リゲインファンタジア〜ある魔王と勇者達〜 作:sorasumi
「なんだよ、これ……!」
目の前に差し出された一枚の手紙。その内容に目を疑う。
『国王様へ
いよいよおたく侵略させて貰いますわよ。
せいぜい勇者ちゃんを揃えて待ってなさいな。
魔王ちゃんより』
「この字、知ってる……」
そう呟くミル。え、アイツこんなに字上手いのか。
「ありえません……ありえませんわ!」
「せ、拙者だって信じないでござる!」
「残念だが事実だ。今朝、国王様の枕元に置かれていた。そんな真似が出来るのは空間魔法を扱えるオレか……魔王だけだ。」
そんな。やっとの便りが、これだってのか。
あの宴会から、フェイトはすっかり姿を眩ませてしまっていた。
いや、居場所の見当は付いていたんだ。しかしそこへのゲートを開けるのは王都で一番の魔導士であるキト、たった一人。
そのキトからの呼び出しで、俺達五人は王都の中央の王宮にこうして集まっている。
メイ率いる騎士団が国王様のいらっしゃる部屋の周りを固めている、その手前の広間で俺達は額を集めていた。
「ドラゴンの一件が済んで、向こうとしても目の上のたんこぶが片付いたんだろう。近い内に、魔王は此処へと攻めて来る。」
場を占める沈黙。
それを破ったのは、サラだった。
「……だったら、どうするでござるか。」
「当然、迎え討つ。」
「ッ!」
嫌な予感がして、二人の間に割って入る。
「おい!サラ、少し落ち着け!」
「これが、落ち着いてっ……!」
鬼の形相でキトを睨み付けるサラ。
「大丈夫だよ、サラちゃん。きっと大丈夫……」
ミルも手を握って声を掛けるが、届いてはいないだろう。
「ありえませんわ、ありえませんわ……」
メイは呆然と、うわ言を呟くばかり。ドラゴンとの戦いで見せた勇ましい姿が嘘の様だ。
そんな、酷い有様の中。
「どうしたんだい、勇者さん達?」
底抜けに明るい声を聴いて。
俺は。
聖剣を、抜いた。
「全員、盾を構えなさい!」
メイが待機していた騎士団へと号令を飛ばす。
「フェイト……」
そして響く統制の取れた足音に混じって、そう呟いたのが誰だかは分からなかった。
「ん〜、フェイト?そのお名前は……確か、俺ちゃんの
その一言で、ざわつく騎士団。
「ようよう、皆様お揃いで。早速なんだけど、俺ちゃん王都貰うからさ。」
いつもの調子で、滔々と語るフェイト……いや、魔王。
「でも此処に集まったって事は、その邪魔をするつもりなんでしょ?困っちゃうな〜。」
その声は、上機嫌にすら聞こえる。
「それじゃあさ、しょうがないよね。皆にはここで、ご退場願います!」
魔王がふっと腕を振るう。最悪の事態が頭を過ったが。
何も、起こらない。
「……あれ!?空間魔法、使えねぇ!?」
取り乱す魔王。一体、何が起こっている?
「魔王が聞いて呆れるな。あんな手紙を貰って、国一番の魔導士が無策でいるとでも思ったのか?」
そう発したのはキトだ。何の気なしに歩いて、魔王へ近付いて行く。
「此処には勇者にしか抜けない聖剣というリソースまであるんだ……魔王だろうと、その力を封印するのに訳はない。」
え、この聖剣、そんな大したモノだったのか。
普通に旅の中でフライパン代わりにしてたぞ。
「くっ、魔法が封じられたところでぇ!」
苦し紛れか、魔王がキトに掴み掛る。それを認識した、次の瞬間には魔王が床に転がっていた。
キトが投げたのだ。
「魔王サマもさぞや厳しく色々と詰め込まれて来たんだろうが、オレは
キトはそう吐き捨て、魔王へ手を翳す。
「それじゃあ、魔王。お前の力を完全に封印して、幕引きだ。」
這いつくばったまま、ピクリとも動かない魔王。
俺は、それをただ見つめていた。
「ダメーッ!」
「させないでござるっ!」
「させませんわっ!」
一斉に響く大声で、気が付いたかの様に顔を上げる。
さっきまで隣に居た三人が、魔王の前に立ち塞がっていた。
「なんのつもりだ?そこに居るのは魔王なんだぞ?」
淡々としたキトの言葉。
「それでも、拙者の友達でござる!」
「魔王様は私の婚約者ですわ!」
突然のカミングアウトに騎士団がさっき以上にざわついてるが。
「悪は裁かれるんだ……子供でも分かるだろう?」
「知るもんか!」
そう吠えるミル。
「魔王め、羨ましいな。いいんだぜ、お前らごと封印しても。この聖剣があれば、それすらも可能だ。」
「お、おいキト!お前、いくらなんでもッ!」
ようやく、自分の喉から声が出た。
キトは俺の顔を一瞥すると。
「全員動くな!命令だ!」
そう叫んだ。
静まり返る王宮。そして気付く。
魔王が、立ち上がっている。
しかし、敵意は……いや、生気が、感じられない。
「ありがとね、ミルちゃん、サラちゃん、メイちゃん。」
掠れた声。全てを諦めた世捨て人の様な、か細い声で。
「俺ちゃんは、もういいから。自分を、大切にして。」
魔王は、そう言って笑いかけた。
「フン、別れの挨拶は済んだか?そこの三人、封印されるか下がるかさっさと選べ。」
風が吹いた。
「ありがとう。ごめんね……」
「拙者、忘れないでござる……」
その風に、押し流される様に。二人は引き下がる。
「……イヤ!イヤですわ!どうして魔王様が!」
しかし、なおも動かず、それどころか魔王を抱き締めるメイ。
すると魔王は、メイに倒れかかる様に顔を近付け。
唇を、奪った。
「……フェイト、様。あっ……」
そして、魔王がメイを突き飛ばした。
その一瞬だった。
「はあっ!」
キトの声に応じてか、俺の握り締めていた聖剣が形を変えて、魔王へと流れ込み。
王宮の中、一面が眩い銀色の光に包まれた。
誰もが目を瞑ったのだろう。
やがて光が散り、俺が目を開けた時。
銀の首輪を着けたフェイトが、そこに居た。
「……え?俺ちゃん、ガチで、封印されちゃいました?」
見たことの無い、間抜け面で。
××年、王女フェイトの体を奪いし魔王、来たる。
勇者の聖剣により封印され、以後王家の力となる。
「二行!?あの大芝居が、二行!?」
「なんだ
そう、大芝居。
特別公演、題して『家出した王女が魔王になってたので封印という体で王家の元へ帰そう大作戦』。
主演俺ちゃん、脚本キトちゃん。他の皆はガチで筋書きを知らされてなかったよ。ドッキリ大成功。ごめんね。
まあ、皆上手く演技できそうにないからね。
騎士団の皆さんという証人も必要な以上、悪いなあと思いつつも、まるっと騙す事にしたのです。
結果、大体上手く行ったんだけど、誤算もあって。
ズバリ三人が俺ちゃんを庇った事。
その時は嬉しかったんだけど、これがけっこう、後に響きまして。
有り体に言えば、形式上メイちゃんは騎士団長をクビになってしまったのだ。
騎士団の目の前で王都を裏切った訳なので致し方無くもあるとは思うのだが、どうにかならなかったのかとキトちゃんに訊いた所。
「溜まりに溜まったツケもあるんだ、仕事の
と笑えないジョークも交えて切り捨てられました。
というか、なんか都合の良い人員整理なんじゃないかと思ってしまう。
まあ、当の本人は。
「遂に憧れの新婚生活ですわ!もう騎士団の厳しい規律に囚われる事もありませんわ!ハネムーンは何処へ行く予定ですの!?勿論マオ様の行きたい所でしたら何処まででもお供致しますわ〜!」
めちゃめちゃ幸せそうだからいいのかな。
あ、結婚しました。どんどんパフパフ。
だって、あの時キスでもしなきゃ動いてくれないなって思ってさ。しちゃったんだもん。
まあ、俺ちゃんもメイちゃんの事、最近慣れて来ててさ。
向こうがどう思ってるかなんて、考えるまでもないじゃん。
ね。
で、ミルちゃんとサラちゃん。
この二人にも、それなりの罰が与えられる事になってしまった。
その罰というのが。
「マオ殿、あ〜ん、でござる♪」
「ほらマオ、ボクのも、あ〜ん♪」
俺ちゃんのお世話係、しばらくの間。
なんで?と、またキトちゃんに問うたら。
「マオの事をまだ信用してない奴らも、王都に一定数居てな。当分の間監視を付ける事になったが、誰もやりたがらない。そしてマオと面識があって、罰を与える必要がある奴らが居る。後は分かるだろ。」
分からん。
二人にイヤじゃないのか、それとなく訊いてみると。
「そんな訳ないでござる!だって拙者とマオ殿は、友達でござるから!」
「大丈夫だよ!お父さんだってマオの側にいるなら安心だって言ってるんだから!」
ですって。いやはや、モテる魔王サマは困るね。
メイちゃんこそ、この状況に文句を言うかと思えば。
「お二人ともとても可愛らしいですわ!私の異母妹になりませんこと!?」
この調子だし。
まあ俺ちゃんだって、可愛い女の子に囲まれて、お世話されてって生活になった訳だから。
そりゃあ、悪い気はしないけどさ。
そうそう、アズマちゃんなんだけど。旅に出ちゃった。
なんでも、折角聖剣がなくなったんだから、勇者ちゃんじゃなくてアズマちゃんとして、もう一度世界を見てみたいんだって。
里帰りもしたかっただろうからね。故郷で聖剣なくして怒られてないといいけど。
そうだ、聖剣の封印。
これさ、予定ではただの
あーあ、これでもう家出できないなあ。
キトちゃんも相変わらず忙しそうだし、しばらくはこの生活が続くんだろうなあ。
うふふ。
あと、さっきからちょいちょい出てるマオって名前は、俺ちゃんの新しい名前。
流石に死んだ事になってるフェイトって名前をそのまま使うのは、色々と無理があったからね。
封印を期に、生まれ変わった俺ちゃんの名前って訳。
それで、この名前を付けてくれたのは。
「おいマオ。考えてる所悪いが、母上と国王様がお呼びだぜ。」
おっと、ちょうどいいや。
「……うん。話して来るよ。ちゃんと、ね。」