その力は何の為に   作:カニ漁船

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前回のあらすじ

リガントーナ「凱旋門賞シナリオの仲なのに1人だけハブられた」


不思議な併走

 夏合宿の間、カレンチャンとは結構な頻度で一緒にトレーニングをしていた。

 

「高村さ~ん、今日も一緒にトレーニングしても良いですか~?」

「いいよ」

「やったやった~!高村さんありがとう!」

 

 こちらとしても学ぶべきものは多いし歓迎だ。どうして僕達のチームと一緒にやりたいのだろう?なんて考えてみたけど。

 

「バクシンオーさん、カレンと一緒に写真を撮りませんか?」

「やや?この学級委員長とですか?勿論構いませんともッ!ニッコリスマイルで対応しますよッ!」

「は~い、それじゃあ撮りますよ~」

 

 バクシンオーと一緒に写真を撮ってたり。

 

「あ、タルマエさんだ!いつもウマスタ見てますよ!カレンも苫小牧のこと、興味出てきたかも」

「ほ、本当ですか!?地元の人達も活気づいてきたって言ってたし、これからももっとも~っと苫小牧のことを発信しないと!」

 

 タルマエとウマスタのことについて話してたり。

 

「ジェンティルさ~ん、カレンと一緒にトレーニングしませんか?」

「えぇ、構いませんわよ」

「えへへ、ジェンティルさんのこと、たくさん教えてくださいね!」

 

 ジェンティルとトレーニングしてたりと、かなり馴染んでいた。ミーティアのメンバーも概ね好印象を抱いている。

 

「愛されキャラだねぇ。ま、スカーレット君には及ばないが」

「タキオンさんはそうでしょうね」

「なんというか、こう、雰囲気が良くなりますよね!カレンさんがいると!」

「間違いない。彼女のオーラは周りを巻き込む……凄いな」

 

 好意的に接していた。良いことだね。

 これには彼女のトレーナーさんも満足しているようで。

 

「カレーン!今日もカワイイよー!」

 

 カワイイという掛け声をしていた。意味はよく分からないけど、そのままの意味だろう。多分。

 

「ありがとうお姉ちゃん!ね、ね、高村さんはどう思うかな?」

「良いんじゃない?それで今日のトレーニングだけど」

「……」

 

 カレンチャンとのトレーニングは間違いなく今後の糧になるだろう。実際に、タルマエとジェンティルは彼女のレース技術を少しずつ取り入れ始めてきている。よし、順調……なんだけどね。

 

「ジーッ……」

 

 この合宿期間中、何故だかカレンチャンにやたらと見られている。すんごい見られている。なんで?生憎、彼女に何かした覚えはないんだけどな。

 いたたまれないのでカレンチャンのトレーナーさんに耳打ち。どうして彼女は僕のことをジッと見ているのかを聞こうとした矢先のこと。

 

「……おかしい。高村さんにカレンのカワイイが効いてない」

「はい?」

「だってだって!高村さんいつもと変わらないんだもん!カレンのカワイイがあれば、目に光が灯ると思ったのに~!」

「……」

 

 え、なに?彼女、僕の目のことが気になってたの?それで自分のカワイイがあれば光が灯るかもしれないと?……うん、なんというかアレだ。知らないうちに粗相をしたんじゃないかと心配してたからホッと安心したよ。

 

「す、すいませんカレンが!」

「いえ、別にいいですよ。特に気にしてませんので」

 

 カレンチャンのトレーナーさんは慌ててるけど、ぶっちゃけ気にしてないから構わない。でも、トレーナーさんは訝しむように見てきた。なんで?

 

「……でも、カレンのカワイイが通用しないなんて!」

「はぁ」

「夏合宿が始まって、併走やトレーニングも一緒にやるようになりましたが、カレンのカワイイ姿はたくさんありました!」

「そうなんですか。いたって普通のトレーニングと併走だったと思いますが」

「な、なんですと!?」

 

 そんな驚愕の表情で見られても。なにもおかしいことはしてなかったし、珍しいこともなかった気がするけどな。

 

「が、頑張っている姿がカワイイとは?一生懸命な姿がカワイイとは!?」

「頑張ってますね、一生懸命ですね……それ以外に何か?」

「こ、これ!カレンのウマスタグラムです!……どうでしょうか?」

 

 見せられたのはカレンチャンのウマスタ。限定メニューのスイーツだったり有名な観光スポットを背景にした自撮りだったり……うん。

 

「僕にどういった反応を求められているのかは分かりませんが、凄いんじゃないでしょうか?コメントの反応も良い感じですし」

「ガーン!?か、カレンを見て何かを感じたりは!?」

「……よく走りそうですね?」

 

 本当にどんなコメントを求められているんだ、僕は。

 何故か打ちひしがれているカレンチャンのトレーナーさんを、カレンチャンが慰めるように肩や背中をポンポン叩いていた。これは僕が悪いのだろうか?

 

「大丈夫だよお姉ちゃん。これは……まだまだカレンのカワイイが足りないってことだね!」

「カワイイ?」

「カレンのカワイイは無限大!カレンは宇宙一カワイイよー!」

「えへ、ありがとうお姉ちゃん!2人で一緒に頑張ろうね!」

 

 ……まぁ盛り上がってるからいいか。水を差すのもなんだし。

 

 

 併走のメンバーはカレンチャンだけではない。今後を見据えて、タルマエは色んな子達と併走をさせていただいた。

 

「……え?タルマエさんも併走?主戦はダートでしたよね?」

「芝も走れるから大丈夫だよ、サイレンススズカ」

「嘘でしょ……」

 

 サイレンススズカだったり。

 

「え?あたしともなの?」

「うん。お願いできないかな?アイネスフウジン」

「別に構わないけど……本当に相手はタルマエさんなの?」

 

 アイネスフウジン。そして。

 

「あら?お姉さんともかしら?」

「マルゼンスキーにもお願いしたいんだ。どうかな?」

「勿論OKよ!代わりに、バクシンオーちゃんとの併走、お願いね!」

「それくらいは全然構わないよ」

 

 マルゼンスキー。逃げで有名な子達と併走を組んだ。マルゼンスキーは結果的に逃げになっただけ、らしいけど。

 逃げウマ娘を併走相手に選んだのは単純明快。相手がスマートファルコンだから。後はトランセンドも逃げ適性が高いし、エスポワールシチーも高い。前目でレースをする子が多いからこそ、逃げ適性が高い子達を併走相手に選んだわけだ。

 サイレンススズカやアイネスフウジンはOKしてくれたが、マルゼンスキーがOKしてくれたのはちょっと意外だった。こういうのもなんだけど、断られるかもしれないって考えてたし。

 

(ライスシャワーのことがあるからな。目にかけてる、って話を聞いてたし)

 

 実際に聞いてみたところ、それはそれこれはこれで割り切っているらしい。ちょっと安心した。

 タルマエの併走メンバーは逃げウマ娘を中心に。芝ということでジェンティルも同じように併走を行う。そして、マルゼンスキーの希望でバクシンオーとも。距離は中距離だ。

 

「バクシンバクシンバクシンシーーーンッッ!!委員長の驀進は止まりませんよーッ!」

「ッ、速い……!でも、譲らないッ!」

「ドリームトロフィーで戦うこともあるけどっ、やっぱりハチャメチャに強いの……ッ!でも、負けないの!」

「あぁ……、やっぱり楽しいわ!お姉さんをもっと楽しませてちょうだい!」

 

 逃げる4人を追いかけるタルマエとジェンティル。ただ、その目は。

 

「「……」」

 

 いつでも差し切ってやる、余すことなく観察して、油断したところを躱すと言わんばかりの眼光だ。

 

(良い調子で併走ができている……ステータスも、順調に育っていってる)

 

 平日のトレーニングでステータスを育て、休日の併走で知識を身につける。夏合宿でいつもやっていることだ。

 

(逃げウマ娘との対決で逃げに対する最適解を覚える。特にタルマエはかなり集中しているね)

「さて、そうなると差しと追い込みの子とも併走をしたいな……ジェンティルの相手はオルフェーヴルだから、マチカネフクキタルやアドマイヤベガに声をかけてみるか」

 

 次は誰に頼もうか?そう考えていた……矢先の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

「トレーナー。ヴィルシーナさんと併走を組んだわ」

「なんて?」

 

 突然ジェンティルからそんなことを言われた。いや、なんで?

 

「聞こえなかったかしら?ヴィルシーナさんと併走をする、と言っているのよ」

「……それは構わないけど、珍しいね。その口ぶりから察するに、君から申し出たみたいだし」

「えぇ、そうですわ」

 

 それにしてもヴィルシーナと併走か……相手は倉科君だ。

 

 

 集合場所に着くと、すでに向こうは到着していた。倉科君に関しては、僕を鋭い目で睨んでいる。

 

「……久しぶりだな、高村」

「うん、久しぶりだね倉科君」

「お前のとこのジェンティルドンナがヴィルシーナに挑んできた……何が狙いだ?高村!」

 

 僕が何かを企んでる、みたいな言い方をしているけどゴメン。

 

「いや、別に。ジェンティルが組んだだけだし。僕は知らないよ」

「……いやいや!そんなことはないはずだ!絶対に何か企んでるだろ!」

「本当のことだよ」

 

 僕の雰囲気から何かを察したのだろう。倉科君は頭を下げた。

 

「……ごめんなさい」

 

 いたたまれない雰囲気になったな……もう掘り返すのは止めよう。

 さて今回の併走だけど。ジェンティルとヴィルシーナの1対1だ。いつもならばバクシンオーやタルマエも一緒にやったりするけど、本人達たっての希望でタイマンでの勝負になる。

 

「夏合宿でヴィルシーナは着実に力をつけている……お前達には負けねぇぞ!」

「そうなんだ。楽しみだね」

「いつもの軽いノリ……へ、やっぱりお前はそうでなくちゃな」

 

 問題の併走だけど……へぇ、確かに力をつけているみたいだ。ヴィルシーナのステータスは、オークスと比べてもかなり上がっている。

 ジェンティルが先行して、ヴィルシーナが後ろにつける展開。虎視眈々と差す機会を狙っているヴィルシーナと、悠々と駆け抜けているジェンティル。勝負の第4コーナーに移ったけど──

 

「貴方の力はそんなものかしら?……ハァッッッ!!」

「な……っ!?くっ、ま、負けるもんですかぁぁぁ!」

 

 決着はあっけなくついた。ジェンティルの5バ身差勝ちという形で。

 

「ご、5バ身……また、5バ身……!」

 

 悔しそうに歯噛みしているヴィルシーナ。そして。

 

「まだ、こんなに差があるってのかよ……っ!」

 

 同じように、拳を握る倉科君。悔しさをこらえているようだった。

 勝者であるジェンティルは悠々と佇む。膝をついて項垂れるヴィルシーナに、妖艶に微笑みかけていた。

 

「とても素晴らしい景色でしたわ。逃げウマ娘の方々が、この景色を譲らないというのも分かります」

「くっ……」

「なにも遮るものがない道を真っ直ぐと駆け抜ける……悪くありませんわね」

 

 煽り。勝者の余裕とばかりに煽るけど……ヴィルシーナは折れない。まだ目に光がある。

 

「……ふぅ~」

 

 気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした後、恭しくお辞儀をするヴィルシーナ。

 

「併走、ありがとうございました。とても貴重な経験、感謝いたしますわ」

「あら、礼には及ばなくてよ」

「次のレース……秋華賞では私が必ず勝ちます。貴方には譲りません……ごめんあそばせ」

 

 さて、向こうは解決したか。こちらは。

 

「高村ッ!」

「……なにかな?倉科君」

 

 倉科君は僕を真っ直ぐに見ている。ヴィルシーナと同じような目、決意の籠った目だ。

 

「もうお前には負けない……俺とヴィルシーナが、お前とジェンティルドンナに土をつけてやる!覚えておけよ!」

「そう。頑張ってね」

「あぁ、頑張らせてもらうさ!行こう、ヴィルシーナ!」

「トレーニングプランの見直しよ、トレーナーくん!」

 

 これで併走は終わり。倉科君とヴィルシーナはさらにやる気を滾らせて帰っていった……かと思えば、倉科君だけ帰ってきた。何だろうか?

 

「忘れてた!併走、ありがとうございました!」

「……こちらこそ。併走、ありがとうございました」

「それだけだ!」

 

 急いでヴィルシーナのところへ帰っていく倉科君。これを伝える為だけに戻ってきたのか。正直僕も忘れていたから助かったよ。

 

 

 さて、今回の併走の目的だけど。

 

「ヴィルシーナに発破をかけたわけだね」

「えぇ。そうすれば彼女はさらに奮起するでしょう。秋華賞に向けて、更なる飛躍を遂げてくるはず……その時が楽しみですわ」

 

 最後の煽りに関しても、ヴィルシーナが折れないと分かっているからこそあえてやったのだろう。それにしても。

 

「ヴィルシーナのこと、気に入ってるんだね」

「当然ですわ。私にあそこまで立ち向かう相手というのは希少ですもの。可愛らしいでしょう?」

 

 可笑しそうにしているけど、ジェンティルは本当にヴィルシーナのことを気に入ってるんだろうな。でなければ、わざわざ併走をして発破をかけたりはしない。強くなって欲しいからこそ、あえて厳しく接するってことか。

 そして、強くなって欲しい目的はただ1つ。

 

「君のティアラをさらに輝かせるため……だろう?」

「あら、分かっているようね。そうですわ、貧弱な相手を打ちのめしても歯ごたえがありません……強い相手を下して勝たなければ、本当の価値は得られませんもの」

 

 強くなったヴィルシーナに勝って、自分の強さをより強烈に刻みつけるため、か。

 

「貴方も大事になさい。ああいう手合いは、貴重よ」

「そうだね。得ようと思って得られるものじゃないから」

 

 倉科君も、僕に何度も挑んできている。折れることなく真っ直ぐに。そう考えると彼は……凄いな、うん。

 夏合宿はとても順調。秋のレースが楽しみだね。




折りだめですよ折りだめ()
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