シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
木と金にも更新します
◇
ぶんぶん丸とジークヴルムの戦闘が始まって既に二時間以上が経過していた。
代表戦は既に始まっているどころか、これからサンラク対サイガ-100の最終試合が始まるところだ。
「ただいまー」
「おかえりニトちゃん。どうだった?」
「またダメだったよ。何度送ってもメールバードがそのまま戻ってきちゃうねぇ……」
二十六はペンシルゴンにそう伝えてやれやれと言わんばかりに肩を竦める。
ぶんぶん丸の遅刻によりいきなり人数不利となりかけた旅狼+ニトロ製薬陣営だったが、サンラクが試合開始直前にサイガ-0を黒狼から引き抜いたことにより、なんだかんだで四対四の団体戦にルールが変更されることになった。
それでも一応二十六は何度もメールバードをぶんぶん丸に送ったのだが、メールが受け取られることなく鳥が帰ってきてしまっていた。
「ログインはしてるんでしょ?メールバードが送ったメールを渡さずに帰ってきちゃうってことは、メールを受け取ることもできない状況に置かれてるか……」
「地底で迷子になってるか、また深海に誘拐されたか……或いは数時間に渡ってモンスターと戦闘を続けているか、だねぇ……」
「流石に迷子はないだろうし、これは何かユニークに巻き込まれてそうな気配がするよ」
「いいなーユニークいいなー」
笑顔を絶やさない二十六だが、内心はめちゃくちゃ焦っていた。
この勝負、もしもサンラクが負けたら間違いなく責任やら何やらが殆どこっちに飛んでくるのは間違いない。というか勝っても色々と突っ込まれるだろう。
「フフフ……早く来てくれぶんぶん丸くん……マジで……」
◆
再びスキルを封じられ魔法しか使えなくなった俺はファントムと共に空を駆け、ジークヴルムの攻撃を避けつつ魔法を撃ち込み続けている。
しかし鞘に長時間入れていると鞘が燃えてしまうし、地面に置いておくのも最悪紛失しそうなので、犬面の口で刀を咥えている。まさか口の開閉機能にこんな使い方があるとは……
「【
『グッ……この程度!』
「これ千五百万マーニするんだが!?」
魔法陣から次々と湧きだす闇の腕に体のあちこちを掴まれ、後方へと引き倒されそうになったジークヴルムであったが、そこから踏ん張って逆に魔法陣から腕を引っこ抜いて突撃してくる。
ほらもう引っこ抜かれた腕がビックリしちゃってるじゃん。オロオロしながら他の腕に引っ張られて魔法陣に帰って行っちゃったよ。
ファントムに引っ張ってもらい、急降下でジークヴルムの股下を潜り抜ける。
本当にギリギリの勝負だ。思考加速スキルも使えない中、ギリギリの回避を何回もしないといけないのは本当に心臓に悪い。現実の方の心臓がどうなっているのかはちょっとわからんが。
「……?」
その時、視界の端を一瞬何かが通り過ぎたような気がして視線を向けたが、見失ってしまった。
ジークヴルムの未知の攻撃ではないかと身構えたが、特に何も起こらない。何だったんだ?
ずっと考えていても仕方がないので思考をこの状況の解決に戻す。
現在スキルを封じられているので魔法だけ使用可能な状況だ。何とかしてもう一度スキルを使用可能な状態にさせたいのだが、マジックスクロールのストックがもう残り少ない。
スキルであれだけ派手なことをやった後だと、そう簡単にスキルを解禁してはくれないだろう。どうすれば……
「……やるしかないのか?でも状態異常は全く効かなさそうなんだよな……」
抱えて共に飛翔するファントムに視線を向ける……これはかなり危険な賭けだ。
【竜威解放】……検証の為に何度か使ってみたことがあるのだが、非常に強力ではあるもののデメリットも凄まじい切り札だ。
特に常時蓄積され続ける真竜の呪いが厄介すぎる……相手にも押し付けられるが、ジークヴルムが相手だと先にくたばるのは間違いなく俺の方だ。
「……やれるか?ファントム」
ファントムは相変わらず震えるだけだ。
でも……何となくだが「やれる」と言っているような気がする。
「じゃあ……やろうか」
滑空してジークヴルムと距離を離して着地。インベントリから十本全てのファントムを取り出し、浮遊させる。
「見せてやるよジークヴルム。コイツの本当の姿を!」
十本それぞれのファントムの輪郭が歪み、揺らめき、広がって、混ざり合う。
俺の背後でどす黒い幻影が立ち上がり、どんどんその輪郭は細長くなってゆく。
それは不気味な程に細い体と腕と脚を持ち、細長い尻尾と首も頼りなく、立派なのは翼だけのあまりにも不気味な二足で立つ竜。
その顔は闇に覆われていてどのような顔をしているのか判別は不可能……そしてその顔の闇の中から鳥の嘴のような形状の仮面が生えてきて顔を覆い隠す。
その竜は声を上げることは無く、巨大な翼を静かに広げ、その細い指から腕よりも長く鋭い爪を次々と伸ばしてゆく。
「竜威解放……」
強大過ぎるが故に押さえつけていた大いなる竜の真の力を、その真の名を呼び解き放つ……!
「──【ファントム】!!」
その名を叫ぶのと同時に、竜は翼を羽ばたかせてドス黒い瘴気を撒き散らし、周囲の空間を薄暗く染め上げる。
この空間に入ればその瞬間から汚染が始まる死の空間だ。勿論俺も例外ではない。
竜の幻影は暗闇の中へと溶けて消え……その巨大で湾曲した鋭い十本の爪だけが空中に残される。
見た目が変わっただけじゃないということをジークヴルムに見せつけてやるとしよう。
「本調子になるまで少し時間がかかる。それまで踊っててもらおうか」
酒の入れすぎでちょっとテンションがおかしくなっているような気がする。
みんなに見られている前で戦うことになる可能性があったから緊張を解すために多めに飲んだのだが、もう少しセーブすべきだったか?
空いている両手にルインヴァルを装備し、躊躇うことなく一等星のラピステリアを食わせる。
満天の星空を思わせるキラキラとした輝きがルインヴァルの穂を包む……やっぱり等星によって輝きが違うなこれ。本当に金のかかる槍だ……
『クハハハハ!面白い、実に面白いぞ!その血に竜を住まわせる英傑よ!血に巣食う黒き病の竜よ!御主等の全力の挑戦に、我が全力を以って応じよう!!』
なんかしれっと超やばい情報が出てきた気がする。ファントムお前俺の血の中に住んでいるの?
二本はその場に残し、残り八本のファントムをジークヴルムへと向かわせる。
黒い靄の軌跡を残して飛翔するファントムの速度は【竜威解放】の前よりも上がり、より鋭い一撃がジークヴルムへと襲い掛かる。
ズガガガガァン!!!
『グッ……!』
「無視できない威力は出せているようだな」
先程まで殆ど刺さることなく体の表面で弾かれていたファントムが、少しずつだがジークヴルムの角にダメージを与えられるようになった。
その刃先が少しだけ刺さり、その直後に黒い靄が爆ぜてヒットエフェクトと共に撒き散らされているのが見える。
ジークヴルムが翼で宙を薙ぎ払ってファントムが吹き飛ばされるが、何度払っても耳元で飛び続ける蚊の如くファントムは何度も戻って来て顔の周りをチクチク刺し続ける。ハハハウザかろう!
「それを無視するなら目玉を抉ってやる。それに構うなら俺がフリーになる。さあどうするジークヴルム!」
ファントムに引っ張ってもらって俺も空を駆ける。
ルインヴァルを構えて
ルインヴァルの穂に宿る輝きが更に強い光を放ち、そして遠心力に耐えきれなくなった輝きは飛翔する斬撃となって宙を裂く。
これがラピステリアを食わせた時の効果、飛翔する斬撃だ。思考加速が無い状態で接近するのは危ないからな。これで遠距離から角を狙わせてもらう。
『ならば、纏めて焼き払ってくれよう!!』
「スクロールの貯蔵はまだまだある。俺にその灼熱は届かない!」
ジークヴルムのブレスがチャージし終わる前にインベントリから追加のマジックスクロールを取り出す。
『「
「【
上空に出現した魔法陣から出現した巨大な金属質な拳が俺とジークヴルムを隔てるかのように落ちて来る。
地面に激突した拳はその圧倒的質量で台地に深くめり込む……本来これは攻撃用の魔法なんだろうけど、頑丈で巨大なオブジェクトを呼び出せる魔法なので壁としても使用できるのだ。
とは言ってもジークヴルムのブレスに長時間耐えられる筈もなく、一瞬で拳が赤熱し、どんどん溶解してゆく。
「【
空気を焼き焦がす音に紛れて静かに短距離転移魔法で範囲外へと抜け出し、ジークヴルムがそれに気づいて反応するよりも早く、ファントムをジークヴルムの下顎に突き立てる。
「【
『ぐむっ!?』
ファントムから発生した爆風がジークヴルムの顎を強引に閉じ、ブレスが中断される。
マナポーションをどんどん消費してガンガン消費されるMPを補いつつ、ジークヴルムの角にダメージを蓄積させてゆく。
あの左の手前の角、さっき斬った時に大きなダメージが入っているだろうからそこを重点的に狙う。
「……来た。真竜の呪い、フェーズⅢ……!」
これより症状が悪化すれば突然死の危険がある。勝負を仕掛けるならここだ。
「もう一発!【
今度は金属質の巨大な脚が魔法陣から出現し、ジークヴルムの頭上へと落下してゆく。
ジークヴルムがそれを受け止めている隙に全てのファントムを手元に戻し、切り札となる魔法を発動する。
「やるぞファントム!【
俺の体からドス黒いエフェクトが噴き出し、それが十本のファントムとルインヴァルに纏わりついてゆく。
見た目はアレだが俺のスタミナほぼ全てを乗せたエンチャントだ。さて、ジークヴルムにどこまで通じるか。
「さあ、クライマックスだぞジークヴルム。俺の命は呪いに蝕まれ、もうすぐ尽きるが……何度でもノーリスクで蘇るのが開拓者だ。ならばこの命、燃やし尽くさなきゃ損だ。灯滅せんとして光を増す……だったっけ?最期の輝きを見せてやるよ」
『おお、人よ、英傑よ、二号の者よ!ならばその輝きが我が黄金を超えるものか、見届けさせてもらおう!』
鉄塊を投げ飛ばしたジークヴルムに向けて少し長いセリフを吐く。
消費したスタミナを回復させるための時間稼ぎだ。喋っている裏でこっそりとスタミナ回復アイテムをアクセサリーの効果で喉奥に詰め込みまくる。これもまあまあ高いんだぞ。
「ぶった斬る!」
『……!』
ファントムがジークヴルムの腕や角を次々と通り抜け、内側から黒いエフェクトが弾ける。
更にルインヴァルからも満天の星空のような輝きを秘める黒い斬撃が飛び、ファントムを払おうとするジークヴルムの腕や翼に大きな切り傷を与える。
ジークヴルムは再生力も高いようで、少し攻撃の手を緩めればみるみるうちに傷が治ってしまう。だから兎に角攻めて攻めて攻めまくる!
『我が鱗を貫くか!実に、実に素晴らしき力……!だが、我が輝きはそれさえも打ち砕く!!』
ジークヴルムの角の発光パターンが変化する……それを待っていた。その魔法封じを!スキルの封印が解かれるその時を!
札束でぶん殴る戦い
配信を見ている人がショックでぶっ倒れるレベルの散財
【竜威解放】……最終深化した武器専用の業
武器のリミッターを解除するのは竜魂解禁と一緒だが、こちらは武器の形状まで変化する
ファントムの場合、更に巨大な曲大剣となる
場合によっては武器種がガッツリ変化することになるので割と困る
その上殆どの場合何かしらの持ち主を困らせる要素がある。瘴気を撒き散らしたりとかね!
生きている竜の力を下手に解放したらロクに制御できなくなるのは当然の話ではある