シャングリラ・フロンティア~コミュ障ゲーマー、スタミナ全振りで神ゲーに挑まんとす~ 作:葛饅頭
「全く近寄れない……!」
奴の渦巻く雷雲の巨腕が振るわれる度に凄まじい暴風が吹き荒れる。
それだけで行動が大幅に制限される上に不規則にその体から稲妻が迸るのだ。危なすぎて接近できない。
しかも魔法やスキルの放電とは違う、自然の稲妻だ。思考加速スキルを使っても雷の速度なんて見切れない。
最大質量にしたルインヴァルの投擲でさえも風に流されて逸れてしまう。
スキルを使えば当てることは出来るだろうが、リキャストタイムが長いからな。さっきまでの再生能力がこの状態でも残っているとすると時間をかけるのは悪手。
現在リキャストタイム中の強力なスキルが全て再使用可能になったその時、覚悟を決めて一気に削り切るしかない!
「こっちは破片が掠るだけでもヤバいってのに……!」
ファントムはこの状態では役に立たないし雑魚を倒してMPを回復することもできないのでインベントリに戻し、MPを水晶バリアに回す。
これで瓦礫は多少は大丈夫だが、このバリアは雷にはほぼ無力である。骸骨を倒しまくって引き上げられたレクィエスカト・イン・パーケの耐久力を信じるしかない。
「ああもう!さっきからドッカンドッカンうるせぇ!!」
ランダムで上から降り注ぐ稲妻の中に時々俺を狙っているものもあり、一応その直前に全身がビリビリする予兆があるのだが、一瞬でも退避が遅れれば直撃は免れないだろう。
釘アクセサリーの影響で雷を引き寄せてしまうので普通に回避するのでは落雷を避けれない。回避スキルを連打し、宙を舞う大きな残骸の下へ潜り込んで落雷を遮断する必要がある。
『コ癪!』
「ギミック無しでシンプルに強いってのも困るな……!」
奴が雲の腕で比較的原形を留めている帆船を鷲掴みにして投げ飛ばしてきたのを回避スキル連打で何とか避ける。
攻撃の規模がデカすぎる。これレイドモンスターとかそういうやつじゃないのか?
「【
マジックスクロールで魔法を唱え、大質量の巨大隕石を発射する。
これだけの速度と質量なら風で逸らせないはず。そう思って放った隕石は……
『ヌるイ!!』
肋骨を包む雷雲に突っ込んだ隕石がそのまま深くまでめり込み、雲に包まれて見えなくなった。外からじゃダメージになっているのか分からない。
奴は掌をこちらに向けて──
「マジかよ……っ!?」
掌が赤く光ったその瞬間、隕石の行方を察した俺は「ベイルアウト」を発動して真上に跳ねる。
その直後、奴の掌から熱線と見紛う程の勢いで放たれた隕石が俺のつま先を掠め、地平線の彼方へと消えていった。
これは準備が整うまで迂闊に手を出さない方が良さそうだ……
嵐の中、奴との追いかけっこが暫く続く。
奴が動くと空を覆う雷雲も同じ方向へ凄い勢いで流れ始めるので、恐らく奴とこの異常気象はリンクしているのだろうが、わかったところでどうしようもない。
それだけでなく、時間が経てば経つほど天候が悪化してゆく実質的な時間制限の存在も判明した。
海面付近では余裕で数十メートル規模の大波が荒れ狂い、船の残骸と稲妻が雨霰の如く降り注ぎ、雨に至ってはバケツをひっくり返したような豪雨だ。
数メートル先も碌に見えない最悪の視界の中、足場も壊滅。飛ぼうにも風が強すぎてそのままでは制御不可能だ。
【
幸いにもレクィエスカト・イン・パーケの耐久力と【
『よこセぇえエえっ!!!』
「あげねーよ!!」
影を纏って巨大化してもなお俺を丸ごと包み込めてしまうほどに巨大な掌で掴まれかけたが、完全に閉じる前に指の隙間からなんとか脱出する。
奴は雲を纏う前よりも機敏になっている。自分の背中を風で押して加速しているようだ。
僅かな判断の遅れが命取りだ。【
リキャストタイムが終わるまで後残り数秒……しかしここで奴が見たことのない動きをし始める。
腕を高く掲げると、腕に纏う雷雲から黄金のロープが次々と飛び出し、空中で独りでに細長く編み上げられてゆく。
腕からロープを伝って雷雲が登り、天からロープを伝って雷雲が降る。
雷雲が繋がり出来上がった雲の柱を巨腕が握り締める……
『我が槍ハ避ケること叶わズ!』
大気が震えている。大技の気配がする。
奴がその手に持つ雷雲をゆっくりと振り被ると、それに引っ張られるかのように天が傾く。
「其はあり得ざる槍、断章積み編みて紡がれし非実在の輝き……」
だがこちらもリキャストタイムが明けた。
【
思考加速系を先に発動するのがコツだ。思考認識によるスキル発動がスムーズになる。
ルインヴァルを最大サイズで出現させて、短い詠唱を行う。
リビルドによってルインヴァルに生えたこのスキル、今こそ使わせてもらう!
「────「
俺の全身から黄金の結晶が次々と生え、成長し、影で包まれてゆく。
竜を思わせる角や翼、尻尾、爪などの形に成長した結晶が完全に影に覆われたことで、俺の姿はシルエットだけ見れば竜と人の中間のような姿となった。
見た目だけの変化ではなく、この結晶は大体の攻撃を弾くし、尻尾は動かせるし、爪による攻撃は斬撃判定となる。
更にルインヴァルからも結晶が生え、ただでさえ巨大な槍の穂が一瞬にしてその数倍のサイズの結晶に覆われ、魔力を穿つ刃となる。
これなら奴にだって届くはずだ!
『ワが槍は防ぐコトかナわず!』
奴の手に握られた奴曰く槍であるというソレから稲妻が迸り、雷雲が激しく渦巻く。
その回転は天を覆う雲までも捻り、巻き取ってゆく。そんな綿菓子みたいに雲を巻き取るんじゃないよ。
俺と奴で規模が違いすぎる。俺のスタミナを全部使っても何とかなるような差じゃないのは明らかだ。
だが……
「面白い!正面から突っ込んでやるよ!」
足の爪でルインヴァルを掴み、空中で一回転して勢いをつける。
その時見上げた空には雲一つなく、先程まで分厚い雷雲で完全に隠れていた月が浮かんでいた。
奴が身に纏っていた雲までも含む全ての雷雲を巻き取り、圧縮した槍が雷光で太陽よりも眩く輝いている。
偶然にも輝く槍同士のバトルとなったわけだ。燃えるじゃないか!
「「乾坤一擲」!!貫け──」
『あらシノ王タる我のテより放タレシ我がヤりの名は──』
全てのスタミナを注ぎ込んだルインヴァルを奴に目掛けて蹴り放つ──!!
「──ルインヴァル!!!!!」
『──グングニル!!!!!』
眩い雷光と漆黒の中で煌めく黄金がぶつかり合い、視界が完全に白に染まってしまう。
それでも音でルインヴァルの位置を把握し、重力を操作してルインヴァルの真後ろに着く。ルインヴァルを盾にしなければ余波だけで死んでしまう。
奴の槍を真っ二つに斬り裂きながらも押し返されつつあるルインヴァルを押し込むべく、「
槍同士の激突の余波だけで影の装甲がどんどん削られてゆく中、ルインヴァルの石突目掛けて「
今度こそルインヴァルが壊れてしまうのではないかと思うほどの衝撃。何かが砕け散る音。その直後、何も感じ取れなくなる。
五感が消失しても、重力の方向だけは意識し続け──
「……こういう時助かるな「
しかもこのスキル、即復活する上に色々と状態をリセットして一時的にほぼ無敵になるレベルでHPが回復し続けるからな。
しかしあの槍はその上から削り殺してくるレベルのとんでもない多段ヒット攻撃だったので復活して即死にかけたが、スタミナもリセットされて全回復していたので「タフネスプロテクト」でスタミナを犠牲にすることで何とか耐えられた。
『オ……ォオ……』
俺の背後で腕を肩の付け根辺りまで粉砕された巨大骸骨がボロボロと崩れ、骨の一つ一つがポリゴンとなって砂のように風に吹かれて消えてゆく。
破壊されたのは奴の腕だけでなく、その腕に巻き付いていた黄金のロープも裂かれ、黄金の粒子となって散ってゆく。
恐らくあのロープが奴の核になっている重要なアイテムだったのだろう。それを失った奴はその姿を保てなくなっているようだ。
一度死亡したことで聖杯の効果も解除され、男の姿に戻っていたのでいつもの二属性シャチ装備に戻す。
一瞬で着替えるマイセット機能は無いんだよなシャンフロ。
「ルインヴァルは……無事か。中身殆ど食われたけど……」
ルインヴァルのインベントリの中に入れてあった鉱石が大体食われている。無茶させたんだからそれくらいは許すが、今の一瞬で水晶巣崖何周分の素材が消えたのだろうか……
『あリェ……ぬ……嵐ノ王た……る我ガ……ちがウ、おれさマは、海ぞくオう……』
巨大骸骨だったものが崩れながらも喋り続けている。
あんまり考察をしている余裕が無かったから今までスルーしていたが、コイツ意識が二つあるのか?
『あぁ、よウやく……ねむ、れ……る──』
その言葉を最期に、風に吹かれて完全に消えてなくなってしまった。
気づけば船の残骸もどこにも見当たらず、空には雲一つない満天の星空が広がっている。海は静かで風も穏やかだ。
まるで全てが夢だったかのような……いや、こちとら数億マーニ分の損失出してんだぞ。それに見合った報酬をくれ!
『称号【嵐の狩猟団の獲物】を獲得しました』
『称号【ワイルドハント・ハンター】を獲得しました』
『称号【嵐を打ち砕く者】を獲得しました』
『称号【海賊王伝説の結末】を獲得しました』
『アイテム【代償の命綱の残滓】を獲得しました』
『アイテム【海賊王の地図】を獲得しました』
地図……宝の地図?直接宝をくれよ……
この章はこんな感じのボスがやたらと出てきます。パワーアップイベントの度にそれに相応しい相手を主人公にぶつけようとしたらこんなことに……
「
ジークヴルムの角を素材に使用した影響でマナ殺しの性質を宿しており、黄金の鱗はあらゆるマナの干渉を弾き、黄金の牙はあらゆるマナの防護を貫く
「鳥の舞【鶻落】」……読みは「こつらく」。ハヤブサの急降下
一時的に超高速落下を可能とするが、下手に舞うと足首が圧し折れるし他の舞の邪魔にもなるので扱いが難しい舞
これでスピードを稼いでから翼を生やして軌道を修正し、そのままの勢いで趾を生やして相手を蹴ると物凄いダメージが出る
「
因みに一度の戦闘でこのスキルは一度しか発動しない。何回も発動出来たらシャンフロ壊れちゃう
あらゆる攻撃が基本的に通じない。人間如きが嵐を何とかできると思うな
ひたすら耐え続けると大体十分くらいで必殺技を使ってくるので、それを乗り越えられればクリアとなる。ウェザエモンもどき。
第二形態よりも攻撃が苛烈になり、落雷が上からも前からもランダムに飛んでくる。因みに魔法攻撃ではない自然現象という判定となっているので魔法耐性とか反射とかは無意味
ダメージが入らないのでヘイトを取るにはヘイトを取る専用のスキルや魔法が必要。その上でランダム超速発生攻撃を乱発してくるので後衛の事故死が多発する
因みに海も荒れまくるので船で逃げるのも困難となる。転移魔法も妨害される
『グングニル』
嵐の王の切り札。どの地方で遭遇しても最後にこれを使ってくることは共通となっている
発動の準備段階になると核となる部分が一時的に露出するので、このタイミングで攻撃を集中させて核にある程度のダメージを与えられればこの技は不発となり、そのまま嵐の王も消滅して勝利となる
発動を許してしまった場合、そこから生き延びることができてもクリアとなるが、攻撃範囲が戦闘エリア全域かつ数十秒続く超多段ヒット攻撃で、しかも直撃すると即死エリア判定を押し付けられるので問答無用で死ぬことになる。蘇生アイテムを用いた時間差蘇生も無意味
対処法は何かしらの方法で直撃を回避した上で最高クラスのタンクに庇ってもらうか、雷を上回る速度で逃げるか、あるいはこちらが死ぬ前に超火力をぶつけてこの技の核となっているものを先に破壊するしかない
【嵐の狩猟団の獲物】……ワイルドハントに遭遇すると貰える称号。一度遭遇すると次の遭遇率がアップする
【ワイルドハント・ハンター】……ワイルドハントに勝利すると貰える称号。嵐からの生還者
【嵐を打ち砕く者】……グングニルを発動させた上でその核を破壊すると獲得できる隠し称号。報酬が増え、同じワイルドハントはもう発生しなくなり、代わりのワイルドハントが配置される
【海賊王伝説の結末】……旧大陸近海で発生するワイルドハントに勝利すると貰える称号。今後主人公以外がこの称号をゲットすることは不可能になった
【代償の命綱の残滓】……旧大陸近海で発生するワイルドハントにグングニルを発動させた上でその核となっている代償の命綱を破壊すると獲得できるアイテム
修復が不可能な程に破損した代償の命綱の残滓。もうロープとして使うことはできないが、そこには確かに人の願いと呪いと嵐の王の怒りが宿っている
代償の命綱は黄金の天秤や勇者武器と同じカテゴリのアイテムであり、所有者の命を何があっても助けるが、その代償として関係者の命を奪う。あの世とこの世さえも繋げるロープである
海賊王ドラコが偶然発見し、所有していたもの。この命綱がある限りドラコは不死身であり、船員達は次は誰が身代わりにされるのか賭けをしていたと言われている
因みに仮に破壊前の代償の命綱を手に入れられた場合、耐久値がゼロになるまで何度でもNPCを含む関係者を犠牲にして所有者を蘇生するするぶっ壊れアイテムとなる。支払う代償には物理的な距離の制限があるものの、所有者との関係が深い相手ならその関係の深さの分だけ射程距離が伸びる
なお蘇生は強制。そしてこいつはMPを強制的に吸収して耐久値を回復し、蘇生時にはMPが全回復する……
【海賊王の地図】……旧大陸近海で発生するワイルドハントに勝利すると獲得できるアイテム
海賊王ドラコのアジトが記された地図……実は獲得した瞬間に地図に記された場所にアジトがあったということになるので、先に誰かに発見されていたということにはならない。そしてチャンネルシステムによって地図の所有者が探しに行った時だけ見つかるようになっている
アジトは大体旧大陸側の海の上のどこかにあるが、目印が少なすぎて探すのは困難を極める