ホープフルステークスが終わってもう年の瀬だ。今日も1人で過ごそうなんて考えていたら。
「よーぅ聖!お前暇だろ?一緒に飯食いに行こうぜ!」
虎太郎が我が家に襲撃してきた。いつも唐突に来るね、君。最近は来なくなってたけど。
「虎太郎が僕の家に来るなんて久しぶりだね」
「あ~、色々と忙しかったからな。そう考えるとマジで久しぶりだわ」
「まぁいいや。どこに食べに行くの?」
「ん~……気分!歩いてたらいいとこ見つかるっしょ!」
相変わらずの無計画ぶり。本当に変わらないな虎太郎は。
虎太郎と外食をすることになったけど、結局入ったのはよくある家族レストランだ。
「いつでも食べに行けるでしょこんなとこ」
「ま~いいじゃんいいじゃん!食い終わったら聖の家で二次会だ!」
年末だからって別に豪華なものを食べるわけでもなく、ちょっと背伸びをするわけでもない。なんだかんだこういうとこに入ろうとするのが虎太郎らしいというか。
食べ終わったらスーパーで色々と買いこんで二次会。こっちが本命だね。飲み物とか食材とかお菓子とか、色々と買いこんで僕の家に帰宅。
「にしても、お前結構いいとこ住んでんな。金持ちか~?このこの~」
「防犯はしっかりしておかないとね。なにがあるか分からないし」
「ま~言えてんな。お前の場合特に」
「?」
早速買ってきたものを開封して二次会の開催だ。テレビをつけてお菓子をつまむ。虎太郎との話題はもっぱら近況報告だ。
「やっぱお前すげぇな~聖。なに?担当ウマ娘どっちも芝とダートのジュニア級の頂点に立ったじゃん」
「2人の頑張りのおかげだよ。勝つことができてホッと一安心だ」
「それにしたってお前、今まで担当したウマ娘もすげぇじゃんか。乙名史先輩もお前のことを素晴らしいトレーナーだって褒めてるし」
あの人の場合ちょっと誇張が入るからアレな気がする。でも、うん。褒められて悪い気はしない。
「虎太郎は最近どうなの?仕事には慣れた?」
「おうよ。最近は怒られることも少なくなってきたからな!まだ乙名史先輩について回ってるけど」
「そこは新人だから仕方ないよ」
親友と会話をする何気ない時間。うん、悪くない。
その後は虎太郎が僕の家に泊まる・泊まらない問題に発展したけど、結局帰るには時間が遅いということで我が家に泊まることになった。別にいいけどさ。
こたつに入ってお互いに寛いでいる時、虎太郎が何かを思い出したかのように話題を振ってくる。
「そういやよ聖。お前倉科とは話したの?」
「倉科君と?」
「おう。会う機会多そうだしな。なんか話したりしてんのかな~って」
倉科君か……別に話してはないね。話す機会もないし。
「話してないよ。彼もヴィルシーナのことで忙しいだろうし」
「お、さすがに倉科の担当ウマ娘のことは知ってるんだな」
「そりゃあね。ジェンティルのライバルになるかもしれない相手だし」
阪神ジュベナイルを勝ったウマ娘。彼女のレースは映像でしっかりと確認してある。ジェンティルもヴィルシーナのことを気に入ってるみたいだし、なにより強い。ティアラを取る上での最大のライバルになるだろうね。
というか、倉科君達がインタビューされた時の記事を見て思ったんだけど、大分意識されているんだな僕。ジェンティルに負けたくない、とかティアラの冠を取る、って宣言していたし。
「ま~アイツ、ずっとお前のことライバル視してたからな。お前はどうなん?」
「……いや、別に。なんかいつもテストで挑んでくるな~とは思ってたけど」
「うん、お前はそういうヤツだよな」
呆れた視線を向けられる……弁解の余地がないから何も言えない。なんにせよ、彼とはライバルになるのだろう。負けるつもりはない。
そんな話をしていると、除夜の鐘の音が聞こえてきた。時間が過ぎるのはあっという間だね。
「あけおめことよろ~聖ー!」
「うん。あけましておめでとう。今年も一年よろしくね」
「おう!こっちこそな!」
いつもの挨拶を交わして、そろそろお開きにしよう。布団の用意をしないと。
「ところで聖。ホッコータルマエの次走のことなんだけど……お前マジで言ってんの?」
準備をしようとしたら虎太郎に呼び止められた。タルマエの次走?……あぁ、あの件か。まだ世間には公表されてないけど、月刊トゥインクルの人達は知ってるんだよな。
「マジだよ、大マジ。タルマエの次走は皐月賞だね」
「……なんか、この業界に入ったからこそ分かるよ。お前んとこのチームおかしいって」
……聞こえない聞こえない。さっさと寝て初詣に備えよう。
◇
と、まぁ。年末は虎太郎と平和に過ごしていたというのに。
「どうして新年早々僕はジェンティルの実家に行かないといけないのだろうか」
「なにをぶつくさと。さっさと行きますわよ」
年明けから僕はジェンティルの実家に招かれた。ジェンティルの父親が招待したらしいけど、なんでだ本当に。
「お父様は貴方に興味があるみたいよ?貴方という個人に」
「……勘弁してほしいかな」
理由は察せるけど、それとこれとは話が別で。すでにジェンティルの実家に着いた以上何の文句もないけどさ。にしても大きな家だ……。
豪華な扉を開けて中に入ると、すでにジェンティルの家族が勢ぞろいしていた。僕だけ凄いアウェーだな、これ。
「みな、明けましておめでとう」
「「「明けましておめでとうございます」」」
挨拶をするけど、思ったより緊張はしていない。そりゃ、別世界に来たみたいだから多少はあるけど……凄いとこだなぁ、って思うぐらいか。特に問題はない。
「……ふふっ」
それがジェンティルの目にどう映ったのかは知らないけれど、満足そうにしていた。
「高村トレーナー、ご足労感謝する。貴殿とは一度、話をしてみたかったのだ」
荘厳な雰囲気漂う男性。あの人がジェンティルの父親だろう。
(一代で資産家に上り詰めた剛腕……凄いな)
「我が娘が選んだトレーナー……それを抜きにしても、貴殿の名声はとどまることを知らない。私個人としても、非常に興味が湧いている」
こちらを試すような目つきだ。一体何を測ろうとしているのかはさっぱりだけど。
ジェンティルの父親だけではない。ジェンティルのご姉弟さんも僕を見ている。この部屋の視線は、僕一人に集まっていた……さすがに緊張するから勘弁してほしい。
「アレがジェンティルの……」
「本当に生気を感じさせない瞳だな……」
早く解放されたいけど、そうもいかないだろう。事の成り行きを黙って見守ることにするか。
「──さて、高村トレーナーに注目を集めるのはここまでにしよう。まずは、昨年の成果からだ……私を失望させるなよ」
ジェンティルの父親の言葉に空気がヒリつく。こうして、ジェンティルの家族による報告会が始まった。
結論から言うと、うん、凄かった。
(中学生ぐらいなのにかなりしっかりしてるな。もうプロジェクトを任されているなんて)
ジェンティルの弟にあたる子。およそ中学生とは思えないほどに堂々としていた。しかも、事業を任されているほど。目標を達成してもそれに満足することなく、更なる発展を目指そうとしている。向上心の塊だ。
(教育の結果、なのだろうね)
その代わりなのか、ジェンティルにはかなり対抗心剥き出しにしているけど。これに関しては他の姉弟も同じだから弟さんだけじゃないか。
「さて、次は私の番かしら」
ジェンティルはというと、簡潔に。けれど自信たっぷりに言い放った。
「トリプルティアラをお持ちいたしましょう。皆様は是非、ご自身の席から私の力をご覧くださいませ。お父様のお席も、別途ご用意いたしますわ」
不敵に笑い、堂々と宣言する。
「そこは私の玉座になりますもの。代わりの席をご用意して差し上げますわ」
「ジェンティル!お前、お父様になんて無礼をッ!」
弟さんが憤るけど、父親が手で制する。他にも有無を言わさない圧を放ち、ジェンティルを真っ直ぐに見据えている。
「その言葉、覚えておこう。お前がどんな力で我々を納得させ、屈服させるか……期待しておく」
「どうも、ありがとうございます」
ジェンティルは薄く微笑んでいる。それにしてもバチバチしていたな。これが家督争いというヤツか。
報告会はつつがなく終わり、解放されると思いきやジェンティルと一緒にジェンティルの父親と対面することになった。他の人達は席を後にしている。
「さて、高村トレーナー。貴殿には我々の事業の一部を紹介しよう」
「……ジェンティルドンナのお父様直々にでしょうか?」
「あぁ。先程も申し上げた通り、私は貴殿に興味を抱いている。レースの世界に突如現れた稀代の怪物……高村聖」
ただ立っているだけなのに圧が凄い。これが強者特有の圧、というものなのだろうか?
「おい」
「かしこまりました、旦那様」
僕らは施設に案内される。主に見て回ったのはトレーニング施設にリゾート施設、さらには遊園地……遊園地まで手掛けているのか。さっきから凄いとしか言えないぞ。
「どうだろうか?我が家が誇る施設は」
「……豪華ですね」
「それだけか?」
「ジェンティル達のトレーニングが捗りそうです。リゾート施設もありますから疲労回復も行えますし、強くなるにはもってこいの環境かと」
問題は、おそらく人間用ってことだろうか?ウマ娘用ではないっぽい。探せばあるのかもしれないけど。ただ、全てが高水準だ。レベルの高さがうかがえる。
施設を見て回っている最中、ジェンティルの父親がまた口を開く。
「高村トレーナー。貴殿に覚悟はあるかね?」
「覚悟、ですか?」
どうしたのだろうか?突然そんなことを言い始めて。何の覚悟だろうか?
「ジェンティルのトレーナーである覚悟だ。ジェンティルの力が突出していても、隣に並ぶ貴殿が弱者であってはならない。ジェンティルに相応しいレベルになってもらわなければ」
「……強者であるウマ娘には、強者であるトレーナーが相応しい」
「その通りだ。貴殿にはその覚悟があるかね?ジェンティルに見合うだけのトレーナーになる覚悟が」
……何のことかは分からないけど、僕から言えるのはただ1つだけ。
「それを彼女が望むなら──僕はただ進むだけです」
「……」
「それに、言葉だけでは足りないのではないでしょうか?なので……結果で証明します」
ジェンティルに見合うトレーナーとか、それがどのレベルのものなのかは分からない。僕がやるべきことはたった一つ、ジェンティルが強者となるために最善を尽くすことだ。
ジェンティルの父親は少しの間逡巡していた。長い時間が流れたように錯覚する。
「……期待しておこう。貴殿とジェンティルの今後をな」
そう告げて、この場はお開きになった。残されたのは僕とジェンティルだけ。
「それではトレーナー。私もこの辺で。お父様に呼ばれておりますので。帰りは使用人に案内させますわ」
やっと解放される。ひとまず帰ったらトレーニングメニューの見直しをしよう。今日やる予定だったのにやれなかったし。
◇
ジェンティルドンナの父親は天を仰ぐ。その姿に、ジェンティルドンナは愉快そうに笑っていた。
「あらあら、お父様ともあろうお方が珍しいですわね?そのようなお姿を晒すなんて」
「……ジェンティルか」
「それで?どうでしたか、私のトレーナーは」
ジェンティルドンナの問いかけに、父親は考え込む。
「……分からんな。あれほどの才能を持ちながらひけらかすことをせず、ただ己の役割を全うするだけの小間使い。社会の歯車に成り下がる弱者、そう思っていた」
家が保有している施設を紹介されても豪華な施設、と簡素な言葉を残し、ジェンティルドンナ達のトレーニングが捗りそうだとしか答えなかった男。お前はこれに見合うだけの男になれるのか?という圧を込めたつもりなのだが、全く意に介していなかった。
(あの男にとって、己が担当するウマ娘こそが最優先事項。それ以外は後回し……そんな気さえした)
しかし、最後の問いかけ。ジェンティルドンナに相応しいトレーナーになれるのか?という質問で……高村聖の印象はガラリと変わる。
先程までなんの圧も感じなかった男から凄まじい圧を感じた。ジェンティルドンナが望むなら相応しいトレーナーになる、結果で証明する……誤魔化しのようにも思える言葉だったのに。
「ウマ娘が望むならどこまでも突き進む狂気……成程、高村聖に対する認識が180°変わったよ」
成程。こちらの狂気が彼の本質か。父親は愉快そうに笑みを零す。
「面白いでしょう?彼」
「あぁ。お前が見初めただけのことはある。もっと言うならば、彼には自分の欲を持ってもらいたいものだな。自分がこうしたいという欲を」
「あら、彼にとっては私達の欲が彼の欲でしてよ……それに問題はありませんわ。私がいますから」
高村聖はジェンティルドンナの父親に少し認められる。
(念のため
今後の動向により注目しておこう。そう決意を固めるジェンティルドンナの父親であった。
おいおいおい、担当のご実家に挨拶してるわコイツ。