リゲインファンタジア〜ある魔王と勇者達〜 作:sorasumi
「姉上、話がある。」
メイちゃんが来た、その次の日。
いつの間にかキトちゃんが来とる。
それも、俺ちゃんを姉上と呼んだぞ?
メイちゃんも一緒だ。
「魔王様。私はキト様のご命令だから馳せ参じただけですわ。お気になさらないで下さいまし。」
目を合わせようともせず素っ気ない態度だ。ホントに初手求婚騎士団長と同一人物か?
代わりにキトちゃんが鋭く俺ちゃんを……睨んでないな。
なんか、憐れみを感じる眼だ。
「姉上に説明しなければならない事がある。どうか聴いて欲しい。」
ははーん、この語調は。
「断る。メイちゃんから聞いたんだろ?俺ちゃんは人間界に……王家に戻る気はない。」
「そうだな、その話もしたいが……とりあえず、姉上は一つ誤解をしている。」
「誤解だぁ?」
「姉上が男として育てられていた理由だ。姉上の想像も分かるし、それも一因ではあるのかもしれない。だが別に原因があるんだ。」
「はぁ?」
「姉上の耳には入らなかった……というか、入れられていなかったようだが、有名な話だ。『王都の騎士団員の一人にとんでもない年下の女好きがいて、そいつから遠ざける為に男として育てられた』ってのはな。」
「……は?」
一瞬の沈黙の後、メイちゃんに目をやる。
目を合わせようとしない。
「ししし、知りませんわ……」
深呼吸。すぅ~はぁ〜。う〜ん。気分爽快。
「全部オメェのせいじゃねえかよこのポンコツ騎士団長!」
「ちちちちち、違いますわ!決して幼い頃からの余りの可愛さに乳母車を追い回したり衣類を盗んだりなんて事は……」
「すげえ余罪!」
「い、いえ、そんなのでたらめですわ!荒唐無稽ですわ!魔王様、何の証拠も無しにこんな話を信じ込んではいけませんわ!」
そう言われ、ハッと我に返る。確かに、それこそ決定的な証拠でもなけりゃあ、とても信じられ……
「これを見ろ。」
キトは突然そう言い、俺ちゃんに一冊の紙束を突き付けた。
これは……
『××年×月×日
今日はなんて素晴らしい日なんでしょう!
今日のパレードでお披露目された王女様のあどけない瞳のお美しい事!
私のタイプど真ん中に火の玉ストレートですわ。
彼女こそ私の運命の人に違いありませんわ。
これから成長なされればどこまで愛おしくなってしまうのかしら?
それはともかく、今のうちだから出来る事として。
産まれたままのお姿をこの目に焼き付けたいですわ。
そうですわ、いっそメイド長様に変装して……』
そこまで読んだ所で、メイちゃんが乱暴に紙束を引ったくった。
「こここここここ、これは偽物!偽物ですわ!」
「……前に見た婚姻届のと、字の癖が似ている。」
一歩ずつ、メイちゃんへ近付く。
「ああ、あ、あ、キ、キト様、どうかご容赦を!」
「姉上、オレも加勢する。」
「ええっ!?」
そして気が済むまでメイちゃんにお仕置きを加え、彼女が何故か幸悦とした表情でぶっ倒れて頭の上に星を回す頃。
「ばたんきゅ〜ですわ〜。」
「こっちが疲れた、頑丈なヤツ……てか、俺ちゃんが向こうに居た頃から騎士団入ってたって事はコイツ、歳は……」
「そこから先は考えるな。王子としてオレも詫びる、すまん。で、一つは終わったな。次だ。」
キトちゃんの面持ちが切り替わる。ようやっと真剣な話か。いや、さっきのも俺ちゃんからしたら割と真剣な話だったんだが。
「今現在、王都じゃ姉上は病で死んだ事になってる。オレもさっきまで姉上が生きていた事を知らなかった。」
「なっ、そうだったのか。いや、そのままでいいけどな、どうせ戻らねぇんだ。」
「まあこれは国の信用問題になるからだろうな。家出されました、なんて民がどう思うかって話だ。」
「ん、成る程な……」
「さて……次は、こっちが聞かせてもらう番だ。姉上は何故人間界に……王家に戻ろうとしない?」
俺ちゃんはわざとらしい位に長く息を吐き、顔を逸らす。
「何故、ねぇ。」
「国王様は今、魔王を生け捕りにせよ、とそれはもう口を酸っぱくして言ってる。自分の娘だって気付いたんだろう。それをオレ達には伝えずにいるあたり、保身に走ってもいる様だが。」
確かに、俺ちゃんが今の今まで抱いていた父親への憎しみの根っこは、只の勘違いで。
国王様……父さんが俺ちゃんに帰って来て欲しいと願っているなら。
後は俺ちゃんの気持ちさえそれに沿えば、とりあえずは解決な訳で。
けれど、どうにも前向きになれない。
勘違いを抜きにしてもキトちゃんばっかり構ってたってのは事実ではある訳だし。
それに勝手な勘違いで十何年も家出しといて、いざそれが解けたらのこのこ帰ってくるって。
申し訳ないとか、格好付かないとか、色々形容はできるけども。
一言で言うなら。
「……バツが悪い。」
「そう思ってるならなおさらどうして、あんな手紙までよこしたんだ?」
「あれは……イタズラだよ。それと暇潰しの一環。ちょっとした仕返しのつもりだった。」
それを聴いて、キトちゃんもふう、とため息一つ。
「見ろよ。」
開いたゲートの向こうは、知らない部屋。
いや、違う、憶えている。
真紅の絨毯も、大きな本棚も、古めかしい石造りの暖炉も。その上に並ぶ、小さな木のオモチャだって。
「オレの部屋だ。あれ全部、取っておいてあるんだぜ。」
「そうだ、作ってたなぁ〜、あんなの。捨てちゃっていいのに。」
「帰って来て欲しい、姉上。」
俺ちゃんがボヤく傍らで、キトちゃんはハッキリと言い切った。
「父上と母上の為でもある。民の為でもある。だがオレの気持ちとして、姉上に帰って来て欲しい。」
俺ちゃんは、それに対して。
「考えさせてくれ……どうせ、二つ返事したってそっちも困るだろ?」
煮えきらない返事しかできないのだ。
キトちゃんは無言で肯定を返す。実際、物事はそんなに単純じゃない。
全て元通りになんていかない。
「はっ!私は今まで何を!?」
唐突に、メイちゃんが声を上げた。どうやら目が覚めたらしい。
「本当にね、今まで何をしてたんですかね。」
皮肉たっぷりに言ってやるが、彼女は気にする様子も無く立ち上がった。
それを確認して、キトちゃんが言う。
「よし、じゃあ纏めるぞ。跡継ぎ云々は姉上の勘違いで、こちらの総意としては、帰って来いの一言だ。」
目線で返事を促すキトちゃん。
「そうだな、こちらも纏める。色々と教えてくれてありがとう、でもその件については現時点で結論は出せない。以上だ。」
張り詰めた空気が魔王城を支配する。
が、そんな中でなーんかメイちゃんがソワソワしているぞ。
「それと……メイ団長、何か?」
流石に見兼ねたのか、パスを出すキトちゃん。
そしてそれを受け声高らかに、メイちゃんは言った。
「魔王様、こうして間近で触れ合って私、惚れ直しましたわ!今一度私と婚約して下さいまし!」
深呼吸深呼吸。すぅ~はぁ〜、え、もういい?じゃあ遠慮なく。
「オメェが出しゃばってなきゃここまで話こじれてねぇんだよ!」
「散々ややこしくしといて虫が良すぎると思わねぇのかぁ!」
「ああっ!もっと!もっと近くで、私に愛を!」
「お望みならいくらでも関節を極めてやるわぁ!」
「あぁあ〜ッ!」
「ばたんきゅ〜ですわ〜。」
「ホンマ何なんコイツ?何でクビにならんの?」
「有能ではあるんだ。騎士団も人手不足でな。ああそれで、ドラゴンの件なんだが。」
「あ、何時やるか決まった?」
「明日の朝出発するぞ。」
「急!」