ジェンティルドンナの勝利者インタビュー。報道陣は彼女の次走に注目を集めていた。
ティアラ路線に進むのか、彼女の実力ならばクラシック路線でも十分に通用するのではないか、と話題になったがまずは次のレース。オープンに出走するか、それとも重賞挑戦か。はたまた年末のジュニア級G1に出走するつもりなのか。メイクデビューながら圧倒的な強さを見せたジェンティルドンナが次に走るレースに焦点が当てられる。
結果、彼女の次走は。
「シンザン記念に進む予定ですね」
シンザン記念と発表された。重賞挑戦に色めき立つ報道陣だが、シンザン記念に出走する、ということである疑問をぶつける。今後のレース展望についてだ。
「ジェンティルドンナはクラシック路線に進むのでしょうか?」
シンザン記念を勝ったウマ娘はその後クラシック路線に進むことが多い。ジェンティルドンナがシンザン記念に出走するということは、彼女がクラシック路線に進むのではないか?という疑問だ。
1人の質問にジェンティルドンナは呆れるような溜息を吐いたが、トレーナーである高村が目配せをする。ジェンティルドンナは頷き、高村が口を開いた。
「いえ、ジェンティルドンナはティアラ路線に進みます」
どよめき。ざわつく報道の場だったが、当の本人達は涼しい表情。何か問題でも?といわんばかりの態度だ。
(確かにシンザン記念に出走してくる子達の中には、ティアラ路線に進む子もいる……だが、フェアリーステークスもあるのに、何故シンザン記念に?)
挑むのであれば他のレースがあるはずだ。何故クラシック路線に進むウマ娘との混合戦になるシンザン記念を選んだのか?疑問は尽きない。
記者達の目に映るのは、ジェンティルドンナの不敵な表情。トレーナーである高村聖の生気を感じさせない、なにを考えているのか理解が及ばない瞳。記者達は得体のしれない何かに相対しているような感情を抱く。
だが、彼らの心は1つ。
(相変わらず、この陣営は予測がつかない。だからこそ)
「面白い……!ジェンティルドンナさんの次走、楽しみにしています!」
「はい。勝てるように最善を尽くします」
これはきっと、面白い記事になると。彼女達は我々の想像もできないようなものを見せてくれるという確信を抱いた。世間の反応が楽しみだと、記者としての血が騒ぐ。記事を書くその時が楽しみだと心が躍る。
こうしてジェンティルドンナのインタビューが終わる。何事もなく期待が持てる内容で終わり、ウイニングライブも盛り上がりを見せた。
そしてしばらく日が経ち。今度は京都レース場のダートにて、
「みんな~!応援よろしくだべさ~!」
ホッコータルマエ。ジェンティルドンナと同じチームに所属している、ダート路線志望のウマ娘だ。
ジェンティルドンナのチームはかなり有名。かのチームに所属しているならば、ホッコータルマエの実力も相当なものだろうと目されている。
《京都レース場ダート1400m、天気はちょっと不安な曇り空ですが雨は降りませんでした。良バ場での開催となります。本レースに出走する9人のウマ娘、果たしてどのようなレースを見せてくれるのか?》
《私が注目したいのはホッコータルマエですね。同チームに所属しているジェンティルドンナは鮮烈なデビューを飾りました。彼女も続くことができるでしょうか?》
《ホッコータルマエは1番人気!おっと、観客席に向かって手を振っている姿が確認できます。これは余裕の表れか、愛嬌もバッチシです!》
故に注目度も高い。彼女に視線が集まり、他の出走者も緊張しつつ警戒を強めていた。
ホッコータルマエは観客席に向かって手を振っている。まもなく京都レース場、ダートのメイクデビューが始まろうとしていた。
◇
ついにこの日がやってきた……私のメイクデビュー!緊張でさっきから胸がドキドキしているけど、ジェンティルさんも勝ったんだから私も頑張らないと!
(大丈夫大丈夫、私はしっかり強くなってる……!よ~し、みんなに続くぞ~!)
でも、ここぞのアピールも欠かさない。ファンのみなさんに笑顔で手を振ってアピール!
「ホッキ貝大好き!苫小牧のロコドル、ホッコータルマエです!全力でけっぱりますよ~!」
こういう地道な活動が大事!苫小牧のことをしっかりとアピールしないと!
アピールも程々に、ストレッチに移ろう。宣伝する気持ちばかりが先行して、レースで負けてしまったら意味がない。勝利を盤石のものにするためにも、しっかりと身体をほぐしておく必要がある。
(……やっぱり緊張するなぁ)
練習通りのことをできるかな?ちゃんと勝てるかな?色んなことが頭に浮かんできちゃう。身体が思い通りに動くかも心配だし、心配し出したらキリがない。
でも、トレーナーさんが控室で言ってくれた。
(私なら問題なく勝てるよ、か……。ちゃんと私が成長してるってデータも見せてくれたし、トレーナーさんにだけ見えてるっていうステータスでも、私が一番高かった)
トレーナーさんからしたら何気ないものだったかもしれないけど、私の自信に繋がった。だから、私の緊張はほとんどなくなっていた。
初めての公式戦、色々とあるけれどまずは。
「一つ、勝っていこう」
頬をバシッ!と叩いて……、いざ、出陣です!
《ウマ娘達がゲートに収まります。ここから新たなスターが生まれるのか?京都レース場ダート1400m、今っ、最後のウマ娘がゲートに入りました》
集中……集中……!ゲートが開いたらすぐに飛び出す!
待って、まだかな、まだかな……「ガコンッ!」ッ!来たッ!ゲートが開いた!
「やぁぁぁ!」
私の枠番は内枠、少しでも良い位置につけるように!ダートに入る前に芝があるけど、問題はありませんね!
《メイクデビュー、スタートですッ!おっと、4番と7番はちょっと出遅れたか?ゲートでもたついている!他は綺麗なスタート、飛び出したのは2番のホッコータルマエ、ホッコータルマエが飛び出します!》
外から並ぶように上がってきた子。えっと、確かこの子は逃げウマの子だから……ちょっと抑えよう。そして、この子を風除けにして私は後ろに控える!
(絶えず周囲を観察……他に怪しい動きをしている子は……うん、いない)
逃げは1人、私と同じ位置につけているのが3人、後ろは残り5人。でも、感覚的にちょっと離れているかな?
《ダートコースに入りました。ここで6番が先頭に立ちました。6番がレースを引っ張る展開になります!軽快に飛ばす6番、その後ろにホッコータルマエがつけました!1番と8番がすぐそばに、4番が慌てた様子で先行集団に加わろうとしている!》
《ちょっと掛かっているかもしれませんね。落ち着きを取り戻したいところ》
《ダートを駆け抜けるウマ娘達。ここから位置取り争いが繰り広げられるかどうか?先頭6番がペースを上げ、ついていくようにホッコータルマエも上がります!》
頑張るぞ、私!勝つぞ、私!
◇
ダートコースの第4コーナーを駆け抜けるウマ娘達。現在先頭を走る6番はややかかり気味だった。理由は、後ろに控えているウマ娘の存在である。
(ホッコータルマエ……!1番人気の子、プレッシャーが凄いッ!)
彼女から発せられる圧に焦りを誘発される。もっと差を広げないと逃げ切ることはできない。勝つためには彼女をなんとしても引き離さないといけない。そう考えるが、いまだに引き離すことができない。まるで磁石のようにピッタリとくっついている。
《第4コーナーからまもなく最後の直線へと入ります!先頭を走る6番、ピッタリと張り付くホッコータルマエ!1バ身差をキープし続けています!後続も差を詰めてくるがっ、今先頭6番が最後の直線に入ります!》
《ここが勝負どころ!誰が最初に仕掛けるか!》
観客席からの声援が一層大きくなる。最後の勝負に向けて、全員が声を張り上げる。
「頑張れー!もう少しだぞー!」
「いけー!負けないでー!」
「「バクシンワッショーイッ!続きましょうタルマエさーーんッ!」」
「ついに合わせ技になったねぇ」
「どうでもいいですわ」
最後の攻防。最初に仕掛けたのは──ホッコータルマエ。
「もう最後の直線?なら──抜けますッ!」
外へと進路を取り、前を走るウマ娘をあっという間に躱す。序盤からずっと後ろに張り付かれ、ペースを乱され続けていた6番は。
「む、む~り~!」
早々に脱落した。後続のウマ娘達も必死になだれ込んでくるが、ホッコータルマエは引き離すばかりである。
《ホッコータルマエ抜け出した!ホッコータルマエが前を走る6番を早々に躱して先頭に立ちました!残り200!》
《いやぁ、凄いですね~。これは凄い脚!》
《ホッコータルマエ速い速い!早々に独走状態に入った!2番手には8番が上がってきますが、ホッコータルマエはグングン差をつける!すでにその差を3バ身、4バ身!まだまだ開く!》
引き離す様子を見ながら、高村トレーナーは一つ頷く。
「うん、良い調子だね。ラップタイムも申し分ないし、順調そのものだ」
ノートを閉じ、ゴールの瞬間を見守る。彼の目の前で、ホッコータルマエは──1着でゴールラインを駆け抜けた。
《ホッコータルマエ!ホッコータルマエだ!京都レース場メイクデビューを制したのはホッコータルマエだぁ~!王道の先行策からあっという間に抜け出しての鮮やかな勝利!2着に7バ身差をつけての圧勝です!》
《いやはや、凄い脚でしたね!逃げウマのペースに合わせ続けての完勝です!》
《ミーティアのウマ娘はこれほどまでに強い!彼女の今後にも期待でしょう!2着は……》
ゴールしたホッコータルマエは、息を整えつつ観客席に向かって手を振る。
「苫小牧からやってきました!ホッコータルマエでーす!苫小牧は魅力あふれる良いところ!是非きてくださ~い!」
苫小牧の宣伝を忘れずに。観客の反応はというと。
「苫小牧?っていうと、北海道の?」
「うん、ウマチューブでも宣伝してたよね。どんなところなんだろ?」
「ちょっと興味があるよな。ま~行くかどうかは別として」
「地元アピールかぁ。珍しいね」
掴みは上々だった。少なくとも、興味を持ってくれる人達がいる。
(まずはここから!一歩ずつ、頑張っていこう!)
ホッコータルマエは気合を入れる。地元を盛り上げるために、これからも勝ち続けようと決心した。
ミーティアのメンバーはというと。
「ふぅン。中々悪くないペースだ!勝ち方も、強い勝ち方だったねぇ!」
「好位追走からの抜け出し勝ち。お手本のような勝利だ」
「ま、これくらいはやってもらわないと困りますわ。彼女の実力は、まだまだこんなものではありませんから」
レースを分析し、強い勝ち方だったと褒める3人。
「うん、お疲れ様タルマエ」
ボソリと呟いて担当ウマ娘を労う高村トレーナー。
「「バクシンバクシーーーーンッッ!!おめでとうございまーーーすッッ!!」」
声を張り上げて祝福するキタサンブラックとサクラバクシンオーである。
こっちもこっちで強い勝ち方をしちょる……。
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