その力は何の為に   作:カニ漁船

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もう9月が終わるってマジ?早すぎんだろ。


秋華賞に向けて

 今回の秋華賞は不穏な空気を漂わせていた。開催すら危ぶまれていたのである。

 秋のG1の始まりを告げるスプリンターズステークスが間もなく開催されようとしている段階でも、出走を表明していたのがたったの5人。1人でも欠ければ開催すらできなくなるような状態になった。最終的に、この後出走を表明する陣営が多数現れたことにより、5人から18人へと、しっかり集まった。

 栄えあるティアラの第3戦、トリプルティアラ最後のレースにも関わらず、何故出走者が少なかったのか?それは──ジェンティルドンナの存在だ。

 

「ま~出走したくないってのも分かる気がするよ。俺だったら敬遠しちゃうし」

「ジェンティルドンナの強さがねぇ……異次元すぎるっていうか」

「突出しすぎてるもん。ありゃヤバいよ」

 

 桜花賞とオークス、2つのレースで桁違いの強さを見せつけたジェンティルドンナ。彼女の存在が、秋華賞への出走を躊躇させていた。とりわけオークスに出走していたウマ娘達はその傾向が強い。

 5バ身。メイクデビューからオークスまでの間、寸分の狂いもなく5バ身差で勝ち続けている。陣営は明言こそしていないものの、ここまで来れば狙っているも同然だろう。

 

「ティアラの3戦目……間違いなくジェンティルドンナは出走してくる……!」

「ど、どうしようかな……まだエリ女の方が」

 

 不抜の領域、聖域とまで称されたジェンティルドンナの5バ身。これを崩すことは不可能に近い。最初こそそう考えていた。

 だが、やはり一生に一度の夢舞台。クラシック限定戦であるが故に、逃げてもいいのか?と他の出走者は心を奮い立たせる。レースは始まるまで分からない、なにが起こるか分からないのがレースだ。始まる前に逃げたら何も起こらずに負けるだけ、それで良いのか?とウマ娘達は奮起する。

 結果として、秋華賞には18人のウマ娘が出走を表明した。フルゲートでの開催となったのである。

 

「逃げない……逃げたくない!逃げてたまるもんですか!」

「もしもを起こしてやる……!」

 

 彼女達は闘志を滾らせる。ジェンティルドンナという強大な相手を打ち倒すため、秋華賞に向けてトレーニングを重ねた。

 

 

 とはいっても、世間での前評判はジェンティルドンナの一強ムードである。

 

「いや~、やっぱりジェンティルドンナですよ!彼女の実力は桁違いですからね!」

「秋華賞もどんなパフォーマンスを見せてくれるのか?今から楽しみですね~!」

「菊花賞にも秋華賞にも、ホッコータルマエは出走しないらしいですからねぇ。大本命はもう決まっているんじゃないでしょうか?」

 

 レースになればジェンティルドンナに勝てる相手はクラシックにいない。そんな触れ込みだった。そんな一強ムードを吹き飛ばすように現れたのが──ヴィルシーナである。

 

《ヴィルシーナが早々に抜け出した!ヴィルシーナ速い速い!夏までとは一味違うぞヴィルシーナ!第4コーナーで抜け出し、後続との差をグングンつけていく!圧巻の走りだヴィルシーナ!》

 

 秋華賞の前哨戦ローズステークス。11人での出走となったこのレースを、ヴィルシーナは圧巻の走りで駆け抜ける。後続に8バ身差をつける形で大勝した。

 

《ヴィルシーナ!ヴィルシーナだ!ローズステークスを制したのはヴィルシーナッ!秋華賞に向けて弾みをつける大勝です!これは次のレースが非常に楽しみになる勝利でした!》

「待っていなさいジェンティルドンナ……!私はもう、負けたりしない!秋華賞を勝つのは、私よっ!」

 

 ジェンティルドンナにもしもが起こるならばヴィルシーナだろう。いや、もしもがなくてもジェンティルドンナに通用するのではないか?それだけの走りをローズステークスで見せていた。

 オークスと変わらない図式──ジェンティルドンナVSヴィルシーナ。ティアラ最後の冠を戴くのはどちらか?

 

 

 

 

 

 

 ジェンティルドンナの父親はPCの画面を見て愉快そうに笑う。滅多に見れない姿に、使用人は驚きの表情を浮かべた。

 

「どうなされましたか?旦那様。楽しそうにしておられますが」

「……あぁ。いやなに、ジェンティルが見初めたトレーナーは、やはり素晴らしい逸材だと思っていたところだ」

 

 画面には高村聖のことについて書かれた記事。内容は、今度の秋華賞についてだった。

 

「たった一言だけ──勝たせます、か。成程成程、陳腐な言葉がこれほど頼もしく思ったことはない」

「……そんなに、ですか」

 

 深く頷く父親。未だ愉快そうに笑っている。

 年明けにジェンティルドンナが連れてきて以来、高村聖の動向は教えてもらっていた。彼がどのような結果を出すのか?本当にやってくれるのか?ジェンティルドンナを導くのか?と。結果として彼は──素晴らしい結果を叩き出した。桜花賞とオークスは観に行ったが、素人目に見ても分かる。ジェンティルドンナはレースの世界において、圧倒的な強者であると。そして、そんな彼女に育てたのは間違いなく高村聖だ。そう思わせるだけの結果。面白くないわけがない。

 

「かつて彼は結果で証明する、と私に宣言した。ジェンティルが望むがままに、覇道を進むと」

「……」

「彼は宣言通りにジェンティルを導いている。強者としての道を、確実に歩んでいるようだ」

 

 有言実行の男。ウマ娘が望むがままに突き進む男。高村聖というトレーナーはそうなのだと、ジェンティルドンナの父親は改めて教えられた。

 

「今度また話したいものだな。彼が内包する狂気を、確かめてみたいものだ。なにより、ジェンティル曰く欲を出すようになってきたようだからな……クックック」

「左様で、ございますか。失礼ですが、ジェンティルドンナ様のトレーナーについては」

()()()()()()()、一応見繕っておけ。あらゆるリスクは計算に入れておくべきだ。もっとも」

 

 父親は、()()()()()()()を浮かべて告げる。

 

「彼ほどのトレーナーはいないだろうがな」

「……かなりの評価をされているようで」

「当然だ。実績、という面だけを見れば彼以上のトレーナーはいるだろう。しかし、そこに将来性を含めれば……彼以上のトレーナーはそうはいない」

 

 高村聖以上に実績を上げているトレーナーは世界中探せばいるだろう。だが、高村聖には将来性がある。これから先も素晴らしい実績を上げるという確信が、父親にはあった。

 

「あぁそうだ。高村聖に1つ連絡を入れておけ。秋華賞、楽しみにしていると」

「──かしこまりました。そのように」

 

 使用人は部屋を退出する。父親は──これから来る秋華賞が待ちきれないといった様子だった。

 

 

 

 

 

 

 もうすぐ秋華賞。タルマエのマイルチャンピオンシップ南部杯は出走を見送ったので、これが最初のG1レースとなる。

 すでにスプリンターズステークスは終わった。勝ったのは──龍王と呼ばれるウマ娘。バクシンオーに並ぶのではないか?とまで称されている、スプリント界の新星だ。

 

「カレンチャンは2着……惜しかったね」

「はいッ!ですが、彼女は良いですねッ!一緒に走ったら楽しそうですッ!」

 

 燃えてきましたよーッ!とみなぎっているバクシンオー。新しいライバルが増えるのは大歓迎、といったところかな。カレンチャンに龍王、どちらも強いウマ娘だから。まぁ勝つのはバクシンオーだけど。

 

「ライトオさんにデュランダルさんッ!ビリーヴさんとのレースも心躍るものでしたッ!ま~私は模範的な学級委員長ッ!勿論全てのレースに勝ちましたともッ!えぇッ!」

「知ってる。全部見てきたからね」

「特にライトオさんとの直線勝負はとても心が躍りましたッ!渇いて渇いて、さらにその先へと至りましたからッ!いや~、楽しかったですねッ!ミラクルさん達とのレースも楽しいですし、スプリントレースは最高ですッ!」

 

 そう言ってるバクシンオーだけど、たまにマイル以上の部門に出走しているし、なんならウィンタードリームはダートに出走していた。シンコウウインディが僕みたいな目をしてたのは記憶に新しい。

 にしても、カルストンライトオとの直線勝負か……あれは凄かった。最初から最後まで競り合う大接戦。最後にバクシンオーが半バ身抜け出しての勝利。トゥインクル・シリーズじゃないから記録にはならないけど、新潟千直のレコード決着だったからね。

 

(……ちょっと待って。なんか凄いこと言わなかったか?)

「バクシンオー、さらにその先に至った、って?」

「ん?あぁッ!こう、いつもよりもさらに力がグワーッ!と湧き上がったのですッ!これもまた学級委員長としての力が上がった証拠!いよっ、さすが私ッ!」

 

 なんだろう、領域がさらに進化した、とか?……よし、気にするのは止めよう。余談だけどバクシンオーはドリームトロフィーの短距離部門いまだに負けなしである。トゥインクル・シリーズも含めて、短距離戦においては無敗という強さを誇っていた。

 

 

 さて、話は秋華賞に戻ろう。バクシンオーと話していたら丁度ジェンティルも来たし。

 

「トレーナー、ローズステークスは御覧になりまして?」

 

 開口一番言われたのは先日開催されたローズステークスについて。勿論見た。現状、秋華賞最大のライバルであるヴィルシーナ達がいるのだから。

 結果は──ヴィルシーナの8バ身差圧勝。秋華賞に向けて弾みをつける勝利だろう。

 ただ、ジェンティルが言いたいのはそう言うことじゃない。ウィナーズサークルでのインタビューのこと。

 

「秋華賞を勝つのは自分達、だったかな」

「えぇ。随分と面白い宣言でしたわ。ただ、ちゃんと力はつけてきているようね」

「そうだね。ステータスも随分上がっていた」

 

 今のヴィルシーナは油断ならない相手だろう。聞くところによると、天城さんと合同トレーニングをしていたようだし。あそこには中距離のスペシャリストでもあるトウカイテイオーがいる。タキオンと互角の勝負を繰り広げる彼女が。秋華賞を想定するなら頼もしいことこの上ない相手だろう。

 ジェンティルも楽しそうだ。ヴィルシーナがしっかり成長したようで嬉しいんだろう。あの煽りにも屈することなく立ち上がった。

 

「秋華賞、俄然楽しみになってきましたわ。私にどこまで食らいついてくれるのか……滾りますわ……ッ!」

「落ち着いてね。この後はソノンエルフィーさん達とトレーニングだから」

 

 燃え上がっているジェンティルを落ち着かせる。この後はトレーニングだし、鎮まってくれないと困る。フンスフンスと興奮しているジェンティルをなんとか宥めて、トレーニングへと向かった。

 

 

 そしてさらに数日後。

 

《オルフェーヴル!オルフェーヴルだ!日本のオルフェーヴルが先頭で駆け抜ける!しかし後方から凄い勢いで飛んできたウマ娘がいるぞ!?逃げ切れるかオルフェーヴル!》

 

 朝霞さんのところのオルフェーヴルが凱旋門賞に出走。残り100mでこれまでG1勝利のなかった伏兵との叩き合いになったが……最後は半バ身差でオルフェーヴルが抜け出し。

 

《日本のオルフェーヴル!オルフェーヴルがやりました!最後は半バ身差抜け出したオルフェーヴルゥゥゥゥゥ!これでアグネスタキオン、マンハッタンカフェに続いて3人目の凱旋門賞制覇!偉業を成し遂げましたオルフェーヴル!》

 

 凱旋門賞を勝利した。3人目の快挙、か。

 そしてウィナーズサークルのインタビュー。彼女は高らかに宣言する。

 

《ジャパンカップだ。余が直々に手を下さねばならんヤツがいるのでな……余の次走はジャパンカップだ》

《は、はいぃっ!オルフェの次走はジャパンカップですぅ!》

 

 次のレースはジャパンカップ……つまりは、秋華賞後にジェンティルと激突する。この秋は──激戦続きだ。

 

 

 

 

 

 

 ヴィルシーナ陣営は最後の調整を行っている。

 

「ハァ……ハァ……!ど、どうかしら!?トレーナーくん!」

 

 タイムを測る倉科。ストップウォッチを見て──満足そうに笑みを浮かべた。

 

「自己ベスト更新だ!よくやったな、ヴィルシーナ!」

「や、やった……っ!いえ、でもダメね。喜ぶのは勝ってからよ」

 

 一瞬笑顔を浮かべるヴィルシーナだが、すぐに気を引き締める。次のレース秋華賞は目前に迫っている、気を抜くわけにはいかない。

 それは倉科トレーナーも同じだったようで。すぐに引き締まった表情になる。そして、ぽつりと呟いた。

 

「……ここまで来たな、ヴィルシーナ」

「えぇ。ここまで来たわ」

 

 これまでのクラシック戦を懐かしむ2人。ジェンティルドンナと高村という強大な相手に負け続けてきた苦い過去が、2人の頭を駆け巡る。屈辱の5バ身差、絶対にそれ以上は近づけないという、不抜の聖域。今でも震えそうになる。

 

「ローズステークスで自信をつけた。余裕をもって勝利できた。秋華賞……自信があるわ」

「あぁ。ヴィルシーナならできる。必ずできる!」

 

 だが、それも今回で終わり。次の秋華賞では自分達が勝つ──その思いを胸に、ここまで頑張ってきた。

 

「勝つぞ、ヴィルシーナ!」

「えぇ、トレーナーくん!勝ちましょう!」

 

 2人は誓う。秋華賞の勝利を。綺麗な満月が2人を見下ろす中で、勝利を誓い合った。

 

 

 そして、決戦の日が来る。




次回 秋華賞
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