その力は何の為に   作:カニ漁船

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U.A.F.のトレーニングが始まる


U.A.F.の競技

 今日もいつも通りの一日を過ごす……そんなある日のこと。トゥインクル・シリーズに、特大の爆弾が落とされた。

 

「ほ、本当ですか!?高村トレーナー!」

「はい。本当です」

 

 信じられない、といった表情の記者。対応している高村聖とジェンティルドンナの表情は至極真面目であり、冗談を言っているようには見受けられない。いつも通りの高村聖の死んだ目が、記者達の姿を捉えている。

 記者の数は少ない。というのも、そこまで大々的に発表する気はなかったからだ。限られた記者のみ、衝撃の内容を耳にすることが叶う。その内容とは。

 

ジェンティルドンナのホープフルステークス出走……!とんでもない大ニュースじゃないですか!?」

 

 彼の担当するウマ娘、ジェンティルドンナがホープフルステークスに急遽参戦するという、とんでもないニュースだった。

 

 

 元々、ジェンティルドンナの次走はシンザン記念と発表されていた。それまで出走することはないだろう、するとしてもオープンだろうと高をくくっていた。本番となるシンザン記念でジェンティルドンナがどれほどのパフォーマンスを見せてくれるか……そのことに焦点があたっていた。

 そんな中で発表されたのがホープフルステークスへの出走……ジュニア級のG1レース、驚かない方が無理だろう。

 

「出走の理由は!」

「何故このタイミングでの発表を!」

「最初から目的にあったわけではないと!」

 

 そもそも何故出走に踏み切ったのか、疑問を抱かずにはいられない。最初から目標に設定してあるならばまだしも、11月に入ったこのタイミングで急遽出るというのはあまりにも不自然だ。加えて、元々出走を予定していたシンザン記念と日程が近い。何かあったと考えるのが自然である。

 記者達の疑問に、高村聖はただ一言だけ。こう答えた。

 

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 大口を開けて固まる記者。高村は能面のような表情で次の質問を待つばかり。ジェンティルドンナは愉快そうに笑う。傍から見たらとても不思議な光景が広がっていた。

 と、色々とあったが確定的な情報となる。ジェンティルドンナのホープフルステークス出走に、世間は大いに賑わった。

 

 

 

 

 

 

 さて、出走登録にも間に合ったし問題はないだろう。後はしっかりと調整していくだけだ。問題は、シンザン記念との兼ね合いだけど。

 

(中1週……状態を見て、だね。あまり疲労が溜まっているようだったら、回避を決め込もう)

 

 無理をする段階ではない、体調第一でレースに出走する。ティアラ戦線に影響が出ないようにね。

 後は、ホープフルステークスの前に全日本ジュニア優駿がある。タルマエの調整も進めていかないと。しかも、トレーニングに都留岐さんとソノンエルフィーさんが協力してくれるのと、彼女達との相談もある。ここから忙しくなるぞ。

 

「それにしても、随分と思い切りましたのね」

 

 作業を進めよう、って時にジェンティルが微笑みを隠さずにこっちに寄ってきた。思い切った、というのはやはり、ホープフルステークスのことだろう。

 

「迷惑だったかな?シンザン記念と日程が近いから」

「問題ありませんわ。どちらも制することになるのですから」

「随分な自信だね。勿論、勝たせるようにするんだけど」

 

 何故ホープフルステークス出走を選んだのか?それは──ジェンティルの目標が関わってくる。

 

 

 強いウマ娘が出走するレースにぶつけ続けるという目標、その目的のためにホープフルステークスを走る。今回相手となるのは……ゴールドシップ

 

「【月刊トゥインクル】で、クラシックを沸かせることになるだろう逸材。最後方からのレースをする追い込み脚質、予測不能なウマ娘ゴールドシップ。彼女がホープフルステークスに出走してくる」

「メイクデビューにコスモス賞、札幌ジュニアステークスを3連勝と、とても調子が良さそうですものね?噂では、ジュニア級王者と呼ばれているのだとか」

 

 鉄球をこねくり回すジェンティル。だけど……その鉄球はどんどん圧縮されていく。最終的にはいつもの、銀玉程度の大きさになった。

 

「とても愉快ですわ。えぇ、本当に愉快……私のいない場で、ジュニア級王者などと」

 

 うん、笑ってるね。とてもすごい圧を放っているけど、ジェンティル自体は凄く笑顔だ……本当に笑っているだけだよね?

 

「まぁ、仕方がないことですわ。私はまだメイクデビューに出走したのみ……何もかもが足りませんもの」

 

 銀玉と化した鉄球を机に置き、ジェンティルは立ち上がる。

 

「それに、ゴールドシップさんの強さは素晴らしいですわね。えぇ、心が躍ります」

「……それは良かったよ」

「まずは手始めに、彼女を下すとしましょう。安心なさい?滞りなく勝ちますわ」

 

 上機嫌そうだし良いか。

 

 

 そんなやり取りがあったけど、今日もトレーニングが始まる。いつものミーティアメンバーに加えて。

 

「さぁ!今日からU.A.F.で行う予定の競技を実践していきましょうッ!」

「こちらの方で準備は済ませておきました。では、早速やっていきましょうか」

 

 都留岐さんとソノンエルフィーさん。彼女達も来てもらっている。U.A.F.には15種類の競技があるんだけど、その中で今回やるのは2つ。

 

「今日はゴッドスピードカラテとギガンティックスローをやりましょうッ!」

「おぉっ!なんだか凄そうな響きですッ!楽しみですねッ!」

「まずは競技の説明に入りますね」

 

 主にスピードを鍛えるゴッドスピードカラテと根性を鍛えるギガンティックスロー、この2つだ。

 ゴッドスピードカラテはものすごく単純化すると板割りをどれだけ早く行うことができるか?みたいなものだと思う。

 

「エルフィーさんが持っている板、凄く大きいですね……!」

「はいッ!台に固定されている板を全て割った後、私が持っているこの板を最後に割るのが1つの手順ですッ!」

 

 ただ、ソノンエルフィーさんは台座に立って板を持っている。普通に蹴るだけでは届かないだろう。

 

「まずはお手本を見せましょうッ!涼花さん、お願いしますッ!」

「分かったわ。任せてエルフィー」

 

 板を都留岐さんに渡して、ソノンエルフィーさんが準備運動を始める。深く深呼吸をした後……カッと目を見開いてソノンエルフィーさんが躍動した。

 

「フッ!」

 

 正拳突き。

 

「ハッ!」

 

 足刀蹴り。

 

「ヤッ!」

 

 回し蹴り。そして。

 

「タァァァァァッ!」

 

 最後に都留岐さんが掲げている板を──高くジャンプしての空中回し蹴り。見事に全ての板を割った。

 

「お、おおおぉぉぉ!凄いですエルフィーさん!」

「見事だ。美しく、そして洗練されている」

「ありがとうございますッ!」

 

 キタサンとドゥラが拍手をし、ソノンエルフィーさんは笑顔でVサイン。凄い身体能力だな……改めて実感するよ。都留岐さんが割られた板を持ってこちらへと戻ってくる。

 

「これがゴッドスピードカラテの一連の流れになります。次はギガンティックスローですね」

 

 彼女の視線を追いかけると、そこには柔道着を来た人形のようなものと高い位置にフェンスがついたスタンドがあった。人形は少し重そうだけど。

 

「ギガンティックスローは人形を高く投げる競技になります。エルフィー?」

「はいッ!」

 

 都留岐さんが名前を呼ぶと、即座に実践するソノンエルフィーさん。構えを取ってじりじりと近づいた後、彼女は人形を抱えたまま倒れ込み……倒れ込む時の回転と蹴りの力を利用してぶっ飛ばした。

 

「ハッ!」

 

 ソノンエルフィーさんによって蹴り上げられた人形は高く上がり──フェンスを見事に飛び越える。その様子に、また拍手が沸き上がった。

 

「見事ですわね」

「す、凄い……!」

「それほどでも~。ですがッ!みなさんも慣れたらできるようになりますよッ!」

「こちらが今日やってもらうことになる競技となります。それでは、早速実践に移りましょうか、高村トレーナー」

「はい。じゃあみんな、準備をしようか」

 

 こうしてジェンティル達も実践することになる。それにしても、やっぱりウマ娘の身体能力って凄いんだな。あの人形だって軽くはないだろうに。

 

 

 まずはゴッドスピードカラテから実践してみるメンバー。けれど、最初の内は少しばかり苦労した。板を割るのに苦労するとかそういうことはないんだけど、一連の動作を身体に覚え込ませるのが一筋縄ではいかない。ソノンエルフィーさんのように洗練した動きで割ることは難しかった。

 

「ちょっと、板が粉微塵になりましてよ」

「……少し加減をしようか」

「仕方ありませんわね」

 

 ……約一名、別の意味で苦労することになったけど。

 ギガンティックスローも同様。軽々とやっていたけれど、実際にやってみるとまぁ難しい。

 

「あ、あれ?フェンスの下をくぐっちゃいました?」

「そうだね。フェンスを越えるように投げないといけないよ」

「は、はい!……「ガシャンッ!」こ、今度はフェンスに直撃!?思ったより難しい……」

 

 投げる角度、蹴り上げる力。綿密に計算しないと上手くいかない。投げる角度が悪ければフェンスの下をくぐってしまうし、蹴り上げる力が弱いとフェンスを越えられない。これを軽々とやってのけたソノンエルフィーさんは本当に凄いんだな。

 黙々とトレーニングを続けるジェンティル達。数時間の練習の果て、何とか形になってきた。

 

「今日はこの辺にしましょうッ!明日はまた別の競技を説明しますねッ!」

「お疲れ様でした、ミーティアの皆様。後で競技の感想を提出するのをお願いしてもよろしいでしょうか?U.A.F.の参考にしたいので」

「はいッ!この学級委員長にお任せくださいッ!模範的な感想文を提出しますよッ!」

 

 模範的な感想文とは。

 

 

 次の日もまた、U.A.F.の競技を実践する。普通のレースに向けたトレーニングでは使わないような筋肉を使うので、ジェンティル達からの評判も上々だ。

 

「これはこれで中々楽しいねぇ。私も、U.A.F.に参加してみるか?」

「勿論構いませんッ!出場資格はありますよッ!」

「……あら、向こう岸に貫通してしまったわ」

「念のため向こう側に人員を配置しといてよかったよ。キタサン達の悲鳴が聞こえてくるし」

 

 ステータスの伸びもかなり良い。凄まじいスピードでジェンティルもタルマエも成長している。ちなみに、他のメンバーは2人のサポートをしつつU.A.F.の競技を体験している。こちらの評判も上々だ。

 トレーニング風景を眺め、ジェンティルに課された筋トレをこなしながら考える。タルマエとジェンティルの次走について。

 

(正直な話、タルマエはそこまで心配はしていない)

 

 タルマエは強敵となる相手が現状いない。順当にいけば彼女が勝つだろう。

 ジェンティルの方は……相手になるのがゴールドシップだ。現状、ジュニア級王者の称号を確立しつつある相手。ジェンティルの相手にとって、不足はない。

 

(最初の強敵、だね)

 

 問題なく出走はできるはずだ。後は、勝てるようにトレーニングを重ねるだけ。彼女達をどんどん強くしていこう。

 

 

 全日本ジュニア優駿もホープフルステークスも、着々と近づいてきていた。

 

 

 

 

 

 

 学園のトレーナー室。1人のトレーナーが苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。

 

「まさか、ジェンティルドンナがホープフルステークスに出走してくるなんてね」

「あまりにも唐突でしたわね……私も驚きを隠せませんでしたわ」

 

 彼はゴールドシップのトレーナーであり、【名優】メジロマックイーンを育てた男。彼は今、ゴールドシップが出走するレースに突如として参戦してきたジェンティルドンナの存在に頭を悩ませている。

 

(ジェンティルドンナが相手になるのも厄介だけど、それ以上に厄介なのが……トレーナーの方だ)

 

 彼女を担当するトレーナー、高村聖。彼が育てるウマ娘はあまりにも規格外であり、ジェンティルドンナもその例に漏れず。ゴールドシップのトレーナーはそう判断していた。

 

(私はシップの強さを疑っていない。けれど、相手が相手だ)

「本当に厄介なことをしてくれたよ、高村君」

 

 だが、その目に諦めはない。どうにかしてジェンティルドンナを下そうと考えている目だった。

 

「勝たせてもらうよ、高村君」

 

 そう決意するゴールドシップのトレーナー。早速、今後のトレーニングプランを立てていた。




タルマエ 強敵となる相手はおらず

ジェンティル VSゴールドシップ(1回目)
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