その力は何の為に   作:カニ漁船

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ジェンティルドンナ実装!ジェンティルドンナ実装!


転生と貴婦人と苫小牧

 思い出せるほど良い思い出があるわけじゃない前世。かといって、特別悪い思い出もなかった前世。まぁ、普通の人生と言えばそれまでだ。日々を社会のために尽くして働くだけの人生、何の疑問も抱いてなかった。

 趣味も好きなものもあまりなかった。そんな自分が唯一ハマったのが、ウマ娘というアプリだった。

 

「いろんな子がいるから飽きないな」

 

 世間に広く認知され、一大ムーブメントを巻き起こしたコンテンツ。特に育成のシステムが自分の性に合っていたのか、驚くほどハマった。課金総額が三桁万を超えるぐらいには。

 

「またアプリゲーム?」

「うん。なんだか、飽きないんだよね」

 

 仕事の隙間時間にもデイリーの消化だったり、最新の情報を追ったり。自分にしては珍しいことだと我ながらびっくりだね。趣味なんて無縁だと思っていたし、この先もないと思っていたから。

 そして今日も帰ってから育成しよう。そう考えていたら。

 

「危ないっ!」

「えっ」

 

 突然目の前が真っ赤になって。気づいたら死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 そんな前世を思い出したのがついさっきのこと。今の自分は──子供の姿だ。

 

(……アレか。今のが前世の記憶、ってヤツか)

 

 我ながら順応が早いな。精々気になったことと言えば、前世の最後の光景がフラッシュバックしたせいで気持ち悪くなったぐらいか。まぁ良いか。すぐに落ち着いたし。

 いろいろと確認したけど、ここはどうやらウマ娘の世界のようで。人に混じってウマ娘の姿が確認できた。創作でしか知らなかった存在が、現実に存在して生活している。こっちはちょっと驚いた。

 

(まさか、自分が転生するなんてね)

 

 でも、好きだった作品に転生できるってのは結構嬉しい……ものかもしれない。よく分からないけど。

 

「思ったより、何の感情も湧かないな。うん」

 

 とりあえずウマ娘の世界に転生したわけだけど、どうしたものか。少しの間考える。

 別に崇高な使命があるわけでもなければ、あれしろこうしろなんて命令もあるわけじゃない。そんな中で、僕が何をすべきなのかを考えた結果。

 

「……ここはやっぱり、トレーナーになるべきなんだろうな」

 

 自分はウマ娘じゃないし、なるとしたらトレーナーだろう。そう結論付けて、僕はトレーナーになることにした。

 

 

 トレーナーの勉強は、やっぱりというか大変で。かなり厳しい道だということを改めて知らされた。

 

「毎年合格率が低い狭き門だからな。でも、お父さんは聖の夢を応援しているぞ!」

「うん、ありがとう」

 

 でも、前世の知識があったので多少は楽だね。それでも難関大学レベルの問題を解かなきゃいけないから、再度勉強することになったけど。大体のこと忘れちゃってたし。まぁ勉強は嫌いじゃないからいいか。

 勉強漬けで人との交流が少なかったためか、友達は少ない。それでも親友と呼べるような相手はいた。

 

「聖~!今度のテストに出てきそうなとこ教えてくれ~!」

「いいよ」

「やりぃ!んじゃ、代わりに今度なんか奢ってやるよ!」

 

 学生生活は全部灰色というわけじゃなかった、ってのは幸せなことだね。たまに突っかかってくる人がいたけど、それもテストで負けたからっていうありふれたものだ。結局、その相手には一度もテストでは負けなかったけどね。

 

 

 そういえば、転生といえば特典、みたいなところがある。僕にも勿論、特典があった。

 

(ステータスの可視化……改めて凄いな、これ)

 

 ウマ娘のステータスがアプリのように分かるというもの。ウマ娘を見かけるだけでウインドウのようなものにステータスが表示される。適性や能力値が事細かに表示されるわけだ。

 

(これを活かさない手はない)

 

 平日は学校の勉強と並行してトレーナーライセンス取得のために勉強。休日はレースを観に行くためにレース場へと足を運ぶ。トレーナーを志していると知った僕の両親が連れて行ってくれたので、感謝しかない。一日も欠かさず勉強を続けて……僕は。

 

「これがトレーナーバッジ、か。これで僕も」

 

 晴れてトレーナーになれたわけである。

 

 

 

 

 

 

 トレーナーになってからの日々は結構早く過ぎた。それだけ一日が充実しているということかもしれない。

 複数のウマ娘を担当するようになり、さぁ今日も一日頑張るぞ、なんて時に──()()()()()()

 

「貴方が高村聖トレーナー、かしら?」

 

 第一印象は、凄い子だなと。纏っている雰囲気、なんていうか……オーラが違う、というのかな?間違いなく言えることは。

 

(彼女は、強い)

「そうだけど、どうしたの?」

 

 一体どんな目的でここに来たのだろうか?ここは僕のトレーナー室、もしかして……相談かな?最近受けること多くなったし。

 彼女は恭しくお辞儀をする。

 

「失礼。私はジェンティルドンナ。以後、お見知りおきを」

 

 入ってきたウマ娘の名前はジェンティルドンナ。その名前には、聞き覚えがあるな。

 

「ジェンティルドンナ?……どこかで聞いたような気が」

「あら、私を知っていて?」

 

 どこで聞いたんだっけな……確実に聞いたことはあるんだけど。

 ジェンティルドンナの前で僕は記憶を必死に掘り起こす。考えて考えて、思い出した。

 

(そうだ。確か、鉄球を圧縮するぐらいのパワーの持ち主って聞いたな)

 

 トレーナーの間でも話題になるような子だった。凄まじいパワーの持ち主で、鉄球を圧縮したりサンドバッグを支柱ごとふっ飛ばしたり。さらには強度を限界まで高めたキック力測定マシーンを粉砕したり踏み込むだけでクレーターを作ったなどと真偽不明の噂すらあるような子、だったはず。いや、凄いな。どんなパワーをしたらそんなことになるのだろうか?

 

「何をボーっとしているのかしら?私を前にして、何を考えているつもり?」

 

 おっと、考え込みすぎたか。ジェンティルドンナが不機嫌そうにしている。早く対応しないと。

 

「ごめん、ちょっと君のことを思い出してた。どこかで聞いた名前だったからね」

「あら、そうでしたの。それで、思い出せたかしら?」

「バッチリとね。学園随一の怪力の持ち主、なんて触れ込みだったかな?それにレースの実力も、デビュー前ながらかなり評価が高い。纏っている雰囲気も強者のそれだしね」

「フフッ、お褒めに預かり光栄ですわ」

 

 満更でもなさそうなジェンティルドンナである。さて、ひとまず聞いておこうか。回りくどい言いかたはなしで、ストレートに。

 

「どうして僕のところに?何か相談事かな?」

 

 一体、どうして僕のところに来たのか?それを聞かないといけない。

 ジェンティルドンナはというと、そうだったとばかりに手を叩いた。本題へと入る。

 

「私の力を引き出すのに、貴方こそが最良だと判断したからですわ……高村聖トレーナー」

「僕が?」

「えぇ。貴方は特に有名ですもの。純スプリンターに三冠を取らせた稀代の傑物……神童と呼ばれたトレーナーさん?」

 

 神童、か。ちょっと恥ずかしいなその異名。確かに呼ばれたことはあったけども。

 彼女の言う純スプリンターとは、僕の担当であるサクラバクシンオーのことだろう。彼女を三冠へと導いた僕の手腕を評価しての逆スカウト、というヤツだろうか?

 

「ウマ娘の適性や能力値を即座に見抜く特異な目の持ち主……その真偽にはさほど興味はありませんが、貴方の手腕は素晴らしいものです。私の知らない力を引き出すのに、貴方ほど相応しい方はいないでしょう」

 

 随分と評価してくれるな、この子。いや、やってきたことを考えたら当然か。

 

「それで、僕は君に何をすればいいのかな?」

「あら。知らないふりをするのがお上手なのね。決まっているでしょう?」

 

 何のことだか分からない僕に、彼女は手を差し伸べてくる。リードするように、引っ張り上げようとするために。無意識に手を伸ばしてしまいそうな、そんな魅力を感じさせる雰囲気とともに。

 

「私の手を取りなさい、高村聖。そして──私のトレーナーになりなさい。まさか、断るつもりはないでしょう?」

 

 微塵も断られるとは思っていない不敵な笑顔。随分な自信だ。

 

「いいよ。結ぼうか、担当契約」

 

 取り敢えず手は取った方がいいだろう。行き場がなさそうだし。ただ、ジェンティルドンナは呆けた表情だ。なにが起こっているのか分からない、そんな表情をしている。

 

「随分あっさりと決めますのね」

「まぁ、断る理由もないからね」

 

 正直な話、ジェンティルドンナを担当しない理由がない。彼女は明確な目的を語ってくれたわけだからね。強くなるために僕のところに来たと。だから、彼女の申し出を受けないなんて選択肢は僕にはないわけだ。

 ただ、ジェンティルドンナ的にはあまり納得していない表情を浮かべていた。

 

「……釈然としませんが、まぁ良いでしょう。これからよろしくお願いしますわ。私のために尽くしなさい──高村トレーナー?」

「僕にできることを全力でやるよ」

 

 ただ、こうして担当契約は完了した。これで5人目である。

 

 

 そしてほかのメンバーとの顔合わせだけど。

 

「バクシンバクシーーーン!新メンバー加入をお祝いしての感謝のバクシンですッ!」

 

 サクラバクシンオー。

 

「バクシンワッショーイ!お祭り娘の本領発揮ですよ~!」

 

 キタサンブラック。

 

「バクシンバクシーン。最強を目指して……!」

 

 ドゥラメンテ。

 

「感謝のバクシンって何だい全く……毎回この掛け声もどうにかしてくれないかねぇ……」

 

 アグネスタキオン。独特な掛け声、バクシンとともにトレーニングを始めることになった。ジェンティルドンナはというと、明らかに戸惑っている。僕とバクシンオー達の顔を交互に見て、信じられないような表情をしていた。

 

「ちょっとお待ちなさい。私、今からあの方々とトレーニングを?」

「大丈夫だよ、強さは保証するから」

「そういう問題ではない気がするのですが……早まったかしら?」

 

 ただ、最終的には加入した。

 

 

 

 

 

 

 そしてジェンティルドンナの加入からまたしばらく経って。

 

「あ、あの!失礼します!」

「ん?」

 

 トレーナー室に白い帽子を被ったウマ娘がやってきた。

 

「あ、あなたが高村聖トレーナー、ですか?」

「そうだね。僕が高村聖で合っているよ」

「よ、よかった合ってた……あ、あの!私、ホッコータルマエっていいます!今日は高村トレーナーにお願いがあってきました!」

 

 ホッコータルマエと名乗った彼女は数回深呼吸をした後、勢いよく頭を下げた。

 

「お願いします!私のトレーナーになってください!」

「いいよ」

「えっ!?」

 

 即決したら驚かれた。いや、当然の反応ではあるけども。

 随分唐突な申し入れではあったけど、熱意を感じる。僕にトレーナーになってほしいという気持ちが伝わってきた。

 

(まぁ流石に理由は聞くべきか)

「……ゴメン。さすがに戸惑うよね。どうして僕にトレーナーになってほしいのかな?」

「あ、それは……」

 

 ひとまず事情を聞こう。戸惑うホッコータルマエに聞いてみると、彼女は理由を教えてくれた。

 

「そ、その、私の地元は苫小牧なんですけど。その苫小牧を盛り上げたいんです!」

「そうなんだ」

 

 その後苫小牧の魅力を語り続けるホッコータルマエ。時々、マニアックな知識も披露してくれるので結構興味を惹かれた。

 

(アプリでもそうだったな。地元を盛り上げたい、そのために頑張るウマ娘……だったかな?)

 

 活気を失いつつある苫小牧を盛り上げるために頑張るウマ娘。ロコドル、はよく分からないけど、地域を盛り上げる活動の一環らしい。なんにせよ、地元のために自らが行動する、素晴らしい志を持ったウマ娘だ。

 でも、どうして僕のところに来たのだろうか?それだけじゃ僕のところに来る理由はないと思うけど。

 

「それで、どうして僕のところに?具体的には何をしてほしいのかな?」

「その、レースで勝てば、注目されるじゃないですか?注目されたら苫小牧のこともアピールできますし。それに高村トレーナーの手腕はとても有名ですから」

 

 どうやら彼女も知っているらしい……雑誌にも載ったことあるし、そりゃそうか。

 

「み、身勝手だとは思っているんです!でも、高村トレーナーなら私を強くしてくれるでしょうし!強くなるためならここしかない!って思って!」

 

 とどのつまりは、レースに勝ちたい、強くなりたいからここに来たようなものか。そうだとしたらちょっと嬉しいな。自分の腕が認められたような気がするから。

 だとしたら、()()()()()()()()

 

「いいよ、結ぼうか。担当契約」

「……へ?」

「構わないよ。契約しても」

 

 目を丸くして驚くホッコータルマエ。なんかちょっとデジャヴを感じるな。

 

「そ、その!入部試験とか面接は!?」

「別にないね。そういうの得意じゃないし」

「え~……私の一大決心は何だったの?

 

 どこか釈然としない様子。うん、これもデジャヴを感じる。とりあえず契約の紙をホッコータルマエに渡す。

 

「はいこれ、契約の紙。ただ、僕の担当している子達はちょっと……大分……結構個性的な子が多いから。合わないと思ったら辞めてくれてもいいからね?」

「そこは取り繕わないんですね」

 

 まぁ事実だからね。ただ、同意するようにホッコータルマエは契約の紙にサインをする。これで6人目の担当だ。

 

 

 その後チームのみんなに紹介してトレーニングに合流。バクシンオー達の独特な掛け声に馴染めるかどうか、ちょっと不安だったホッコータルマエだけど。

 

「みなさん!苫小牧は素晴らしいところなんです!だから夏合宿はぜひとも苫小牧にしましょう!」

「無茶を言わないで欲しいねぇ。どんだけ距離があると思ってるんだい?」

「そこはほら!苫小牧への愛で乗り切りましょう!」

「ウソでも飛行機と言いなさいな。だとしても私は嫌ですが」

「よいとまけ美味しいねドゥラさん!」

「あぁ。美味しいな」

「このおいしさ、花丸ですッ!ここに桜餅も加えましょうッ!」

 

 数日も経ったら完全に馴染んでいた。順応早いね、君。




勿論引きました。
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