シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~   作:葛饅頭

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新しいシャンフロ二次創作小説を書きたい欲があるけれども、そっちを書き始めたらこっちの更新が遅れそうだし悩ましい……


暴徒と船出

 遂にこの日がやってきた。

 今日、俺は新大陸に向けて船で出発する。勿論シャンフロの中での話である。

 

 あんまり詳しいことは知らないが、フィフティシアで建造されたというこの三隻の巨大な船……俺達が乗るのはズィーズィー号だったっけ?

 

 現在俺は騒ぎを大きくしないために聖杯で性別を反転させている。つまりゴスロリモードだ。

 これで静かに船に乗り込める……けどその前に……

 

「リーダー。暫くのお別れになりますね」

 

「ん?……え、誰……?」

 

「ぶんぶん丸です。男の姿だと目立つので」

 

「……!?」

 

 そういえばリーダーにこの姿を見せるのは初めてだった。

 リーダーはこれから新大陸……ではなく深海に向かうことになる。

 

 ユニークシナリオ「恐れ知らずの遠征漁業」……嵐になりそうだけどそれでも船を出そうとしている死亡フラグ満載な漁船に乗せてもらうシナリオであり、恐らくクターニッドのユニークシナリオEXに繋がることになる。

 旅狼、ライブラリ、黒狼から分離した黒剣、そしてニトロ製薬の四クランから代表となるメンバーを集めて結成されたパーティが今日、このユニークシナリオに挑むのだ。

 

 というわけで見送りに来たのである。因みにニトロ製薬からはリーダーとサブジョブが忍者の比較的戦闘に特化したクランメンバーの計二人が代表として選ばれている。

 

「深海は楽しい所ですよ。特に夜は……時間には結構余裕がありますから観光も楽しんできてください」

 

「夜は……夜は?ねぇ、夜に何が起こるんだい?」

 

「これ以上はネタバレなので……」

 

「き、気になる……夜に一体何が……!?」

 

 リュウグウノツカイ、シャチ、ヤドカリ、アンコウ……或いは俺もまだ見たことが無い海洋生物がみんなを待っていることだろう。餌として。

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

 ズィーズィー号の中には「海蛇の林檎」というカフェが存在している。

 どこの店でも同じ顔をしている蛇の林檎のマスターを一回り若くしたようなこのカフェのマスターからアップルパイを受け取り、波で若干揺れる船内で味わう。

 

 乗船前に呪啓者ギルドの団長から聞いた話なのだが、どうやら蛇の林檎は賞金狩人と何かしらの関係がある施設のようで、賞金狩人と仕事の内容が近い呪啓者ギルドはお互いに協力関係にあるそうだ。そしてこの海蛇の林檎は後に蛇の林檎新大陸支店とする予定の施設らしい。

 

 今回この船に乗った俺とラメリンさんとあと一人の呪啓者ギルドの団員は、呪いの影響で他の一般NPCからは基本的に良く思われていない。

 そんな若干の居心地の悪さがある船内で我々が落ち着ける空間としてこのカフェを利用させてもらうことになったのだ。

 

「わぁ~それおいしそー!」

 

「程よい甘未と酸味……」

 

「マスター、私にもアップルパイを一つお願い!」

 

 この俺の隣の席に座っている少女……のように見える男性NPCの名はアレクサンドラ(本名:アレクサンダー)。呪啓者ギルドの団員であり、ラメリンさんの弟子でもある。

 顔も声も服装も幼い少女のそれだが、実際は成人男性である。今の俺は性別反転して女の姿な訳だが、この人は趣味で女装しているらしい。

 

 因みに親しみを込めてサンディと呼んで欲しいと言われているのでその名で呼ぶことにしている。本人曰く元の名前は長くて可愛くないから嫌とのこと。

 

 サンディさんは新大陸で魔道具を扱う書店を開くべくこの船に乗り込んだらしい。これから先どんどん開拓者が新大陸に行くだろうから需要はありそうだ。

 そしてお店が完成してそこに転移の魔法陣を置いてもらえれば、新大陸からでも呪啓者ギルドに行くことが可能になるので俺としても助かる。

 

 さて、船に乗れたは良いものの、新大陸に到着するまでリアル時間で一週間という正気の沙汰とは思えないマップ移動時間が発生している。こんな所までリアルにするな。

 この一週間、シャンフロ内で出来ることは大きく制限されることになるわけだが、これからどうしようかな……

 

 一週間別のゲームで時間を潰すか、掲示板でも覗いてみるか、このカフェの全メニューを制覇するか……あ、そうだ。

 

「周りが海で囲まれているのなら泳げばいいじゃないか」

 

 ということでアップルパイを食べ終えてから船の甲板へ。

 流石に船出からそんなに時間が経っていないので、殆どのプレイヤーはログアウトすることなくシャンフロのリアルな船旅を楽しんでいるようだ。潮風を浴びに甲板に出ている人が多い。中には釣りを試みている人もいる。

 

「なるべく人が見ていない場所で……」

 

 このまま海に飛び込んでも良いが、折角ならゲームでしかできないような全力の飛び込みをしてみたい。

 必要なスキルを発動して……

 

「ジャンプ!」

 

 もはや飛び込みと言うより飛び上がりと言った方が正しいのではないかと思うほど高く跳躍し、更に上に向けて猛スピードで落下し続ける。

 シャンフロの高さの限界を確認するために過去にも何回かやってみたことがあるこの全力跳躍だが、何回か検証してみていくつか判明したことがある。

 

「おっと、ここが限界か……」

 

 先程まで物凄い勢いで空へと落ちていた俺の体がどんどん減速してゆき、スキルのエフェクトも次第に弱まってゆく。

 最終的に正しい方向の重力に負けて、海へ真っ逆さまに落ちてゆく。

 

 この世界、高い場所であるほど大気中の魔力が薄くなるようだ。

 これは単なる世界観を広げるためだけの設定では無いようで、魔力の濃度はスキルと魔法の出力に影響を与えることを最近発見した。

 大気中の魔力が薄くなればなるほどスキルと魔法の出力が下がり、十分な性能を発揮できなくなるのである。原理はよくわからん。

 

 つまり俺の飛行スキルや重力操作スキルもある程度の高さまで来ると、スキルが俺の体を持ち上げるだけの力を失ってしまい、それ以上高く飛ぶことが出来なくなるわけだ。

 金月晶の(まじな)い釘を装備してから急に今までよりも高く飛べるようになったことに気がつき、検証を重ねた結果この結論に辿り着いた。多分そんなに間違ってはいないと思う。

 

 高度が下がればスキルの出力が復活し、下へとどんどん加速してゆく。

 さーて、このまま水面にダイブして無事で済むのか試してみようじゃないか。

 

 出来る限り水の抵抗が少なくなるように手足を真っ直ぐ伸ばして……いざ!

 

 

 

ズドォオオオオオン!!!

 

 

 

 着水のその瞬間、アクセアリーの効果が発動して体の表面が水晶で覆われて衝撃を吸収……しきれてねぇわすっごくビリビリする。

 鋭い流線型の水晶の塊となって海水を掻き分け、落下の勢いを殺さずに一気に潜水!

 

ドゴンッ!!

 

 そしてそのまま海底に頭から突き刺さった。思っていたよりも浅かった。

 もっと沖の方じゃないと深さが足りないな。あのシャチとかヤドカリとかはこんな浅い所にいる生物ではないだろう。

 

 深海ダイブは数日後に再チャレンジするとして、今はリアルな海中遊泳を楽しむとしようか。

 海底に突き刺さった上半身を引っこ抜いて、普通に泳ぐ分には過剰すぎるスタミナで海底付近を探索する。

 

 なんか適当に魚とか貝とか集めて持ち帰るか。

 ルルイアスでの経験から今の俺のインベントリには幾つかの調味料と簡単な調理器具が収納してある。

 

 海の幸を集めて食べるだけでも余裕で一週間潰せる気がしてきたな……流石はシャンフロと言うべきか。

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

 遭難した。

 

「どこだここ……」

 

 船が遭難したんじゃなくて一人俺だけで遭難している。

 カジキっぽい素早く泳ぐ魚を追いかけていたら気が付いたら船が見えないくらい遠くまで来てしまっていた。

 

 見回しても見えるのは青い海と青い空と浮かぶ雲だけだ。陸地も船も見えやしない。

 

 まあ船でセーブしてあるから死ねば帰れるんだけどね。

 でも折角だし死ぬ前にもっと探索しておきたい。

 

 シャンフロの海は恐らく現時点で最もプレイヤーによる攻略が進んでいないエリアの一つだ。

 アラバの存在を考えるといつかプレイヤーも海を探索することになると思うのだが、少なくとも現時点での海はほぼ全てのプレイヤーにとって大陸と大陸を隔てる邪魔な存在でしかない。

 

 シャンフロの海がどこまで広がっているのか、陸との割合はどのくらいなのか、そういうのはわからないけれど、シャンフロなら恐らく世界の果ての海の底まで作り込んであると思われる。

 特定の海域の限られた環境にしか存在しないレアモンスターとかがもしかしたら見つかるかもしれない。

 

「向こうの空が暗いな」

 

 そういえばリーダー達はもう深海に行ったのだろうか?

 嵐と共に現れる幽霊船と一緒に深海に引きずり込まれるという流れは多分一緒だろう。一応その条件だけは伝えてあるので幽霊船だけぶちのめして無事帰還ということにはならないはず。

 

 もしかしたらあの暗い雲がそのシナリオで発生する嵐だったりして……あれ?雲がこっちに近付いてきているな……

 

 現実なら死を覚悟する状況なんだろうけど、嵐の中泳ぐなんて中々できる体験じゃないからな。折角だしこのまま突撃……お、どうしたファントムそんなに震えて。うーんなんだかすっごく嫌な予感がしてきたぞ?

 

 次第に海が荒れ始め、暗雲が稲光で照らされる。

 みるみるうちに空が暗雲に包まれ、強烈な風と高波によって海面に顔を出すことが困難となる中、それは空からやって来た。

 

「……は?」

 

 分厚い雲を裂き、稲妻と共に空から降り注ぐのは黄色のロープを首に巻いた髑髏のマークを掲げる巨大な帆船。

 それも一隻だけじゃない。最も巨大な帆船に続いてそれより少し小さい帆船が次々と雲の隙間から海へと落ちてきている。

 

 海の中から現れたクターニッドの幽霊船とは逆に空から現れた大船団に呆気にとられていると、先頭の巨大帆船が減速することなくそのまま着水し、激しい水飛沫が上がる。

 

「ちょ、なんなnゴボボボボ……!?」

 

 次々と押し寄せる波に押されてひっくり返る。海の中に居ちゃダメだ。スキルを発動して浮遊する。

 

 かなりの勢いで海面に激突した帆船だったが、少し沈んで再び浮上して来る。

 少し破損しているが、あれは降ってきた時にはもう壊れていた部分だ。落下によるダメージは無いのだろうか?

 

 どう見ても海賊船ですと言わんばかりに髑髏マークを旗や帆でアピールしている大船団がなぜ空から降ってきたのかは分からないが……まあ少なくとも普通のイベントではないだろう。

 

 少し高度を上げてその船の甲板を覗いてみれば、そこに居たのはボロボロの服に身を包んだ骸骨の群れ。

 肉の無い体でカトラスや杖を構えており、その武器と空っぽの眼窩は俺に向けられている。

 

「……これってこっちも船に乗っている状態で戦うことを想定されているようなイベントなのでは?」

 

 無数の魔法とバリスタの矢が雨霰のように降り注ぐ中、イベントの発生条件をもっと調整した方がいいだろとシャンフロ運営に毒づいた。




転移魔法で船と旧大陸を行き来できることを知らない主人公
できそうとは思いつつも万が一戻れなかったら面倒なので海で遊ぶことにしたらまた変なイベントに遭遇した模様


???
特殊な戦闘イベント。発生条件は天候が嵐の時、一定以上の価値のあるものを保有していること
人数と所有物の価値の合計によってイベント発生率が上下する。主人公の場合、船も無しで一人だけなのにルインヴァルの価値とファントムのアンデッド系遭遇率補正がヤバすぎて発生してしまった

このイベントの発生場所によって何が襲ってくるのかが変化する。旧大陸に近い海上では空から降って来る海賊船となるが、他の場所では空飛ぶ馬に乗った狩猟団だったり精霊の大行進だったりする
そもそも発生確率がかなり低いイベントなのに場所によって襲ってくる相手が変わって報酬まで変化するのでコンプリートはめちゃくちゃ大変



推奨レベル130
推奨人数30~45
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