透き通るような世界観に乱入する邪悪魔術師のお話   作:ストライダー信長

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第3話 夢見人の夢

 

 

 

 

 

いあ いあ くとぅるふ ふたぐん ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがなぐる ふたぐん !!!

 

 冒涜的な鐘の音と、悍ましい紫色に揺れる焚火、そして狂気的なまでの熱量が、周囲を支配していた。

 

 手足を砕かれた、全身を引き裂かれた人間が生きたまま火にくべられ、満天の星空に絶叫と黒煙が立ち上る。

 私たちは、正しく薪だった。

 彼らの信じる偉大なる神とやらに捧げるために攫われ、買われ、略奪された『薪』だった。

 

 

「怖いよ、姉さん」

「大丈夫だ。神様がきっと、助けて下さる」

 

 半ば壊死した腕で、怯えるリナを抱き締める。

 

 ─────嘘だ。

 

 神などいない、いる物か。

 天地万物を創造し、人類を富ませた神がいるのならば、何故このような冒瀆の輩まで造った?

 心清く正しい者を助け、邪悪を挫く神がいるのならば、何故このような冒瀆の場を滅しない?

 答えは1つ、神などいない、いるのは邪悪とカルトだけだからだ。

 

 ならば私は、この全生命を以て、世界を、この儀式を、神を、全てを呪ってやろう。

 呪って、呪って、全てを汚して、台無しにしてやる。

 私の魂を以て、全てを

 

 

 

Ia! Ia! Hastur! Hastur cf'ayak 'vulgtmm, vugtlagln, vulgtmm! Ai! Ai! Hastur!

 

 

 

 力強いバリトンボイスが冒涜的な音色を奏で、次の瞬間、全てが消し飛んでいた。

 

 荷馬車に撥ねられたような衝撃に骨が砕け、内臓が潰れ、腐りかけの腕が千切れて口から血が噴き零れる。

 為す術なく吹き飛ばされ、地べたを転がり、気づいた時には乱戦が………否、殲滅戦が始まっていた。

 

 ?のマークを三つ重ねたようなシンボルの仮面にお揃いの黄色いローブを羽織った集団が、先ほどまで儀式を行っていた集団に飛び掛かり、不可思議な長柄の鉈のような得物で、躍る様に首を刎ねていく。

 巨人めいた魚人の群れに、鳥と蜂と人間を足して割らずにブチ撒いたような怪物が襲い掛かり、持ち上げ、高所から叩き落とし、或いはのしかかって押し潰す。

 ところどころで反撃にあい死ぬ者もいるが、趨勢は既に決したらしく、ほとんど一方的な、処理とでもいうべき惨殺劇が繰り広げられる。

 

 限界を訴える脳味噌を意志力で捻じ伏せ、リナを抱えて逃げようとして、

 

 

「ふむ………その髪色に、肌の色………なるほど、寵児か。良いだろう、連れていけ」

 

 2メートルは超えているであろう長身の男が、私を覗き込んでいた。

 

 無機質で無感動な、死に腐ったような目が、私を射抜く。

 湧き上がる嫌悪感と恐怖を噛み殺し、肺腑に空気を吸い込み、

 

「待って、待って、ください………っ!いっ、妹も怪我してて、それにあの子っ、何日も食べてなくて!!だからどうかっ、どうかお願いです!あの子を、あの子だけでも助けてっ」

「妹、とは………抱えている、それの事か。ならば不可能だ」

「………ぇ?」

 

 ダメだ、

 

「死んだ者を蘇らせる魔術はあるが、ソレは蘇生条件を満たしていない。諦める事だな、哀れな寵児よ」

「なにをっ、言って」

 

 見てはいけない、見たら戻れなくなる。

 

「何ももどうも、躯が殆ど残っておらんではないか」

 

 戻れなくな

 

「不運な事だが、よくある話だ。諦めろ」

 

 

 私の手の中の妹は、人の形を留めていなかった。

 

 腹が大きく抉れ、内臓が露出していた。

 右半身が吹っ飛び、肋骨が飛びでて、右足が潰れた挽肉になっていた。

 削り切られた断面から、どろりと、得体の知れない緑色の粘液と黒い死血のカクテルが零れて、地面のシミになっていく。

 

 ぁ、あぁ………っ、

 

「いやぁあああァァアアアアァァァぁぁッッッ!?!?嘘だッ、嘘だ嘘だ嘘だッ!!!ねぇなんで!?なんで!?いやっ、やめてっ、目を覚まして!!ねぇっ、リナぁ!!お願い、お願いだから!!!なんでよぉっ、なんでっ、なんでこんなっ、いやっ、嘘っ、嘘だっ!!お願い、だから、なんで………っ!!」

「………黒睡蓮の薬を持ってこい」

「はい」

「ねぇっ、冗談なんでしょ!?みんなして私をからかってるんでしょ!?じゃなきゃなんでっ、なんでこんなっ」

「もうよい。眠れ」

「んぐっ!?」

 

 ぐいと、粘ついた、甘ったるい液体を口に流し込まれる。

 喉に絡みつくソレを吐き出そうとして、私の意に反して、毒液が胃の腑へ滴り落ちていく。

 

「隊長。コレどうします?」

「持って帰ってやれ。説得の材料に使えるかもしれん」

「はいよ。それと、捕虜の件なんですが………」

 

 誰かが話す声を聴いたような気がしたが、それが現実か幻覚かもわからなくて、意識が散逸し、そして全てを闇が覆い、飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター。起きてください」

 

 適当に寝床を拵えた廃教室、即席のベッドで眠る私の頬を、黒い触手がペチペチと叩く。

 ベッドから身を起こして、

 

「………ジェヴォーダンか」

「はい。いや~………久しぶりにちゃんと話せましたね、マスター!ここ最近はどこへ行っても人目があって大変で………」

「そう言ってくれるな。お前の外見は少々刺激的が過ぎるからな」

「ひっど!?マスターってば口悪すぎです!!………まぁ、そこは置いとくとして、マスター、お身体の調子は?」

「健康だが、異常ではあるな。飢餓を感じたのも、眠りについたのも、本当に久しぶりだ」

 

 魔術の探究の妨げになるからと食事と睡眠の必要性を捨ててから、飯の味がしなくなったので食べるのを辞めたのだが………どうやら、味覚も戻ったらしい。

 

「………というと、やはり」

「十中八九、ニャルラトホテプの仕業だろうな。まったく………面倒な事をしてくれる」

「………でも、マスター。僕は少しだけ、この状況を嬉しく思います」

「………何故だ?」

「だって、紛い物でも、僕とマスターが同じ感覚を味わえるじゃないですか。それって、素敵じゃないですか?」

「世辞を言っても何も出んぞ、ジェヴォーダン。何か変わりはなかったか?」

「変わった事………そうだっ、マスター、少し夢見が悪そうでした。なにかよくない夢でも見たんですか?」

「………よくない夢、か」

 

 私の上に跨ったまま、プルプルと心配するように震えるジェヴォーダンを、そっと撫で、

 

「………あぁ。お前の夢を見た」

「………僕、マスターに嫌われるような事しましたっけ?」

「くふっ、冗談だよ、ジェヴォーダン。さぁ、起きて飯にしようか。今日は少し働くからな、腹ごしらえは大事だ」

「はい、マスター」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっ、おまっ、なんで銃を使わな」

「フンッ!」

「げばぁっ!?」

 

 ヘルメット団の鳩尾に鉄拳を叩き込んで気絶させ、遮蔽に隠れようとした別の団員に肘鉄を撃ってノックアウト。

 踏み込み、銃弾を回避し、殴り飛ばし、蹴り砕き、投げ飛ばす。

 逃げ出そうとした団員に背後から組み付き、ジャーマンスープレックスで気絶させ、

 

「どうしたカタカタヘルメット団!!その程度か!!」

「何をっ」

「くそっ、バカにしやがって!!」

 

『先生。釣れたぞ』

『”ありがとう、ガルちゃん!指定したポイントまで誘導して!!”』

『わかった』

 

 連中がついてこれるギリギリの速度で撤退。

 背後から放たれる弾丸は《肉体の保護》の呪文で防ぎ、脱兎の如く逃げる。

 壁を蹴って跳躍し、大通りに飛び出して、

 

「待て………待てって言ってんだるるぉ!?」

「はっや!?何あの動き!?猿!?あいつ猿なの!?」

「くそっ、息切れが………」

「えいやーー!☆」

「「「あばーーーーっ!?」」」

 

 私に追走していた敵集団が、まとめてガドリングの餌食になった。

 反転し、手を突き出して、

 

「《ニョグタの鷲掴み》」

「ぐっ!?」

 

 短く詰まるような呻き声とともに、1人がぶっ倒れた。

 大急ぎで駆け寄って即座に心肺蘇生法を開始。

 胸骨圧迫と人工呼吸を繰り返し、相手が「ガホッ、ゴホッ!?」と勢いよくえづいた。

 心臓が動き出したのを確認して顎殴って気絶させて。

 

「………ふむ、コレで終わりか。存外に、呆気ないものだ」

「………ねぇ、ガル。アンタ、最後何やったの?」

「《ニョグタの鷲掴み》と言ってな、不可視の手で相手のの心臓を掴む魔術だ。やりようによっては心臓を潰して即死させられるが、今回は心肺停止に留め、後に蘇生した」

「”なにそれこわい”」

「なに、うっかり心臓を潰したところで治療は可能だ。貴重な薬草を消費する故、あまり取りたい手ではないがな。………さて、ひとまず帰投しようか。久しぶりに動いたせいで、少し疲れた」

「お疲れ様です、ガルちゃん」

「そちらこそ、ノノミ先輩。あれだけの重火器、扱うのは並の膂力では足りぬだろうに、よく使うものだ」

「鍛えてますから♧」

 

 にっこり笑って力こぶを作るノノミ先輩に癒されながら、水筒の水を飲み干し、

 

「”………”」

「………先生?」

「”っ!?な、なにかな?”」

 

 先生が、獲物を狙う食屍鬼(グール)のような目で私を………というか、私の脚を凝視していた。

 何故だ?

 いや、本当に何故だ?

 

「先生、私の脚がどうかしたのかね?」

「”いや、綺麗な脚だと思ってね”」

「そうか。勝算は素直に受け取らせていただくが、同性*1とはいえ、あまり女の体をジロジロ見るべきではないのではないか?私のような魔術師ならばともかく、真人間にそういうことをするのはどうかと思うぞ」

「”それは………はい、その通りです”」

「では、諸君、凱旋と洒落込もうか。先生が食事を奢ってくださるそうだ」

「”ちょっ!?”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく………疲れたったらありゃしないわ………」

 

 ガル………悪い魔術師とか自称している風変わりな編入生は、中々に非常識人だった。

 

 最初に出会った時だって、綺麗な白い髪を雑に切って、露出多めの踊り子さんみたいな恰好だったし、いきなり抱き着いて首筋見てきたし、喋り方もなんか古臭いし、脅すような事ばっか言ってくるし。

 

 ………そりゃ、悪い人じゃないのはわかるけど、使う魔法も、なんというか、おとぎ話の魔法使いって感じじゃないし、おまけに「既婚者だ」とか言い出すし。

 

「………でも、魔法、か」

 

 私も、魔法が使えたら、もっといろいろ出来るのかな?

 今度、教えてもらえないか聞いてみようかと思いながら、曲がり角を通り過ぎ─────

 

 

「………黒見セリカだな?」

 

 

 ぞろぞろと、カタカタヘルメット団の連中が出てきた。

 まったく、

 

「こっちは疲れてるっていうのに………!いいわ、もう二度と、このあたりに入ってこれないようにしてやる………!!」

「今だっ、やれ!!」

「っ!?」

 

 炸裂音と、全身を叩きのめす衝撃波。

 思いっきり吹っ飛ばされて、ゴチンと嫌な音がした。、

 

(対空砲………flak41改!?)

 

 

(こいつら………ヤバ………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ターゲット、気絶しました。続けますか?」

「いや、目的は生け捕りだ。このままランデブーポイントまで連れていく」

「了解です、リーダー」

 

 

 

 ぐったりと動かない少女を、覆面の集団が担ぎ上げて、トラックの荷台に放り込む。

 ブロロ………と排気ガスを蒸かして走り去っていくトラックを、無数の、縦長の瞳孔が、じっと見つめていた。

 

 

*1
今更ですがうちの先生は♀です





というわけで、案の定セリにゃん誘拐ルートです。

しかしセリにゃん、バステトではなくセクメト疑惑があるらしいですね。

どうも、エジプトで猫と言われると残虐非道極まりない猫盾とバステトしかなかったリアルINTクソザコナメクジの筆者です。

………そういえば、クトゥルフ神話の世界じゃ土星にも猫がいるんですよね………

閃いた()




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