その力は何の為に   作:カニ漁船

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色々とすっ飛ばして。


ホープフルステークスへ

 ジェンティルドンナのホープフルステークス出走のニュースが発信されてから日は流れ──12月を迎えた。その間にも新たな三冠ウマ娘、オルフェーヴルが誕生し、その破天荒ぶりに実況から「こんな三冠ウマ娘は初めてです!」と言わしめる出来事があった。そして12月といえば、有記念に東京大賞典、各ジュニア級G1が開催される月である。

 阪神ジュベナイルフィリーズは、ヴィルシーナが制した。先行策からの鮮やかな抜け出し勝ちである。ウィナーズサークルのインタビューにて彼女はこう語った。

 

「桜花賞に向けて、万全を期する予定です。ティアラの冠は私にこそ相応しいですから」

 

 涼しい表情で、自信に満ちた態度で答える。桜花賞を制するのは自分であると、そう断言した。彼女のトレーナーである倉科もまた、自信を深めている。

 

「勿論勝ちます!ヴィルシーナは強いウマ娘ですから!」

 

 ヴィルシーナと倉科トレーナーのコンビに記者達は沸き上がる。今年のティアラ戦線は一味違う戦いになると、そう予感していた。

 

 

 また、川崎レース場では全日本ジュニア優駿が開催された。チーム・ミーティアに所属しているウマ娘で、現在ウマチューブのチャンネル登録者が60万人を超えた大人気ウマチューバー、ホッコータルマエが出走している。

 

《まもなく最後の直線へと入ります!現在先頭を走るのはホッコータルマエ!ホッコータルマエが第4コーナーで早々に先頭に立った!ここから追いつくウマ娘はいるのでしょうか?ホッコータルマエが先頭で最後の直線に入りましたッ!》

「ッ!やぁぁぁぁッ!」

 

 レース序盤から3番手から5番手以内をキープ。逃げウマ娘にプレッシャーをかけ続け、第4コーナーに入る段階で早々にねじ伏せた。自分が先頭に立ってレースを引っ張り、最後の直線へと入る。

 ホッコータルマエの脚は衰えない。むしろ後続を突き放すように加速していく。

 

「けっぱれ~!タルマエちゃ~ん!」

「応援してるべさ~!」

 

 また、このレースにはホッコータルマエの地元である苫小牧から観戦に来たファンもいた。彼らは精一杯応援の声を飛ばしている。その声援に応えるように──ホッコータルマエは1番にゴール板を駆け抜けた。

 

《ホッコータルマエ!ホッコータルマエだ!全日本ジュニア優駿を制し!ジュニア級ダート王者に輝いたのはホッコータルマエ!王道の走りで、見事にレースを制した!1番人気に応える見事なレースっぷり!彼女の今後が楽しみです!2着は6バ身差で……》

「……っ、やっ、たぁぁぁ!やった、やった!応援ありがとぉぉぉ!」

 

 大喜びのホッコータルマエにファンは歓喜の声を上げる。ミーティアのメンバーも拍手を送っていた。

 インタビューにて、ホッコータルマエの次走はどうなるのか?という質問が出てくる。報道陣は身構えていたが、トレーナーである高村の口から出てきた言葉は意外なもので。

 

「まだ決まってないですね。ひとまずは、ジャパンダートダービーを目指して頑張ります」

 

 特に決まってないとのことだった。しかし、だからこそ恐ろしいというもの。この陣営はいつだって予想がつかないことをしてきた。だからこそ今回も、と身構える他陣営と報道陣である。

 

「……なにか身構えられていますが、どうかされましたか?」

(((あんたのせいだよッ!)))

 

 なお、当の高村本人はこの調子である。

 

 

 朝日杯に阪神ジュベナイル、全日本ジュニア優駿も終わり、残りのジュニア級G1はあと一つを残すのみとなった。そして、残ったこの一つこそが、ファンが最も待ち望んでいたレースに他ならない。

 

「さて、証明しましょうか。捻りつぶして差し上げますわ」

「お?かまぼこか?ゴルシちゃんかまぼこよりもはんぺんの気分だな~」

 

 ホープフルステークス──ジェンティルドンナとゴールドシップの対決である。

 

 

 

 

 

 

 阪神レース場をどよめきが支配している。ファンはざわついており、その視線はただ一点……ターフで相対している2人へと向けられていた。

 1人はジェンティルドンナ。チーム・ミーティアに所属しているウマ娘であり、優雅に佇んでいる本レースの1番人気。まだメイクデビューの1回しか出走していないのにも関わらず、誰よりも人気を集めていた。

 

「初めまして、ゴールドシップさん。今日は楽しませてくださるかしら?」

「んな固くなんなよジェンティル~。アタシとオメーの仲じゃねぇか~」

「……あまり交流はなかったはずですが?」

「あれ?そうだっけ?ま~いいや!見てろよジェンティル!オメーんとこのトレーナー、今日こそは笑わしてやらぁ!」

 

 彼女と対峙するもう1人。ゴールドシップ……トレーナーは【名優】と呼ばれたウマ娘、史上最強ステイヤーと名高いメジロマックイーンを育てたトレーナーであり、ゴールドシップも重賞を含めた3連勝と確かな結果を残していた。当のゴールドシップ本人はかなり破天荒な性格をしているが。

 メラメラと燃え上がるゴールドシップ。ジェンティルドンナは1つの言葉が引っかかっていた。

 

「私のトレーナーを、笑わせる?」

「おーよ!あのトレーナー、あんまり笑ったとこを見てねーからな!ゴルシちゃんが笑わせてやろうってんだよ!」

「何をなさるおつもりですの?真面目に走る気はあるんでしょうね?」

 

 僅かに視線を鋭くするジェンティルドンナ。その眼光はまともな者ならば竦み上がるほどだった。もっとも、目の前にいるゴールドシップは意に介していないが。

 

「あったりめーだろ!……オメーが相手でふざける余裕はねぇからな。ガチで行くぜ」

「……へぇ?」

 

 ゴールドシップが纏う雰囲気が変わる。先程までのおちゃらけた雰囲気は完全になくなっており、競技者としての目になっていた。ジェンティルドンナを鋭く睨みつける。そして──

 

「見てろよ──ゴルシちゃんがコサックダンス踊らせてやるよ」

「ほほほ。やってごらんなさい。私の力で──地面に叩きつけて差し上げますわ」

「生憎とまだたたきになる予定はねぇんだ。ゴルシちゃん稚魚だから」

 

 2人はお互いに宣戦布告をして背中を向けた。用は済んだ、そう言わんばかりに。

 ジェンティルドンナの心は歓喜で震える。

 

(成程……ジュニア級王者と呼ばれるだけはありますわ。最後のプレッシャー、中々のものです)

「えぇ、本当に素晴らしい……それでこそ、私の勝利に価値が生まれるというものッ!」

 

 拳を強く握りしめ、そう呟く。自らの勝ちを信じて疑わない言葉だった。

 

 

 観客席で一連の流れを見ていたゴールドシップのトレーナー。メジロマックイーンも驚いた表情で見ていた。

 

「珍しいですわね。ゴールドシップさんがあれほどまでに真面目な態度を取るのは……っ」

「うん、それだけジェンティルドンナの実力を認めているってことだ。そして……」

 

 ジェンティルドンナを一瞥するトレーナー。思わずこちらが震えあがりそうな圧を放つ彼女。やはり一筋縄じゃいかない相手だ、と再認識する。

 

(やれるだけのことはやってきた。トレーニングの負荷を強めて、ジェンティルドンナに勝てるように積み重ねてきた。ただ、懸念すべきは……レースでの対策がほぼ取れないということ)

「まだメイクデビューの1回しか出走していない。しかも、明らかに本気を出していない走りだった。彼女の本当の力は、まだ未知数」

「そ、それでも!ゴールドシップさんならやってくれますわ!あの方は、やる時はやるウマ娘ですから!」

「そうだね。シップの強さは私達が良く知っている。だから信じて待とう……彼女が勝つのを」

 

 相手は強大。だからとて、臆する理由はない。担当ウマ娘の勝利を信じて待つことにした。

 また別の場所では、ヴィルシーナと倉科がレースを観に来ていた。目的はただ1つ、ジェンティルドンナの実力を見る為である。ヴィルシーナ達がティアラを取る上で最大の障害となる相手、この機会を逃すわけにはいかない。

 

「な、なんとか見やすい位置は確保できた……ジェンティルドンナの実力、しっかりと目に焼き付けるぞ!」

「分かってるわ、トレーナーくん。負けるわけにはいかないもの……!」

 

 阪神ジュベナイルを勝ったとはいえ、全く気を抜いていない2人。レースが始まる時を静かに待っていた。

 さらには新たな三冠ウマ娘、オルフェーヴルの姿もある。同じチームであるドリームジャーニーら、トレーナーである朝霞とレース場に来ていた。

 

「オル、大丈夫かい?」

「よい。心配は無用だ姉上」

「それにしても、オルフェがジェンティルドンナのレースを観たいだなんてね~。もしかして、気になっちゃったり!」

「戯けが」

 

 朝霞の言葉に不機嫌そうに返すオルフェーヴル。ジェンティルドンナを睨みつけ、呟く。

 

「余を下すなどという戯言をほざく貴婦人めの姿を拝みに来ただけのこと。それ以上の意味はない」

「でも、聖君だからね~。きっとジェンティルドンナもすっごく強いよ!オルフェが満足するような良いレースが見れるかも!」

「……フン。相も変わらず、()()()()()()()()

 

 聖君、という言葉に反応してそう吐き捨てるオルフェーヴル。ドリームジャーニーは困ったように笑う。

 

「おやおや。オルは相変わらず彼が嫌いなのかい?」

「嫌いではない。奴の手腕は認めている。だが……奴のただ一点、その一点が余は気に食わん」

「え、え~……?なんかあるかな?アースちゃん、タンホイザちゃん」

「いやいや、私めには分かりませぬな……」

「あぁ、新たなる三冠のティランノは何かが気に入らないようだ!」

 

 いつもの調子でレースを見守る朝霞達だった。また余談ではあるが、彼女達の周りはざわついているものの、ドリームジャーニーとオルフェーヴルの睨みによって完全に竦み上がっていた。

 

 

 そしてチーム・ミーティア。いつものポジションを取り、応援をするサクラバクシンオーとキタサンブラック、ホッコータルマエ。記録をつけるアグネスタキオン、鋭い視線でターフを睨むドゥラメンテ。いつもの調子でノートを開いている高村の姿が観客席最前列に見えた。

 

「バクシンですよジェンティルさーんッ!バクシンの心で行きましょーッ!」

「バクシンバクシーーンッ!祭りの心も忘れないでくださ~い!」

「いつもの調子ですね、この応援も」

「2人の良いところだからね」

 

 ジェンティルドンナ達の様子を見て、ノートに書き記す高村。まもなくレースが始まろうとしていた。

 

《ウマ娘達がゲートに入ります。阪神レース場、芝2000m。絶好の良バ場での開催となります!栄光は誰の手に渡るのか?1番人気は3枠5番のジェンティルドンナ!》

《メイクデビューでの強さはまさに圧倒的。貫禄が凄いですねぇ、好レースが期待できますよ!》

《2番人気は2枠3番のゴールドシップ!重賞を含めた3連勝と勢いに乗っているウマ娘、ただこの評価には少し不満が残るか?3番人気は6枠12番のウミディダです!》

 

 1人、また1人とゲートへと収まる。徐々にざわつきは収まり、最後のウマ娘がゲートに入る頃には完全に静かになっていた。

 ゲートの中のウマ娘は開くその瞬間を静かに待つ。前方を睨みつけ、いつでも出れるぞと準備を整える。待って待って──音を立ててゲートが開いた。

 

《今、最後のウマ娘がゲートに収まりました。ジュニア級G1ホープフルステークス、態勢が整って……今ッ、スタートしました!ホープフルステークス開幕です!》

 

 ホープフルステークスが始まる。




次回 ジェンティルドンナの現ステータスが判明。
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