リゲインファンタジア〜ある魔王と勇者達〜 作:sorasumi
「あれ、魔王って女の子だったんだ!?」
「そよ。学校で習わなかった?」
バン!ドッ。「うっ!」
って門の方から聞こえて来たから行ってみれば、ちっちゃい女の子が開いた門の真ん中でぶっ倒れてるじゃあありませんか。
状況証拠から、この門にドロップキックをかましたものの、着地の受け身をミスって頭を打った様子。
今はそんな彼女を客室のベッドまで運んで介抱していた所だよ。
「習わなかった……じゃない!男でも女でも関係ない!魔王め、ボクと勝負しろぉ!」
おーおー、横になりながら威勢の良いこって。
「元気だね、いいよ。でも部屋の中荒らされるのは勘弁して欲しいんで、中庭行こうか。」
「分かった!」
素直ね。
「じゃ、先に背中を地面に付けた方が負けでいい?」
「ああ!魔王!お前を倒して、皆を見返してやるんだぁ!覚悟しろぉ!」
「えい。」
「ふげえっ!」
「凄くウェイトの乗ったパンチだったよ。でも実戦じゃもうちょいコンパクトにした方がいいかもね。じゃ、俺ちゃんの勝ちって事で。」
「まっ、まだだ!三番勝負だから、まだ勝負は付いてないっ!」
「えー?ま、長く楽しめる分にはいいね。了承。」
「み、見てろ魔王、お父さんから教わった技を喰らえぇ!」
「ほい。」
「ふぎゃ!」
「スピードある飛び蹴り、お見事。ただ狙いがちょい雑だったね。じゃ二本先取で俺ちゃんの勝ち。」
「ま、まだまだ、だったら五本勝負だ!」
「いいね、了承。」
「こ、今度こそぉ!はぁ!」
「惜しい。」
「ふにゃあぁ!」
「次で十九番勝負って事になるけど?」
「も、もうむり、こうさん……うぇええん……」
泣いちゃった。
うーむ、頑なに負けを認めないもんでつい本気出してのしちまったぜ。
ちょっと夢中になってたかもしれない。反省。
すっげー楽しかったけど。
「うん、じゃあ俺ちゃんの勝ち。部屋戻ろうね、よいしょ。」
「くすん……」
彼女を元の客室までお姫様抱っこして運ぶ。
「お名前教えて?」
「ミル……」
「ミルちゃんね、君強いね〜。だけどアドバイスするなら、もう少し力配分を覚えるといいね。」
「……?」
「分かってない顔だね。君は頑張り屋さんなんだよ。だけど頑張りすぎだ。まあ受け身の練習はもう少し頑張った方がいいかもだけど。」
「……」
「着いた、よっ。」
客室のドアを足で開ける。
「君は凄いよ。本当に努力して強くなったのが伝わって来た。素晴らしい〜、魔王ちゃんポイント百万点あげちゃう。ちょっと違えば、先に俺ちゃんが降参してたかも。」
「……ねえ……」
「ほい、何でござーんしょ。」
ちょうどベッドに着いた所で、彼女が口を開く。
「ボク、そんなに褒められたの、初めて。」
「……ウソだぁ、こんなに可愛いお嬢さんが。」
「お父さんも、そんな事言ってくれなかった……」
「そうかい。まあ親心もな、複雑よな。」
ここは踏み入らないでおこうかな。
ミルちゃんもいい子だし、大丈夫でしょう。
「魔王さん……お名前、教えて……」
「フェイトだよ。秘密にしてね。」
「フェイト……お願い、もっ、と……」
「もっと……?あれ、寝ちゃった?」
言葉の続きを期待して耳を澄ましてみても、聞こえるのは規則正しい寝息ばかり。
「そっかぁ、疲れたもんね。それじゃ……君ともここでお別れかな。」
名残惜しいけど、戦ってる内に随分と時間が過ぎているし、ここらで帰さないと不味いだろう。
「流石に今度は路肩にほっぽり出す訳にもいかんので……えーとこの辺かな?」
ブォン。俺ちゃんの抱えるミルとベッドとの間にゲートが開く。
その向こうには、また違うベッド。
「ビンゴ……楽しませて貰った分、サービスしとくよ。それじゃさよなら、良い夢を。」
「ん、う……えっ!?」
飛び起きる。
「ここは……あっ、王都の宿屋さんだ。」
ボクは、魔界へ行って、魔王と戦って、負けて……
でも、魔王は……フェイトは、とっても優しくて……
「全部、夢だったのかな……」
だとしたら……なんて、良い夢だったのだろう。
名の知れた格闘家の父の元に産まれたボクは、お父さんの期待に応えようと必死で強くなろうとした。
けど、小さなボクは、てんで弱くて、町の皆にも敵わなくて、馬鹿にされて。
お父さんもいつしかボクの特訓に付き合ってくれなくなった。
それでも諦められなくて……王都で聞いた、魔王を倒す勇者の募集。
これなら、馬鹿にした奴らを見返せる。お父さんも、もう一度ボクを見てくれる。
そう思って、後先考えずに志願した。ドラゴンを倒したなんて嘘も吐いた。
そして相対した魔王は、ボクなんか手も足も出ない位に強くて。
ボクはもうおしまいだって、思ったのに。
「楽しい夢だったな……あれ、何だろ、これ。」
枕元にぽつんと置かれた小袋と巻紙。
巻紙を解くと、びっくりする位に綺麗な字でこう書かれていた。
『誇り高き格闘家ミルちゃんへ
俺ちゃんと戦ってくれてありがとね。
結果は俺ちゃんの勝ちだけど、ナイスファイト!
特に七戦目の裏拳とかけっこうビックリしたよ。
たくさん動いてお腹も減っただろうから、これ→
でなんか美味しいモノでもお食べやす。
魔王ちゃんより
P.S. 宿代も払っといたよ。ゆっくりお休み。』
ポツ、ポツ。
そんな字が滲んで行く。気付けばボクは泣いていた。
「夢じゃ、なかったんだ……!」
ドンドン!
突然ドアがノックされ、野太い、よく知った声が響く。
「ミルよ!いるのか!ミル!」
「お、お父さんなの!?」
「入るぞ!」
勢いよくドアを開けたのは、紛れもなくお父さんで。
「無事なのか……良かった……!済まなかったな……!」
「お父さん……」
「話は聞いたぞ……無茶をして!」
強く振り絞った言葉とは裏腹に、ボクを優しく抱き締めてくれて。
「ご、ごめんなさい。」
「ミル……もう、会えぬのかと……おお……」
ボクの聞いた事の無い声を上げながら、泣き崩れた。
「そんな事が……俄には信じ難いが。」
「本当なんだよ、ボクもびっくりしたけどさ。」
お父さんが落ち着いてから、ボクは魔界であった事を話した。
「そうだ、国王様にもご報告しないとだよね。負けちゃった訳だから、怒られちゃうかもだけど。」
「ワシも付き添おう。大丈夫だ、きっとお許し下さる。ところで手紙は分かったが、その袋はなんだ?」
「あっ、ボクも忘れてた……わっ、金貨だ!それと、わ、割り箸?」
戸惑うボクを他所に、お父さんはそれと手紙を交互に見ると豪快に笑った。
「割り箸……わっはっは!なるほど、ジョークの好きな魔王様だ。そうだ、謁見が終わったら一緒に外で食事でもするか!」
「えっ、本当!お父さんとご飯なんて久しぶり!嬉しいなぁ!」
「おいおい、こっちは毎日だって一緒に食べたかったというのに。」
今度はそう言って苦笑するお父さん。
意外だった。お父さんがまだそんな風に、ボクを見てくれているなんて。
「そう、だったんだ。ボク、お父さんに見放されちゃったんだと思ってた。頑張っても褒めてくれないし、特訓にも付き合ってくれなくなったから。」
お父さんが、息を呑むのが分かった。
「でも、今日分かったよ。ボクの事、ずっと心配してくれてたんだね。」
「ああ……ありがとう、ミル。さあ、準備ができたら行くぞ。」
「うん。」
手紙と割り箸をカバンの一番奥にそっと仕舞って、ベッドから立ち上がる。
金貨はお父さんに預けておこうかな。
またお父さんと仲良く暮らせるのがとっても楽しみだ。
ありがとう、フェイト。