その力は何の為に   作:カニ漁船

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ジャパンカップと犠牲者。


ジャパンカップ VSオルフェーヴル

 雲一つない快晴の東京レース場。ジャパンカップが開催される今日は大勢のファンが集まっていた。その数は実に15万人、いや、さらに超えそうな勢いである。レース場の最高入場者数を更新しそうな勢いだ。

 その理由はやはり、三冠ウマ娘かつ凱旋門賞ウマ娘であるオルフェーヴルと先日トリプルティアラを戴冠したジェンティルドンナが激突するからだろう。トゥインクル・シリーズの芝で現役最強と名高いオルフェーヴル。クラシック三冠に加え、すでにG1級レースを7勝しており、実力を疑う余地はない。今回のジャパンカップ1番人気である。

 続く2番人気はジェンティルドンナ。クラシック級ながら規格外の強さで他者を圧倒し、これまでのレースを寸分の狂いもなく5バ身差で勝ってきた貴婦人。ティアラ路線ながらクラシック級最強と名高いウマ娘である。事実ほとんどのレースで楽勝と言ってもいい勝ちっぷりを見せており、こちらも疑う余地のない強さを誇っている。

 

「オルフェーヴルとジェンティルドンナの直接対決……!これは見なきゃ損でしょ!」

「特等席で見ないと!絶対に凄い戦いになるから!」

「頑張ってー!オルフェ様ー!」

「ジェンティルドンナー!負けないでー!」

 

 突き抜けた人気を誇る2人。ただ、やはり実績という点から人気はオルフェーヴルに軍配が上がった。もっとも。

 

「フン。ようやくここで貴様の面を拝めたな」

「あらあら、そんなに私に会いたかったのかしら?」

 

 ターフの上で睨み合う2人にとっては関係のないことだ。傲慢不遜な態度で睥睨するオルフェーヴル。優雅に微笑み挑発するジェンティルドンナ。一触即発の空気が流れており、周りのウマ娘はただただ圧倒されていた。観客席のファンも、あまりの空気に声を上げることすら忘れて息を呑む。

 空間が歪むほどの圧を発する2人。

 

「あぁそうだ、凱旋門賞おめでとうございます。祝うのが遅くなりましたわね」

「フン。貴様に祝われる筋もない」

「悲しいですわねぇ。これでも本心ですのよ?──えぇ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 瞬間、オルフェーヴルの圧が増す。睨みの中に怒りが加わり、思わず屈服するほどの圧だ。

 が、次の瞬間。オルフェーヴルは目を閉じ踵を返す。茶番は終わりだ、とばかりに。

 

「今のうちに吠えておくがよい貴婦人。レースが終わった後、跪いているのは貴様だ」

「楽しみにしていますわ。貴方が私に屈服する瞬間を」

 

 両者ともにウォーミングアップへと入る。先程まで重苦しい空気が支配していたが、発生源がなくなったことで緊張が解かれる。周りにいるウマ娘達と観客席のファンはホッと息を吐いた。

 

《オルフェーヴルとジェンティルドンナ、両雄の睨み合い!始まる前からバチバチですね!これはレースが俄然楽しみになってきました!》

《インタビューで名指しするほどに意識していますからね。ですが、他のウマ娘も猛者揃いですから。もしもがあるかもしれませんね》

《東京レース場、G1ジャパンカップは良バ場の発表。天候は晴れ、芝の2400mで開催されます!世界から集まった強豪ウマ娘達がこの日本に集う大舞台。どのようなレースになるのか!》

 

 先程の重苦しい空気から一転、熱気と歓声が支配する東京レース場。準備を終えたウマ娘達が続々とゲートへと向かい、レース場にファンファーレが鳴り響く。

 

《ウマ娘達が続々とゲートに入ります。凱旋門賞からリベンジにやってきた海外勢のソレアス。日本のバ場に対応することはできるのか?そして1番人気は8枠17番のオルフェーヴル!クラシック三冠に加えて凱旋門賞を制した暴君!冠の数は7つ、このジャパンカップでまた1つ、増やすことができるのか!》

《遠征の疲労が心配されましたが、出走には問題がない様子。パドックでも普通にしていましたね》

《そして2番人気はこちらも8枠、15番のジェンティルドンナ!トリプルティアラを圧倒的な強さで賜った貴婦人!これまでのレース全てを5バ身差で制してきた女傑はどのようなレースを見せてくれるのか?期待が高まります!》

《クラシック級とは思えないほどの貫禄ですね。オルフェーヴルに引けを取りませんよ。こちらも期待できますね》

 

 余談だが、オルフェーヴルとジェンティルドンナは同じ8枠。しかし15番と17番なので間に1人別のウマ娘が入っている。そのウマ娘とは──

 

(ちょちょちょ、マジ無理マジ無理!?両隣からの圧ヤベーって!運が悪いどころじゃないんですけどー!?)

 

 トーセンジョーダンだ。抽選で決まったこととはいえ、この2人の間の番号など彼女にとっては夢であってほしかった。しかし現実は非情。今更変えられるはずもなく。観客席にいるゴールドシップは憐憫の眼差しをトーセンジョーダンに向けていた。

 

 

 最後のウマ娘がゲートに収まり、熱気が支配していたレース場に静寂が訪れる。風の音さえも聞こえそうなほどに静かな空間を切り裂き──ゲートが開く音、と同時。ウマ娘達の駆け出す音がレース場に轟く。

 

《ウマ娘が全員ゲートに入りっ、スタートしました!7番と11番、そして16番が少し出遅れたか?それ以外は揃って綺麗なスタートを切ります!中でも幸先の良いスタートダッシュを切ったジェンティルドンナ外から上がって行く!先行争いが始まろうとしている、ハナを奪うのはどのウマ娘か!》

 

 ジャパンカップが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 スタートから繰り広げられる熾烈な先行争い。観客の声援に押されて、ウマ娘達は一斉に駆け出していく。大外枠の8枠から出走したジェンティルドンナは好スタートからの好位置へ。内へ内へと切り込もうとしている。オルフェーヴルは控える形、先行争いには加わらず、中団よりも後ろに位置をつけようとしていた。

 

《まもなく第1コーナーに入ります。ハナを切るのは1枠からスタートしたイマジンサクセス、イマジンサクセスが単独で逃げる形。外から上がってきたジェンティルドンナは3番手、2番手には出遅れたトーセンジョーダンがこの位置だ。まだまだ先行争いは繰り広げられています。オルフェーヴルは中団より後ろ、抑えて抑えてといった様子》

《それぞれがつけたい位置につけることができましたね。ただ、まだまだ油断はできませんよ》

《外から最内へつけたジェンティルドンナ。外にトーセンジョーダン。1バ身程離れて集団を形成、先頭は海外勢ソレアス。ソレアスが集団を引っ張ります》

 

 ジェンティルドンナは最内につけ、オルフェーヴルは中団やや後ろの外。それぞれにとってのベストポジションを取ることができていた。

 3番手で走るジェンティルドンナは周りの様子を窺いつつ、自分にとって望ましい形を引き出そうとする。

 

(引き出したいのはスローペース。オルフェさんは後方からのレースをする都合上、どうしても展開に振り回されやすい。読んでくるとはいえ、効果的な策ではありますわ)

 

 ならばと後ろから圧をかけるわけにはいかない。外に並んでいるトーセンジョーダンのペースに合わせるように動く。無理はしない、逃げウマ娘が逃げやすいようにレースを展開する。

 

(資料によるとこの方は大逃げを好まない。ならば、こちらが追いかけないように動けば自然と緩めるでしょう)

 

 ジェンティルドンナの読み通りに、先頭で逃げるイマジンサクセスは2人が無理に追いかけてこないことを悟るとペースを緩めた。ジェンティルドンナとトーセンジョーダンの2人は一定の距離を保ちつつ同様にペースを緩める。

 

(ジョーダンさんも私と同じように先行気味に立ち回ります。私達の利害は一致している……だから、警戒は必要ありませんわね)

 

 トーセンジョーダンもまた後方組が差してくるのを警戒している、ジェンティルドンナはそう予測していた。事実、トーセンジョーダンも無理にはいかずジェンティルドンナのペースに合わせるように動いている。加えてトーセンジョーダンには序盤の出遅れがあった。致命的なものでないとはいえ、出遅れは焦るものである。ジェンティルドンナはその心理を読み取っていた。

 

(ただでさえ出遅れてますものね。好位置につけたのであれば、無理に動く必要はない。私という存在を加味しても、ここで無理をする方がリスクを負いますから)

 

 閃光の末脚と呼ばれるエイシンフラッシュに後方から捲ってくる暴君オルフェーヴル。ハイペースになればこの2人がベストのタイミングで上がってくるだろう。自分は先行の好位置につけている。後ろでレースをする2人を有利にさせるわけにはいかない。だからこそ、スローペースを作らなければならない。

 第1コーナーを曲がりながら、ジェンティルドンナは逃げウマ娘のペースに合わせるように走っていた。決して無理はしない。3番手からレースを支配する。

 

 

 第2コーナーへ入るウマ娘達を眺める高村。近くではキタサンブラックとサクラバクシンオーが声援を飛ばしている。

 

「「バクシンワッショーーーイッッ!ジェンティルさん頑張れー!」」

「さてさて、い~い感じにスローペースだねぇ。ジェンティル君にとって理想の展開だ」

「そうだね。そして、オルフェーヴルにとってはまずい展開」

「後方からの捲りは展開に左右される、だな」

 

 ドゥラメンテの言葉に頷く高村。ただ、何もかもが上手くいっているわけではない。第2コーナーから徐々に縦長になるバ群を眺めて、わずかに顔をしかめる。

 

「できれば固まった方が良かったんだけどね。全部が上手くいくわけじゃないか」

「バ群が固まれば、それだけ外に振らせることができますもんね」

「そうだねぇ。ただ、ジェンティル君は最内を陣取った。これは必ず有利になる」

 

 冷静にレースを分析する高村とアグネスタキオン。ホッコータルマエはジェンティルドンナの走りを余すことなく観察する。

 

(ジェンティルさんはどんなレースをするのか……)

 

 少しずつ縦に広がっていくバ群。レースは向こう正面へと入っていった。

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