その力は何の為に   作:カニ漁船

5 / 88
先にこちらから。後ちょっとしたアンケートを取ろうと思います。


貴婦人のメイクデビュー

 小雨が降っている京都レース場。芝の状態もあまり良くない中、メイクデビューに出走するウマ娘達が続々と姿を現していた。

 初めての公式レースに緊張している子、気合が入っている子、自分を奮い立たせる子……様々な反応に、観客は初々しさを感じつつも、ここから新たなスターが誕生することに心を躍らせる。

 その中で一際輝くのは──ある一人のウマ娘。

 

「うおっ、やっぱオーラからして違うな」

「本当。周りの子達も、少し飲まれてるかしら?」

「彼女が、かのトレーナーの……」

 

 所作の一つ一つに目を奪われる。少しの動きに気品さえも感じさせるウマ娘。ただそこに立っている──それだけで、周りのウマ娘を委縮させるような空気を纏い、思わず畏れてしまうような彼女。当の本人は周りのことなど関係ないとばかりに入念にストレッチをしていた。緊張ひとつない姿に、京都レース場に集ったファンは感心した。

 

ジェンティルドンナ……一体、どんな走りを魅せてくれるのやら」

 

 今回のメイクデビューダントツの1番人気。勝つとしたら間違いなくジェンティルドンナ(かのじょ)だろうと目されていた。

 

 

 観客達の視線を一身に受けているジェンティルドンナはというと。

 

(必要なのは結果を出すことのみ。ここで躓くわけにはいきませんわ)

「あぁでも……他のみなさんは、私のことがとても気になるご様子で」

 

 周りのウマ娘1人1人へと視線を移していき──笑みを深める。果たして彼女達の実力はどれほどのものか?自分を楽しませてくれるだろうか?もしや……隠れた強者が紛れ込んではいないか?そう思いつつ、心を高鳴らせる。

 しかし、最後のウマ娘へと視線を送った後、溜息を吐く。期待外れ、とでも言わんばかりに。

 

「望むような強者はいなさそうですわね。まぁ構いませんわ」

 

 不敵に笑う。揺るがぬ自信をもって、ゲートへと足を運ぶ。目の前にいたら思わず道を譲ってしまいそうな威圧感とともに、メイクデビュー(戦場)へと赴く。

 

「勝つのは私。それは変わりませんもの」

 

 そう呟いて、彼女はゲートに収まった。

 

 

 観客に緊張が走る。出走の時を今かと待ちわびる。

 

《京都レース場芝1600m、天気はあいにくの小雨、芝の状態は不良バ場と発表されております。スターの原石達が出走する舞台、メイクデビューの日がやってきました!》

《注目されているのはやはり、1番人気のジェンティルドンナですね。圧倒的な支持を受けての出走、緊張もなさそうです》

《全てのウマ娘が必ず通る舞台、新たなスターの誕生の瞬間を見逃すな!今、最後のウマ娘がゲートに収まりました!》

 

 静まり返る京都レース場。誰もが固唾を呑んで見守る中──ガコン!と、ゲートが開く。それと同時にウマ娘達は一斉に飛び出し、大地を踏み抜く音が地鳴りのように聞こえる。

 

《メイクデビューが今っ、スタートしました!8人の原石達が一斉に飛び出します!出遅れはありません、綺麗なスタートを切ります!まず飛び出したのは──ジェンティルドンナ!誰よりも綺麗なスタートを切った彼女がレースを先導するのか?ハナに立ったのはジェンティルドンナだ!》

 

 芝1600mのメイクデビューが始まる。先頭に立ったジェンティルドンナは後ろを見ながら思考を巡らす。

 

(あら、ちょっと勢いをつけすぎたかしら?……まぁいいでしょう。逃げる子がいれば私よりも前に、そうでなければ)

「私が導いてあげなければなりませんものね?それが強者としての責務ですわ」

 

 大人しく下がる気はなく、ハナに立ったならそれでいいと判断する。無理に下がってペースを乱すよりも、今のペースを維持して他のウマ娘の出方を窺うことを優先した。

 後ろを走るウマ娘達はというと、緊張がほぐれたのか落ち着いてレースを展開する者がいれば、いまだに緊張しているのかペースを乱している子もいる。加えて、今回は不良バ場ということもあり戸惑っているのが大半だ。思うような推進力を得られず、余分な力を使っている。

 

《向こう正面を駆け抜けるウマ娘達。先頭は4番ジェンティルドンナ変わらず。ジェンティルドンナから離れること1バ身から2バ身、この位置に3番と7番が控えています。レースは縦長の展開、どう見ますか?この展開》

《少人数ですが早い段階でバ群がばらけていますね。少人数だと固まることが多い中これはちょっと珍しいかもしれません。あまり差が開きすぎて最後の直線で追いつけない、なんて事態は避けたいところです》

《成程。さぁ、第3コーナーめがけて走るウマ娘達、ジェンティルドンナが後続の7人を引き連れて走っております!逃げるジェンティルドンナ、気持ちよさそうに走っています!》

 

 先頭から最後尾まで10バ身はつきそうな勢い。ジェンティルドンナがペースを掌握していた。

 

 

 レースを観戦している高村。光のない目でタイムを計測しつつ、ジェンティルドンナを観察している。

 

(……問題はないね。掛かっているわけでもなければ、ペースもきちんとしている)

 

 すでに第3コーナーを回って第4コーナーを走るウマ娘達。広がっていたバ群も徐々に固まってきている中、応援の声も一層大きくなっていた。

 

「頑張れ頑張れー!」

「バクシンですよジェンティルさんッ!バクシンバクシーーンッッ!」

「お祭りですよジェンティルさーん!ハァァァァ~ン!」

「どこから出てるんだいその声は」

 

 周りの声に負けじと声を張り上げるサクラバクシンオーとキタサンブラック。冷静にツッコミを入れつつレースを観戦するアグネスタキオン、そしてドゥラメンテ。

 ホッコータルマエはタキオンやドゥラメンテ同様、ジェンティルドンナのレースを見守っていた。そして、穴があきそうなほどに彼女の走りを注視していた。

 

(私のデビューはもう少し先。ジェンティルさんの走りをしっかりと観察して、私のモノにしないと!)

 

 いずれ自分も走ることになるメイクデビューに向けて、今回のレースから学ぼうとしていた。

 第4コーナーを抜けたウマ娘達が続々と最後の直線になだれ込んでくる。先頭は──ジェンティルドンナだ。

 

《最後の直線に入ります!先頭で入ってきたのはジェンティルドンナだ、ジェンティルドンナ先頭だ!しかしすぐ後ろには5番が控えている!ジェンティルドンナにその牙を突き立てようと差を詰めてきた!後続のウマ娘も上がってきているぞ、逃げ切れるかジェンティルドンナ!》

 

 ばらけていたバ群が固まる。先頭を走るジェンティルドンナを追い越そうと、我先にと必死になって走る。自分こそが一番だと、このレースを勝つんだという気迫が伝わってくる。空気が震えていると錯覚しそうなほどに。

 その中でジェンティルドンナは──笑った。

 

「素晴らしい気迫ですわ。ですがゴメンあそばせ……すでにエンドロールの手筈は整っていますの」

 

 残り200m。ジェンティルドンナは一気に加速する。今までの走りはまるで本気ではなかったかのように、不良バ場で脚を取られるはずなのに、ずっと先頭で逃げていたはずなのに。彼女は()()()()()()()といわんばかりに加速した。

 

「へっ?」

「う、そっ」

「む、むり……」

 

 後ろから聞こえる諦めの声に彼女は嘆息しつつも。

 

「中々楽しかったですわ」

 

 後続を突き放して、優雅にゴールした。

 

《じ、ジェンティルドンナ!ジェンティルドンナだ!京都レース場、メイクデビューを制したのはジェンティルドンナァァァ!残り200mで一気に加速ッ!追いついた後続を突き放して5バ身差の完勝!圧倒的な強さ、力強い走り!不良バ場もなんのその!1番人気の期待に応える見事な走りでした!》

《いや~、凄いですねぇ……!ずっと先頭で走っていたのに余裕の表情!これはラップタイムが気になるところですよ!》

《今後に期待が持てるレース内容!ジェンティルドンナの次走が非常に楽しみです!2着は……》

 

 ジェンティルドンナが一体どのようなレースを見せてくれるのか?と期待に胸を膨らませていたファン。彼らが目撃したのは。

 

「あ、圧倒的過ぎる……すげぇな、こりゃ」

「1人だけレベルが違い過ぎるわね。凄い仕上がり!」

「次も期待してるぞー!ジェンティルドンナー!」

 

 今回のメイクデビューで、明らかに1人だけ桁が違う実力を誇っていたジェンティルドンナの力である。

 先頭に立って走り続け、いつまでも垂れることなくポジションをキープ。最後には後続を突き放しての5バ身差完勝。圧巻という他ない走りだった。

 この勝利には高村も満足げに頷く。

 

「うんうん、良い感じだね。しっかりとペースを守れていたし、ブレもない」

「まさに理想的なレース運びだったな。逃げの形になったのが少しばかり予想外だったが」

「まぁ今回逃げウマ娘いなかったですしね」

 

 そう締めくくるミーティア陣営。なおサクラバクシンオーとキタサンブラックは。

 

「おめでとうございまーーーすジェンティルさーーーんッッ!模範的な走りでしたよーーッッ!」

「カッコいいですジェンティルさーん!おめでとうございまーす!」

 

 周りが驚くほどの大きい声で祝福の言葉を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 あぁ、終わってしまったのね。私のメイクデビューが。

 手を握って、開いて。また握って、開いて。今回のレースに思いを馳せてしまいます。今日のレース……最初はどうなることかと思いましたが。

 

(最後の直線……他の方々の気迫が伝わってきました)

 

 勝ちたいという思いが、負けられないという気持ちが。前を走る私に襲い掛かってきました。併走では得られなかった未知の感覚。えぇ、中々……!

 

「悪くありませんわ。次のレースもまた、期待が持てるでしょう」

 

 周りへと視線を向けると、悔しそうに歯噛みしている方々が目に映ります。地面を這いつくばり、倒れ伏して俯く出走者達。それでもなお、胸に宿した炎は消えていない、まだ灯っていると思わせるほどの闘志ッ!えぇ、そのまま私へと挑みなさいな?そのことごとくを、私がねじ伏せて差し上げましょう。

 ファンの皆様は私へ惜しみない賛辞の言葉を贈る。これもまた心地よいですわね。ですが──足りない。まだまだ、()()()()()()()()()()()()

 

(次のレースも早い内に選定してしまいましょう)

 

 次なるレースへと胸を高鳴らせる。どのような相手が待っているのでしょうか?私が望むような強者はいるのかしら?いいえ、いてもらわないと困りますわ。でなければ……張り合いがありませんもの。

 

(より高いレベルで競い合いたいものですわ。まだまだ足りませんもの)

 

 トレーナーとも相談ですわね。次なるレースに向けて、調整を進めていきましょうか。




ジェンティルさん5バ身差完勝。


アンケートで今後掲示板回があった方がいいかどうかをお聞かせ願えたらと思います。期間は1週間ほどで。

掲示板回がいるかどうか

  • いる
  • いらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。