シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
今日は「旅狼」&「ニトロ製薬」対「黒狼」の代表戦当日……最後にスキルを調整するべくフォルティアンに向かっている最中だ。
少し前までサードレマでアタランテさんと鍛錬をしていたので、そこからシクセンベルト、テンバートと進み、テンバートとフォルティアンの中間に存在するエリア、気宇蒼大の天聖地を現在攻略中だ。
まあ攻略と言っても雑魚モンスターは全員逃げていくからボスをボコボコにするだけなんだけどね。
それにオート操作でもファントムがめちゃくちゃ強いから歩いているだけで次々と逃げるモンスターの背中にファントムが突き刺さって死んでゆく。これ他プレイヤーに襲い掛かったりはしないよね?
台地の急斜面をスキルを使って歩いて登る……この台地の頂上は一見するとボスエリアのようなどうぞここで戦ってくださいと言わんばかりの空間となっているが、ボスどころか雑魚モンスターも現れない静かな場所になっている。
なんでもユニークモンスターのドラゴンが偶にやってくるそうで、それで他のモンスターがビビッて近づかないのだそう。
「まあそう簡単に遭遇するものでも無いだろう」
仮に遭遇してもまだ時間に余裕はある。最悪の場合シクセンベルトに戻ってニーネスヒル方面に進み、フィフティシアから逆走すればいい。
お、どうしたファントムそんなブルブル震えて。台地の上に何かいるのか?ハハハまさか──
『──来たか。輝ける槍の新たなる担い手よ』
台地の頂上。
そこに立つのはリュカオーンやクターニッドと比較しても決して劣ることのない荘厳な威圧感を放つ黄金の龍。
『ユニークモンスター「天覇のジークヴルム」に遭遇しました』
うん。そんな気はしていた。だって登っている最中に既にちょっと空気がピリピリしていたし。
片手で持てる重さと片手で扱いやすい長さに調整したルインヴァルを右手に装備する。
『その輝き。その気配。懐かしい……』
「懐かしい?コイツのこと?」
ルインヴァルを掲げ、ジークヴルムに見せつける。
俺の持ち物の中で一番歴史があるのがコイツだ。それに輝いている。
『ククク……我が海の底へと沈めたそれを再び手にする者が現れようとはな』
正解っぽい。なんで海中に槍があるのかと思ったらジークヴルムが沈めたのか。
それにしてもなんで海にポイしたのだろうか?
『人を狂わせ、英傑を狂わせ、あの竜どもさえも狂わせた魔魅の輝きを放つ槍……殺し、殺され、移ろう槍は最終的に我の元へと流れ着いた。それ自体は別に構わんのだが……持っているだけで次々と正気を失った人が我に挑んで来るようになってなぁ。それは我が望む英傑ではない……故に深き海の底に捨てたのよ』
……死んだら終わりなNPCがユニークモンスターに突撃しちゃうレベルの魅了効果持ちなのこの槍?
こんなのゲームに実装しちゃダメだと思うのだが……まあ、シャンフロの運営ならやるだろうなという嫌な信頼がある。
『それがあの犬の気配を宿し、深淵のタコスケを超え、墓守の御仁を屠り、竜を従える人間の手に渡ろうとは。面白い!』
色々と知っているんだなこのドラゴン。それによく喋る。
『ならば少し試させて貰おうではないか。果たして御主がその槍を持つに相応しき英傑であるか……その実力を我に証明して見せよ!!』
ジークヴルムの威圧感が膨れ上がり、大気が震える。
「やっぱりそういう流れか……!」
確か過去に六十人のプレイヤーがガチパ組んでジークヴルムに挑んだけど普通に全滅したとネットの記事で読んだことがある。
まるで勝負にならなかったそうだが……何かしらのギミックがあるのか、それともシステム的にまだ撃破不可能なのか、或いはシンプルにアホみたいに強いのか……ん?
『ユニークシナリオ「黄金の龍王よ、黄金の輝槍よ!」を開始します』
強制スタートなのは置いておいて……なるほど、ルインヴァルの持ち主として認めてもらうのがこのユニークシナリオのクリア条件か。
その正確な条件は分からないが、流石に勝つことが必須の条件では無いだろう。しかし……
『※戦闘終了時にジークヴルムからの評価が一定値以下の場合、「ルインヴァル」が没収されます』
あの、この槍材料費だけで数百億かかっているんですけど……?
「本気でやるしかないか……その角を圧し折ってやればいいのかな?」
ジークヴルムに生えている五本……いや、折れているのも合わせれば六本の角。
一本折れているのに何かしらの意味がありそうなんだよな。
「ファントム、三本だ」
インベントリから追加のファントムを二本取り出し、三本のファントムを浮遊させる。
MP消費を気にしなくてもいいギリギリのラインだ。取り敢えずこれでいこう。
「GO!」
ファントム三本を先行させ、それに続いて俺も駆けだす。
これが効いてくれれば楽なんだが……
『フンッ!』
ジークヴルムがその翼で軽く空を払い……それだけでファントムが弾き返されてしまった。
更にその余波で暴風が吹き荒れ、俺の体が押し戻される……正面から突っ込んでも勝負にならんなこれは。マニュアル操作に切り替えよう。
弾かれたファントムそれぞれに意識を通し、それぞれ別々の方向へと飛翔させてその場で待機させる。
ジークヴルムはドラゴンではあるが二足歩行であり、その体格は比較的人間に近い。
故にその戦闘スタイルは人間に似たものとなる……ネットの情報だけど、ライブラリのサイトに書いてあったんだから恐らく間違いでは無いだろう。
腰を落とし、俺に向けて握り拳を振り下ろすジークヴルム。
恐らくただ避けるだけでは駄目だ。空中へ!
「「鳥の舞【小鳥遊】」!」
黒い羽根のエフェクトが舞い散り、ふわりと体が浮き上がる。
回転と同時に地面を蹴り、直撃を回避──
ズドォオオオオン!!!
「おおっと」
振り下ろされた拳はさっきまで俺がいた地面に深々と突き刺さり、その周囲の地面がひび割れて捲れ上がる。
地面を叩いた衝撃がここまで届いて吹き飛ばされる。しかし空中で吹き飛ばされた時のための対処法だってアタランテさんから習って……!?
「ルインヴァル!」
ルインヴァルを伸ばして石突を地面に押し当て、反作用で更に跳び上がる。
伸ばしたルインヴァルを引っ込めた瞬間、巨木のような尻尾がギリギリを掠めた。
「お返し!」
ルインヴァルの切っ先をジークヴルム向けて……
ガガガンッ!!
『むっ』
「うわ硬い」
ジークヴルムの視線がルインヴァルに向いたのを確認して待機させていたファントムを角にぶつけたのだが、やっぱり硬い。
全くダメージになっていないわけではないようだが、これなら意識を逸らさせるように使った方がいいかな。
「本命はこっち!」
ルインヴァルを巨大化させ、長さ十メートルを超える大槍にする。
ここまで大きくしても軽々と振り回せるのだから不思議なものだ。
しかし実際の重さは見た目以上な訳で……
「スマーッシュ!!」
ルインヴァルを舞いながらぶん回し、ジークヴルムに叩きつけると大音量の金属音が鳴り響く。
僅かではあるがジークヴルムが仰け反るほどの大質量。これが価値の重さってやつ?
『フハハハハハ!なんたる質量!僅かとは言え我をよろめかせるとは!』
しかしルインヴァルをフルスイングしてようやくちょっと怯むだけか……これは普通に戦っても駄目だな。弱点がどこかにあればいいのだが……
どこかに弱点がないかジークヴルムを観察していると、その口元に赤熱する黄金が……ヤバい、アレは……!
『そう簡単に死んでくれるでないぞ?「
「ッ……!?」
それは恐らく秋津茜や俺が使用する黄金のブレスの元になったもの。
今までユニークモンスターだってぶっ飛ばしてきた灼熱の黄金が俺に向けられている!
スキルを一気に起動。落下を限界まで加速させ、向きを細かく変更して空中をジグザグに跳ね回る!
「あちちちち!?」
掠るどころか直ぐ近くを通り過ぎるだけで消し炭になりそうなほどの灼熱に追われている。
タンクが全力で守りを固めても余裕で消し飛びそうな熱量。どう考えても即死技だ。
思考加速スキルの性能も引き上げられ、更にゆっくりになった世界を爆速で跳ねまわる。
「だああああああああっ!!?」
『ぬうっ!?』
思考を加速させても半分くらい制御できていないほどの速度を出しながらルインヴァルを振り回し、すれ違いざまにジークヴルムの左腕を切り裂く……今の頭を狙ってたんだけど思いっきりズレた。
この状況で舞うとか無理がある。地面やジークヴルムと激突しないように制御するので精一杯だ。
ファントムの現在位置を把握できない。オート操作で動いてもらおう。
「ファントムゥウウウウウ!!頭を狙ってぇえええええ!!」
もはや制御不能なレベルで体が回転してしまっているが、幸いにも重力方向を操作して動いているので自分が向いている向きは関係ない。
どっちが上でどっちが下でどこにジークヴルムがいるのか分かればそれでいい。
「
「うおああああああっぶねぇええええええええ!!?」
ジークヴルムの踏みつけ攻撃を回避しようとしたら勢い余って台地の外まですっ飛んでいって、戻って来る時に高さをミスって台地の斜面に激突しかけた。
人間に制御できるもんじゃ無いよこれ。もっと高性能な思考加速スキルがあることが前提なのか?
そろそろ重力操作スキルの効果が切れる。
このままだと高速回転しながら地面に激突して自分の体を磨り下ろすことになるので、ジークヴルムと距離をとって先に飛行スキルを発動して徐々に減速させ……減速……
「回転しながらじゃ無理ィ!?」
重心が偏ったコマのような不安定な挙動でふらふらと落下し、地面に浅い角度で激突してワンバウンドしてから何とか姿勢を整えて着地する。
水晶ガードが無ければ即死だったな今の……
「ぶっつけ本番で試すもんじゃないな全く……」
速度で翻弄するのはダメだ。もっとどっしりと行くとしよう。
──ジークヴルムとの戦闘に集中していた俺は、その他に気を配っている余裕を失っていた。それが故に気が付くことができなかった。
具体的には現在時刻と、台地の下からこちらを覗く複数の視線に。
代表戦が始まるまで残り一時間ニ十分……
ジークヴルムの台詞回し難しい……
「黄金の龍王よ、黄金の輝槍よ!」……ルインヴァルを所持している状態でジークヴルムと遭遇すると発生するユニークシナリオ。ジークヴルムと戦い、ルインヴァルに相応しい英傑であることを証明できればクリア。別に角を折る必要は無い
因みにルインヴァルを所持しているとルインヴァルの価値に応じてジークヴルムとの遭遇率が上昇する
失敗した場合ルインヴァルが没収される。没収されたルインヴァルは再挑戦して取り返すことが可能だが、ジークヴルムに認められる前にジークヴルムが撃破された場合、ジークヴルムの判断でその場にいる最も相応しい英傑にプレゼントされちゃう。万が一その場に相応しい英傑がいなかった場合、ドロップしたルインヴァルを奪い合うユニークシナリオが発生するので地獄絵図となる
クリア報酬?ジークヴルムのお気に入りの英傑になれるよ(
そしてルインヴァルをリビルド可能になる数少ないルートの一つ
「鳥の舞【小鳥遊】」……「小鳥遊」と書いて「たかなし」と読む
自身と周囲の味方にスタミナバフを付与する舞。割と珍しい魔法的作用を持つスキルとなっている
シンプルに強くて使いやすいので主人公が一番最初に覚えた舞でもある
隠れた効果としてヘイトを結構集める。その上派手に踊るので気が付くと囲まれていたりする。鷹の居ぬ間に踊るべし