シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
『──「
黄金の輝きに呑まれ、推進力を失ったファントムがあらぬ方向へと吹っ飛んで行く。ファントムに引っ張ってもらっていた俺も重力に引かれて落下する。ルインヴァルのエンチャントも消えてしまった。
だが元より俺はスキルファイター。魔法は使えなくてもどうにでもなる。
「この一瞬に全てを……!」
今から接近して殴るのでは遅い。だから──
「悪いねルインヴァル。足で投げさせてもらうよ」
ルインヴァルにアムルシディアン・クォーツを食わせながら空中で舞い、鳥の趾状のエフェクトを足に纏わせて足でルインヴァルを掴む。
更にルインヴァルの長さと太さを両方最大サイズに変更する。当然質量も最大だ。ここまでくると槍というより柱だな。
「うおおおおおおおお!!!」
今叫んだのはただ気合を入れるためだけではない。
「
条件付きなだけあって効果は強力で、STMを含む全スタータスのバフに加えて相手を硬直させる効果を持つ。
そして金月晶の
更に【
スタミナバフを全て乗せ……それを全て使い切る必殺の投擲スキルを蹴り放つ!
「貫け!!「乾坤一擲」ぃ!!!」
スタミナを全て消費して放つことができる必殺の投擲スキルに重ねて、スタミナが減っていればいる程に強化される「鬼足炎炎」と「血肉の対価」を投擲のその瞬間に発動する。
更に極僅かにタイミングを遅らせてステータス反転の聖杯を発動し、STMとSTRの数値を入れ替える。
蹴り放たれたルインヴァルが彗星の如く闇の尾を引きながらジークヴルムの頭上を通り越す軌道で飛翔する。
しかしこれは手元が……いや、足元が狂ったわけでは無い。
ルインヴァルは空中で減速することなく、物理的にあり得ないほど鋭い角度でその軌道が下向きに捻じ曲がる。
ロックオンしたのは一番ダメージが入っている角。それは投擲物に凄まじい誘導性能を付与する必中の投擲補助スキル!
「必中必殺!「
『ガッ……!!?!?』
竜を屠る槍がジークヴルムの角にほぼ真上から深々と突き刺さる。
ダメージエフェクトと共にポリゴンが散り、ジークヴルムの角に大きな亀裂が入った。
ジークヴルムが硬直し、その巨体が地面に膝をつく。
まだだ、その角はまだ折れていない!
「アディショナルタイム」でスタミナが切れてもこの体は動く。
ジークヴルムが動き出す前に重力を操作し、ジークヴルムの頭上に素早く移動する。
ジークヴルムの角の発光パターンが再び変化する……だがもう遅い。
後はもう落ちるだけなのだ。狙いは角に突き刺さったルインヴァルの石突!
「耐えてくれよルインヴァル!!「
『ッ……!!』
俺とジークヴルムの間に発生する引力によって落下が加速する。
更に
ジークヴルムの角が強く輝くのと同時に、俺の足の裏がルインヴァルの石突に触れ──
『──見事であった』
真っ暗になっていた視界が復活する……が、その視界がどんどん黒いポリゴンによって埋まっていく。
首が動かない。というか首より下が全部動かない。俺は今、仰向けに倒れているようだ。
表示されているHPは……0だ。死んでいる。けど生きている。イベントシーン?
俺を見下ろすジークヴルムに視線を向け……破壊を狙っていた角が、根元からぽっきりと折れているのが確認できた。
更に顔の側面と左肩からも激しいダメージエフェクトが噴き出している……その傷は少しずつ治っていっているけれど、角はもう再生しないようだ。
『輝槍を持つに相応しき英傑であるか否か……御主は我が角を折り、それを証明して見せた!!』
よく見ればジークヴルムはその手にルインヴァルを握っていた。流石はルインヴァル。あれだけ手荒に扱ったのに耐えたのか。
倒れている俺の直ぐ側ににそっとルインヴァルが置かれる。ファントムはどこかへすっ飛んでいったけど、あいつはまあ勝手に戻って来るだろう。
『英傑よ!!竜よ!!末期に遺す言葉、この我が許そう!!』
なんで死なないのかと思ったら、ジークヴルムにそういう能力があるのか?
スキル封じと魔法封じ以外にも何かあるのか……まあいいや。えー、何か話すこと……
「一回死んだ程度で俺は止まらんぞ。会う度にその角を圧し折ってやるからな……!」
『クハハハハハハハ!!御主の挑戦、何度でも受けた立とう!!英傑よ、見事であった!!』
その言葉を最期に視界が黒に呑まれる──
『ユニークシナリオ「黄金の龍王よ、黄金の輝槍よ!」をクリアしました』
『称号【破天】を獲得しました』
『アクセサリー【霊角の残影】を獲得しました』
◇
ぶんぶん丸の体が完全に力を失い、動かなくなる。
台地に一瞬の静寂が広がり……そして直ぐにその静寂を斬り裂くかのように十本の黒い刃が飛来し、ぶんぶん丸の死体の周りを囲うように地面に突き刺さる。
真竜の呪いの仕様によって残り続けているぶんぶん丸の遺体と十本のファントムから黒い靄が溢れ出し、空中の一点に集まってゆく。
漂う靄が次第に形を持ち始める。
それは少しの時間をかけて、真っ黒なてるてる坊主のような、ケープを身に着けた手足の無い人間の赤子のような、人のようだが人ではないものへと変化した。
顔を真っ白な鳥の嘴のような形状のマスクで覆い隠したそれはぶんぶん丸の遺体を少し見つめてからジークヴルムを見上げる。
『オウゴンのリュウヨ。ワがナハ、ファントム。ワがアルジのナハ、ブンブンマル』
拙い言葉遣いで黄金の龍へと言葉を言葉を投げかける小さな竜。
ぶんぶん丸の死と同時にその能力によってファントムは徐々に崩壊してゆき、それと同時に宙に浮かぶファントムもまた徐々に霧散してゆく。
『このナをわすれるな。イツかカナラずオマエをころすモノのナダ……』
そう言い終わるのと同時に完全に霧散したファントムは風と共にその姿を消す。
『ククク、ファントム。そしてブンブンマル……!その名、確かに覚えたぞ……!』
ジークヴルムは顔を上げ……台地の端、先ほどの勝負をずっと陰から見つめ続けていた者達へと声をかける。
『人よ、開拓者よ。お前達はどうする?我を恐れ去るか、我に立ち向かい勇を見せるか!』
「やっべーバレてる!」
「どうするのかぐやちゃん!?逃げる!?」
「えっと……怖いけど、ここで突撃してこそ配信者!突撃するよ貴公子たち!」
「マジかよかぐやちゃん!?」
先頭を突っ走る十五人パーティのリーダー格の女性プレイヤーは配信用アクセサリーである別天津の隕鉄鏡に視線を送りつつ片手剣と短杖を構えてジークヴルムに突撃し、残りのパーティメンバーもドタドタとその後ろをついて走る。
どう見ても連携プレイに慣れていない。パーティメンバーの職業の偏りも酷い。ここまで数とレベルでゴリ押してきたであろうパーティだ。
しかしジークヴルムからしてみれば、向かってくるのであればそれは全て等しく勇者。
角を折って見せたぶんぶん丸も、ほぼ烏合の衆のこの者達も、全力で迎え撃つ。それこそがジークヴルム流の勇者への礼儀。
結果を言えばその十五人パーティは一瞬で焼き払われて壊滅したが、ジークヴルムは満足げに笑っていた。
◆
ニトロ薬局テンバート支店にて。
時計を見る。
目を擦る。
時計を見る。
深呼吸する。
目を閉じる。
覚悟を決める。
目を開く。
時計を見る。
「遅刻……確定……!!」
ヤバい。マジでヤバい。
窓辺に留まっているメールバードが早くメールを受け取れと囀っている。
急いで対処しなければならない。だが体が動かない。
極度の緊張。焦り。カフェイン切れ。疲労の蓄積……指が震えて止まらない。
問題は先送りにする程大きくなる。
まだ間に合うかもしれないのだ。何とか手を動かしてメールを受け取り、確認する……
『代表戦の結果はうちらの勝利でした』
「ホァーッ!!?」
遅刻どころか無断欠勤だよこれ!
これで万が一旅狼&ニトロ製薬側が負けていたらシャンフロ引退案件だった。
少なくとも二つのクランに……いや、同盟とかのことを考えるともっと多くのクランに迷惑をかけてしまった。
これは……ケジメ案件だな?
返信を、急いで返信をしなければならない。
ヤバい、VRゲームをしていてここまで体の自由が利かなくなったのは初めてだ。音声入力も思考入力も上手くできる気がしない。
震える人差し指でゆっくりと文字を入力する……
「えー……『フィフティシアに向かう途中、気宇蒼大の天聖地にてジークヴルムと遭遇しました。するととあるユニークシナリオが強制スタートしてジークヴルムと戦闘になってしまい、気が付けば三時間弱ずっと戦っていました』……こんな言い訳を聞きたいわけじゃないよな……もっと簡潔に……」
『責任取ってクラン抜けます』
送信。
……あ、もう帰ってきた。流石にメールバードは瞬間移動しているんだなシャンフロ。
『落ち着いて話し合おう。今どこにいる?』
まさかクラン抜けるだけじゃダメなレベルでヤバい責任問題が……!?
◇
少し時間は巻き戻る。
ライブラリは爆弾情報の洪水で大騒ぎとなっていた。
サンラクとサイガ-100の決闘はライブラリにとって求めて止まない未知の情報のオンパレードであり、それを観戦していたライブラリメンバー達がそれぞれの意見を交換し合っている中、シャンフロの外からも爆弾情報が飛び込んできたのだ。
『ぶんぶん丸がジークヴルムと戦っている』
この日ログインできない用事があったとあるクランメンバーが、とある動画配信者のシャンフロ配信をBGM代わりにして作業をしようとしていたところ、その配信にこの時間にはフィフティシアにいないとおかしいぶんぶん丸らしき人物が映っており、しかもジークヴルムと戦っているのを発見したのだ。
即座にクランメンバーにそのことを伝達。その配信は録画され、この情報はシャンフロにログインしているメンバーにも伝わることになる。
勿論クランのトップであるキョージュにもこの情報は届くことになる。
サンラクとサイガ-100が一進一退の攻防を繰り広げる中、表情は変わらないのに明らかに気が気ではなさそうな雰囲気でそれを見つめる二十六に背後から声がかけられる。
「ニトロ君、少しよろしいかね?」
「おや、キョージュさん。何か用事でも?」
「つい先ほど気になる情報が入って来てね。ぶんぶん丸君についてだ」
「!! もしかして、ぶんぶん丸くんが今何してるか分かったの?」
「まだ確定したわけでは無いがね。どうやら彼は今、ユニークモンスターの天覇のジークヴルムと戦っているのではないかとのことだ」
「……? …………!? !?!!?」
「そして動画配信者にその様子を配信されていると聞いている。チャンネル名は……」
二十六は頭を抱えた。
それを隣で聞いていたペンシルゴンは爆笑していた。
爆弾情報が盛り沢山
原作やコミックで度々出てくる武器の柄頭を叩くやつ好き。パイルバンカー!
実はネレイスと同じように精霊ボディで実体化可能なファントム。ただし0歳なのでネレイスよりも更に小さい両手の掌にちょこんと乗るサイズで、まだ実体化にも慣れていないので若干輪郭がぼやけている
なんで今まで実体化していなかったのかと言えば……人見知りの恥ずかしがり屋だから
でも今回はジークヴルムへの殺意でつい飛び出しちゃった。まだぶんぶん丸はファントムが実体化できることを知らない
戦闘能力?一般人なら一瞬でみじん切りにできるよ
でも実体化のメリットが会話可能になること以外に特にないし、ぶんぶん丸が規格外の戦いばっかりしているから足を引っ張らないように剣の姿のまま最低限のサポートだけしている。健気だね
因みに最終深化武器は全て武器の姿とは別の姿で実体化可能だが、その姿は人型とは限らない
理論上は騎乗可能なサイズの動物の姿になることもありえるし、殴りに参加してくれたりもする。プレイヤーメイドの武器でそのサイズになることはまず無いけど
明日の更新は幕間となります
掲示板回です