている。

 

「これは……ルルイアスの「青色」とかそれに近いものなのでは……」

 

 しかし襲い掛かって来る様子はない。

 こちらから何かしない限り動かないタイプか、あるいはメタ的にまだ未実装のコンテンツだけど設定上ここにいるという可能性もある。

 

ブルブルブルブル……!

 

 末期看取る空蝉(ファントム)がさっきからずっと震えている。

 目の前のそれに怯えている……のか?あるいは俺に警告してくれているのか、それともこれがコイツにとっての威嚇だったりするのかも……兎に角ヤバそうなことはわかる。

 

 とりあえずファントムを構え──

 

「qiqiqiqiqiqiqi……」

 

「おおっと?」

 

 明らかに奴の声が変わった。

 この空間で奴と敵対したら熱で瞬殺されそうなので一旦武器を下すと、奴の声が直ぐに元通りになった。

 

「敵対の意思を見せると襲ってくるのか……」

 

 暫く色々と試してみたのだが、武器を構えるのがダメなのではなく、敵意そのものがアウトっぽい。こいつもプレイヤーの脳に直接干渉するタイプなのか……

 逆に言えば敵意ゼロなら結構近づけるのだが、近づくだけでえげつないスリップダメージで普通に死にかける。とんでもない熱量だ。ここに来る前に一旦死んでファントム十本分の呪いをリセットしていなかったら瞬殺されていただろう。

 

「しかし折角隠しエリアっぽい所に来れたのに、特に収穫無しというのもな……」

 

 このエリアにはコイツ以外特に何かがあるわけではない。やっぱりここはコイツと戦うためだけの空間だったrあ、違うんです敵対する意思はないんですよホントへへへへへ……

 

「ホント何なんだろうなコイツ……」

 

 とりあえずスクショや録画もしてみる……うわ眩しくて全然映らねぇ。もうちょっと光抑えられない?

 

「仮にこいつと戦うなら炎耐性を……耐性程度で何とかなるのかコイツ?」

 

 どれだけ耐性高めても問答無用で消し炭にされそうだな……防火服を着れば太陽に突入しても大丈夫!とはならないだろう。無いよりはあった方が良さそうだが。

 

「一応この防具もかなり炎耐性高めのはずなんだけどな……ん?炎……?」

 

 また何か重要なことを忘れているような気がする……確か炎がどうとか。いつの話だったかな……

 

 何か思い出せないかとインベントリを漁る……あっ。

 

「そうだ種火だ!ルインヴァル!」

 

 ムンクさんが言っていた「種火」というワードを思い出した。

 どこからどう見ても普通ではないコイツの炎がワンチャン種火として使用可能なのではないかと思いつく。

 

「……で、どうやって種火を貰えばいいの?」

 

 まさか倒したらドロップとかじゃnああ違うんですそんな戦おうなんて物騒なここは穏便に話し合いといきましょうハハハハハ……

 

「あの、すみません……ちょっとその、種火をね、分けていただきたいのですが……」

 

 ルインヴァルを両手で持ち、地面に膝をついて奴に捧げるように前に出す。

 これで熱でルインヴァルが壊れたら俺は泣く。さっきから防具の耐久がどんどん減って行ってるし普通にあり得る。

 

 さて、奴の反応は……?

 

「Vivivivivivivivivivi……」

 

「おお……?」

 

 今までの警戒音とは明らかに違う声が響く。

 完全に敵対したというわけでもないようで、ボロボロのルインヴァルに意識を向けているように見える。

 

 何かフラグを踏んだっぽい。しかし……ここからどうすればいいんだ?

 

 その状態が暫く続く。

 あの、そろそろ防具の耐久値とか色々と不安なので何かそちらからアクションしていただけるとさいw──

 

「Voooooooooouuuu……」

 

 奴から四つ生えているくしゃくしゃとしたそれが広げられ……それが蝶のような翅であることに気が付く。

 しかし翅は翅でも灼熱の翅。撒き散らされるのは鱗粉ではなく灼熱の熱風で──

 

「アギャーッ!!?」

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

 至近距離で熱風を浴びた俺は一瞬で火葬されてこの世から姿を消した。まあ即リスポーンするのだが。

 

 幸いなことに中身が豆腐以下のゴミ耐久であったため、防具が壊れるよりも先にリスポーンすることに成功し、作ってもらったばかりの防具は失わずに済んだ。

 

 そして──

 

 

 

 

 

・朽ち灯りしルインヴァル

再起への炎を宿した英傑の武器。

未だ本来の力には程遠く武器として使用する事は難しいが、槍に宿った真なる炎は呪われし槍に二つの道を照らし示す。

 

 

 

 

 

 これは……成功でいいのかな?

 

「……ということがありまして……」

 

「なるほど……まさかあの火山の中にそんなものがあろうとはな……」

 

 というわけでムンクさんにルインヴァルを見せに来た。あとついでに防具の修理も頼んでおいた。

 

「これで修復できるんですか?」

 

「ああ……だが、こいつを鍛えるには少し特殊な素材と燃料が必要になる」

 

「特殊な?」

 

「まあお前さんなら直ぐ用意できるだろうが……「価値のある物」だ。こいつはそれを求めておる」

 

 価値のある物かー……

 

ゴトゴトゴトゴト……(水晶巣崖産の素材をインベントリから次々と取り出す音)

 

「これでいいんですかね?」

 

「まあそういうことだな……それと搗星(かちぼし)を暫く貸しとくれ。それで火を起こす」

 

 武器が求めているものが分かるとかかっこいいな。メタ的には必要素材一覧的なのが見えているのかもしれないが、俺の職業は鍛冶師ではないのでその辺りは不明だ。

 それにしても価値がある物とは、随分とざっくりとした要望だな。あの本にも価値と何回も書かれていたし、価値というワードが重要なのかな?

 

 しかも恐ろしいことに山のように積み上げられた水晶巣崖産の鉱石の数々だが、ムンクさん曰くこれでも全然量が足りないとのこと。

 どんだけレア素材要求するんだよこの槍……しかも穂先を鍛えるのには「黄金」の素材が望ましいとか……つまり金晶独蠍(ゴールディ・スコーピオン)の素材を取ってこいってことだよね?この槍一本直すのに数百億マーニの金がかかるのでは?

 

 というか直してもリュカオーンの刻傷のせいで両手持ちの武器は微妙なんだよなぁ……槍自体は結構好きな武器なんだけど……

 まあそれでも直してみた時の性能が気になるから直すんだけどね。それじゃあ水晶巣崖に行って来まーす!

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

 二属性シャチ防具一式は修理中なので、聖杯で性転換してからの葬奏骨装(アントニア)一式を装備……今の俺はゴスロリ幼女である。

 

 この装備、セット効果で呼吸を止めている間は気配が薄れるのだが、なんといつもは俺が一定範囲内にいるだけで挙動不審になるNPCが至近距離で直接顔を覗き込んだりしなければ反応しないレベルにまで気配が薄くなる。しかも呼吸を止めていても息が苦しくならない。こんな見た目でも変装用装備としてかなり完成度が高いのだ。

 ただこの見た目のせいで視線をかなり集めてしまう……しかし俺の名前を見ても「ぶんぶん丸」という名前が変に広まり過ぎたせいなのか、真っ黒な犬頭の大男(不審者)と今の俺が同一人物だと気が付いたプレイヤーは今のところいないようだ。

 掲示板を見てみたら「ぶんぶん丸」や「ブンブン丸」といった名前でアバターを作る愉快犯が最近多いらしく、その中の一人か偶然名前が被った人だと思われているのだろう。

 

 因みに現在の俺は黒死の抱擁(ノリ・エイ・タンゲレ)がファントムに深化した影響で首からの出血がなくなっているが、その代わりに血が黒くなった影響なのか肌の色が暗くなっていて、性転換中は白い肌が暗くなることで灰色の肌に見えている。他にも刻傷も含めて全身のあちこちに黒い痣があるのだが、顔以外ほぼ全てを隠せる長さの服かつ、顔もボンネットで結構隠れている上に背も低いので、同じくらい背が低いアバターと遭遇するか、しゃがんで下から顔を覗きこまれたりでもしなければ違和感を持たれることはないだろう。

 

 

 

「うわぁ!あんな可愛い装備あるんだー!」

 

「アバターってあんなに小さく設定できたっけ?」

 

「ぶんぶん丸……?あのクターニッドを倒した……」

 

「名前が被っただけの別人でしょ。ぶんぶん丸は凶悪な面の大男だって聞いたぞ」

 

「目撃情報ではいつも犬の覆面をしているらしいぞ」

 

「最近の目撃情報では頭が燃えて電撃を放っていたとか……」

 

「流石にそれはデマだろ、なんだその化け物は……」

 

「ゴスロリ……イイネ……」

 

「声からして、まさかガチ幼女か……?」

 

「流石に違うでしょ」

 

「あの装備……俺にはわかるぜ。かなり上等な素材を使っているな……!」

 

「キモッ、わかるのそういうの?」

 

「使った素材のリソースは最終的な見た目にも大きく影響する……!知りたい、その素材を……!」

 

「通報されるからやめとけロリコン」

 

「お人形みたい」

 

 

 

 なんか色々と聞こえて来るけど無視。

 今まで裏路地をずっと歩いていたからこうして表を普通に歩くのは久しぶり……というか呪いの武器を手に入れて以降、殆どの街で表を歩くのは初めてだ。

 

「うめぇ」

 

 屋台で買った焼き鳥(何の肉かは知らない)を頬張る。ここ最近ずっと水晶とか雑に甘いパサパサしたクッキーとか生魚(調味料無し)とか食ってたから尚更美味く感じる。

 今までシャンフロでほぼ不可能だった食べ歩きを楽しみながらのんびりと歩く。俺、シャンフロライフの半分くらい損してたんじゃないかな……

 

「このまま全ての街を回ってもいいけど、先に水晶巣崖だな」

 

 この防具、普通に戦闘面でもかなり強い。

 呼吸をしていない間もスタミナが回復するということは、激しく動いた後に呼吸を整える必要もないということで、この防具ありとなしではスタミナ管理のやりやすさにかなりの差が出る。

 それとアンデッド由来の装備であるためか暗黒属性と呪い耐性が凄まじく高く、呪いの装備によるダメージのデメリットも大幅に軽減される。まあこの装備自体がどデカいデメリット効果の塊なのだが。

 

「表を歩けるのはいいんだが、やっぱり視線がな……」

 

 視線だとか直観だとか気配だとか、そういった実在するのかちょっと曖昧なものが実装されているゲームは割と多い。

 シャンフロも恐らくそのタイプのゲームだ。ほんの僅かだが見られている感覚があるんだよな……

 

「たまには装備のデザインに口出しした方がいいのかもしれないな……」

 

 後悔してももう遅いか……必要な素材を集め終わったらラローリーさんに文句を……いや、また数時間拘束されそうだし止めておくか……




ルインヴァルの強化素材には黄金関係の物が要求されます
そして使った素材によって若干性質が変化します。今回は月光を吸収し、鉱物を食べるモンスターの素材を使用するのでその性質が反映されます
その他にも使用する燃料や炉などの価値が完成品の価値にプラスされる特殊仕様なので、金をかければかける程強くなります。その性能もその呪いも……


因みに性別反転後のぶんぶん丸の声は基本的にダウナー系ロリボイス
でも実は主人公の隠された特技によって声は聖杯に頼らなくても自由自在だったりする。真似ることが得意なのでVR内限定で一度聞いた声は完コピが可能
一部の対人ゲームでこの特技をフル活用しており、「人間の言葉を真似て人間を誘き寄せる化け物」のロールプレイがめちゃくちゃ上手い。孤島ではもっとえげつない使い方もしていた

「人のこと半分土に埋めて惨猿を呼び寄せるのはあまりにも非人道的すぎんだろテメェ!」
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