シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
これを書いているときに作者が「これって面白いのか?」となったからです
千紫万紅の樹海窟のボスエリアを超えて、フォスフォシエに到着した。
この街は次のエリアの関係で聖職者が多く常駐しているらしく、これまでの街よりも比較的安価で対アンデッド用のアイテムが販売されている。
「アンデッドって毒効くのか……?」
この先のエリアの名は奥古来魂の渓谷。遥か昔に起きた大きな戦争の決戦の地となった場所であり、この地で大量の死者が出たのが関係しているのか、出現するモンスターの多くはアンデッド系であり、更にエリア全体に瘴気が蔓延しており、対策しなければ呪われてしまうのだという。
「ソロなら聖水が必須か……結構高いなこれ……」
聖水が無いとダメージすら与えられないようなモンスターも居るらしい。下手したらモンスターを倒しても聖水代で赤字になるかもしれないぞこれ。
とりあえず出てくる敵やドロップアイテムの確認のための最小限の聖水だけ購入して、お試しで渓谷に行ってみることにした。
……
…………
………………
俺はホラーゲームが苦手である。特に敵に対してなんの対抗手段も無く逃げることしかできないやつ、ひたすら暗闇を僅かな明かりだけを頼りに進むやつ、急に出てきて大きな音で驚かしてくるやつ……そういったものが大の苦手だ。
逆に言えば十分な対抗手段が存在していて、十分な明かりがあり、急に出て来たりしないのならばゾンビだろうがスケルトンだろうが特に怖くは無いのだが。
「スマーッシュ!」
火山鉄鞭をゾンビの頭部に叩き込めば、爆風で勢いよくゾンビが吹っ飛んでいく。こいつら痛覚があるのか燃えると必死になって火を消そうとするし良く燃えるので、とりあえず火山鉄鞭で殴っておけば雑魚は簡単に倒せることがわかった。ほーら火葬しちゃうぞー。
「ギイィィィ……」
「ん?」
上空から鳴き声が聞こえてきたと思ったら、空からボロボロの翼を持つ巨大な何か……の骨が降ってきてそのまま着地した。
よく見ればそれは腐肉がこびり付いた骨だけの姿ではあるが、所謂ワイバーンと呼ばれるファンタジーの定番モンスターだ。
「ワイバーンのゾンビとかいるのね。その翼でどうやって飛んでるんだか……」
幸いなことにブレスを吐くことはできないようで、飛べはするが基本的に突進などの質量攻撃や噛みつき、引っ掻きなどの近距離攻撃しかしてこないため、上空から一方的に焼き殺されたりすることは無いようだ。
隙を見つけてワイバーンのゾンビの頭部に鉄鞭を叩きつけるが、少し怯むだけで大したダメージにはなっていないようだ。
「こいつを使ってみるか」
グレーブレードから進化した白い剣身に黒い刃を持つ直剣、「黒白の薄刃剣」をインベントリから取り出す。
正直言って最初の街でも買えそうなくらいシンプルな見た目と名前をしていたグレーブレードから随分とかっこよく進化したものだ。でも今度は若干の中二病感があるような……
ワイバーンゾンビの噛みつきを一歩下がって避けて、カウンターで「バレットフィスト」を鼻先に叩き込めばクリティカルと共にワイバーンゾンビが怯んで動きが止まる。このスキルはシンプルに非常に隙の少ないジャブを放つだけの攻撃スキルだが、発動直前のスタミナから六分の一を消費する代わりに、その消費したスタミナ分の数値をSTRとAGIに加算してからジャブが放たれる。
威力は控えめだが、それ以上に発動前にも後にも隙が殆どなく、クリティカルに当てれば怯ませられるのが便利なスキルだ。
ワイバーンゾンビが怯んだ隙に「無尽連斬」を発動して黒白の薄刃剣を連続で叩きつける。
進化前のグレーブレードなら硬いモンスターが相手だとどれだけ叩いてもまともにダメージが入らなかったが、進化した黒白の薄刃剣は相手に攻撃が当たる度に纏うエフェクトがどんどん明るさを増していき、ワイバーンゾンビにダメージを与えている確かな手応えをを感じることができた。
これこそが黒白の薄刃剣の特殊効果であり、攻撃と攻撃の間隔が三秒以内であればコンボとなり、コンボ数に応じてダメージに補正がかかるというものだ。そのためコンボ数を稼げる連続攻撃をするスキルや多段ヒットするスキルとの相性がとても良くなっている。
連続攻撃で反撃を許さないままワイバーンゾンビのHPを削り切ったようで、ワイバーンゾンビはその場で崩れ落ちてポリゴンとなって消滅した。
「うーん、絶妙に硬い上に別にレアモンスターというわけでもなさそうだな、あんまり戦いたくない……」
このエリアの敵、ドロップアイテムが大体骨かボロボロの装備品なんだけどこれちゃんと売れるのかな?少なくとも俺が店員なら人間の骨は買い取りたくない。
このエリアは渓谷と言うだけあって崖に挟まれた細長いシンプルなエリアであり、そのためモンスターとの戦闘回避は難しい。そして時間をかけてゆっくり進んでいると聖水代がとんでもないことになるという罠がある。サードレマに戻って別ルートに進みたい気持ちがだんだん強くなってきた。
因みに崖の上を通ればいいんじゃないのかと疑問に思って鍛冶屋のおっさんに聞いてみたら絶対にやめておけとめちゃくちゃ真剣に警告された。なんでもそこに一歩でも踏み込めば、めちゃくちゃ強い上に縄張り意識も強い蠍が雪崩の如く殺到して侵入者を排除しようとするんだとか。恐らくリアリティ重視でシステム的な侵入不可エリアとかにしたくないから理不尽モンスターを配置することでショートカットを阻止しているんだろうな……
そろそろ聖水の残りが少なくなってきたので来た道を引き返しているのだが、帰り道にもアンデッドがいっぱいだ。どかから湧いてきてるんだこいつら。
聖水が残り少ないのに聖水を使わないとダメージが入らない幽霊系のアンデッドの群れが俺の前に立ち塞がる。こいつら凄いデバフかけてくるからゾンビと一緒に出てくると本当にめんどくさい。
「こいつらこれで吹き飛ばせたりしないかな……邪魔だどけぇええええええええ!!!!!」
「劈く咆哮」を発動し、幽霊どもに向けて全力で叫ぶ。これで動きが止まってくれればその隙に……おや?
「消えた……いや、ドロップアイテムがあるということは、今ので倒せたのか……?」
俺の絶叫を聞いた幽霊どもが悶えるような振る舞いを見せて、姿が揺らめいて散り散りとなってそのまま消えてしまった。もしかしてこのスキル、霊体に特攻があるのか……?
「えーっと……『声の振動で対象の血中の魔力を揺さぶることにより一時的に疑似的なスタミナ切れ状態にして硬直させる』……あー、最初見た時何言ってんだこれってスルーしてたけど、もしかして幽霊が魔力の塊みたいな存在だから魔力を揺さぶれるこのスキルでダメージを与えられる……ということなのか?」
スキルの説明を読んでみたら確かにそれっぽいことは書いてはあったが……いや、普通に幽霊にダメージを与えられるって書いといてくれよ。聖水結構無駄にしちゃったよ。
確か毒蜥蜴の肝も乾燥させて粉末にしたものに火をつけると派手に爆発するが、フレーバーテキストを読んでも爆発するとは書いていないんだよな。国語力と考察力が試されている……
ガチでやり込むのならVRチェアでもページが重くてイライラするから殆ど読んでいないシャンフロ世界観考察とかにも目を通しておいた方がいいのかもしれない。
このまま順調に戻れれば聖水が尽きる前にフォスフォシエに到着するだろうと考えたそばから瘴気の霧の奥から何かが走ってくるのが見えた。
「あれは、馬……?いや、よく見たら首がねぇわ。モンスターだわあれ」
首が無い馬の上に首が無い騎士が乗っている。デュラハンとかそういう名前で有名なモンスターだろう。
いやでもデュラハンはもげた首を抱えてるんじゃなかったか?作品によってそこら辺曖昧なこと多いからな……スリーピー・ホロウの首なし騎士の可能性も……まあデュラハンでいいや。
その左手には馬に繋がる黒い手綱っぽい何かが、右手には俺の片手剣よりも大きい両手サイズの剣が握られている。鎧も着ているし、明らかにそこらのゾンビよりも強そうだ。
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ……だったっけ?まず馬を潰そうか」
動物愛護とか言って動物を傷つけられないようにしたら無敵の馬に乗った騎兵が暴れまわることになったゲームとか割と珍しくない話だが、流石にモンスターとして出てくる首なし馬が無敵な訳ないだろう。
馬に乗って突撃して重い武器を振り回すのは確かに強い、だがその戦い方には大きな弱点がある。武器を構えている方と逆側に回避されると即座に対応することが難しいのだ。
真っ直ぐ突っ込んでくるデュラハンの正面で待ち構えていると、デュラハンはすれ違いざまに剣で斬り裂くことを選んだようで、馬の進行方向を少し左へと修正して剣を振り上げる。その剣が振り下ろされるその瞬間、「フリードリフティング」を発動して馬の左側面へ滑り込むように回避を行う。
デュラハンは突然の高速移動に対応すべく振り下ろしている最中の剣を止めてもう一度剣を振り上げようとするが、慣性が乗った両手サイズの剣を片手で制御することは即座にできることではなく、そこに大きな隙が生まれる。
「落馬しろ!「フィニッシュスマッシュ」ッ!!」
火山鉄鞭に全てのスタミナを込めて繰り出した一撃は馬の後ろ脚の付け根の辺りに命中した。
「フルパワースイング」から進化してより威力が向上し、モーションの自由度も高くなった「フィニッシュスマッシュ」だが、体の中心から外れた場所に命中したことでバットに掠ったファールボールのように馬が高速で縦回転しながら後方へとすっ飛んでいった。
回転する馬からギャグみたいな勢いで空へと放り出されたデュラハンが頭から(頭は無い)地面に落下してポリゴンとなって消滅し、馬は高速で縦回転しながら瘴気の霧の奥へと転がっていった……あ、ポリゴンが砕け散る光だけが霧の奥から見えた。
「……一石二鳥というか、なんというか……」
落馬事故って死ぬこともあるらしいからなぁ……今のは落馬じゃなくて射出とかそっちの言葉を使った方が適切な気もするが……。
一応「リブート」を発動してスタミナ切れからの復活を早めながらスタミナが回復するまで待機していると、空から何かが降ってきてついさっき騎士として恥ずかしい姿で爆散したデュラハンの落下地点に突き刺さった。
「あ、デュラハンの剣……これドロップするんだな」
引き抜いて確認してみたが、あのデュラハンは
これは武器として使えるようだが、既に錆び錆びのボロボロであり、売れるかも怪しい。磨けばもしかしたら武器としてまともに使えるようになるのかもしれないが、やはり両手剣カテゴリであるためかなり重く、俺のステータスでは扱いこなせないだろう。
「おっと聖水の効果が……全速力で行った方がいいなこれは」
聖水はもう残り僅かだ。こうなったらトレインしてしまう可能性もあるが「フリードリフティング」で一気にフォスフォシエまで突っ走る!他プレイヤーにモンスターを擦り付けてしまいそうになったらその時は潔く死んで帰ろう。
文字数が長くなりすぎてもあれなのでサクっと討伐させようと思ったらギャグみたいな死に方になった