リゲインファンタジア〜ある魔王と勇者達〜 作:sorasumi
「俺ちゃんとキトちゃん抜いたら四人しか居ねえの!?」
作戦決行の日、キトちゃんから段取りの説明を受けている途中です。
「って事は計六人で、山程大きなドラゴン倒せって〜?」
「秘密裏の作戦なんだ、できるだけ少人数にしたい。だが四人っつっても、姉上のよく知ってる四人だぜ。」
キトちゃんがそう言って広げたゲートの向こうには、確かに見知った顔ぶれが居て。
思わず俺ちゃんは微笑んで、小走りでゲートをくぐり声を上げる。
「皆、久しぶり!」
「ああ、魔王様!お待ちしておりましたわ!」
「よう、おめでとうフェイト!騎士団長様とご結婚とはな、幸せになれよ!」
「フェイト殿!友達の新たな門出……くぅ、泣けるでござる……!」
そして聞こえてきた声に、思わず額に手をやる。
何を言い触らしているんだメイちゃん。
何も知らぬアズマちゃんとサラちゃんの笑顔が眩しいぜ。
「久しぶり、フェイト。あはは、メイ団長のあの感じは、王都の人の間じゃあ有名だから……ボクも前に言い寄られた事あるもん……」
対照的に、そう言って顔を引き攣らせるミルちゃん。やっぱりそうなんだ。
「よし、揃ったな。準備はいいか?」
と、キトちゃん。答えは決まっている。
いや誤解を解いておきたい気持ちはあるけど、そこはもう諦めよう。
「ああ、始めよう。」
でかでかドラゴンおりますねー。ぐうぐう寝てます。
流石に空を飛んだり、炎を吐いたりするタイプではない様に見えるけど。
「うーん、確かにこのサイズじゃあ、空間魔法でどっか逃がす訳にもいかないな。」
「今までの行動記録から、偶然だとは思うが着実に王都へ近付いている。頼むぞ。」
ここは山々の間の荒野で、人の気配はまるでない。
つまり、思いっ切り暴れられるって訳だ。
「それじゃまずはアズマちゃん、よろしく〜。」
俺ちゃんの手には久しぶりの登場、愛剣『
「ああ、それじゃいっせーのでやるぞ。」
アズマちゃんの手にはキラキラした聖剣。
「もっちょーののが良くない?」
「却下だ。なんだそれ。」
眠りこけるドラゴンの鼻先で、それぞれの剣を担ぎ上げる。
「さん、にー、いち!」
「いっせぇの……」
「にー、にー、さん、し!」
「オイ!」
「軽いジョークじゃん。じゃ!」
「「ぃいっせえのぉ、でっ!」」
業剣『英雄魔王剣ダークシャインブレイズ』
ガキィィン!
同時に叩き付けられた二つの大剣。それが開戦の合図となった。
肉を斬るには至らなかったが、巨体のドラゴンとて堪らずかぶりを振って叫び出す。
「バオオォォオ!」
「怯むな!起き上がるまでにダメージを与えろ!」
キトちゃんの号令に従い、全員で頭部に集中攻撃を加える。
しかしそんな中、一人、出遅れている。
ミルちゃんだ。
俺ちゃんは愛剣を異空間へ戻し、少し下がって彼女に並び立つ。
「落ち着いて、ミルちゃん。」
目に涙を浮かべた彼女が、震えた声を絞る。
「フェイト。ボク、怖くて。」
彼女は今、俺ちゃんとの勝負の時とは違い黒鉄のガントレットを嵌めている。これなら十分にこのデカブツにも痛手を与えられる筈だ。
ならば後は、立ち向かう心だけ。それは、俺ちゃんが側に立ち与えよう。
「うぉぉっ!」
「うひゃあ!」
「きゃあっ!」
瞬間、前線の三人が一斉に此方へ転がって来た。
見ればドラゴンは立ち上がろうと、身体を丸めている所。
ズン、と尻尾が大地を叩く。成る程、三人を吹っ飛ばしたのはアレか。
「行こうミルちゃん。付いて来て!」
今が顔面を叩いてやれる最後のチャンスかもしれない。ここは攻め時だ。
「っ、うん!」
徒手であるが故の機動力で、ドラゴンとの距離は瞬く間にゼロに近付く。
そして、勇ましい足音が追い掛けてくれる。
いや、追い越す勢いだ!
俺ちゃんはニヤリと笑う。視界の端に同じ表情のミルちゃんを捉えると。
「「オォーラァーッ!」」
二人同時に、渾身の力を込めてドラゴンの眉間目掛けて拳を振り抜いた。
ガァン!
しかし、手応えは浅く。此方を睨み付ける大目玉はそんな拳は効かぬと言わんばかりだ。
ミルちゃんもきっと、同じ景色を見ているだろう。
ならばきっと、考える事も同じだろう!
「「オラオラァ!」」
一度でダメなら二度。
「「オラオラオラオラァ!」」
二度でダメなら四度。
「「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」」
四度でダメなら……何度でも!
烈拳『ボッコボコ×2=インフィニティ』
「ブァァアアァッ!」
「ぐっふ!」
「いやぁーっ!」
ドラゴンもされるがままではない。頭突きを食らって吹き飛ばされる俺ちゃんとミルちゃん。
ああ、間抜けな声出しちまった。なんて考えながら来るべき痛みを待っていると。
「魔王様っ!」
メイちゃんが俺ちゃんをナイスキャッチ。
横に目を遣ると、ミルちゃんもキトちゃんが受け止めてくれていた。
あいつもっとモヤシかと思ってたわ、やるじゃん。
「ああ、魔王様!お怪我はありませんか?」
「ありがとうお陰で大丈夫!キトちゃんもありがとー!」
そう声を掛けると、無言で頷きだけを返すキトちゃん。ナイスガイ。
しかしどうしたもんか。そうこうしている間に、ドラゴンは完全に立ち上がってしまった。
これでは弱点であろう頭が狙えない……かと思いきや、高く持ち上げられた頭が、再び近付いて来る。
「お、フラついてる?」
「頭部への集中攻撃が効いてますわね!」
それどころか、これは……倒れるか!?
「下敷きになるぞ、離れろ!」
警告を飛ばすアズマちゃん。
しかし弱点が向こうからやって来るのだ。こんなチャンスは滅多に無い。
そう思い予測落下地点に陣取ろうとすると、先客が居た。
サラちゃんだ。
「コイツもサラちゃんにとっちゃ、
愛刀『
膝を折り、腰を落とす……居合の構え。
「いいや、なかなかどうして、興ありでござるな。」
サラちゃんも同じく居合の構えを取った。
「そりゃあいい。世の中、殆どはつまらぬ物だからなぁ。」
地を踏み締める。
「なればこそ、折角の機会でござる。」
目を閉じる。
「それじゃあ、俺ちゃんとサラちゃんの名において。」
力を抜く。
「「面白い物を、斬って見せるでござる!」」
絶刀『天下無双刃逆鱗砕き』
一閃。
風が鳴いた後に、ドラゴンの顎はその軌道を変え、轟音と共に二人の隣に崩れ落ちた。
「あちゃあ、斬れてないでござる〜。」
「そりゃサラちゃんはそも木刀だからね。でも俺ちゃんも斬れなかったな、もっとちゃんと手入れしなきゃか。」
そういやサラちゃんに刃毀れさせられてから、そのままだったな……と思い返した時、突然響くキトちゃんの声。
「時間だ!全員下がれ!もっとだ!」
「あっ、忘れてたでござる!」
「うお、もうか。ヤバいヤバい。」
愛刀も異空間へ戻して、事前の打ち合わせ通りに全速力でドラゴンから離れる。
これこそ作戦の決行が今日でなければならなかった、最大の理由。
俺ちゃんは知らなかったが、王都ではここ最近天文学が大分発展したらしく。
なんでも今日は例年、流星群が天高くで降り注ぐ日なのだとか。
それをドラゴンへの攻撃手段にしてしまおうというのだから、キトちゃんも粋な事を考える。
「よし、ここまで来れば安全だよな。キトちゃん。」
全員が安全圏に散ったのを確認して、手を重ねる俺ちゃんとキトちゃん。
「些か照れるな。」
「この期に及んで!?」
ブォンと音を立てて、ドラゴンの真上に広がるゲート。二人分の空間魔法だ、ドラゴンの体躯には届かずとも、それは大きなゲートが開いた。
その向こうは、遙か上空……やがて成層圏と呼ばれる場所。
「作戦の遂行に支障は無い……えー、皆さんおはようございます。」
「俺ちゃん天気予報です!今日は朝から昼にかけて兎に角まあ色々と降るでしょう。」
「……続いてのコーナー。」
「俺ちゃん占いです!今日の最下位は〜、ごめんなさ〜い、ドラゴンのアナタ!」
「「流星群にご注意を。」」
真魔『Wメテオシャワー』
無数の火の玉が、ドラゴンを覆い隠す様に降り注ぐ。
「必要だったのか今のは?」
「やった方が俺ちゃんは調子が出るんだよ。」
こんな事を話している間にも降り注ぎ、ドラゴンを礎とした小山ができた。
「お、終わったの?」
不安そうに、その様子を見つめるミルちゃん。
「……まだだ!伏せろ皆!」
そう、アズマちゃんが声を上げた瞬間。
「バギャアアァァ!」
けたたましい咆哮と共に、またも姿を現すドラゴン。
さっきまでの隕石が弾き飛ばされ、今度はこっちに降り注ぐ。
「皆固まれ!キトちゃん!」
「ああ!」
ゲートの傘の下に集まり、石の雨をやり過ごす。空間魔法は防御にだって使えます。
「止めを刺せ!メイ団長!」
「合点承知ですわ!」
そんな中でもキトちゃんの指揮に応え、ドラゴン目掛け一目散に駆け出すメイちゃん。
「一人で行くなよ、メイちゃん!」
俺ちゃんも愛槍『
「あら、初めての共同作業ですわね!」
俺ちゃんが追い付くと、一瞬で締まりの無い顔になって此方を見やるメイちゃん。こんな時でもこうなのか、コイツ。
「ああそうだな、狙いはいいな!」
「勿論ですことよ!」
しかし流石は頼れる騎士団長サマ、いい返事。
眼前に迫るドラゴンの強面。狙うはその、正中線上!
「これこそ本日の!」
最高速のまま踏み切り、空を舞う二人。
「グランドフィナーレ!」
天へと互いの槍を掲げ、回転を加え、そして脳天へと振り下ろす!
「「これが最後の仕上げですわぁーっ!」」
恋槍『ガングニールウェディング』
二条の槍はそれこそケーキ入刀の様にドラゴンの鱗を貫き、深々と突き刺さった。
その巨体は、それと同時に動きを止め。
ゆっくりと、倒れた。
「ファーストバイトは……お預けですわね。」
「ああ、また今度とびきり甘いのをくれてやるさ。」
「まぁ!」
なんて冗談を言っている内に、皆が駆け寄って来る。
「フェイト!やったよー!」
「大手柄でござるー!」
「これじゃ、どっちが勇者だか分からねぇな。」
「任務完了だな。皆、協力感謝する。」
俺ちゃんは、一人一人の顔を見渡して。
「ありがとう!」
心からそう言った。