さて、と。2人の今後について決めていきたいけれど。
「ジェンティルもまぁ無茶を言うね」
新加入の1人、ジェンティルドンナ。彼女の目標を聞いてみたんだけど。
「私が求めるのは圧倒的にして絶対の力。誰もが認める強者足り得ること。そのためにはどうしたらいいのか……私のトレーナーならば、分かるでしょう?」
彼女の挑発的な笑顔が頭に浮かぶ。僕を試しているんだろうね。お前は一体どのようなプランを考える?と。
(バクシンオーとタキオンは分かりやすい部類だったのがよく分かるよ)
バクシンオーは全距離の主要な競走を制覇すること、タキオンは強敵と戦い限界速度の果てへと至ることだ。レースの選定は容易だったね。
ただ、強者に関しても色々な種類がある。それがジェンティルのレースを決めるうえでの悩みの種になっていた。
「絶対を刻み勝てないと思わせる走り……決して折れぬ不屈の心……誰にも追いつかせない逃亡劇……最後方からの自由な捲り……うん、本当に色々だ」
全員が強者と呼ばれるだけの走りをもっており、彼女こそが最強だ!と評価するファンがいる。
そしてジェンティルが求めるのは誰もが認める最強であること。そうなると頭に浮かぶのが──クラシック三冠の称号だ。
「クラシック三冠ウマ娘は世代の最強として名を刻む。ほとんどのファンは、三冠を取ったウマ娘こそが最強だと認識している」
中距離と長距離をこなす強さ、王道の証明、ってところだろうか?有名なのもクラシックの三冠だしね。分かりやすい最強と言えばやっぱり、クラシック三冠ウマ娘だろう。クラシック級で走るウマ娘達にとっての憧れなわけだし。
けど──
「ジェンティルだって考えないはずがない。こんな分かりやすい称号があるわけだからね」
素人でも分かるような最強に、彼女が興味を示すか?って言われたら答えは否だ。多分だけど、呆れた視線を向けられるだろうね。容易に想像できるよ。
そうなると、どうしたものかってなる。ジェンティルのレースについて。
「全距離制覇……海外G1の制覇……国という国を跨いでのG1制覇……うん、色々とあるけど」
どれもこれも違うんじゃないか、って思う。G1をいっぱい勝つのも強者かもしれないけど、何となく違う気がする。ジェンティルが求めているのは、そんな分かりやすいものじゃないはずだから。
あぁでもない、こうでもないと考えて。ちょっと手詰まりになったから休憩がてらウマ娘のレース映像を観ることにした。何かヒントがあるかもしれないし。
(強いと言われたウマ娘達の走りを観て、新しい視点を得よう)
そうと決まれば、早速バクシンオーの三冠から。再生だ。
それからしばらく経って。いろんなレースを観た。三冠ウマ娘のレースに世代間での激突。強者と呼ばれたウマ娘達は、何故強者と呼ばれたのか?映像を観ていくうちに、おぼろげながら見えてきた。
「……ッ!あぁ、何となく読めてきたぞ」
どうすればいいのか、どうしたらジェンティルが満足するだろうか?そう考えて、ある一つの結論が出た。彼女が求める強者の素質、強者に求められるもの、そして──誰もが認める強者とはどのようなものか?と。
うん、うん。それならば、ジェンティルのレースに関しては。
「逐次対応で良いね。まずはメイクデビューを勝って、それから決めるとしよう」
これで一つの指標ができた。ホッと一安心だね。
次はホッコータルマエだ。彼女の目標はというと、地元である苫小牧の活気を取り戻すこと。そのためにタルマエ自身が有名になるのが近道だろう。
(有名になれば、それだけアピールする機会が増える。それに、有名なウマ娘の地元はファンも興味を持つはずだ)
そうなると必要になってくるのは至極単純。レースで勝つことだ。これ以上分かりやすい近道もないだろう。
「レースで勝てば注目される、注目されればアピールする機会が増える、結果、苫小牧の誘致にもつながる……こっちは分かりやすいね、うん」
タルマエはダート路線を希望。そうなると、ダートの主要なレースに進むのが定石だろう。と、なると。
「ジュニア級は全日本ジュニア優駿を目標に、レースを設定するかな」
川崎レース場で開催される、ジュニア級ダートのJpn1。まずはここを目標にするとしよう。後は主要なダート路線もチェックしていかないとね。
ただ、レースだけが注目される手段じゃない。注目されるためだったら、他にも色んな手があるわけだ。
「この前タルマエにも打診されたっけな。ウマチューブのこと」
なんでも、ウマチューブを通して世界中に苫小牧のことを知って欲しいとのことらしい。悪くない手だと思うけど、何故自分に相談したのか?って聞いてみたら。
「ほら、こういうのってトレーナーさんの許可が必要だと思いましたので。ミーティアのメンバーと撮影するかもしれませんし」
らしい。律儀だなぁ。
とにかく、タルマエのウマチューブ開設は二つ返事でOKした。今はまだ登録者数も少ないけど、ゆくゆくは……って感じだね。
「詳しい子に教えを乞うのもいいかもしれないね。バクシンオーはウマッターで有名らしいけど……多分参考にはならないな」
僕があまりSNSをやらないのもあってかその辺の事情には疎いけど、参考にならないと思う。何となくだけど。
これで2人の目途は立った。後は。
「明日、2人に報告するか」
2人とすり合わせていくだけだ。
◇
次の日。早速報告することに。
まずはタルマエ。彼女の方が先に来たので今後のレースについて詰めていく。
「タルマエはダート路線希望だから、ジュニア級は全日本ジュニア優駿を目標に頑張ろうか。後は、出走したいレースがあったら遠慮なく言ってね。調整するから」
「は、はい!分かりました!ちなみに、芝のレースでも大丈夫ですか!?」
え?芝のレース?……いや、遠慮なくとは言ったけども。
僕はタルマエのステータスを見る。
ホッコータルマエ
適性:芝D ダートA
距離:短E マA 中A 長D
脚質:逃げB 先行A 差しG 追い込みG
スピード:F 107
スタミナ:G+ 86
パワー :G+ 91
根性 :G+ 83
賢さ :G+ 78
いや、まぁ、うん。走れないことはないけども。ちょっと心配になる値だ。
(……将来走れない、なんてこともないわけだし、いいか)
「分かった。その時になったら言ってね。なんとかするから」
「……断らないんですね」
目を丸くして驚くタルマエだけど、当たり前だ。
「君達の要望を叶えてあげるのが、僕の役割だからね。タルマエが本当に芝のレースを走りたいなら、僕は全力で調整するよ」
「あ、ありがとうございます!その代わり、全力で頑張りますので!」
深々とお辞儀をするタルマエ。真面目な子だなぁ。その後細々としたことを伝えてタルマエとの会議は終わりだ。
次は、ジェンティルドンナだね。入ってきた彼女はというと、不敵な笑み。
「さて、貴方はどのようなプランを私に提示するのかしら?」
「そうだね。とりあえず、伝えようか」
一つ深呼吸をして、ジェンティルを見据える。
「君に関しては適宜対応していく、ってことで結論が出たよ」
「……へぇ?」
「クラシック三冠は現状狙わないし、目標レースはその時その時で決めていこうか」
僕の言葉を聞いたジェンティルは──つまらなさそうな表情。まさかその程度か?とでも言いたげな顔をしているね。
「随分とつまらない答えね。分からないから、答えが出なかったから逃避しているのかしら?」
まさか。そんなはずがない。
「
そう、だからこそ。
「強いと言われたウマ娘が出走するレースに君をぶつけ続ける……これが現状の目標だ」
「ッ!」
「君は、分かりやすい称号で得られた最強に満足しないだろう?」
クラシック三冠、海外の大レースを制覇。確かに強いウマ娘の条件かもしれない。けど、彼女は──その枠組に収まる気はない。
「強いウマ娘はどこを走っても強い。どこを走ろうが関係ない、君に強いウマ娘をぶつけ続けて……その上で勝たせる、なんてのはどうかな?」
「……それが、貴方の答えかしら?」
「そうだね」
自信をもって答えると……ジェンティルは。
「うふふ、随分と面白い答えを持ってきたものね!」
笑った。愉快に、楽し気に。僕の答えを聞いて、笑っていた。あぁ、うん。ようやく肩の力を抜けるよ……。
「えぇ、それで行きましょうか。私が求めるのは強者……強者をねじ伏せてこそ、私の勝利の価値は高まるというもの」
「……ま、そういうことだね。でも、大目標ぐらいは決めて欲しいかな?せめてクラシック路線かティアラ路線かだけ」
「構いませんわ。私が挑むのはトリプルティアラ路線……私には、華やかなティアラが良く似合うでしょう?」
そういえば、バクシンオーもタキオンもクラシック路線だったからティアラ路線には進まなかったな。ジェンティルが初、か。
「分かった。ティアラ路線で行こうか。君の強さを、世間に知らしめてやろう」
「えぇ。そのためにも、日々のトレーニングメニューの改善、よろしくお願いしますわね?
分かったからプレッシャーをかけないで欲しいかな。ちゃんと考えてあるから。ついでに、君がダメにした鉄球もちゃんと発注してあるから。
ちなみにだが、ジェンティルのステータスはこんな感じ。
ジェンティルドンナ
適性:芝A ダートE
距離:短D マA 中A 長A
脚質:逃げE 先行A 差しA 追い込みD
スピード:F 101
スタミナ:G+ 97
パワー :F 119
根性 :G+ 92
賢さ :G+ 98
初期段階でかなり適性が広いうえに、バクシンオーとのトレーニングで短距離の適性も上がり続けている。Dの壁を超えるのはちょっと大変だけど、ゆくゆくは走れるようになるだろう。ジェンティルが短距離のレースを走りたい、っていうかは分からないけど。
「さて、じゃあ早速トレーニングと行こうか。ジェンティルのメニューはこんな感じね」
「拝見しますわ……まぁ悪くないわね。及第点をあげましょう」
「それは良かったよ」
今日も頑張ろう、うん。
えぇ!?ホッコータルマエが芝のレースにぃ!?なんてこともあるかもしれない。