始まったホープフルステークス。ファンはウマ娘の名前を呼んで応援し、どのポジションにつけるかを注目している。特に注目を集めているのは、今回のレースで評価を二分しているジェンティルドンナとゴールドシップの2人だ。
少しばかりの緊張が走る中、ジェンティルドンナは前から3番手~5番手の内側をキープする位置につけ、ゴールドシップは最後方へと位置付ける。各々自分が得意とする位置につけていた。
《まもなく第1コーナーを抜けて第2コーナーへと向かいます。ハナを取って逃げるのはエコノアニマル、エコノアニマルが単独で逃げています。2番手に2バ身差をつけて快調に飛ばしている!2番手はキャラメルパルフェ、3番手はアルビコッコ!そして1番人気ジェンティルドンナはこの3番手争いの位置につけています!》
《前目の内側の位置をキープしていますね。経済コースを走っています》
《レースは縦長の様相。アルビッコ、ジェンティルドンナ、キャラメルパルフェが3番手争いを繰り広げています。6番手はキャラメルパルフェらから2バ身遅れて走る。中団は4人のウマ娘が熾烈な位置取り争いを繰り広げています!2番人気ゴールドシップは全てのウマ娘を把握できる位置、最後方を選択!》
《彼女の追い上げは脅威的ですからね。油断はできませんよ》
第2コーナーを抜けて向こう正面へ。レースは進んでいく。
ゴールドシップのトレーナーは少し安堵を覚えつつ、ジェンティルドンナの動向に注目する。
(やはりというか、王道の先行策……ジェンティルドンナの前評判通り、か。なにより、あそこは)
「サクラバクシンオーとアグネスタキオンが先行寄りだ。参考にするならばもってこいの2人がいる」
最内の経済コースを走る姿を見て、レースセンスも抜群であることを悟る。位置取りにコーナーの曲がり方1つとっても、思わず感嘆の息を漏らすほどに上手かった。
「あはは……こりゃ凄いね。本当に」
彼は確信する。ジェンティルドンナの実力は、このレースで1つも2つも抜けていると。向こう正面に入ったばかりの段階で思わせるほどに飛び抜けていた。それでも、彼が信じるのは己の担当ウマ娘……ゴールドシップである。
(けど、シップだって負けてないよ)
僅かに口角を吊り上げ、最後方でレースを進める担当ウマ娘へと視線を向ける。一番後ろから前を走るウマ娘を見据え、ベストな位置取りをキープできている。彼女が最も得意とする展開に持ち込めている。得意分野に持ち込めたら負けない、そう信じていた。
別の場所で観戦している高村達ミーティアのメンバー。トレーナーである高村とアグネスタキオンはレースの展開をじっくりと観ていた。
「ジェンティル君はい~い位置につけたねぇ。まずは第1段階クリア、といったところか」
「先行かつ最内の経済コース。抜け出しは……今の段階だと分からないけれど、まぁ問題はないね」
「さてさて、ここからどういった展開を迎えるか、だねぇ。ま、ジェンティル君と同じ位置で走る2人はご愁傷様だが」
ラップタイムの計測、どの位置を走っているかの確認、それらをノートにまとめる。そんな時ふと、アグネスタキオンは高村の方を向いた。
「そう言えば、ジェンティル君のステータスはどんな感じになっているんだい?君の目で見えることを教えておくれよ」
「あぁ、教えてなかったね。ちょっと待ってて……これだ」
別のノートをカバンから取り出してパラパラとめくり、アグネスタキオンへと見せる。そこにはジェンティルドンナのステータスの他にも、出走しているウマ娘全員のステータスが書かれていた。無論、ゴールドシップのステータスもある。
アグネスタキオンは確認し──笑った。
「アッハッハッハ!これはこれは……さてさて?どうなることやら」
ノートを返却し、またレースの観戦に戻る。ジェンティルドンナは3番手の位置、ゴールドシップは僅かに進出を開始していた。
◇
向こう正面を超えて、第3コーナーへと向かうウマ娘達。縦長の展開が少しずつ固まってきており、もうすぐ最後の攻防が始まることを報せていた。
《第3コーナーに入りました!第3コーナー先頭で入ったのはエコノアニマル、エコノアニマルが先頭です!その表情は少し苦しそうか!?差がなく2番手アルビッコ、3番手以下も詰めてきているぞ!ジェンティルドンナが早々に抜け出そうとしている!じわりじわりと、最内の経済コースを上がってきているぞジェンティルドンナ!》
《前が壁になっていませんからね。これは抜け出しが容易か!……お待ちください、後方から上がってきているウマ娘が1人いますよ!》
《そして大外!大外後方からゴールドシップが捲ってきたぁ!ゴールドシップが追い上げてきている!これは凄いスピード!?ゴールドシップのロングスパートだぁ!》
最後方に控えていたゴールドシップが位置を押し上げ、前へ前へと進出を開始している。すでに中団、6番手~10番手集団につけようとしていた。
「オラオラァ!ゴルシ様のお通りだ~い!」
少しばかり早い抜け出し。だがゴールドシップに不安はなかった。
(アタシのスタミナなら十分に持つ!問題は、ジェンティルのヤローだ!)
ゴールドシップの視界にもわずかに映っている。最内を走るジェンティルドンナの姿が。そして、今にも先頭を捉えんと動き出している彼女の走りが。まだまだ追いつくのは長そうだと判断する。
レースは第4コーナーへ。ここでジェンティルドンナが先頭を走るエコノアニマルを捕まえた。
「ヒィ、ヒィ……!」
「ごめんあそばせ。通してもらいますわ」
楽に躱して先頭に立つジェンティルドンナ。走りには一切のよどみがなく、綺麗に抜き去った。観客席の応援が一層激しくなる。
「頑張れー!ジェンティルドンナー!」
「キャー!ジェンティルドンナ様ー!」
ジェンティルドンナはペースを緩めず先頭を走る。後ろを引き離しつつあった。
《さぁジェンティルドンナが先頭に立った!先頭に立ったのはジェンティルドンナ!非常に楽に抜け出したぞ!》
《自分のペースで走れていますね!しかし後ろからはゴールドシップが追い上げてきています。これは警戒しないといけませんよ!》
《最後の直線へと差し掛かります!先頭を走るのはジェンティルドンナ、2番手以下を引き離そうとしている!必死に粘るエコノアニマル、ですが差は無情にも開いていく!》
最後の直線で先頭に立つのはジェンティルドンナ。2番手以下に2バ身以上の差をつけて走る。その表情は──余裕だった。
捲りを決めているゴールドシップ。最後の直線へと入り、すでに5番手へと浮上していた。ゴールドシップの位置からジェンティルドンナの位置まで差は4バ身程。追いつくのには問題ない距離である。
(うっし!後はこのまま捲るだけだ!)
「オラオラァ!どけどけ~!黄金船特急ホープフル行のお通りだ~い!」
「「「む~り~!」」」
さらに加速していくゴールドシップ。2番手に浮上し、ジェンティルドンナとの差を詰めるだけ。このまま追いつける──そう信じて疑わない。
だが、差は縮まらない。むしろジェンティルドンナとの差は開こうとしている。その事実がゴールドシップを焦らせた。
(おいおい、待て待て……!こっちだって本気だぞ!?映像で見た限りじゃ、アタシのスピードで追いつけるはずだろうが!)
これまでのレースで一番のスピードを出せていると自負している。過去最高のペースで走れていると確信している。しかし、それでもジェンティルドンナには追いつけない。その事実がゴールドシップを焦らせる。
「待てよっ、ジェンティルぅ!このまま逃げさせねーぞぉ!」
思わず叫ぶゴールドシップだが、ジェンティルドンナとの差は縮まらない。3番手以下を引き離すゴールドシップだが、前を走るジェンティルドンナには一向に追いつけない。
観客席の高村は淡々としている。相変わらずの目で、先頭を走るジェンティルドンナを見ていた。
(……ここから追いつく展開はない)
「勝負、決まったね」
「う~ん!王道の走りで圧巻の勝利!ところで、ジェンティル君のお眼鏡には適ったのだろうかねぇ?」
「どうだろうね?ま、これで終わりじゃないから」
高村はステータスが書かれたノートへと視線を落とす。
ゴールドシップ
適性:芝A ダートG
距離:短C マC 中A 長A
脚質:逃げG 先行B 差しB 追い込みA
スピード:C 478
スタミナ:C+ 515
パワー :D+ 377
根性 :C 462
賢さ :C 433
ジェンティルドンナ
適性:芝A ダートD
距離:短C マA 中A 長A
脚質:逃げE 先行A 差しA 追い込みD
スピード:B+ 768
スタミナ:C 487
パワー :C+ 549
根性 :D+ 380
賢さ :C 435
ジェンティルドンナの表情は余裕そのもの。全く問題ないとばかりに走る。
《ジェンティルドンナ独走!ジェンティルドンナ独走だ!ゴールドシップ追い上げるが差は縮まらない!この差は縮まらない!ジェンティルドンナが独走する!》
《よ、よもやこれだけの差があるとは……!》
余裕の走りを見せて──ジェンティルドンナが一番にゴール板を通過した。
《これは圧巻の走りだ!ホープフルステークスを制したのはジェンティルドンナだぁぁぁ!な、なんという強さだ!?ジュニア級王者の地位を確立しつつあったゴールドシップを全く寄せつけなかった!これがジェンティルドンナだ!ジュニアの覇者は自分だとばかりにその力を見せつけました!2着は5バ身差ゴールドシップ!3番手はさらに大きく引き離されています!》
ゴール後、ジェンティルドンナは余裕の表情で優雅にお辞儀をする。ファンは黄色い声援を送っていた。
ゴールドシップのトレーナーは頭を抱える。
(いやいや……まさかここまでなんて、ね)
「やっぱり、彼が育てるウマ娘は怖いなぁ」
自信をもって送り出したゴールドシップ。しかし結果は……圧倒的な差を見せられての5バ身差負け。しかも、1着で駆け抜けた本人はまだまだ余裕そうだ。つまりは、まだ底を見せていないということ。
「本当ですわね……大丈夫でしょうか?ゴールドシップさん」
「
不安げな表情でゴールドシップを見るメジロマックイーン。だが、トレーナーはゴールドシップを真っ直ぐに見る。
息を荒げ、膝に手をついている。その目は──ジェンティルドンナをしっかりと捉え、悔しさをにじませながら歯噛みしていた。彼女の心は、折れていない。
「シップは強い。だから、ここから先はまた私が頑張る番だ。次こそは勝てるようにね」
「……そうですわね。ま、しばらくの間はあの方の無茶ぶりにも付き合ってあげましょうか」
次こそは。そう決心して、ゴールドシップを労おうと考える2人だった。
◇
さて、中々愉快な勝負でしたわ。
(さすがはジュニア級王者、と呼ばれるだけはありましたわね。違わぬ実力……素晴らしいッ!)
ゴールドシップさんの実力は紛れもない本物。こちらの心が躍るとても楽しい勝負……出走した甲斐があったというもの!
ですが……まだまだ私には足りないようで。5バ身差で勝利を収めました。
「問題はこの後ですが「や・ら・れ・た~……なんだよなんだよ!オメー強すぎんだろジェンティルぅ!」あら、存外元気そうね?」
先程まで膝に手をついて休んでいたはずですが、すでに息は整っている。お早いこと。
目を細めてゴールドシップさんを見ますが……あらあら。そんなに私を睨みつけて。どうやら、
「……今更あーだこーだ言わねぇよ。こんな差を見せられちゃな」
「そう。敗北をしっかりと刻んでおきなさい。そして、私の名を刻みなさい。貴方を下したウマ娘……ジェンティルドンナの名を」
「ウッセ……次は勝つ」
そう言って彼女は去った。ふふ、折れていない。むしろ闘争心を滾らせている……!次会う時は、さらに強くなる!
「その調子で成長なさい?ゴールドシップさん。私は歓迎しますわ」
いわば、これは梅の盆栽の折りだめ……より強く、趣のある盆栽にするためのもの。この程度で折れてしまってはこちらが困りますわ。
「えぇ、丁寧に、優しく育てないといけませんわね?ゆっくりと、じっくりと……丁寧に育て」
そして……美しく咲き乱れたその時。
「私が摘み取る……その時が楽しみですわ」
ま、これでファンのみなさんは納得したことでしょう。ジュニア級王者は誰なのか?今日はそれだけで十分ですわ。
なんだァ、テメェ(恐怖)