機動戦士ガンダムSEED DUEL 作:デュエル好きの名無し
両足が破壊されている為、緊急着艦ネットを用いて着艦。
ハンガーに固定されたデュエルから降りてみれば、そこには阿鼻叫喚が広がっていた。
ヘリオポリス崩壊以来の損傷を受けたデュエルの様子に、あの地獄を思い出してしまったのか、まるで魂が出ているかのようにも見える口の開き方をしている整備員もいる。
……いや、今のデュエルの状態だと無理もないか。
頭部と胸部、それに左腕は無事でも、右腕に両足首から先を失ったも同然な上に、シヴァの反動でいくつかの配線もやられてしまっている。
一応は中破で済むけど、見方によっては大破といってもいいくらい。
悲鳴を上げられても不思議じゃない。
「後でやるからレールガンは外したら置いとけ!外した腕は廃棄だ!」
「マードックさん」
「ん?ああ嬢ちゃんか。また派手にぶっ壊してくれたな全く」
怒号を上げながら指示を飛ばしていたマードックさんに近付けば、開口一番にそう言われた。
「……そんなに酷い?」
「足は両方とも接合部をやられただけだから比較的マシなんだが……右腕は全交換だ。中も外もイカれてやがる」
「再利用できたりは……」
「無理だな。ここまで来るとこの艦の設備だけじゃ足んねぇよ」
「……そう」
首を振りながら告げられたマードックさんの言葉に俯く。
ミゲルを殺すことだけに集中して、それ以外のことを見ようともしなかった私の落ち度だから尚の事だ。
少しでもバッテリーに気を配っていれば、シヴァを使わずに済んだかもしれない。
そうすれば……右腕は言わずもがなとして、反動でやられた配線や機器類だって無事だった筈なのに。
「…まぁその、なんだ?俺達はこうやって直すのが仕事なんだし、気にすんなよ」
「……」
「でもだからって修復不可能なとこまで行くのはやめてくれよ?状況的にそれされると終わるからな」
「分かってる」
分かってる、けど……
「何はともあれ、嬢ちゃんはよくや――
『ザフト軍に告ぐ!』
――あん?」
暗くなりかけた私を励まそうと、マードックさんが声をかけたその時、開かれたデュエルのコクピットから、スピーカーを通じてナタルさんの大声が響く。
「なんだ?」
「この声、副長か」
「バジルール少尉?」
「何かあったのか?」
……なんだろう、なにかを忘れている気がする。
なにか、とても嫌なことを……
「副長?なんでザフトなんかに……しかもこれ、オープン回線じゃねぇのか?」
「ッ!」
マードックさんの頭を掻きながらの呟きを聞き、全てを思い出した。
そうだ、そうだ!なんで忘れていたの、私は!?
『こちらは、地球連合所属艦アークエンジェル!当艦は現在、プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインを保護している!』
「んな!?」
「……っ」
力強く唇を噛み締める。
傷口となった箇所から血が流れるが、気にする訳にはいかない。
なぜなら……こうでもしないと今すぐでもどうにかなってしまいそうだから。
『偶発的に救命ボートを発見し、人道的立場から保護したものであるが、以降、当艦へ攻撃が加えられた場合、それは貴艦のラクス・クライン嬢に対する責任放棄と判断する!』
「おいおい…それってまさか…!っておい嬢ちゃん!」
事の次第を理解したのか、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべたマードックさんだったが、青白い私の顔色――そして口から流れ浮かび上がる赤い雫に血相を変えた。
「くっそ、医療班を呼べ!嬢ちゃんを医務室に担ぎ込むんだ!」
「待っ」
「うるせぇ!今自分がどんな顔してるかも分かってねぇだろ!」
「―――」
言葉が、出なかった。
マードックさんの叫びが私の中の
「こんな少女に戦争をさせるなんて…何をやってるんだ」
悔恨と、やるせなさに満ちた軍医の嘆きが耳に入る。
こうして医務室へと運ばれた私は、ベッドの上で静かに目を閉じた。
「……」
多くの者が寝静まった頃。
調整作業中のデュエルのコクピットの中で、キラは先の出来事を思い返していた。
『あの子を人質に取って、脅して!それが地球軍っていう軍隊なんですか!?』
『……そういう情けねぇことしかできないのは、俺達が弱いからだ』
『ッ!』
『俺達に、艦長と副長を責める資格はねぇよ……』
ナタルの発したラクスを人質に取った勧告は、当然ながらストライクの中のキラに、そして対峙するイージスに乗るアスランにも届いていた。
『一般人の彼女を人質に取る……それがお前の正義なのか!?キラッ!』
対面するイージスの
……分かってる。そんなことは有り得ないし、僕の勝手な妄想に過ぎない。
それでも…この真紅の機体の中で怒りを顕にする親友と彼女のことを思えば、己を責めずにはいられなかった。
「フレイのお父さんも……」
作業の手が止まり、意図せず顔が俯いてしまう。
――結局、僕らは先遣隊を守り抜くことができなかった。
今でも鮮明に思い出せる。
モビルアーマーを全滅させたジンが、アークエンジェルの対空砲火を潜り抜け、モントゴメリーの艦橋に重斬刀を振り下ろす瞬間を。
『やめろォォォぉぉぉぉ!!!!』
元々酷いダメージを負っていたモントゴメリーにとって、艦橋への攻撃はまさに致命の一撃だった。
艦の随所から爆発が連鎖し、手を伸ばすストライクの前で無情にも爆沈したモントゴメリー。
次はお前達の番だ。
まるでそういうかのように、ジンのモノアイがアークエンジェルの艦橋を射抜き――――
「ッ!」
直後大きく顔を歪めたキラは、一度深く深呼吸をし、コクピットから出てその灰色の巨人を見詰めた。
"決闘”の名を持つその人型機動兵器は、例え右腕を取り外された姿であろうとも独特の威圧感を放っている。
「……このままじゃ、駄目だ」
その巨人――デュエルの勇ましい姿に感化されたのか、決意を宿したキラが歩き出す。
もし僕のしようとしていることがバレてしまったらと思うと不安にもなったが、キラが足を止めることは無く、幸運にも誰にも見られずに目的地へと辿り着いた。
電子ロックを外し、ベッドで眠っていた少女に声をかけながら体を揺する。
「ラクス、ラクス…起きて」
「ん、んん……んみゅ…きら…?」
「ごめん、でも今は何も言わずについてきてくれない?」
「な、にを…?」
寝ぼけながら目的を問うてきたラクスにキラは言葉を返すべく口を開く。
「君を、家族の所に返すんだよ」
ラクスの手を引きながら格納庫を目指すキラ。
人の気配を探りながら歩みを進めるキラに黙ってついて行くラクスだったが、不意に何かに気づいたようにあっと声を漏らした。
「どうし――
「キラ、お前何やってんだ?」
「キラ?」
――サイ!?ミリィまで!?」
分かれ道から歩いてきたのはサイとミリアリアだった。
思わず大声を出してしまうキラに驚いたように肩を震わせるサイ達だったが、キラの後ろに立つラクスをの姿に怪訝そうな表情を浮かべる。
「ラクスさん…?……キラ、もしかしてだけど…」
やがてキラの思惑を理解したミリアリアが何かを口にしようとした時、サイがキラの肩に手を置いた。
「分かった。ラクスさんを向こうに送りたいんだろ?」
「さ、サイ…?」
戸惑うような素振りを見せるキラに、サイは微笑みを浮かべる。
「俺だってモヤモヤしてたんだよ。女の子を人質にーなんて、本来悪役がやることだしな。ミリアリアもそうだろ?」
「うん。私もこれが本当に正しいことなの?ってモヤモヤしてたかも……」
「だからさ、助けてやるよ。1人よりも3人の方が成功率も高くなるだろ?」
「なんだかんだで私達ブリッジの仕事に慣れちゃってるものね」
「だな」
同じタイミングで笑みを見せ、そのまま笑い合う2人。
サイとミリアリアの中では、キラと共にラクスをザフトに返すことはもう決定事項となったようだ。
「サイ、ミリィ……」
そんな2人の様子に、キラの目頭が緩むが、今ここで泣く訳にはいかないと袖で浮かんだ涙を拭う。
「ありがとう」
「いいってことよ」
「私達、友達でしょ?」
「まあ、これが素晴らしい友情というものなのですね」
頷きあった3人の様子を見ていたラクスが胸元で手を叩く――前にサイに両手を押さえられた。
その顔には焦りが浮かんでおり、何かを失念していたとでも言いたげだった。
「今更ですけどあまり大きな音は立てないでくださいね」
「「あ」」
真空の宇宙とは違い、アークエンジェル艦内には空気が存在しており、当然ながら音を出せば周りに伝わる。
先程キラが大声を出した時点で今更とはいえ、なるべく音を出さないに越したことはないのだ。
「ごめんなさい、
「いや、その…僕もあれですしえっと…」
「そ、そうですよ!それに未遂で済みましたし!」
「ちょ、ミリアリア!?」
「あ」
「「「「……ふふ、あはははは!」」」」
顔を見合わせ、声を漏らして笑う4人。
それから少しして、笑い終えたキラとサイ、ミリアリアの3人は真剣な表情をしながら格納庫を目指した。
これまで通りキラがラクスの手を引き、サイが前方、ミリアリアが後方を警戒する形で人の目を避けて移動した。
何度も繰り返し確認した事もあって、スピードはお世辞にも速いとは言えなかったが、そこはご愛嬌だろう。
「よし、着いたぞ」
「ふう、長かったわね……」
「でも、やっとだよ。2人のおかげだ、ありがとう」
「ここが目的地ですのね。えーっと、ゴールおめでとうございます」
「「「あ、ありがとうございます?」」」
首を傾げながら先導したサイに続き、格納庫へ足を踏み入れたキラ達だったが、途中でサイに手で制され足を止める。
「サイ?」
「静かにしろ…誰かいるぞ」
「え」
サイの言葉に驚いたキラが、目を凝らして主要な照明の電源が落とされ、補助灯が点灯する薄暗い格納庫の中を見つめてみれば、確かに人影のようなものが見えた。
続けて覗き込めば、徐々にその姿が顕になっていく。
この場に集った誰よりも低い小柄な体に、暗闇の中でも目立つ長い白髪、ルビーの如く赤く輝くその瞳――
「イブ!?」
「ん、待ってた」
――即ち、イブだった。
着々と覚醒に近づく原作主人公。
ジャック・オー・ランタン様誤字報告ありがとうございますm(*_ _)m