リゲインファンタジア〜ある魔王と勇者達〜   作:sorasumi

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はじまりの勇者アズマ

「え、魔王ってオマエ?弱そう。」

「失敬〜。」

いつも通り玉座で横になってたら、門バーン開けて廊下ダカダカ走ってカーペットシワッシワに踏み荒らして来た、なんかキラキラしたモン背中に着けてる若人が開口一番コレよ。

「確かに俺ちゃんが魔王ちゃんよ。」

「え、本当か。まあ強いより都合良いか。はあぁ!」

そう言うが早いか、その長物を振り翳して来たもんで。

「ホイ。」

ガキィンと金属音が響く。

我が愛剣『糸巻恋(いとまごい)』。相手が聖剣だろうと折れはしないよ。

「く、流石に一筋縄ではいかないって奴か!?」

「まあね。」

んで。

「あァ、痛え、ギブ、ギブだってッ!」

「はーい。」

流石に剣で勝負となると些か厄介と踏んだ俺ちゃんは、寛いだ体制からそれを蹴っ飛ばした後、流れる様に卍固めを掛けてギブアップのお言葉を頂戴したのでした。

「はいハイポーション。はいとハイをかけてる。いいでしょ。ヴィンテージだよ欲しい?はいもうそれあげちゃうから。」

「いや新品の方がいいが……さっきの剣と言いどっから出した?」

「空間魔法で異空間から。じゃもう俺ちゃんの勝ちでこの戦いはおしまい。座んなよここ。キラキラしたモン取ってくるわ。」

「え、いいよ俺やるよ……てか聖剣だし……」

そいで、二人並んで玉座に座って。

「ハイポーションってね、ちょっと冷めた位で淹れるのが一番美味しいんだって知ってた?」

「温めて飲む奴見た事ねえよ……うん、普通にマズいわ。あぁ、なんか調子狂うなァ。」

そう言って天を……正確には天井を仰ぐ青年。

「一流の魔王ちゃんは、常にイニシアチブを取るモンだからね。君はまだ若いし、流され易いタイプでしょ?そいでさ、本題。」

「ん?」

「あんた誰?」

「え?あ、あぁ、そうか……アズマだ。まあ、勇者……って事になるのか。」

勇者。

ま、だろうなって感じ。

「はぁん、アズマちゃんね、メモメモ……最近どうも人の顔と名前が一致しなくてね、まあ君しか知らないんだけど。」

「はぁ?いや、まぁ、無理もねーか、こんな殺風景な所じゃなあ。」

「ま慣れればいい所よ?ほいで勇者サマはなしてこんな殺風景な所に?」

「えーとな、生まれた村で何十年に一度かそこらでお祭りやってて、まあ岩に刺さった剣抜く訳よ。んで普通抜けねえ訳よ。」

「んで抜いちゃった訳だ。」

「そそ。それからはもう早くてさ、色々な所旅して、辿り着いた王都で魔王倒せって言われて来たって訳よ。」

「実際どう魔界?」

「いや〜二度目はいいかな。」

「そんなガッカリ観光地みたいな。ここに永住してる魔王もいるんですよ!」

「うん、ごめん、まぁそね、良いんじゃね。天気良いし。」

「そうね、曇天だね。奥行きがある事言うじゃん。」

「はは……」

「いやぁ、魔王ちゃんと勇者ちゃんで気まずくなる事ってあるんだね。」

「あー……」

何処か遠くを見つめるように、彼は息を吐き出す。

「もう帰る?ハイポーションも飲んだ訳だし、勝負も付いてる。再戦はまた日を改めて来てね。」

「そう……するかな。」

「それじゃせっかく来てくれたんだし、これで帰りに美味しいモノでも食べてよ。」

そう言って異空間から取り出した小袋を彼のベルトの間に挟み込む。

「出店でも出てるのか、このヒビ割れた大地に。」

「出て〜る〜訳がぁ〜ございません!」

「えー……」

「冗談だよ、人間界まで送ってあげるって、ホラ。」

ブォン、と音を立てて空間を裂いたのは、人一人がくぐるのには十分過ぎる程の大きさのゲートだ。

覗けば麗らかな春の光景。その向こうには城壁も見える。

「やっぱ空気が違うね人間界は。あれが王都だよ。人目があるとアズマちゃんも大変だろうから、ちょい外れあたりだけど。それとも、君の生まれた村の方がいいかな?」

「……」

「ん、どした?王都でいいよね?あ、さっきはああ言ったけど、再戦とか考えなくていいよ。」

「あ、いや……」

「俺ちゃんはもう人間界行く気無いからね。魔王ちゃんは魔界から出て来ませんよってそっちの国王様に言って、後は好きに暮らしたら良いんじゃない?」

「アンタは……そうだ、アンタ、名前は。」

「名前?フェイト。でも秘密ね?」

「フェイト……」

「ほら、行けってば。えい。」

俺ちゃんはアズマちゃんのケツを蹴飛ばし、無理矢理ゲートをくぐらせる。

「うおっ、ま、待ってくれ、アンタは……」

ブォン。

ゲートが閉じた。

何か言い掛けたようだが、聞こえなかったな。

それでいい。

 

「アンタは……一人なのか?」

その言葉は、彼女に届く事は無かっただろう。

穏やかな風と小鳥の囀り。

ここは紛れもなく人間界だ。

魔界へのゲートは王都で一番の魔導士に用意してもらった片道切符だ。恐らく、もう会えない。

「フェイト……」

彼女は流され易いタイプと俺を評したが、認めざるを得ないだろう。

魔王を封印できるという聖剣を抜いてから、千年に一人の勇者だとか祭り上げられ、流されるまま、たった一人で旅を続けて来た。

魔王を倒す。

それが自分の使命だと、信じさせられたから。

「好きに暮らす、か……」

だったら……そうだ。

たった今、したい事が出来た。

「そういや、これ……ふふっ!」

彼女にいつの間にか押し付けられた小袋を開けて、思わず吹き出した。

「美味いモン食えって、どっちの事言ってたんだ?」

中身は目も眩む程の輝きを放つ金貨が一つと……真ん中に筋が入った木切れ。

割り箸だ。

「ま、そうさせて貰おうかな。」

金貨は有り難く財布へ。

割り箸は金貨よりも大切にポーチへと仕舞い込む。

「さぁーて!」

俺は足取り軽く王都へ向かって歩き出した。

フェイトがどうして人間界に来ようとしないのかは分からないが、俺にもできる事はある。

王都に着いたら、国王様との謁見だ。

そんであること無いこと吹き込んで、フェイトが退屈しないようにしてやろう。

こんなにワクワクしているのは何時以来だろうか。

ありがとうな、フェイト。

 

シャッ、シャッ、シャッ。シュイッ。

「はぁ……もうちょい話したかったけど、慣れない魔界の空気に体調崩されちゃ悪いからね。よし、今回もいい出来。ちゃんと割れるか試したいけど……」

削り上がった一点もの、俺ちゃん印の割り箸をしげしげと眺め、異空間から適当に掴んで来た金貨と付け合わせて袋に包む。

「次にコイツを誰かに渡せるのは、何時になるやら……」

そして、また異空間に何十と積まれた小袋の山に、仲間入り。

彼が言った通りに王様に口伝えしたなら、暫くは期待できないけれど。

「はぁ……早く来ないかな、次の勇者ちゃん……」

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