リゲインファンタジア〜ある魔王と勇者達〜 作:sorasumi
「宴でござるー!」
ドラゴン退治の後は宴会と相場が決まっています。
なんとキトちゃんの粋な計らいにより、店内は貸し切り。多分ドラゴン退治の話が外部に漏れると困るってのもあるんだろうけど、なかなか話の分かるヤツである。
「キト王子とメイ団長がいないのは残念だけどね。折角用意して貰ったんだから、いっぱい食べよ!」
そう言って、揚げ物にフォークを伸ばすミルちゃん。俺ちゃんとしてはキトちゃんはともかく、メイちゃんは正直この場には居なくて良かったです。
「まあそりゃ忙しいだろうし、王都じゃ有名人らしいからな。あの二人が後処理を引き受けてくれたお陰で俺達はこうして飲めるんだ、ここは楽しませて貰おうぜ。」
そう言いながら、麦酒を干すアズマちゃん。そういや俺ちゃんの愛槍も刺さったまんまのバカデカドラゴンをどう後始末しようというのか。まいいか。
「ふへへ、フェイト殿〜。早速乾杯でござる!拙者、もうお腹がペコペコでござる〜。」
もう絡み方がウザいサラちゃん。肩組んで来る。場酔いするタイプなのね。
「止めとけ。俺ちゃんの勘がサラちゃんは飲ませてはいけないと言っています。」
「なんですと!ならば拙者の飲みっぷりをそこで見てるといいでござる!ぐび!ぐー。」
「うわ即寝た!一番無害なヤツだった疑ってすまん!」
「うーんむにゃむにゃ、もう食べられないでござる……」
「空きっ腹でその夢を!?」
「えー?じゃあそのステーキ、貰っちゃうけど?」
首を突っ込んで来たのはミルちゃんだ。
「はっ!そ、そうは問屋が卸さないでござるよ!」
「もう起きた!」
「あはは!食いしん坊さんなんだね。」
「絶対拙者の事言えないと思うでござるよ。」
見ればミルちゃんの手前には、早くも空になった皿、椀、鉢、盃。
「そ、そうだね。でも、ホントになっちゃうなんて思ってなかったなぁ。」
「ん、ホントになったってのは?」
おかわりを注文していたアズマちゃんがジョッキ片手に言う。こっちは酒豪タイプか。
「えーと、フェイトは知らないと思うけど、ボク、ドラゴンを倒した事があるっていうのは、あれ嘘なんだ。だから今回呼ばれた時は、どうなるかと思っちゃった。」
「あれ、そうなのか。凄えなーと思ってたわ。」
「むっ!嘘付きは泥棒の始まりでござるよ!」
お前人ん家の門に落書きした挙げ句ぶっ壊してたろ。
「まあいいんじゃねえの、もうホントになったんだからさ。気にしなくていいよ、そのお陰で俺ちゃんと会えたんだぜ?」
「そう、だよね。ありがとう、フェイト!」
「俺も、フェイトには感謝しないとな。王都まで来て良かった。」
仄かに顔を赤くして、上機嫌に語るアズマちゃん。
「聖剣を引き抜いた勇者としての長い旅より、最近の方が楽しいんだ。釣りをしてみたり、絵を描いてみたりな。」
「おお、アズマちゃんも趣味人の道を歩き出したね。」
「そうだ、拙者も建築に興味を持って、日銭を稼ぐのも兼ねて大工さんを手伝ってるでござるよ。」
「……何日持った?」
「追い出された前提でござるか!?ちゃんと役に立ってるでござる!」
「そうだアンタ、凄い力だもんな。ドラゴンの頭を弾き飛ばした時は驚いたぞ。」
「アズマ殿こそ、あんなに大きな剣を軽々と振り回して凄いでござるよ!」
「皆力持ちだよね。ボクはスピードには自信あるけど、もっと鍛えなきゃ。」
「皆違って皆いいのさ。ま、俺ちゃんは誰にも負けんがね。」
自信満々に、そう嘯く。だって俺ちゃん、この場の全員に勝ってるもん。
「あっはは、それを言われちゃあな。」
「あっ、拙者はあの時受けた仕打ちを忘れてないでござるよ!」
「ボクだって強くなってるからね。また今度、リベンジさせてくれる?」
また今度。その言葉を聴いて、一瞬気持ちがざわついた。
「……ああ、何時でもお待ちしてますよ。」
「待ってるって事は、魔界に帰っちゃうの?」
その一言で、全員の視線が俺ちゃんに集まった。核心を突くなぁ。
「俺ちゃんは……魔王ちゃんだからな。」
ああ、まただ。つい逃げてしまう。
皆がそれを許さない事なんて、分かるのに。
「ど、どうしてでござるか!フェイト殿!」
「そりゃあねえだろ、フェイト。」
「フェイト……」
俺ちゃんの記憶は、そこで終わっている。
あの後……何て言って宴会を抜け出して、魔王城まで帰ったんだったか。
覚えていない。
「邪魔する……おい、どうした。」
俺ちゃんは玉座に寝そべったまま、目線だけ動かしてキトちゃんを見る。
「んー、キトちゃん……ごめんけど軽く二日酔いなんだわ。一仕事終わったんだし、休ませてくんねぇ?」
嘘だ。俺ちゃんは酒は飲んでいなかった。
嘘付きは泥棒の始まりなのになぁ……と回らない頭を抱える。
「何言ってやがる……こっちは終わってねえんだよ。父上から仰せ付かった、魔王を捕らえる役目がな。」
そう言ってキトちゃんは、玉座の前に座り込んで俺ちゃんと目線を合わせた。
そして、問うのだ。
「考えは決まったか?」
と。
俺ちゃんは、目を閉じた。
それから、どれだけ考えただろう。
いや、結論は疾うの昔に出ていたんだ。
「……帰るよ。」
目を閉じたまま、口を動かして。
できるだけ、努めて明るく。
俺ちゃんは、それだけを伝えた。
もっと、言うべき事があるのだろう。
けれどキトちゃんは、それだけを聴いて。
「そうか。」
嬉しそうにそう言ってくれた。
「だが、前にも言った通り、お前は公には死んだ事になってる。それが今更生きてました、でもこれまた国の信用に関わるんでな。オレに考えがある……」
「考え?」
目を開けると、真剣な、しかしどこか悪戯な顔のキトちゃんと目が合った。
「お前には魔王として、王家へ帰って来て貰うぜ。民衆の間で広がる魔王の噂にも決着を付けときたいんでな。自分のケツは自分で拭けよ。」
そう言い捨てて、キトちゃんが床に叩き付けたのはいつかの手紙。
『国王様へ
今度おたく侵略させて貰いますわよ。
イヤなら勇者ちゃんを送ってきなさいな。
魔王ちゃんより』
「あーそういや、こんなお手紙も出したね。」
つい頭を掻いてしまう。その口ぶりだと、けっこう騒ぎになっちゃってるのかな?
だったら悪い事したな〜。と思ってる所に、キトちゃんが顔を寄せて来る。
「なんだ近くで見るとなおさらイケメンだな。」
「ありがとうよ。耳貸せ。」
「痛くしないでね?」
「……」
そっと耳打ちされた内容に、思わず口角が上がる。
「成る程〜。」
「やって見せろよ、魔王ちゃん。」
返事を待つキトちゃんに、俺ちゃんはわざとらしく笑って。
「ははははは!それじゃその手紙の通り……侵略、させて貰うとするか!」
玉座を蹴った。