ついに始まる夏合宿……の、前に。タルマエのジャパンダートダービーがあった。世間では芝とダートの世代王者になれるかどうか!?なんて期待がかかっていたこのレースだけど、結果の方は。
《ホッコータルマエ強い強い!これは独走だ!やはりこのウマ娘の主戦場はダート、そう思わせるだけの見事な走り!今ホッコータルマエが駆け抜けたゴォォォルイン!ジャパンダートダービーを制したのはホッコータルマエだぁぁぁッッ!先行策からあっという間に抜け出した!2着に8バ身差をつける大勝です!》
《これで芝とダートのダービーを取りましたねぇ。これはとんでもない偉業です!》
《同世代のダートに敵はなし!次のレースはどこへと進むのか?注目が集まります!》
他を全く寄せつけない圧勝で勝った。これで芝の日本ダービー、ダートのジャパンダートダービー2つのダービーを制したことになる。巷では芝とダートの世代の頂点に立った、なんて言われてるね。
「みんな~!応援ありがとう~!これからも苫小牧ロコドル、ホッコータルマエをよろしくだべ!」
PRもしっかり忘れずに。タルマエは見事にジャパンダートダービーを制した……が。
(正直な話、ここまでは問題ないんだ。問題なのは、
油断はできない、というよりは今以上に頑張らなければならない理由がある。それが、今のダートが群雄割拠であること。
現在、トゥインクル・シリーズにおいてダート戦線は戦国時代とも呼ばれている。上位に入るウマ娘はほぼ固定化されているが、彼女達の強さがまさに一線を画すレベル。誰を相手取っても一筋縄じゃいかないだろう。
まず真っ先に挙げられるのがスマートファルコン。トゥインクル・シリーズのダートウマ娘でも歴代最強と呼ばれるほどの実力者で通称【砂のハヤブサ】。彼女の逃げを捕まえるのは容易ではなく、トランセンドが徹底した対策を取ってようやくクビ差で勝てるぐらいの強さだ。まだ海外のレースでは勝ってないらしい。
スマートファルコンだけではない。タルマエと併走してくれたトランセンドに加え、ギャルトレーナー、新條さんのところのエスポワールシチー、船橋への愛が凄いフリオーソ、さらには朝霞さんのところのワンダーアキュートがいる。全員が全員、とんでもない強さを誇っており、誰が勝っても全くおかしくないという状況。現在のダートが戦国時代と呼ばれる所以だ。
(実際、ダートレースの上位はほぼこの5人で占められている。ここにタルマエが食い込むためには……かなりの苦労が必要だ)
ステータスも、全員が一部のステでUランクを超えている。この夏合宿でタルマエがどこまで食い込めるか、だ。
タルマエもそのことが分かっているのか、ジャパンダートダービー後も気を抜かなかった。
「……正直な話、本当の勝負はここからだと思ってます。同世代の子達を侮っているわけではないんですけど、シニア級は凄いですから」
「そうだね。今のダートは本当に凄い。だから、夏合宿で更なるレベルアップを図ろうか」
「はい!これからもご指導お願いします!」
次の戦いに向けて飛躍を。頑張っていかないとね。
後はイベントの前だけど、宝塚記念もあった。勝ったのはオルフェーヴルであり、6バ身差の快勝。凱旋門賞に向けて弾みをつけることができた、ってところだろう。
凱旋門賞を取るため、佐岳さんのアシストの下朝霞さん達はフランスへ旅立った。
「……『というわけで、今年の凱旋門賞、日本からはオルフェーヴルってウマ娘が出走するよ』」
「『へ~、聖のウマ娘よりも強いの?』」
「……『どうだろうね。ただ、見ておいて損はない。彼女は強いからね』」
「『そうだヴェニュスパーク。見て学ぶというのも大事なことだ』」
「Oui!」
VRウマレーターでそのことをモンジューとヴェニュスパークに報告。彼女達も興味が湧いたようで、凱旋門賞は観に行くようだ。
「『師匠や聖が担当している子も制した凱旋門賞!私も勝たないとね!』」
無邪気な笑顔のヴェニュスパーク。こちらが出したトレーニングを楽々とこなしていた。フランスでのコーチングも順調である。モンジューを介して欧州の有名なウマ娘達とも交流ができたし、今後が楽しみだ。
そして夏合宿の日を迎える。
◇
今回の夏合宿、なんと都留岐さん達も同行してくれることに。
「ありがとうございます、お2人とも。お忙しいところを」
「大丈夫ですよ、聖トレーナー。次のイベントまではまだまだ時間がありますし、なにより」
「U.A.F.のプレオープンイベントが大成功に終わりましたからッ!これも全部聖さんとミーティアの方々のおかげですッ!」
にこやかな表情で答える2人。これはかなり嬉しいな。夏合宿でもU.A.F.のトレーニングをやってくれるとのことで、かなり充実したものになること間違いなしだ。なんなら合宿所の近くの施設をすでに借りているらしいし。
「さぁさぁ!ミーティアの夏合宿が始まりますよッ!委員長に続け~ッ!」
「ワッショ~イ!合宿も張り切っていこー!」
「そう焦らなくてもいいだろうに。そうだトレーナー君、私のご飯はしっかりと作りたまえよ?」
「なんて厚かましいんですかタキオンさん」
「さて、私の成長を確かめるためにもどれだけの時間海を割れるか試しましょうか」
「計測しよう」
なんか物騒なことを企んでいるジェンティルだけどいつものことだからまぁいいか。
さて、早速始まるU.A.F.式トレーニング。タルマエのハイパージャンプが始まる。ハイパージャンプは走り幅跳びみたいなものだ。
「ハァァァァ!」
長い助走を取って、一気にジャンプするタルマエ。一瞬宙に浮いて、砂の地面に着地。距離の方を測ると……お。
「記録更新ですよタルマエさんッ!この調子で頑張りましょうッ!」
「本当ですか!よ~し、もっともっと頑張るぞ!」
今までの自己ベストを更新した。調子良くやれているようで何よりだね。
ジェンティルの方もハイパージャンプをやる。
「フッ!」
「……タルマエよりも飛んでるね」
「んな!?な、なら次はもっと飛びます!トレーナーさん、エルフィーさん!計測お願いしますよ!」
「あらあら、随分と可愛らしいこと」
ジェンティルの方がタルマエよりも飛んだ。勝者の余裕とばかりに優雅に微笑むジェンティルだけど、表情が一気に険しくなる。
「ふっふ~ん!今度は私の勝ちですね!」
「……お退きなさい。次は私よ」
次の計測ではタルマエの方が飛んだ。ジェンティルは表面上は笑顔だけど、凄く対抗心をむき出しにしている。楽しい、面白いとは思っているがそれとこれとは話は別なのだろう。2人は同世代のライバル、お互いに負けられないといったところか。
他にもアクロバットアローやハングクライムを2人でやる。バクシンオー達のサポートもあって充実したトレーニングを過ごしていた。
そして夜は夜でやることがある。秋川理事長に無理を言って用意……いや、あの人は嬉々として用意をしてたな。それはいいとして、VR機器を接続する。
景色が変わり、目の前には──合宿所と同様のもの。そして現れたのは。
「『聖!今日もよろしく!』」
「『さぁ、今日も頑張ろうか』」
ヴェニュスパーク。夏合宿中でも変わらずコーチングをする。投げ出すわけにはいかないからね。もうすぐデビュー戦を控えているし、勝たせるためにも頑張らないと。
余談だけど、ヴェニュスパークはヴェニュスパークで色んなウマ娘達とトレーニングをする。モンジューに始まり、凱旋門賞を始めとした欧州G1を4勝したモンジューの弟子、無敗で凱旋門賞を制した名ウマ娘、かつて自分を下した相手のトレーナーがいるということでやってきたサリーブ、つい最近まで破られなかった凱旋門賞のレコードホルダー等超豪華メンバーである。
(彼女達ともつながりを持てたのは良いね。併走もやってくれるみたいだし)
ジェンティルなんかは凄く喜ぶだろう。強敵との戦いだからね。
あまり遅くならないようにコーチングは終わる。諸々の支度を終えて、次の日の準備だ。
◇
休日は他のトレーナーと併走……の予定なのだが。いつもやっている天城さんとの折り合いがつかず。新條さんは受けてくれたものの後はどうしたものか、と考えていたところ。
「じゃあじゃあ!カレンと併走してくれませんか?」
「……君は」
「は~い、カレンチャンで~す!よろしくね?」
現在短距離路線で活躍しているカレンチャンが併走のお願いにやってきた。彼女と併走か……。
「いいよ」
「……本当にあっさり受けちゃうんですね。ジェンティルさんもタルマエさんも、カレンとは適性合わないから断られると思ってたのに」
「?」
いい経験になると思うんだけどな。断る理由が見当たらない。
「どんなものでも経験になるからね。得られるものだってあるし」
「高村さん優し~い!ありがとうございまーす!」
笑顔のカレンチャン。さて、早速併走の準備をするか。なんかカレンチャンからの無言の圧が凄かったけど……気のせいだろう、うん。
併走のメンバーはカレンチャンとバクシンオー、そしてジェンティルによる短距離戦だ。ジェンティルは現状畑違いだけど、それでも真面目に取り組んでいる。
「どんな距離であろうとも、併走には価値があります。特に彼女はスプリンターとして名を馳せている……貴重な経験ですわ」
とのこと。闘争心剥き出しで走っていた。
タルマエの方はエスポワールシチー、そして引き続いてトランセンドとの併走だ。エスポワールシチーはタルマエのことを睨んでるけど。
「聞いたぞタルマエ。テメェ、日本ダービー勝ったんだってな?」
「は、はい。そうですけど……」
エスポワールシチーは勢いよく指を突きつける。そして。
「良いか?テメェみてーなのは勝てやしねぇよ。このダート戦国時代をな!」
「は、はぁ」
「あーしらはダートに命かけてんだ、ガチできてんだ!優柔不断のどっちつかずにはゼッテー負けねぇ!」
負けない宣言をしていた。それにしても、かなり威勢が良いな。どっちつかずの優柔不断と来たか。傍目から見たら間違ってないから何とも言えない。新條さんがこっそりこっちに耳打ちしてくる。
「エスポん、タルマエちゃんみたいなダートの強い子が来て嬉しかったんだよ。でも、皐月賞と日本ダービーを走ったじゃん?もうダート走らないもんだと思っちゃってるみたいで……」
「……つまり?」
「寂しいんだよね。せっかくダートの強い子が来たのに、結局は芝に行っちゃうわけだから」
そう言うことか。合点がいった。まぁその心配は杞憂に終わるんだけど。タルマエは今後ダートを中心に走るし。
困惑するタルマエだけど、トランセンドが横から割って入ってきた。
「やー、ごめんねタルマエちゃん。エスポんはこんなこと言ってるけど、タルマエちゃんのこと嫌ってるわけじゃないから。むしろ強い後輩が出てきて嬉しがってるから」
「んな!?な、なにいってんだトランテメェ!つかエスポん言うなし!」
「ダートの強い後輩が出てきたのにさ~、皐月賞とか、日本ダービー走ってんじゃん?それでエスポん寂しがっちゃって……悪気はないんだよ。そこんとこ理解してあげてね?」
「そ、そうなんですか?」
……聞こえないふりをしておこう。その方がエスポワールシチーのためだ。
「ち、ちげーし!トランが勝手に言ってるだけだ!あーしはダートにガチなんだよ!芝もダートも走るようなヤツに負けっかよ!」
「またまたそんなこと言って~。この前みたいに後悔して1人反省会するのはエスポんだよ?やっちゃった~って感じで」
「な、な、な……!て、テメェ見てたのか!?」
「あ、本当にやってたんだ。適当に言っただけなのに」
「~~~~ッ!」
顔を真っ赤にしているエスポワールシチー。まぁ、そう言うことなんだろうね。当のタルマエ本人は苦笑いを浮かべているけど。
ただ、譲れない思いがある。タルマエは真っ直ぐにエスポワールシチーを見つめた。
「御忠告、ありがとうございますエスポさん。でも、私は優柔不断なわけじゃありません」
「……あ゙?」
「私は、芝にもダートにも本気です。どっちも本気で勝ちに行ってます。それだけは、理解してください」
曇りのない真っ直ぐな目。揺るがない自信と決意をもってエスポワールシチーを睨んでいる。
その思いが伝わったのだろう。エスポワールシチーは頭を掻いてバツが悪そうにした後……頭を下げた。
「……優柔不断つったのは謝る。どうやらガチみてーだな」
「はい。どんなレースでも勝ちに行く……その思いは変わりませんから」
「……ジョートー。このエスポワールシチーの首は安くねぇ。秋で待ってるぜ、タルマエよォ」
併走前にひと悶着あったものの、こちらも無事にやり遂げることができた。合宿はまだ始まったばかり、実りのあるものにしよう。
「というかタルマエちゃんJDD走ってたじゃん。それはいいの?」
「い、いつまでもその話蒸し返すな!あーしが悪かったよ!」
……実りのあるものにしよう。
エスポワールシチー可愛い可愛いね……。