透き通るような世界観に乱入する邪悪魔術師のお話 作:ストライダー信長
「くはーーーっ、旨い!!!」
「………アンタ、少し食べ過ぎじゃないの?」
「なに、魔術を使ったら腹が減ってな」
「え?魔術ってそういう仕組みなの?」
「いいや、むしろここに来るまで食事の必要性は捨てていた。どちらかと言えば、今の状況の方がイレギュラーだな」
「えぇ………」
セリカを奪還して帰還して、数日後の部室。
ペットボトルのジュースを飲み干して、
「そういやアンタ、魔術師なのに武器使うの?」
「ん?」
セリカが変な事を言った。
「確かに技量では本職に及ばないが、私のメインウェポンは剣だぞ?先の戦いでは相手が銃を使うが故に弓を取ったが、私は踊り子でもあるからな」
「へぇ………なんというか、少し意外ですね。魔術師って、戦うのが苦手そうなイメージがあったので」
「………?何故だ?」
「なぜって………そういうイメージがあったからとしか」
ふむ………お伽噺の魔法使いの印象に引き摺られた、ステレオタイプと言う奴か。
このキヴォトスに魔術師がいないとも限らない以上、少し危険だな。
「そうか。では覚えておくといい。私のような魔術師相手に近接戦闘を挑むのは手の込んだ自殺と変わらん。魔術の研鑽には時間がかかる、故に魔術師は理を捻じ曲げ、自らの寿命を引き延ばす。その過程で、魔術師は並の人間をはるかに上回る肉体強度を手に入れるというわけだ。枯れ木のような老人の腕でも、鍛え上げた騎士を鎧の上から引き千切る程度の事は容易く行う。魔術師からすれば、己の肉体も強力な武器となるからな。コレを使わない手はない」
「”なるほど………”」
「あと魔力がもったいないからな」
「”なるほ………なるほど?”」
「そうだな、分かりやすく言えば、10の魔力を使う魔法で100人を殺せば1000の魔力を消費するが、500の魔力で自分を強化して殴り殺せば消耗は半分で済む、そういう話だ。状況にもよるが、大抵の魔術師はナイフや剣、弓などの魔力を要さない武器の扱いにも精通している。魔力の消費は少なければ少ないほどいい」
いや、本当に、しみじみとそう思う。
私がまだ駆け出しだったころ、異端審問組織に魔力切れしたまま追いかけ回された時は、真面目に死を覚悟した。
………1週間ほどかけて全員撲殺してやったが。
「………魔術師って、意外と世知辛いんですね」
「あぁ。………まぁ、私の専門は召喚術だから、消耗は比較的少なくて済むのだがな」
「”召喚術っていうと、モンスターを召喚したりする?”」
「その通りだ、先生。召喚と送還にしか魔力を消費しないから、意外と燃費もいい。呼び出した眷属を肉の壁にしつつ援護射撃を放ち、接近してきた相手を叩き殺すのが私本来の戦闘スタイルだ」
………まぁ、それでも、一部の魔術師集団相手には普通に食い破られるのだが。
何なんだよアイツら、「チェストえるだぁごっず」とか言って突っ込んできやがって。
「誤チェストにごわす」「またにごわすか」「チェストすっ前に主神ば訊くのは女々か?」「名案にごつ」じゃねぇんだよ、ふざけんなよ。
ミ=ゴのバイオ装甲が紙切れみたいに引き裂かれたのは、ほんとショックだった。
というか、量産品とはいえなんでショゴスを一撃で斬り殺せるんだよ。
槍放り出して泣きながら逃げようとしたムーンビーストが背後から斬り殺されたの、私、しっかり見てたからな?
………やめよう、思い返すと頭痛くなってきた。
「ん~?ガルちゃん、召喚術とか使ってたっけ?」
「皆がいたからな。私が呼べる連中は、少々不細工すぎる。*1お子様にはいささか刺激が強い*2光景だろうからな」
しかし、眷属か。
ここで皆とやっていくのならば、そのうち、ジェヴォーダンも紹介しなければな。
『マスター、紹介はなるはやでお願いしますね。僕もラーメン食べたいです』
『………まったく、食い意地の張った奴め。いましばらく待っていろ』
『はい!!』
「ところで、アヤネ。なにか話があったのではなかったか?」
「あっ。………すみません、すっかり忘れてました。………それでは、アビドス対策委員会、定例会議を始めます」
「………よし。一度、現状を整理しようか。現在、アビドスの抱える借金が9億跳んで6000万。並の手段で返済できる額ではないな」
「はい。正直、毎月の利子の返済で精一杯ですね」
「私の手持ちの
魔術的価値を理解できない人間からすれば、大半のアーティファクトは骨董品としての価値しかない。
以前、ニトクリスの鏡を売り払った時は、確か6億くらいだったか。
有効に使えるようなものではなかったので大した値が付かなかったのを覚えている。
「【ウマルの根】なんかは20倍の重さの金塊と等価交換が成立する程度に需要があるが、売る相手がいなければ意味がないからな…………」
「えぇ………何よそれ、ヤバいアイテムじゃないでしょうね?」
「簡単に言えば不老不死の妙薬だ。乾燥させたものを新鮮な人血とともに服用すれば、即座にあらゆる傷を癒し、継続的に摂取することで老化の影響を完全に無視できるようになる」
「思ってたよりやばいアイテムだった!?」
「金持ちが死を遠ざけるために血眼で探し求める薬草の1つだが、コレの採取が難しくてな。バビロンの廃墟を統べる獣の寝床にしか生えんのだ。手持ち分を搔き集めるまでに、何回八つ裂きにされかけた事か」
「えぇと………さすがに、そんな貴重品を貰うのは………」
「私としても、アレを手放すのはあまり取りたい手段ではない*3」
しかし………
「出てきた案が、『銀行強盗』と『バスジャック』と『水着アイドル』と『ねずみ講』、か。………よし、銀行を襲おう」
「ん。用意はもうできてる」
「何でそうなるんですかぁ!?」
「何でと言われてもな………銀行には金があるだろう?簒奪と略奪は魔術師の習わしだ、根こそぎ奪ってやろう」
「ダメですよ!?」
「そうか。なら仕方ないな」
「うがーーーーっ!!!」と奇声を上げて見事なちゃぶ台返しを披露するアヤネを肴に、干し肉を齧り。
「まぁ、こうしていてもどうにもならんだろう。そろそろ昼飯時だろうし、紫関ラーメンにでも食べに行かないか?」
「”おっ、いいn”」
「先生の奢りでな」
「”え?”」
「あつっ、うまっ、うめっ」
「”あはは………今月のお給料が………”」
「大将、替え玉1つ」
「はいよぉ!!」
ずるずるとラーメンをすすり、濃厚な醤油味のスープを飲み干す。
肉厚なチャーシューに噛みつき、咀嚼し、飲み込む。
どんぶりに手を添え、スープまで飲み干して、
「ふぅ………ご馳走様でした」
「………アンタ、ホントによく食べるわね」
「魔術師は体が資本だからな。良質な贄は良質な食事から。魔術の対価として肉体を支払う事も多々あるし、腹が減っていてはまともに戦えぬ。………まぁ、少し前までは私も食事の必要性を捨てていたがな」
「………つくづく何でもありよね、魔術師って」
「そうでもなければ真理の探究者などやってられんよ」
呆れたようなセリカの視線を受け流しつつ、コップの水を飲み。
「あ、あのぉ………すみません、ちょっと、いいですか?」
怯えたような顔の紫髪の少女が、控えめにドアを開けた。
「こ、この店で一番安いメニューって、なんですか?」
「えぇと、紫関ラーメンが580円だけど」
「あっ、ありがとうございます!し、失礼しました!!」
おずおずとそれだけ聞いた少女が、逃げるようにして走り去っていく。
「なんだったんだ?」
「さぁ………?」
面白そうだったので観察しようと魔術の眼で覗き見しようとした*4ちょうどその時、先の紫髪と同僚らしき少女が4人、店に入ってきた。
なんらかの企業を立ち上げているらしい彼女たちは、最近請けた仕事の用意に、無計画にも所持金の大半を使い果たしてしまったらしく、なんとも物悲しい事に、ラーメン1杯を4人で分け合うつもりらしい。
ふむ………
「苦学生か。懐かしいな」
「ガルちゃんも似たような経験があるんですか?」
「あぁ。私は砂漠の民の生まれでな。まだ人間だったころ、妹と学び舎に通っていたのだ。金がなかったから、友人と屋台の鍋物を分け合ってつつくのが日常だった。砂漠に棲むシビレウツボの鍋が絶品でな、今でもあの味は忘れられんよ」
「へぇ、ガルちゃんって妹いたんだ?」
「可愛い奴だったよ。ちょうど、ホシノ先輩と同じくらいの背丈だった。………まぁ、何千年も前の話だし、なんなら最期を看取ったのも私だったがな」
「………そう、なんだ。なんかゴメンね?変な事聞いちゃって」
「構わんよ、ホシノ先輩。アイツは何も知らず、幸福に死ねたのだ。素晴らしい事じゃないか」
世界の真理を知ってしまったものにとっては、死すら救済足りえない。
だが、何も知らなければ、それらは存在しないのと変わらない。
故に無知は、時として救いなのだ。
「まぁ、食事中にする話ではなかったな」
「はいお待ち!!紫関ラーメン一丁あがり!!」
威勢のいい声と、ラーメンの匂い。
後ろを振り向いて、軽く十人前はありそうな特大サイズのラーメンが卓上に鎮座していた。
「えっ、あのっ、私たち、こんなの頼んでな」
「おっと!うっかり手元が狂っちまった。もったいないし、食べちゃってくれよ。金はとらないからさ」
「………本当にいいの?」
「ああ、もちろんだ」
「よくわかんないけどラッキ~~!!それじゃ、いただきまーーす!!」
「ふぅ………久しぶりにたくさん食べたわ」
「む、それはいかんな。陸八魔アルだったか?裏稼業を働くのなら、せめて腹は満たしておくことだ。胃の腑が空では入る力も入らんぞ」
「それは………分かっているのだけど」
「まぁ、お前ほどの腕があれば、この街で食っていくに困る事はないだろうよ」
「っ!えぇ、そうね!!そうよね!!」
「あぁ。依頼の達成を祈っている」
にっこにこの便利屋と別れ、帰路に就く。
喰い過ぎて少しきつい腹をさすり*5、
「ガルちゃん、随分と楽しそうでしたね?☆」
「………私がかつて捨てたものだからな、懐かしくもなるさ」
あの4人の眼には、確かな希望と、苦難に直面しながらも、友とともにそれを切り抜けるだけの強かさが宿っていた。
「それに、あの4人はなかなかやるぞ、特にあの紫髪と赤髪の社長は磨けば光るものがある」
「そう?」
「あぁ。『
「うへっ、嬉しいこと言ってくれるじゃん。………でも、おじさんそんなに強くないよ?」
「そうか?私からすれば、一番戦いたくないのは先輩だが………まぁ、そういう事にしておこう」
決して先輩を怒らせたら怖いからではなく、うん。
『マスター。小鳥遊さんに頭上がりませんもんね』
『いうな、ジェヴォーダン』
「………ガルさん、今何か言いましたか?」
「いいや、何も。………まぁ、連中ならなんだかんだ言ってうまくやるだろうよ。何かあれば手助けしてやってもいいしな」
「へぇ?随分入れ込んでるじゃん」
「昔の私を思い出してな。少し懐かしくなってしまった」
懐から取り出したガムを噛み、
「できれば、いつか協働してみたいものだ」
『あの、マスター………』
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
数時間後、私は、アビドスを襲いに来た傭兵団を率いる便利屋と対峙していた。
………なんで?
ちょびっと解説。
一部の魔術師集団。
ABEL級特別指定危険団体:殺魔の集い。
今は廃れたマギの修道院が指定した、傭兵団、犯罪組織、カルト、及びに個人の魔導士などの中でも最上位の危険度と判断されたアザトースの信奉組織。
構成員は漏れなく、実践魔術と剣術に精通した、卓越した殺人者であり、彼らとの戦闘は絶対的な死を意味する。
旧神及びその関係者を抹殺対象としており、【肉体の防御】をはじめとした魔術による強化を自分に施して襲い掛かってくる。
金銭で動くこともあるが基本狂っているため、依頼人すら普通に斬り殺す。
また、魔術を付与した剣による【魔法斬り】を習得しており、本来であれば不可避の魔術を斬り捨てる事も可能。
なお、相手を魔術師だと思えば真実それが何者だろうと彼らの中では抹殺対象になるため、殺してから人違いだと気づくことも多々ある、お茶目な一面も持ち合わせている。
至近距離で戦えば死に、遠くから戦っても【アザトースの呪詛】を始めとした強力な即死級攻撃呪文が飛んでくるためマジでヤバい。
唯一の救いは仲間意識が希薄なため、敵討ちなどを基本的に考えない事。
ただし、「オデ、ツヨイ」→「オデの仲間、ツヨイ」→「オデの仲間殺したアイツ、ツヨイ」→「アイツ殺せばオデもっとツヨイ!!!」となるため、救いがあるわけではない。
なんだこれは、たまげたなぁ。
欲しいssあったら投票してくだちぃ
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