シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
ルインヴァルの仕様を確かめながら戦い続ける事五分。
ここまでで分かったことはいくつかあるが……それよりもアタランテさんがめちゃくちゃ強い。
「これも、当たらないか……!」
確かにルインヴァルは強い。
自分への負荷はほとんどなく、それでいて相手に掠りでもさせれば骨を砕く理不尽な質量。
リーチも変幻自在であり、使いこなせば無敵と言っても過言ではないだろう。
しかしどれだけ突こうが振り回そうがアタランテさんには全く当たらない。
全ての攻撃が紙一重で避けられる。
舞い踊るかのような身のこなしで距離を詰められ、緩急のついた剣技が防御を潜り抜けて襲い掛かって来る。
さっきから向こうは一切のスキルを使っていないのに、こっちは回避スキルも思考加速スキルも使ってどんどん追い詰められている。
あまり加速しないが効果時間で「
速度は
それにさっきからスタミナが切れる気配が一切なく、逆にこっちがスタミナ不足に陥っている。
スタミナ消費を最小限に抑え、スタミナ回復時間を最大限に稼ぎつつ隙が生じない身のこなしでこちらのスタミナだけが一方的に削られているのだろう。
槍の検証なので咆哮などのスキルや電撃など色々と縛ってはいるものの、それは向こうも同じだろう。
しかも立ち回りと空いている右腕の動きからして本来は二刀流なんじゃないかなあの人。もう一本増えたら対処できんぞ。
回避スキルを発動しても加速して制御が困難になる瞬間を完全に見切られていて移動先に予め攻撃が置かれている。
俺がいつも別のゲームでやっているような、トライアンドエラーでチャートを組んでようやく実現するような動きを初見でされている。どうすりゃいいんだこれ。
「こうなったら……!」
「ほう?」
壁を蹴って天井にスキルで張り付き、更にルインヴァルにアロンカレス瑠璃硬晶を食わせる。
グラデーションのかかった鮮やかな色に変化した槍の穂の先端を下にいるアタランテさんに向ける。
「上から槍で突かれる経験は?」
「流石に初体験かな。でも上空から襲いかかってくるモンスターは新大陸じゃあ珍しくないよ!」
アタランテさんは頭上からの刺突をスルスルと避けながらもう一本の長い曲剣を取り出し、二つの曲剣の柄を重ね合わせる。
ガシャンッ!
「対刃剣……!」
「天井が穴だらけにならないように加減はするよ」
上下逆さに組み合わさった二本の曲剣の間に光の弦が張られる。カテゴリは魔法弓か!
「早撃ちには自信があってね!」
「ッ!?」
目にも留まらぬ早業で次々と発射される魔法の矢。
最小限の動きで回避するのが理想だが、空中で矢の軌道が突然ぐにゃりと曲がるのでそれは困難。
「なら曲がるよりも先に弾くしかない!」
アタランテさんが加減しているのもあるだろうが、アロンカレス瑠璃硬晶を食わせたルインヴァルは魔法をよく弾くようだ。
「
「やるじゃないの。でも……後方注意!」
「ガッ!?」
突然背後からの強い衝撃によって天井から叩き落とされる。
落下する最中で見えたのは、俺が弾いた矢が空中で更に軌道を曲げて俺がいた場所へと飛来する光景……
「……弾かれる前提で、弾かれた矢が俺の背中に当たるように調整して矢を射ったと?勝てんわそんなの……」
「勝負ありだね」
頭から落ちた俺の首筋に弓の切っ先が突きつけられる……弓の切っ先っていうのもなんか変だな……
恐ろしいことにスキルのエフェクトも魔法の詠唱もない、完全な実力によるトリックショットをあの一瞬で成功させたらしい。
俺だって相手が動かない的なら狙撃や早撃ちには自信があるが、こんなトリックショットを実戦で決めるのは無理だ。
なんかもう、シャンフロサーバーが全力でバックアップしていると言われても不思議じゃないレベルだな……実はユニークモンスターだったりしない?
勝負には負けたが、検証は十分にできたのでまあ良しとしよう。
でもそれはそれとして負けたことは普通に悔しいのでもっと強くならなくてはな。
「フフン!新入りが師匠に勝てるワケがないだろう!」
「なんでお前が偉そうにしてんだ」
「あだっ!?」
頭を引っ叩かれているレインさんを横目に今の戦いを振り返る。
「んー……こうだったか?」
ルインヴァルの長さを調整して片手剣代わりにして、先ほどの戦いの中で見たアタランテさんの動きを再現する。
こう、流れるような動き……なんか自然と踊っているように見えるなこれ。
ただ動きを最小限にするよりもスタミナ消費がだいぶ抑えられるな。最速最短の動きよりも長期戦に向いている。
「おっ、いいねぇ。一目見ただけでそこまで真似できるのか」
「動きを真似できるだけで、自分の戦闘スタイルに取り込むのには結構時間がかかりますけどね。その動きの本質の理解はそう簡単にはできませんから」
「ふむ、それじゃあ私が身のこなしをレクチャーしてあげようじゃないか!」
「え、いいんですか?」
「後輩を育てるのは先輩の役目!それにお前さんには素質があるようだからね。どうだい?」
『ユニークシナリオ「
まさかのユニークシナリオである。
しかもこれ、始めるだけでジョブが入手出来て、進めていくとスキルも習得できるっぽいぞ。
これは……初期職業の傭兵を卒業する時が来たのかもしれない。
「お願いします!」
「よし!それじゃあこれから私のことは師匠と呼ぶのだぞ!いいな?」
「はい!師匠!」
「よろしい!」
『ジョブチェンジ! メイン職業が「
『職業「呪律者」をサブ職業に変更しますか? はい・いいえ』
……あ、勢いで転職したけど、呪律者ってサブにセットしても「
メインにセットしておくメリット無さそうだしこのままサブに置いておくか。
「それじゃあ早速だけど、
この
あまり詳しくないけどカポエイラのようなダンスと格闘技の間みたいなものだろうか?
そして舞と一言に言っても世界には無数のダンスがあるわけで、
「これが「雷の舞」」
そう言ってアタランテさんが床を強く踏みしめたその瞬間、その足元から稲妻が迸る。
ちょっと床から煙が出ている……もしかして攻撃判定あるのそのエフェクト?
「そしてこれが「炎の舞」」
今度はまるで指先から炎が噴き出しているかのように、アタランテさんの舞に合わせて炎が渦巻く。
「お次は「風の舞」」
炎の渦が突風に吹き消され、アタランテさんの体がふわりと浮き上がり、そのまま空中で舞い続ける。
「「水の舞」、「雪の舞」、「花の舞」、「砂の舞」、「鳥の舞」、「帯の舞」……」
うわぁ、なんか凄いことになってきたぞ。
エフェクトが大渋滞を起こして何が何だかもうよくわからない。
この舞と一緒に発生する綺麗で派手なエフェクト、これ全部に攻撃判定があるらしいが、魔力も消費するそうだ。
これはMPをガンガン消費しそうだな……MP消費無しで見た目だけにすることも可能らしいのでうまく切り替えていこう。
「はい、それじゃあ一通りやってみようか!」
「えっ」
あの、ここギルドなんですけど……めっちゃ人に見られているんですけど……この状況で踊らなきゃダメ?
……
…………
………………
「……お、メールバード」
スキルを習得するためには特訓の後にレベルアップが必要。しかし現在のレベルは99なので、レベルを下げるために新たに呪業スキルを習得し、そしてレベルを上げるために水晶巣崖へ……向かう途中でメールバードが飛んでくる。因みに現在変装の為に性転換中である。
「リーダーからだ……へー、旅狼と黒狼とニトロ製薬で談合するのか……」
きっかけとなったのは旅狼と黒狼のクランメンバー同士でなんかトラブルがあってPKにまで発展したとかそんな感じらしい。
それと俺が知らない間に組まれていたらしいライブラリとSF-Zooも含む五つのクラン間で結ばれた同盟のことでも話し合う必要があるのだとか。
「……え、これ俺も出ないとダメなの……?」
なんか知らんが俺とサンラクとサイガ-0が重要参考人という扱いになっているらしい。
座っているだけでいいなら適当な理由で休もうかなと思っていたのだが、どうやらダメらしい。
「何が悲しくてゲームの中でそんなことせにゃアカンのだ……」
やっぱりMMOってこういうところ面倒くさいわ。
でも既にシャンフロという沼に肩まで浸かっているからな……シャンフロエンジン搭載のゲームが増えるまでこの沼からは出られそうにない。プレイの快適さが違うのだ。
で、この談合なのだが、既にこの三つのクランはトップ同士で裏で手を組んでいるらしく、実際は茶番のようなものなんだとか。
細かくは知らないが、この談合の真の目的は簡単に言えば黒狼を内部分裂させることらしい。黒狼側にも色々とあるようだ。
談合の日程は……うん、参加できてしまうな。ちょっとでも用事があればそれを理由に欠席したかったのだが……
「ハァ……レベル上げに戻ろう……」
気持ちを切り替えて水晶巣崖へ向かう……蠍共と戯れていればこの憂鬱な気分も少しは晴れるだろうか?
アタランテは本来同時に七つまでしか習得できない舞を全て極めて習得している特別仕様
これによって七連結スキル級の奥義を連打可能なので一度舞い始めるともう手が付けられなくなる
そしてそれとは別に動きが最適化されているので最低限のスタミナ消費で隙を生じずに延々と攻め続けて来るのでスキル無しでも非常に強い
アタランテが使用する二本の曲剣のうち、短い方がポラリス。長い方がグランシャリオ
合体、分離に制限が無い対刃剣。合体後の名前はアポロウーサ
合体すれば魔法弓。分離すれば双剣と遠近両用な武器だが、当然実戦で二つの武器種を完璧に使い分けるのは至難の業
アタランテはこの合体、分離を舞を行いつつ無駄なく最速で行える。しかも超高精度の未来予測によって相手の行動を見る前に合体、分離のモーションに移行できるので実質隙が存在しない
因みに主人公は剣聖のような特殊なものを除けば、本人の素質的には弓での隠密狙撃か銃での速射が最も相性が良い戦闘スタイルだったりする。でもこの主人公は縛りプレイが好きなので弓や銃が不遇なゲームじゃないとそれらをあまり使おうとしない
相手が動かない、あるいは単調な動きしかしない的であればどれだけ距離が離れていようが構えて、狙いを定めて、放つという3アクションをほぼ同時に行えるという人間離れした特技があり、γのガンマンに射撃戦で勝つこともあった
ただし相手が不規則な動きをしていて複雑な予測や計算が必要になったり、突然の遭遇戦で反射神経が求められたりすると弱い。実際その弱点をγのガンマンに突かれて先にヘッドショットを撃ち込まれたことが結構あるので主人公はγのガンマンが苦手